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黒紫色の理想  作者: 槻影
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第十七・六五話:ある祭りと幸運な俺


 

 

 正直な話、俺にとってこの餌やりの時間はとても退屈だ。

 手出してるだけで砂糖に群がる蟻の様に下民が寄ってくるし、俺のやるべき事と言ったらPocketの中身が無くなったら新たな物に取り替える事と、複数回並んだ奴をとっ捕まえることくらい。

 

 隣では、何が面白いのかシルクが眼を見開いて辺りを見回している。

 ナリアは屑退治。

 アンジェロは、子供を使って、この配給だけではとても食っていけない貧困層の中でもさらに最底辺の連中探し。

 ナリアの屑退治はともかく、アンジェロの仕事も俺と同じくらいつまらないものだが、彼女はまだ街中を見て回れるだけマシだ。俺なんてここに立ちっぱなしですぜ。

 

 十五個目のPocketが空になり、十六個目。百掛ける十五で一・五トンの粉が既に完売。

 そう聞くと相当配ったようにも思えるが、一か月分の食物を貧困層全員に供給しなければならないとなると、とてもじゃないけど持って来た二・五トン程度の食い物では足りないだろう。

 

 

 人間結構食うからな。腹が減っては戦はできぬと言うが、別に戦がなくても腹は減るもんだ。

 

 

 まー、足りなかったら足りなかったで何とかなるさ。

 これで食ってけそうにない奴等を探すのはアンジェロと、その部下達の役目。

 俺のようなトップの手を煩わせるような事ではないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七・六五話【ある祭りと幸運な俺】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 餌撒きを初めて五時間。

 Pocketは、二十個目に突入していた。

 高かった日は早くも沈みかけ、辺りには闇の帳が降り掛けている。

 

 最近日が短くなってきたな。

 

 広場を囲むレンガ造りの家屋の屋根の向こうに見える、太陽の欠片。

 冬の一日が、今終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だと言うのに――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故だ? 一体何なんだ?

 

 周囲を見渡す。薄墨のような闇の中に輝くいくつもの灯。

 

 何か広場の円周に沿ってかがり火が焚かれ始めてるんですが……

 

 

 闇に流れる真紅の炎。

 俺は辺りの光景に正直かなり驚いた。

 配給は滞りなく進んでいるはずなのに、何故か広場から人が減る気配がない。

 列に並んでいる人の数は確かに減っている。しかし、人口密度は変わらない。

 見たところ、食料を受け取った連中は食料を家に持ち帰ってからまたここに集まっているみたいだ。数時間前にトウモロコシの粉を与えた連中の姿がちらほら見える。

 

「おい、何で減らない?」

 

 妙な熱気が寒風に乗り、祭壇の方まで吹き込んでくる。

 その変な熱のせいで、夜に変わりかけ、辺りの空気は寒さを増しているはずなのに、体感的にはあまり寒くなかった。

 

 言わせて貰うが、あまり嬉しくない。

 ファンヒーターとかなら歓迎なんだが、人の熱ってのはちょっと……

 

 

 

「シーン様がいるからじゃないんですか?」

 

「んなわけあるかッ!! いくら俺が天才で人気者でジェントルメンでも、こんなゴキブリを引き寄せるゴキブリほいほいの如き力はないわ」

 

 

 一括。

 クソッ、上から下まで防寒着で固めているシルクを見てると殺気が沸いてくる。

 おまけに適当な事言いやがって。

 

「おに〜ちゃん。お店がでてるよ〜」

 

 さっきから海の中に漂うくらげの如く、空を舞っていたナリアが、広場の一端を指差して言った。

 

 ちなみに、暗殺者を退治して持ち帰ってきた生首は捨てるように言っておいたので、今のナリアは手ぶらだ。貧困層の連中もさすがに人の生首は見慣れていないらしく結構引いてたし、俺も引いた。女の子は生首なんて持ち歩いちゃいけません。

 後俺お兄ちゃんじゃないんだけど……今までスルーしていたからつっこめん。

 

 

「ふむ、本当に祭りだったんだな……」

 

 

