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黒紫色の理想  作者: 槻影
33/66

第二十三話:恐るべしナリアの話

今回の話は多分ぎりぎり十五禁です。

作者としてはこの辺が十八禁との瀬戸際だと考えます。

十五歳未満の方は自重下さい。

十五歳未満の方は自重いただければ幸いです。

もともと十五歳未満の方は見ていないと思いますが(*ノ∀`)ペチンッ


 

 

 

 

 

 

 眼の前に示された札は二枚。

 まるで死神のように、俺にそのにやけた顔を晒している。

 否、死神のようにではない。この二つの札のうちの一枚はまず間違いなく死神そのものだ。

 それは俺が一番よく知っている。

 目を凝らす。その先を見通すかのように。

 魔術を使う事は許されない。

 なぜなら、その行為を為す決意が脳裏に浮かんだ時点で俺の敗北は決定するから。そして、その愚かな敗北の記憶はこの天才たる俺がこの先いかなる偉業を成し遂げたとしても決して薄れず、理想への道筋を汚す明確な汚点として未来永劫残る事になるだろう。

 

 

 

 

 

 冷や汗が頬を伝い落ちる。

 喉が渇く。

 眼の前に存在する二つの選択。

 生か死か。

 未だ嘗てここまで悩んだことがあっただろうか?

 

 

 

 選ばねばならない。逃げることは許されない。

 たとえ自らの敗北を運んでくる可能性があったとしても――

 

 やらねばならない時というものが存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで蜃気楼であるかのように揺らめく二枚のトランプ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、全力を振り絞って、これがラストの選択になるやもしれない一枚を抜き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十三話【恐るべしナリアの話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことだ……!!」

 

 俺は、現われたジョーカーの札に絶望し、肩を落とした。

 その様子に何が楽しいのか、きゃっきゃと笑うナリア。

 自分が決して運が悪いほうだとは思わない。

 むしろ、俺も他の人間の基準から見ればずいぶん運がいい方だといえるだろう。

 

 

 だが、こいつは俺の運がどうとか言う前に――俺の運などさも関係ないといわんばかりに運が強すぎる。

 

 

 ナリアが俺の方に向かい、真剣な顔でトランプを吟味……する事もなく、笑顔のまま軽い動作で一枚抜き取る。

 俺のスペシャル高等テクによるシャッフルを物ともせずに、離れていくカード。手の中に残る一枚のジョーカー。

 

「勝った〜!!」

 

 ありえない。

 これで、三勝十五敗だ。二人でババヌキするのもどうかと思うが、それ以前にこの戦績は一体何なのだろうか?

 

 この天才たる俺が、たかがカードのゲームとは言え、このようなガキにいいようにやられるとは。

 もちろん、運以外の要素を使えば楽勝だ。

 カードの裏の僅かな凹凸や傷を一枚一枚記憶してもいいし、気づかれないよう遠見の術で手札を覗き込んでもいい。

 

 だが

 

 そんな事をして勝っても

 

 まったく意味がないのだ!!

 

 ババヌキとはそういう駆け引きを競うゲームではないが故に、誇り高い俺はそのような下劣な手法を使う事ができない。

 物とか賭けてるなら全然使えるのだが……

 

 

 

「おに〜ちゃん、もう一回ババヌキ〜!!」

 

 

 

 ちょ……なんで十八回もやってるのにまだ飽きないんだよ。二人ババヌキなんてこの上なく詰まらないだろうがッ!!

 

 暗黒の月が始まり五日。

 そりゃ、ナリアの集中力が高いほうだとは思っていない。

 だが、それでもたった三日で術の勉強飽きるってのはどうかと思うぞ。

 

 一昨日、アンジェロ達とパーティを行ってから、ずっとこいつは俺に付きまとっている。

 正直そろそろうざくてしょうがないのだが、別に悪い事をしているわけでもないので将来を考えると邪険にするわけにもいかない。

 俺に仕事がある時や、本を呼んでいる時、もしくは屋敷に残っている人間に訓練を就けてやっている時やダールンに説教をしている時などは静かに俺の側で本を読んでいる。

 俺が手持ち無沙汰になっている時は、トランプを持ってきて暇つぶしをせがむが、その程度は可愛いものだといえよう。

 

 問題はあれだ。夜。

 こいつが居ると誰を呼んでも首を立てに振らないのだ。俺は無視しろと言っているのに……

 そのため、ここ二日ほど誰にも手を出せていない。

 とんだお荷物だ。

 

 

 

 

「ば〜ば〜ぬ〜き〜! やろ?」

 

「断る。いい加減飽きろッ!!」

 

 

 見た目天使なのに、中身は悪魔だった。

 本当に……いつになったら大人になるんだろう?

