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黒紫色の理想  作者: 槻影
35/66

第二十五話:ある聖夜とサンタを待つ方の話

サブタイが長すぎたので修正。

ぎりぎり二十五日に間に合いました(*ノ∀`)ペチンッ


 真剣な表情で手を動かす彼を見ていた。

 

 

 

 

 武器は針。

 真っ赤な色を貫き重ねる武器。

 

 

 

 

 武器は糸。

 二つを一つに縫い止めるための武器。

 

 

 

 

 

 

 その顔はいつもしているあの得体の知れぬ笑みとは全くの別物で、表情を変えるだけでこうも人間の印象というものは変化するものか、と信じられぬ気持ちにもなる。

 

 まるで一つの決まった動作をしているかと見紛う如きその滑らか動きは、彼の本性をしっている私をして尚目を見張らせるに十分な光景だった。

 背を預け眠っているナリアにも、シルクさんのページをめくる音も全く気にする様子もなく、集中している。

 

 一定の決まった動作。

 機械的なまでに精密なその動き、流れるような動作はもはや一つの芸術のようにさえ見えた。

 

 

「凄い……」

 

 

 思えば、彼が何かをできなかった所を私は見た事がない。

 

 彼は信じられないくらい優秀だ。

 それも、全てが経験に裏打ちされた結果。

 確かに自身の言う通り天才ではあるだろう。

 だが、その天才となるまでの過程に努力があった事は疑うべくもない。

 

 

 

 しかし……それにしても――

 

 

 

 

 

 彼の手が止まる。

 糸を切る音。

 針を傍らの裁縫箱に戻し立ち上がる。

 

 彼の表情は、とても綺麗だった。達成感というものだろうか?

 年相応とは言い難いが、いつもの元とは違った心底嬉しそうな笑み。

 微かに心臓の鼓動が高まるのを感じる。

 駄目だ。落ち着け。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、サンタ服完成だ!! ふっふっふ、この出来、肌触り、実用性どれをとってもプロ顔負け。多忙の隙をぬって勉強した甲斐があった。ああ、自分の才能が恐ろしい……」

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 シーン様の手にあったのは、サンタクロースが着る様な真っ赤な衣装だった。もちろん帽子付き。

 

 

 

「どうだ? 凄いいい出来だろ?」

 

 

 

 

 笑顔で尋ねてくるシーン様。

 私は頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 ここに来て三ヶ月くらいたつが、未だ彼が何を考えているか分からない。

 いつも唐突に、自らの思考の赴くままに。

 

 

 傍若無人唯我独尊。

 

 

 行動範囲がやたら広く、自らインドア派を名乗っているのにふらっと姿を消し数日見かけない事がある。

 独裁者と呼ばれているくせにほとんど全ての統治を部下に投げ捨て、傍目から見ればくだらない事極まりない案件に自らの全てをかけて打ち込む。

 一応ポリシーを持っているらしいが、それが何なのか聞いた事がない。

 夢があるらしいがそれも知れない。

 

 

 

 

 

 肉体的スペックが高く、度胸があり、知性的で、人を率いるだけの器も多分ある。

 

 

 

 

 

 もっと有意義な事をできるんじゃないか?

 そう思ってしまうことは致し方ない事だと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話【ある聖夜とサンタを待つ方の話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年も、やるんですか……」

 

 

 シーン様の言を受け、シルクさんが呆れたように言った。

 

 今年も?

 今年もと言うからには、去年もやったの……?

 

 シーン様が真っ赤な衣装をもって見せ付けるようにくるくる回る。

 人間の間で伝説になっている『サンタクロース』と呼ばれる者が着るそれに似た衣装を。

 素人目に見ても見事に作り込まれた衣装に、呆れるより先に感嘆の念を抱く。

 

 まさか真剣な顔をしてこんな物作ってるとは思わなかった。

 

 真っ赤な薄手のコートに縁に縫い付けられた白い綿。

 ボトムも同じく真紅だが、人間の想像するサンタクロースの物と違ってどこか薄っぺらな雰囲気がある。

 多少私の想像しているサンタクロースの衣装と違った点があったが、それでもやはりそれはサンタクロースの衣装なのだろう。

 

 

 

「当然だ。人としてやはり時節に合った事をするのがやはり道理というもの、今年はけっこう人数増えたから作るのが大変だった……」

 

 

 えっと……人数が増えたから?

 誰が着るんですか?

 

 

 

 いや、考えるまでもない。誰が着るかなどというのは愚問だ。

 まず間違いなくシーン様は着ない。

 シーン様の思考は大体読める。

 これは彼の趣味の一つだ。人に東方の……キモノとか言う衣装を着せたり、いきなり髪型を変え始めたり。

 

 それは種族により差別されない。エルフも人間も等しく――シーン様は愛している、多分。

 

 種族では差別されない代わりに性別と歳で差別されるのですが……

 

 

 

 シーン様がその場できょろきょろ辺りを見回す。

 

 

 視線が一瞬合い、慌てて外した。

 

 シーン様はどうやら私の衣装や髪型を変えるのが好きらしい。

 真っ黒なコートから純白のローブ、ダークグレーのスーツから先にあげた東方のキモノまで……大体着せられた。髪型も何度か変えられたし……

 不覚にも、髪を褒められた時にはつい浮かれてしまったのを覚えている。髪を褒められた事なんて初めてだったから……

 ただ匂いをかいでくるのは止めてほしかったけど

 

 

 沈黙。

 

 

「よし、シルク。着たいようだから一番乗りの栄誉を与えてやろう」

 

「……正気ですか?」

 

 

 え?

