第十八話:かつて捨てた存在と主人公な俺
奴がやってきたのは、ちょうど暗黒の月に入る一週間前の事だった。
すっかり忘れていた、ごつごつとした胴。
巨大な黒のアフロに、全てをあざ笑うかのように歪んだ三日月の口。
眼窩は虚無を讃え――ああ、俺はここまで感情の見えない瞳を見た事がない。
「シーン様、来客です――」
KillingFieldの髪型を変えて遊んでいた時に前触れもなくやってきたソレは、
俺が遥か昔に忘れ去ったもので、
それは即ちかつて捨て去ったという事であり、
つまり……
「何で貴様がここにいる?」
自然と冷たくなる声。
せっかくKillingFieldの髪をポニーテールに結い上げた所だったのに――
酷く気分を害された俺の眼の前で、それは揺れた。
『久しぶりー♪』
「音符じゃねえよ。お前捨てキャラじゃん。何で今更出て来んの?」
俺の眼の前で、水蓮口を探索した時に引き連れていた"自立した木"がふらふら笑った。
第十八話【かつて捨てた存在と主人公な俺】
水蓮口後半での話をしよう。
二夜達の悲鳴が聞こえた時点で、木は俺の後ろにいた。
助けての帰り道の時点で木はいなかった。
それは何故か?
答えは非常に馬鹿らしいものである。
「お前が何故生きてる? 俺の後を追って沼に沈んだだろ!!」
木が、やれやれというジェスチャーをする。
無駄なその動きにいらいらした。
そう、この木は、虚影骸世を使って水に潜んだ俺を追って沼に飛び込んだのだ。
俺は確かに見た。
俺の力により深海の如く暗きに染まる泥水の中、
ニヤニヤ笑ったまま沈んでいくこの木の姿を。
そして忘れた。所詮"木"だし……植物なんていらねーよ、と。
明らかにネタキャラだったし……このキャラが出てくる章が終わったんだろうなーとか適当に思ってたが……
…………
………
……
…
……しかし、もう暗黒の月まで後一週間か。時がたつのは早い物だ。
タルテが来てから二週間とちょっと、今の所、悪魔に関して進展はない。
本人も自覚がないみたいだし……情報が足りないので、手の出しようがないのだ。アンジェロに命じた情報収集も、とりあえず暗黒の月を眼の前に控えた今の時期では上手く進まないようだった。
頭を開いて中身を直接覗けば何か分かると思うが、それでは本末転倒である。
暗黒の月が始まって時間ができたらもっと本腰入れて調べてみるさ。ほんと、あの一ヶ月は暇だからな。
「うん、似合うぞ。KillingField」
そんな事を考えているうちに出来上がったKillingFieldのポニーテール。
それに受ける衝撃。
うん、似合ってる。いつも特に結ぶでもなく、ただ梳いたまま流していた髪型もそりゃ似合ってはいたが、たまには髪型を変えるのもいいもんだ。
数年掛けて習得した人の髪を結う技術。今までの俺のやってきたことが正しいことだったという証明である。
あー、癒されるわ。
ポニーテールは、簡単に見えて結構奥が深い。いや、他の髪型も奥が深いけど……
結び目の作る位置によって印象が変わるし、何より上手くバランスを取るのが難しい。
完璧主義な俺には、半端な点で妥協する事なんてできないのです。
もちろん、髪を留めているのはリボンだ。ゴム紐とか、響きが美しくないから。
暗黒の月の間、暇だからとそろえた数百色ものリボン。
暇な時にルルとかアンジェロとかの髪型も変えてみるつもりである。
「ちょっと大人びた感じか。お客さん、いかがですか?」
特注した姿見。
KillingFieldは特に何の感情を抱いた様子もなく、鏡を見て二三度頷いた。
頷けばいいというものでもないと言うのに……
個人的には大人びたKillingFieldというのはいまいちな気がする。いや、素材がいいから悪くはなんないけど。
ギャップがあるから面白いのだ。
普段の印象と差があるからこそ、色々と燃える。
「よし、次はツインテールにするか」
藍色のリボンを二本。
首をぶんぶん横に振っているKillingFieldを宥め、椅子に座らせる。
ポニーテールを結わっていたリボンを外した所で、突然背中を叩かれた。
「ん?」
『Meは……?』
振り返り、そこにいたのは俺の美的センスに掠りもしないアフロだった。
作れない事もないが(俺は完璧である)、選ぶとかそれ以前の問題な髪型だ。漫画とかでよく、爆発に巻き込まれた時に登場人物がなる髪形。天地がひっくり返ったって、俺はKillingFieldの髪型をアフロにしようとかは思わないだろう。
『そうじゃなくて……』
「何故お前がここにいる?」
『それはさっき言われました』
「答えてねーだろ!!」
ボディーブローを一発。
今ここにこいつが来てた事をいつの間にか忘れていたのは秘密である。こいつ、キャラが濃いのに影が薄すぎ。
その程度の存在である"自立した木"が、俺のけっこう本気目のボディーをくらい、綺麗に吹っ飛んだ。
天井にぶつかり、跳ね返り、壁に反射し、絨毯の上をゴム鞠のように弾む木。
というか……感触がゴムそのものだった。
一体これは何なんだ?