 いくら俺が天才でもこればかりはさっぱり検討もつかない。

 

 そもそも、こいつは既にエルフではないのだ。

 ハイエルフ。

 半分くらい精霊な存在。

 俺としてはどう考えていいものか……少なくとも半分は精霊なんだから普通のエルフよりは長生きするはず……

 

 

 

「ナリアは俺の事好きか?」

 

「大好き!!」

 

 

 即答。

 ここまで元気よく、自信満々に、思慕の情丸出しで答える奴は俺の物の中でもそうそういない。

 容姿は完璧。

 俺に首っ丈な性格も、そりゃちょっとうざったくはあるが悪くない。

 

 

 

 

 問題は年齢だ!! 年齢!!

 俺にもどうしようもない、眼の前にそびえる限りなく高き壁。

 

 

 対象を過去に飛ばす魔術でも考案してみるか……

 駄目だ、時間を操作するという事は、この世界のブラックボックスに干渉するという事に等しい。特に、過去に――それも、きちんと指定した時間帯の過去に飛ばすなど――研究している時間はない。

 それに、その術を万が一天才的な強運と奇跡に近い成り行きで完成させたとして、飛ばした後ナリアは過去から現代まで長い時間をたった一人で過ごすことになる。

 リスクが高すぎる。

 

 ナリアは、今俺が仕事の事を考えていると理解したらしく、一人詰まらなさそうな顔でトランプをいじりだした。

 小さな柔らかい風の流れに舞う白いトランプ。

 それは十分ハイエルフとしてふさわしい幻想的な風景だったが、トランプの柄が鬼の絵だったため、素直に感動する事はできない。

 冒頭にも上げた酷く醜悪なにやけた鬼の表情。

 ぼーっと見ただけでもはっきり入ってくるその柄。

 俺は一人、自らの天才的な動体視力を嘆き、それを見ながら思考する。

 

 んー、人間の寿命じゃ明らかにナリアが大人の身体になった時は爺さんになっているだろう。

 さて、どうするべきか……

 もういっその事諦めるか?

 しかし……せっかくのCreationPhenomenonとドッペルゲンガーを二匹も消費し生み出したハイエルフをそのまま捨て置くというのはどうにも……

 

 

「ナリアー、あとどれくらいで大人になれる?」

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜、後×××年くらいたてば多分……」

 

 

 

 

 

 

 

「……伏字か。これは参ったな」

 

 伏字で三桁。

 どうやら爺さんとかそういうレベルではないようだ。俺の知る限りでは、人間は三桁に至るほど長生きしない。

 しかも、ナリアのその予想は自らをただの"エルフ"と想定したもの。

 周りにハイエルフが居ないのだから、真実はナリア自身にもわからないだろう。

 

 障害物が多すぎる。ナリア一人にそれほどの時間をかけるわけにはいかない。

 

 

 まず第一に必要なのは、ナリアの他にハイエルフを見つける事。

 

 ルルは千五百年前に絶滅したとか言っていたが、それはルルの村の者達の考えに過ぎない。

 この広い世界、探し回れば一人や二人見つかる可能性はある。

 なんたってエルフが大人になるまで×××年も掛かるのだ。千五百年前から生き続けているハイエルフが居てもおかしくはないだろう。

 ナリアの他にハイエルフを探し、大人になるまで何年掛かるか聞き出す。それがまず第一段階。

 

 

 次に、どうにかしてナリアを大人にすること。

 ナリアを過去に吹っ飛ばすのは没。俺が未来に行くのももちろん没。時間操作系は諦めた方がいい。

 だが、それでも他に方法は存在する。

 ナリア自身の成長を促進させるのだ。

 邪推するなよ。

 変な意味ではなくそのままの意味で『大人になる薬』

 俺は薬物に関してそれほど造詣が深くない。

 拷問に使える麻薬や睡眠薬、野草でガスを発生させる方法などは知っているが所詮はその程度。俺が知っている薬物は、俺に害する愚かものどもに天罰を与えるための物だけである。