 ナリアの指す方を見ると、さすがにこの時期に貴重な食料を放出する事はできないらしく、食べ物の屋台は出ていないが、そこかしこに小さなお土産屋みたいな出店が並んでいるのが見えた。

 そういや、さっきから準備してたような気がするね。去年はやってなかったから、今年から始まったのだろう。

 

 純洋風の造りの広場に、純和風の屋台が立ち並ぶ姿はかなりシュールだった。

 そもそも、昼間、提灯が飾ってある所を見たときからどこかおかしいと感じていたんだ。どうして、遠い東の国の文化がルートクレイシアの国内で広がって――

 

 

「シーン様が法律作ったからでしょう。祭りの際は提灯を掲げる事を義務付けるって」

 

「んな馬鹿な法律作るわけないじゃん。んな法律作ってる暇あったら着物の着用を義務付けるわ」

 

「…………それは……どうでしょう――」

 

 

 

 妙な事を言うシルク。

 祭りに提灯を義務付けるってどんな法だよ。着物の方がまだ建設的だ。

 着るのに時間かかるし、脱ぐのも想像するほど楽じゃないが。

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 

 まぁともかくシチュエーションとしては悪くない。帯引っ張ってあ〜れ〜ってできるし。声に出してやると萎えるからエンターテイメントとしてしか使えないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粉が切れる。二十回繰り返した動作で新たなPocketを嵌める。

 暗くて解かり辛いが、並んでいる人数は後五十人ほど。

 ちょっと多めに貧困層の人数を計算していたのだが、ちょうどよかったようだ。粉が無駄にならなくてよかったというべきか……

 

「お店〜お祭り〜」

 

 目を輝かせて露店を見ているナリア。いつもより、二割り増しでふわふわ浮いているナリア。

 

 …………

 

 

 

 

 結論はすぐに出た。

 

「おい、シルク。お前ナリア連れてそこら辺見て回って来い」

 

 このまま行けばどう考えても後で俺が連れて回る事になる。無視しても別にいいけど、将来を考えると今印象を落とすのはいただけない。

 

 しかし残念ながら俺は、こいつを連れて露店を見て回れるほど暇じゃないし、寒い中歩き回れるほど元気もない。

 さっきから側にいるだけで今日何も仕事をしていない暇人に押し付けるべし。

 

「え? いいんですか?」

 

 ナリアと同じく、ぼーっと祭りの人ごみを見ていたシルクが驚いたような表情をする。

 シルクが命令を聞き返すとは珍しい。いつもなら一回言っただけで通じるのに。気が抜けてたか?

 

「いいからとっとと行って来い。ナリア、シルクの言う事聞いていい子にしてろよ。具体的に言えば昔みたいに振舞え。飛ぶな、浮くな、漂うな。それから風と水の魔術使うの禁止。使うときはシルクに許可を貰う事」

 

「おに〜ちゃん行かないの?」

 

 捨てられた猫のような眼で見てくるナリア。

 いや、猫じゃないか。こんなデンジャラスな猫はいねえ。どちらかと言うとホワイトタイガーに近いかもしれないな。

 俺と違って人を殺すのに躊躇一つないし。まさに悪魔だ。

 

 

 可愛けりゃ悪魔でもホワイトタイガーでも構わないけど。

 

 

「残念ながらいけない。忙しいから」

 

「…………ん〜」

 

 屋台と俺を交互に見るナリア。

 しばらくして、結局好奇心が勝ったらしい。シルクの手を引っ張り、笑顔で人ごみの中に消えていった。

 シルク、お前今日何もやってないんだからちょっとくらい疲れて来い。ナリアの相手は下手な戦闘より遥かに疲れるからな。

 

 空には、銀のお盆のような丸い月が出ていた。

 今夜は満月だったか。

 かつてグラングニエル族だった頃、俺の力が最も高めていた満月。月は今も好きだが、前世ほどの精神の高ぶりはない。

 しばらく眺めた後、顔を下げる。

 

 残りのおよそ五十人の家畜に餌をやるため、俺は再び手を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは本当に突然だった。

 幸運は、いつも突然やってくる。

 自らの力で手に入れるのは幸運とは言わない。それを俺は必然と呼んでいる。

 だが、今のこの状況をその二つの尺度で見てみると、これは明らかに幸運だろう。

 