激しく頭を過ぎる疑問。
KillingFieldの首根っこを掴み、跳ね回るそれを最小限の動きで回避する。
動きが止まったのは、数分も過ぎた後の事だった。
当然部屋の中はぐちゃぐちゃ。
ランプは割れ、机は砕け、クローゼットには大きな穴が空いている。
『何をいきなり。酷い☆』
それだけあちこちにぶつかり、相当ダメージを受けたはずなのに平然と立ち上がる木。
いつの間にか出現する立て札。
プラカードの文字が非常に癇に障る。
星じゃねえよ。何これ? 以前会った時よりも遥かにうざくなっているのですが……
何かを極めたようにへらへら奇妙に踊る木に、俺はスキルレイを掛けた。
世界のバグerror-04<奇神>
StrangeDays
LV25
HP99999999999992322/100000000000000000
出現条件:
何の理由もなく、ただのオブジェクト(木)に対して魔法を放つ
「"EndOfTheWorld"!!」
"EndOfTheWorld"というのは、HPの量に関係なく対象を消滅させる闇魔術である。
ドラクエで言えば、ニフラム。
FFで言えばデジョン(転移ではなく、消滅させる方)
HPがたとえ10京でも関係ないッ!!
というか、高いってLVじゃねーだろ。京って何だよ、京って……
木の下、床のすぐ上に、闇を呼び出すポイントを五つほど設置。
タイムラグは一秒未満。
魔術により呼び寄せられた闇の流星は、光の速度で木に向かって降り注ぐ。
お前は既に死んでいる。
気づいた時には既に終わっている、それがEndOfTheWorldのクオリティー。
この術は、あらかじめ設置したポイントに闇が達した瞬間に終了するため、後に残ったのは俺の自慢の真紅のペルシャ絨毯のみ。
その上にいた不快極まりない"物体"は跡形もない。
……今のは本当にバグだった。何かがおかしい……いや、おかしいのは存在自体か。
「……さて、KillingField。ツインテールにしようか」
天井に空いた穴、ぐちゃぐちゃになった部屋。どうしたものか……
最低でも天井の穴は暗黒の月が来る前に修理しないと部屋の中にまで闇が入ってきてしまう。
KillingFieldの髪の感触を楽しみながら、俺は今日と言う"奇妙な日"の到来に嘆息したのだった。
ちなみに、穴は即座に直させました。部屋の掃除もついでに。
木をつれてきたシルクの失態だし。
エラーとか死ねばいいのに。
そして次の日、絨毯にいつの間にか生えていた小さな芽。
世界のバグerror.04<奇神>
StrangeDays
LV1
HP10000000000/1000000000
「最大HPより現在のHPの方が高い……だと!?」
どうやら奇妙な日はまだ始まったばかりのようである。
ん? いやいや、久しぶりにネットゲームやってて休日にも関わらず書くのが遅れたとかそんなわけではないです(*´∀`*)
ユニーク50000突破。
いつも見てくださってる方、ありがとうございますm(_ _)m
これからも何とか更新速度を維持して……いけたらいいなぁ……(´▽ `)