 大人になる薬――そんな夢のような薬を開発するだけの知識を持った奴が必要だ。

 どっかのお偉い薬学の先生を招聘するか。ちょうどその先生が十代の女の子だったらさらにいいのだが……

 

 

 第三に、実験動物を集めること。

 

 初っ端からナリア本人で薬を試すのは自殺行為だろう。

 用心深い俺としては、最低でも事前に百回くらい動物実験を行った後、安全を確認してからナリア本人に試したい。

 普通に考えて、一気に成長を促進させるってのはめちゃくちゃ危険そうだ。

 骨、筋肉、皮膚、血、臓器、脳に至るまで――初めてできた試作品で完全な効果を期待する方がおかしいデンジャラスなラインナップである。

 飲ませた瞬間身体が破裂したり……しかねないだろう。

 また、成長の度合いをコントロールするためにも何度か他者に飲ませる必要がある。

 ナリアはハイエルフだ。人間が一番実験動物として集めやすいが、それだけでは心もとない。

 かといって、エルフは使い潰すには勿体無いほどの美貌を持っている。

 

 

 …………

 

 

 悪魔だ。悪魔で試すしかない。

 悪魔ってほら、多分なんか精霊に似てるっぽいし……人間を使うよりはよほど実験体としての効果が期待できるだろう。

 それに、悪魔は存在だけで悪なので、拒否権はなし。

 試すに必要なのは人型のガキの悪魔。

 やはり、俺が魔界に攻め入る事は決定事項だったようだ。

 神は分かっている。分かっていて、俺にこの試練を課している。

 

 全てが完了した暁にはさぞ素晴らしいハイエルフが俺の前に現われるだろうな。

 

 

 …………

 

 

「はぁ……」

 

 

 ため息。

 テーブルの上に足を上げ、天井を見上げる。

 EndOfTheWorldにより穴が空くたびに木切れでつぎはぎされていく天井を。

 

「問題は時間だ。本気で忙しいし……暗黒の月の間は暇だけど暗黒の月の間は外に出れないから何もできないし……」

 

 きょとんとした瞳を向けてくるナリアの頭を撫でる。

 

 しかし、これは本当に問題だ。

 ただ漫然と生きるだけでなく――理想のためにやるべき事が山ほどある。

 取り敢えず、薬師を探すのはシルクに任せよう。俺が居なくてもできることだ。

 ハイエルフの捜索などは、それ系の伝説の調査から始めるべきだろう。

 尤も、俺が理想の道を突き進む限り必ずや邂逅を果たせるだろうが……

 

 後は魔界、か。これは後回しだな。今はまだ入り口すら見当たらん。また、できれば侵攻する前にLemegetonを解読して悪魔を調伏する術を入手しておきたい。

 あのベリアルクラスがボンボン出てきたらさすがの俺でも勝ち目は薄い。魔王だった頃の俺と比べてさして力に差がなかったのだ。

 

 

 

 前途は多難だ。

 だがこの程度の試練、超えられなくてどうするシーン。

 お前の理想はこの程度の障害で木っ端微塵に崩れ去るほど軽いものだったのか?

 

 

 

 否ッ!! 断じて否ッ!! 我が理想は自らの生を賭けてでも達すべき偉業。この程度の障害で試練などと言う事すらおこがましい。

 自問自答。

 自信が沸いて来る。

 俺なら確実にやり遂げることができるだろう。

 心中頷く。俺に隙はない。

 

 取り合えず、できることは今のうちにやっておくべきだ。

 そして差し当たって今やるべきことは――

 

 

「なぁナリア……」

 

「ん? 何?」

 

 頭を撫でられ機嫌がよさそうなハイエルフのお子様にお伺いを立てる。

 

「一日中俺にくっつかないでくれ。せめて夜か朝のどちらか開放してくれたら嬉しい」

 

 

 お前がいると誰とも楽しめないだろうが。とっととどけよ!!