 

 ……幸いな事に、選ばれたのはシルクさんだったようだ。

 

 変人でも見るかのようなシルクさんの視線。間違ってない。シーン様は今まで私が見た中でも最たる変人だ。

 

 シルクさんは、そんな口を利きながらも本を隣に置くと、シーン様から衣装を受け取った。

 満更でもない様に見えるのは気のせいだろうか? 

 多分気のせいではないだろう。

 なんたって、シルクさんはシーン様が連れてきた者達の中でも初期組らしい。本気でシーン様が嫌いだったらとっくに逃げ出している。

 

 

「ここで着替えるのですか?」

 

「ここで着替えたいか?」

 

「……すぐに戻ります」

 

 

 シルクさんは一言言うと、衣装を落とさないよう抱えて部屋を出て行った。

 自室にでも行って着替えてくるのだろう。眼の前で服を脱げと言われたことは何度もあるが、何度やってもその視線になれることはない。遠慮一つないあの視線は視姦に近い。おまけに、た、たまに触ってくるから――

 

 

 

「ル〜ル〜」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 

 いきなり前へ回された手に、私は反射的に立ち上がろうとした。

 両手が器用に動き、身体全体を縛りつけるように椅子に押さえつけられる。

 

 一瞬の混乱。

 

 しかし、ここに来てからずいぶん慣れたのか、すぐに突然こんな事をしてくる人物に思い当たった。

 

 

「無理無理。俺はプロだから」

 

「――ッ――な、い、いきなり何するんですかッ!! シーン様!!」

 

 

 面白がるようなシーン様の声。

 耳に入ってきたその声に安堵した。

 

 エルフという種族は元々人族よりも気配に敏感だ。聴覚・視覚の他に第六感のようなものを人族より顕著に感じる事ができる。天敵が人族よりも多いから……

 

 心臓がまだどきどきしている。納まる気配がない……というか徐々に鼓動が速くなっている様な……

 

 いつの間に私の背後に――

 

 位置関係としては、私の座っている場所とシーン様がさっきまで衣装を縫っていた場所はそう遠くない。しかし、それでもエルフの戦士だった私の直感が全く働かないなんて事は……

 少しここの空気に慣れすぎたのだろうか?

 

 

「いや、ぼーっとしてたからプロとしてはこの機会を逃すわけにはいかず……」

 

「……何のプロですか」

 

「くくく、分からないか?」

 

 私の村を救った人間は、まるで悪の帝王のような含み笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルフってのは大抵性に奔放だ。

 これは俺がつい数ヶ月前まで都市伝説だと思い込んでいたエルフを今まで観察した純然たる結果である。

 人間と倫理観が違うのだろう。

 そして、それは俺にとって悲しむべきことではない。

 尤も、その性質がなかったとしても俺は持てる全ての力を駆使して十五人のエルフを残らずその気にさせていただろうが……

 

 

 

 

 

 三日かかって作ったサンタ服の出来は、自分で言うのもなんだが素晴らしいものだった。

 俺は風流な男だ。人間の生み出したありとあらゆる季節の行事を大切にしている。

 七夕にクリスマス、節分など。ほとんどの行事はパーフェクトに網羅。いつも全力で動いている俺のささやかな癒しの時間である。

 そしてクリスマスといったらサンタクロース。

 って事で、俺はサンタ服を作り上げた。

 クリスマスにサンタの格好をするっておかしいんじゃないか? と疑問を持った貴兄よ、その考えは正しい。

 だが、ご安心あれ。

 

 

 

 

 俺は着ない!!!

 

 

 

 

 人に着せるからこそ楽しいのだ。

 クリスマスはきっかけ。

 クリスマスをおいて、いつサンタ服を着せる機会がやってこようか?

 都合のいい事に偶然にも俺の所有物の中には幾人か似合いそうな者がいる。

 特に、今年はずいぶん人数が増えた。注目すべきはエルフが沢山いることだ。

 これは期待できる。

 

 十六着のエルフ用特製サンタ服と数着の人間用特製サンタ服を作るのは俺としても骨が折れた。三日も掛かってしまうとは情けない事だ。腕が落ちたのかもしれない。

 それ故、喜びもひとしお。

 

 本来なら試験も兼ねて真っ先にルルに着せたい所だったが、途中でその考えを変えるにふさわしい出来事が起こった。

 視線を合わせた瞬間、ルルが視線を逸らしたのだ。しかも慌てたように。

 