 

「おい、お前。ちょっと待った」

 

 

 貧困層には、本当に呆れるほど様々な人間がいる。

 ぼろぼろの半そで半ズボン姿の子供や、奇妙な薄汚れた指輪を両手の指全てに嵌めている爺。

 いヒヒヒヒと哂いながら食料を受け取った、魔女みたいな風貌の恐ろしく腰の曲がったばあさんに、黄ばんだ包帯で顔を隠しているミイラ男さながらの風貌の者。

 どこか吹っ飛んでいるから貧乏なのか、それとも貧乏だからどこか吹っ飛んでいるのか。

 

 だが、俺の見つけたソレは明らかに今まで見てきた変人共とは一線を画していた。

 疲れたような表情の、がりがりの中年の女と、顔を隠すように黒の布を被った細身の人影の二人組み。

 どちらも、見た瞬間に顔を背けたくなるくらいみすぼらしい風貌。顔立ちから、他国からルートクレイシアに移ってきた者だという事がわかる。

 

「な、何……か?」

 

 食料を受け取り、急ぎ足で出口に向かいかけた痩身の女が、明らかにびびった様にこちらを振り返る。

 眼の下にできた隈。美しいとは言いがたい顔な上に、薹が立ちすぎている。このレベルの女は例え若くたっていらないが……

 

 

「そこの奴はお前の親類か?」

 

 

 指の先にいるは、黒の布で体全体を覆ったいかにも疑ってくれと言わんばかりの人影。

 この時代、顔を隠す者は少なくない。

 悪魔の襲撃に遭い、癒えない傷を受けた者。

 生き延びるため法を犯し、連合、貴族や、警察に追われている者。

 人間から差別されている種族の者。

 

「は、はい。そ、そうですが……それが何かしましたでしょうか?」

 

「フードを取れ」

 

 俺にはある種の勘が働く。

 それは天性のものかもしれないし、もしかしたら今までの経験により出来上がったものかもしれないが、まあそんなのはどちらでも構わない。

 女の顔が引きつる。

 確かに、上記にあげた理由で顔を隠していても不思議じゃない。

 それでも俺は――

 

「し、い、いや、でも……お見せするほどのものでも――」

 

「それを決めるのはお前じゃない。法は俺だ」

 

 悲鳴を上げかける婆。首を絞められた鶏の悲鳴のような声が、夜天に響く。

 身を返して逃げようとする黒フード。

 馬鹿め。俺から逃げられるものか。

 肩を捕まえ、引き寄せる。

 そして俺は、黴の匂いの染み付いたその布を取り払った。

 

「あ――」

 

「ふん、やはりそうだったか……匂いがしたからな」

 

 

 頬が緩む。

 顔を真っ青にして崩れ落ちる女と、黒フード。

 

 

 

 

「や……い、や――」

 

 

 

 

 列から上がる悲鳴を無視し、俺はその人影を無理やり立たせた。

 

 眼と眼が合う。

 その瞳に映っているのは純粋な恐怖。

 見ただけで解かるほど震えているのは、服装が軽装だからだけではないだろう。

 

 

「おい、女」

 

「は、はひッ……は、はいッ!! す、すいません。すぐに、そ、染めるよう、ように、言っておいたのです。私は言ったのですが、その子が――」

 

 

 腰を抜かしたまま後退する女。

 屑が。染めるだと? 何を寝ぼけた事をいってやがるんだ。

 

 震える肩を強く抱きしめる。

 さきほども感じたいい匂いがした。

 

 

 

「この娘、買った」

 

「ひぃッ――……え? か、買った?」

 

「ああ、買った」

 

 

 

 

 腕の中の気配が、怯えから戸惑いに変わる。

 

 

 

 

 ラッキー

 まさか、貧民の中にこんな純粋な黒髪持ちが紛れてるとは思わなかったわ

 

 

 

 

 

 

サブタイに注目。

十七・六五話です。

はい。四話で終わらせるはずがおそらく五話に……

かなり忙しいのでそんな感じで←関係ない


四話で終わらせる事ができたらサブタイ、十七・七五に変えます(*ノ∀`)ペチンッ

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