 さすがの俺も、ここまで張り付かれるときつい。

 夜俺の寝所に潜り込んでくるのも何とかしていただきたい。

 何で? 何でこいつはこんなに引っ付いてくるの?

 シルクに祭りに連れて行くよう命令してから、ナリアの俺への依存がシルクと俺への依存に変わってちょっと楽になってたのに……

 

「い〜や〜!!」

 

 笑顔で首を振るナリア。

 どうも気に食わないらしい。

 子供の考えることはよくわからない。

 

「何故?」

 

「だって〜、おに〜ちゃんナリアがいなくなったらするでしょ?」

 

 ちょっと拗ねたような表情。

 ダールンだったら間違いなくイチコロである。

 周囲を見回す。ダールンのレーダーを甘く見てはいけない。

 あいつのそれ系の感知能力は俺の鋭敏な感覚を遥かに上回る変態故の特性だ。

 

 大丈夫、今はいないか。

 

 深呼吸する。

 いたずらをしているかのような目でこちらを見ているナリアに尋ねた。

 

 

 

「何をするって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜、せっくす?」

 

 

 

 笑顔で言い切る見た目十歳の精霊。

 

 一瞬時間が止まったのを確かに感じた。

 

 当たっている。

 確かにする。

 確かにするが、色々と間違っている。

 

 年齢を伏字にするくらいならそこを伏字にしろよ。

 

 

「ナリア、そういうことは言っちゃいけない」

 

「え〜何で〜?」

 

「今まで気を使ってオブラートに包んできたところを一気に暴露すんな」

 

 

 いや、別にオブラートで包んでもなかったけどさ。

 不思議そうに首をかしげるナリア。

 こいつませてるな。ルルとキスしようとしたらルル吹っ飛ばすし……

 こう見えて××才だし、当然といえば当然……なのか?

 

 それにしても――

 

 

「ヤるもヤらないも、俺の自由じゃん」

 

 まだ子供なハイエルフがぶんぶん首を振ってその言葉を否定する。

 

「でもいやなの!!」

 

「嫉妬?」

 

「うん」

 

 

 

 うんじゃねーよ。めんどくせえ。

 素直に頷くナリアに何ともいえない感情が胸のうちに広がるのを感じた。

 こいつは素直すぎる。やりにくいわ。

 開き直ってるから、絡め手が効かない。

 俺は不利だ。

 なんたってこいつはつかず離れず俺についてくればいいだけなんだから。

 もしかしたら緩やかな地獄かも……

 

 

「やらないよ。俺そういうの嫌いだから」

 

 ためしにそう言って見る。

 

「嘘ついちゃだめ〜、おとといたくさんの人とやってた!!」

 

 

 ……あれが見られてたのか。

 全てが繋がった。何故一昨日からこいつが俺に付きまとっていたのか。

 こいつが偶然居たせいで俺がここ二日誰も相手にできなかったんじゃない。こいつは俺が誰か相手にするのを阻止してたんだ。

 僅か××才にして恐るべし知将。

 小さな悪魔という評価は妥当な物だ。

 にまーっとした笑みを浮かべるナリアに感じる戦慄。

 

 

 こいつは敵だ。間違いなく、俺にとっての最大の敵。おまけに俺はこいつに攻撃できん。

 

 

 

 くおらああああああああああああああああああああ!!!

 何という策謀。下に恐ろしきは年の功か。

 怖い。このちびっこがただひたすら怖い。

 俺の桃源郷がこんな小さなハイエルフに阻止されるというのか!?

 別にやらなくたって死にはしない。

 だが、今やらずしていつやるというのだ。純粋な能力だけで考えたらこんなに女集めんわ。

 

 

「……お前が代わりに相手してくれるのか?」

 

「い〜よ〜!!」

 

「悪かった。冗談だ」

 

 

 頬を染めるナリアにそういうしかない俺。

 こいつは本気だ。本気で貞操の危機。こいつの。

 なんていうチャレンジャー。

 こんな感情、俺の集めた男連中にケツの穴狙われた時以来だ。

 

 今やったらこいつは間違いなく壊れるだろう。

 だが、その危険にこいつは自ら飛び込んでこようとしているのだ。

 状況が複雑すぎて眩暈がする。

 

