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黒紫色の理想  作者: 槻影
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第十七・二五話:ある視察とシーン様の話

ちまちま進む視察の話。

忙しい故どうしても書ききれず、サブタイが以下の通りに(*ノ∀`)ペチンッ


 

 

 何故か顔を顰めているシルクに多少の疑念を感じつつ、俺は大きく背筋を伸ばした。

 この提灯、一応記念に貰っておこう。

 Pocketは容量いっぱいに詰めているので、シルクに押し付けた。

 

「大丈夫だ、シルク。気にする必要はないぞ。お前は馬鹿だが他の人間はさらに馬鹿だ。並の馬鹿よりは賢い事をお前は自らを誇っていい。ほら、これ持ってろ」

 

 

 提灯を押し付けられて途方に暮れている様子が面白い。

 

 空を見る。太陽が白色の光を放っている。

 そろそろ正午だ。次の行動を起こす時だろう。

 

 適当に街を眺めた後は、家畜共に餌をやるのが毎年の俺の仕事だ。

 

 俺が餌撒きを行う前はひどかった。

 食物を十分に蓄えなかったが故に、暗黒の月の間に餓死する者が相当数出ていたのだ。あまりの飢えに、暗黒の月の間に外出し、暗黒の月が明けた次の日に氷漬けで見つかった者など、燦燦たる状態だった。

 

 ぶっちゃけ今年は沢山人間がいるみたいだし、ちょっと位減った方がいいような気もするが……まぁ、それは持つ者のわがままだろう。シルクにも言われたが、家畜をただ多いというだけで捨てる奴はいない。

 

 

 

 

 

 

 家畜が小屋に入りきれないほど増えたら、他の小屋を買えばいい。なんたって増えれば増えるほど実入りがいいんだから。

 国が人でいっぱいになったら他の国に攻め入ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十七・二五話【ある視察とシーン様の話】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 去年、俺が演説した何かきしょい名前の広場に行くと、そこには高さ三メートルほどの、屋根のない物見櫓のような物が建っていた。去年までは明らかに存在しなかった物だ。

 

 物見櫓と異なるのは、それが木材ではなく、白と黒の石材を組み合わせる事により建てられている事と、はしごではなく階段で上がれるようになっていると言う事か。そう考えると、物見櫓というよりは祭壇と言った方が近いかもしれない。

 

 祭り……じゃない? これは備え付けだ。どんなに大きな祭りを開くにしても、広場の真ん中にこんな物を建てる余裕がこの都にあるとは思えない。

 気づかないうちにルートクレイシア公国では新たな宗教でも流行っているのだろうか?

 そういわれてみれば、この白と黒のモノクロな模様は何か儀礼的な色が見えるような気がしないでもないとかいうそんな話。

 

 まぁ、どうでもいいことか。

 屑共が何を信仰しようと全く興味はない。俺がほしいのは、尊敬でも崇拝でもなく、実体ある利益である。眼に見えないものに囚われることほどくだらないことはない。

 

 しかし、あるものはどうせなら利用させてもらおうと、俺はその上に一跳びで飛び乗った。

 運動神経が絶望的なまでに悪いシルクは、ジャンプで上がることなどできるわけもなく、小走りでついてくる。

 

 

 

 

「シルクおね〜ちゃん、遅いね」

 

 

 

 

 

 さっきから俺の肩に捕まっている半精霊が言った。

 断じて……その言葉は断じて、俺の肩に捕まって移動している奴の言っていい言葉じゃない。

 

 その翼は飾りか!

 

 

 

「確かに遅いがお前の言っていいことじゃない」

 

「? なんで?」

 

 

 

 無視。こいつ構ってると凄い調子に乗るから。

 

 あまりに幼稚なので今度どこかの学校につっこもうと考えている事は秘密だ。

 問題は基本スペックがありすぎるところだろうか。安易に学校を選ぶと学校を壊滅させかねない。

 

 祭壇から見下ろした広場は、さっき屋根の上から見た大通りより更に人口密度が高かった。どっかのテーマパークの中のようだ。

 広場の入り口では、白と黒のぶちの描かれた帽子を被った奴らが、赤茶けた杖を振り回し入場規制のような事までやっていた。

 

 

 何? この惨状。去年まではこんなに人いなかったはずですけど……

 

 

 広場の中では人の波がざわめいていた。

 幸いなのは、この祭壇を中心とした数メートルには人が立ち入ろうとしないということか。転んで中に入ってしまった人間も、慌てて外に出て行った。それだけこの場所は神聖な場所として人々の中に成立しているのだろう。

 

 無数の視線を感じる。

 俺以上に神聖な者などこの世に存在しない。よって、この祭壇に登る権利があるのも当然といえる。

 俺の徳は神と比べても遜色ないだろう。むしろ楽勝?

 

 

 

 

 

「……面白い」

 

「人いっぱ〜い」

 

「違う。そういう時はこういうんだ。『人がまるでゴミのようだ』」

 

「人がまるでゴミのようだ?」

 

「そうだ。覚えておけ」

 

「人がまるでゴミのようだ〜」

 

 

 そんな事をやっているうちに、シルクがやっと辿りついた。

 微かに息を乱し、吐息が空気中に白い靄を作っている。

 この程度で息切れとは……どんだけ駄目な奴だよ。

 

 

「シルク、見ろ、この人の数を。この人波じゃーさぞかしエージェントAも苦労するだろう。どう思う?」

 

「好景気ですからね。シーン様の努力の結果でしょう」

 

 

 好景気?