 その瞬間ぞくぞくとした感覚が身体中を駆け巡るのを感じた。

 期待したような、そうでないようなあやふやな視線。

 実に面白い。

 今まで彼女が俺の要求を拒んだことはほとんどない。それなりに好意は抱かれているはずだ。着るよう命令すればまず間違いなく着る。たとえこの場で脱げと命令したとしても――おそらく拒否されることはあるまい。

 さっきルルに『いい出来だろ?』と尋ねたし、この流れからしたら自分が選ばれると思っているはず。ルルの容姿は俺の物の中でも一級だし。

 

 

 

 

 

 だからこそ裏をかく。どうせサンタ服は万一の事を考え予備がある。去年一昨年使ったのもあわせればおよそ七十着。全員に行き届き有り余るほどの量だ。今着せる必要はない。

 

 シルクを指名すると、思った通り一瞬ルルの耳がぴくりと動いた。エルフと人間の差異という奴か。なかなか優秀な耳のようだ。

 笑いを噛み殺す。

 気づかれないよう全力を用いてルルを観察する。エルフの感知能力は脅威だ。一瞬の失敗が死に繋がりかねない。

 

 幸いな事に、ルルは何事か考えているのか気づく様子はない。ここが戦場だったら……まぁいいか。

 

 観察していると不意にルルの顔が微かに赤く染まった。一体何を考えているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうそんな事どうでもいいか。

 

 

 

 

 

 キヅイタラカラダガウゴイテイタ

 

 

 

 しなやかな首。背を覆うように手を伸ばし、身体を拘束する。

 だーれだ? なんてする必要はない。消去法からルルにも俺だという事が分かるはずだ。

 さらさらした美しい髪。そこには人間には出せない不思議な色気があった。

 

 ルルは一瞬だけ抵抗したが、通告するとすぐに抵抗は収まる。

 

「……何のプロですか?」

 

 必死に呆れたような雰囲気を作ろうとしているルルの声に激しく燃える。誤字にあらず。正直に色々と燃えた。エルフ可愛いな。

 おそらく、今ルルの顔は真っ赤だろう。見るまでもない。心臓の鼓動が手を伝わってしっかり聞こえているから。

 

 しかし……自分で言うのも何なんだがプロってなんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ま、いっか。適当に答えとけ。

 

「くくく、分からないか?」

 

 はっきり言ってごまかしだ。空気呼んでくれることを祈る。

 

「…………そ、それはもしかして――」

 

「……ご想像の通りです」

 

 俺の言葉に反応するように耳がぴくぴく動き、頬をくすぐる。

 何で人間はエルフが嫌いなのだろうか?

 他の人間は狭量なんだろうな。

 耳が違うだけだってのに……あ、あとちょっと体温が低めかな。まぁその程度差異とも呼べん。

 

「……い、今、ですか?」

 

「ん? まだ何も言ってないけど……」

 

 耳まで真っ赤と言うのはこのことだろう。

 手を伸ばし身体を弄る。

 エルフは性に奔放だ。だが、奔放にも関わらず慣れていない。だからこそ、落とすのは簡単だった。聞いた話では、子作り以外の性交渉はNGみたいな暗黙の了解があるらしいから……

 もちろん俺は全力で無視する。人間だし。

 手の動きに合わせてルルの身体が動く。

 

「ルル、クリスマスってのはな、サンタの格好をして他の人の部屋に忍び込む日なんだ」

 

 間違った事は言っていない。正解も言ってないけど。

 ルルは、全力で俺の攻撃に耐えていた。たまに唇の端から漏れる艶かしい声がいとおかし。

 

「お前のサンタ服も用意してる。今夜はいつ来てもいい。プレゼントとして、な」

 

「んくぅ……シ、シーンさまぁ、一つ、一つ、いいですか?」

 

 手を止める。

 ルルは涙目の表情をこちらに向けて言った。

 

「はぁはぁ、一月、一月前にクリスマスは終わっているはずですが?」

 

 んー、少しだけ期待はずれの言葉だ。

 嘆息する。もっとびっくりするような台詞をはいてくれると思ったのに。

 

「ルル、俺はな……」

 

「んあ……は……く――」

 

 手を再び動かす。熱を持った肢体。下ごしらえは十分だ。

 一応俺はルルの恩人。ここまでプレッシャー与えておけば確実に来るだろう。

 村を救った恩人。自らの羞恥心を納得させるには十分な肩書き。

 

 

 ここまでやってこなかったらこなかったでいい。

 他のサンタを味わうとしよう。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は現実暦って奴でクリスマスやってるから」

 

 

 悶えるルルを観察しながら、俺はこの聖夜に祈りを捧げた。

 

 あわよくばこのサンタが今夜偲んで来ますように。

 

 

この程度じゃ十五禁じゃないです(´▽ `)

あと、聖夜に何を書いているんだと自己嫌悪になったr(ry


皆様よいクリスマスを。もう終わりですが(*ノ∀`)ペチンッ

ボトルからワインを飲むような真似はしない方がいいっぽいですよ。

もう遅いですが。



それでは、メリークリスマスでしたm(_ _)m

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