「いいか、ナリア、身体は大切にするんだ」

 

 よもや俺が諭す羽目になるとは思わなかった。

 俺の言葉に恐る恐る聞き返してくるナリア。

 

「? ……大人になったら?」

 

「大人になったらな」

 

 俺の言葉に、まるで一輪の花が咲き綻んだかのような笑顔。

 くッ、擬態も完璧か。ここまでの力を有しているとはさすが1000オーバーの化け物め。

 

 正直、戦況は俺に劣勢。

 小さな悪魔は容赦なく俺の弱点を突いてくる。

 このままでは、誰にも手を出さないまま人間としての生が終わりかねない。

 

 絶体絶命のピンチ。

 だが、ちょうどその時俺にこの上ない救いが訪れた。

 

 

 

 

「ナリアー、どこ? ……ここ?」

 

 

 扉が開き、顔を出してきた救世主は一人のエルフだった。

 エルフとしては珍しい水色に傾斜した薄緑の髪に、それと同じ色の瞳。

 どことなくナリアと似た雰囲気のあるエルフの少女。

 覗き込むように顔を出し、俺に気づいてその表情を強張らせた。

 

 誰だっけ?

 

 その顔を見て考える。

 エルフの村を助けた正当な報酬として十五人のエルフを頂いた俺だが、その中にはまだ俺が選択したその時にしか会っていない者が何人もいたりする。

 ルルから聞いた所、エルフの大半は人間に対してよい感情を持っていないらしいのでわざわざ俺に挨拶しに来たりする事はない、そして俺自身多忙でわざわざ会いに行く暇がなかったというのもまたその理由。後は……俺に一番なれているルルがエルフの中でも一際美人だったのも関係しているかな。

 暗黒の月の間、暇なので全員の顔を覚えようと思っていたのだが……

 

 まるで睨みつけるような冷たい視線。

 透き通るようなソプラノボイスが耳につく。

 

「ナリア!! どうしてこんな所にいるのッ!!」

 

 俺に対する敵意丸出しの声。

 思わぬ救世主に躊躇いを覚える。

 うざったそうな顔をしてその少女の方を見ているナリアに小声で尋ねた。

 ……というか、ナリアのうざったそうな顔って初めて見たな。そんなに嫌なのか……

 

「……誰だ?」

 

「……おね〜ちゃん。クリステル・フリージア」

 

 ナリアの姉さんらしい子が、戦々恐々といった様子で中に部屋の中に一歩踏み出す。

 どうしたのか、足が震えていた。

 

「あ、あの――妹、帰して――」

 

「……持ってってくれると助かるんだが……」

 

 俺を人攫いのような目で見てくるクリステルの視線が痛い。

 大事な妹だったらちゃんと持ってろよ。

 

 ナリアは、自分を助けに来てくれた(明らかな誤解だが)姉を悲しそうに見ていた。

 何か分からないが、湿っぽい空気があたりを包む。

 数メートル先に立ち止まるクリステル。いや、歩こうとしているのに歩けないのか。

 俺はそれをフォローするように、ナリアに言った。

 

 

「どうした? 心配して来たんだ。帰れよ」

 

「……おね〜ちゃん、にんげん嫌いなの」

 

 視線をもう一度クリステルに向ける。

 ひっ、と微かに後じさるナリアの姉さん。

 この妹の姉があんなに臆病だとは……いや、臆病ではないのか。人間が嫌いなエルフなんて腐るほど存在するそうだし、そんなに珍しいものではないのだろう。

 ナリアがおかしいのか。ルルはけっこう親しみやすかったんだけどな……

 

「とくに、おとこの人が嫌いなの。むかしらんぼうされそうになった事があるから……」

 

 なんとなく、クリステルがどうしてこんなに俺を恐れているのかが分かった。

 屑共のしわ寄せが俺のような善良で格好のいい男にまで来るのは世に存在する最も多き矛盾。

 こういう子の誤解を解くには長い時間が必要とされるだろう。

 暗黒の月の間、何とか誤解を解くよう努力してみよう。

 どうやらナリアもそれを望んで俺に教えたみたいだし……

 

 

 ナリアを見下ろす。

 ナリアは、透明な笑顔ではっきり俺に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほかの人はだめだけど、おね〜ちゃんとならせっくすしてもいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 一瞬の静止。

 頭が一気に混乱の渦に巻き込まれる。

 え? どういう展開? 何この展開?