 俺の聞いた話では、そうでもなかったような気がするが……

 俺の努力の成果であることはまぁ疑いようのない真実ではあるが、現在の状況が好景気とは片腹痛い。

 俺の求める好景気とは、資源の枯れ果てた鉱山から金や銀がわんさか取れたり、森を開拓して畑を広げなくても空から食料が降ってきたり、商人ギルドとやらが全面克服し、その利益の五十パーセントをルートクレイシア領に納める事を誓ったり、そんな感じの事が起こった時に起こりうる、金が溢れるような事態の事を指すのだ。

 

 

 それに、これほどの人数がたかがちょっと景気がよくなった程度で集まるとは思えない。

 んー移民を無差別に受け入れすぎたか。

 ちょっと反省。

 レアキャラが混じっている可能性があるからと、国外から亡命してくる者を片っ端から受け入れるべきではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来年はこの人数の半分を目指す」

 

 

 どうやら今年の俺は無駄が多かったようだ。

 来年からは無駄を省こう。一定の税を納めることができなければ国外追放とかどうだろうか?

 

 

「半分……? シーン様、いつもはこんなに人数いませんよ? 今日は――」

 

「言わなくても分かる」

 

 

 分からなかったが面倒だったので止めた。

 シルクは人が好きだ。多ければ多い方がいいらしい。絶対、ショートケーキ一個よりもたい焼き三つを選ぶタイプだな。

 量より質な俺。

 質より量なシルク。

 

 だが俺ならば質のいい人間を数多く集めることができる。それ故の賢帝なのだ。

 器の違いという奴なのだろう。こいつには最も重要な所が分かっていない。

 

 

「…………」

 

「人がまるでゴミのようだ〜」

 

 

 そろそろか。

 何か言いたげな表情をしているシルクを無視し、笑顔で物騒な事を叫んでいるナリアを下に下ろし、

 俺は祭壇を中心に群れている人間共へ命令した。

 

 

 

 

「おい、お前ら静まれッ!! このシーン様がわざわざお前らのためにこんなところまで視察に来てやったぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前ら静まれッ!! このシーン様がわざわざお前らのためにんなところまで視察に来てやったぞ!!」

 

 

 シーン様の一言で、短軸半径五百メートル、長軸半径七百メートルほどの楕円の形をした広場、クリシュナ広場に集まった人々のざわめきは一瞬で静寂に変わった。

 まさに鶴の一声という言葉がしっくりくる光景だった。

 老若男女問わず一瞬で人心をまとめるその能力は、たとえその集まっていた者達がシーン様を一目見ようと集まってきた者達であるにしても――そのカリスマは、世界有数の騎士だったダールン公を下すほどの"暴力"を遥かに超えたシーン様随一の武器だろう。

 

 最近シーン様にくっついて歩いているナリアと言う名らしいエルフの子供も、目を丸くして突然静かになった民衆を見ていた。

 

 風が吹き、シーン様の目元を隠していた黒髪が揺れる。

 きらびやかな衣装を着ているわけではない、決して大勢の供を連れて歩いているわけでもない、決して権威を振りかざしているわけでもない、それでも、彼らは知っている。シーン様が今現在この国の実権を握っている存在であることを。

 

 闇を示す黒髪が忌み嫌われる風潮がある中で、唯一黒髪持ちが国の頂点に存在する独裁国家。

 当初頻繁に発生した叛乱を全て力で握りつぶし、それを支援した下級貴族を家族もろとも皆殺しにし、革命の種を笑いながら摘み、それを繰り返し作り上げたシーン様の国。それが今のルートクレイシア公国である。

 外では、この国には"暗公国"という蔑称まで存在しているそうだ。

 

 だが誰が信じられようか、この国の王のプロパガンダが"飢え死ぬ民がいない国"であることを。

 事実、ここ数年食糧不足により死んだ者はいない。

 そして、そんなプロパガンダを掲げる理由が"死んでしまったら税が取れない"って事なのは、一月もの間食べていけるだけの食料を買う事ができなかった貧民層にとってあまりにも些細な事だ。

 唯でさえこの時期はどこも食糧不足が目立つ。食料価格の高騰きたりで中流家庭の中にも最低限の食料を集められない者が出てくるほどだ。だからこそシーン様は配給じみた事を行う。本人の感覚では鳩に餌をやっているようなものなんだろうが……

 

 

 

 シーン様は、突然静まり返った民衆を眺め首をかしげて、

 

 

 

「一気に静かになったな……嬉しいような悲しいような……」

 

「何が悲しいんですか?」

 

「いや、色々できなくて――」

 

「……静かにならなかったら静かにならなかったで機嫌が悪くなるでしょう」

 

 雪の積もった広場から投げかけられる無数の視線。

 静まれといっておきながら、なかなか話し始めないシーン様にじれているかのように、その視線には微妙に熱がこもっている。

 この視線を受けても平然としているシーン様はどんな度胸をしているのだろうか? 少なくとも私には真似できない。

 

 シーン様はにやりと唇の端を持ち上げて笑い、

 

 

 

 

「そんな俺の機嫌を何とかするのがお前らの仕事だ」

 

 

 

 

 激しく間違っている事を言うと、シーン様のために建てたと聞いている"壇上"の上で大きく空を仰ぎ、密教の教祖のような格好で、広場中に聞こえるような大声で叫んだ。

 

 

 

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