 誰が得するんですか? 俺?

 ナリアは姉が嫌いなのだろうか?

 さっきのうざったそうな表情はともかく、その後の悲しげな瞳はとてもじゃないが嘘だとは思えないのだが……

 

「は? 人間不信で男性不信の子にいきなりそれはないだろ?」

 

「"しょっくりょうほう"ってやつだよ。おね〜ちゃん、いつもおに〜ちゃんの事悪くいってるから……きっと仲良くなれる……」

 

 ナリアの言葉が脳内を流れる。

 理論は良く分からない。

 だが、ナリアが本気で姉のためにそう言っているのは分かる。

 

 ショック療法……助けに来た妹に売られ犯されたらそりゃショックだろう。ショックが強すぎて死んでしまうような気がする。

 何かがずれてる。それだけは分かった。

 小さな悪魔じゃない。こいつは、無意識の悪魔だ。それもタルテなんかとは比べ物にならないほど巨大な……

 

「おね〜ちゃん、スタイル……いいよ?」

 

 純粋な瞳のその奥に一体何が潜んでいるのか。

 俺は、その奥に存在する何かの存在を確信し、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッペルゲンガー二体どころか、二十体と引き換えにしてもこいつは惜しくない。

 

 

 

 こいつは敵にまわすものではない。こいつは味方に引き込むべきものだ。

 幸いな事に、CreationPhenomenonのおかげか地盤はすぐにできている。

 既にこいつは俺のもの……

 いいものを拾った。こいつは間違いなく俺の力になるだろう。

 シルクとアンジェロと同じ位に……

 

「おね〜ちゃん、しあわせになれると思う。なってほしい。だから……ね?」

 

「ふむ、そこまで言われたらしょうがないな。やるしかないか……」

 

 

 やばい、凄い嬉しいわ。

 心の中が見えるほど透明な瞳。

 天才な俺にはわかる。こいつの中に邪推は一切存在しない。

 初めにうざったそうな表情に見えたのは、俺との時間を邪魔されたから。

 次に悲しげな表情になったのは、姉が俺を悪く思っているせい。

 最後の純粋な"お願い"はまさに姉のためになると思って言っている。

 間違いなくうまくいくだろう。

 純粋さに勝る力はない。

 

 

「そうしそうあい……おね〜ちゃんと仲良くなってくれたら、ナリアもうれしいよ」

 

 

 

 優しい声。

 

 クリステルの衣類が、音もなく塵と化す。

 ナリアの司る風の魔術。風の刃による斬撃。

 突然肌を晒された事による悲鳴は、ナリアが生み出した真空の壁により部屋の外まで広がることはない。

 

 

 今にも泣き出しそうな顔をしているクリステルの眼の前で、ナリアが囁く。

 

 

 

「おね〜ちゃん、シーンおに〜ちゃん、いまだけかしてあげる……おに〜ちゃん悪いひとじゃないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 恐ろしいまでの手腕だ。

 

 

 後始末は俺の仕事。

 ここまでお膳立てしていただいた以上は、完全に男性不信と人間不信を解消させるのが俺の真っ当な任務だろう。

 よっしゃ、がんばろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 心底敵じゃなくてよかったと思った。

 んーだがよく考えてみれば……敵でも大した事ないか。戦闘能力は微妙だし。

 味方にすれば心強く敵に回しても怖くない。

 便利だ……

 

 色々考えさせられる有意義な一日だった。

 

 

 

 

 

どんな感じだったでしょうか?


この程度十五禁じゃねえという方、ご指摘を(´▽ `)

これは十八禁だという方、それは言いすぎですよ(*´∀`*)

十八禁で見たいなーという方。知りません。書きません。書いてる暇がありません。書ける人が書いたらいいと思います。(*ノ∀`)ペチンッ


最近疲れていてブレーキが吹っ飛びぎみです。

誤字脱字などは後日修正します。



明日から冬季休業入りますが、更新は増えません。

しばらく不定期続きます。

閲覧してくださっている方、いつもありがとうございますm(_ _)m

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