第十三話:労働者と雇い主な俺
例によって、誤字脱字の改善は気づき次第行います。
*眠気と戦いながら執筆したせいか、内容がひどかったので多少加筆修正。
12月1日版を見た人、それはレアです(*ノ∀`)ペチンッ
悪魔って知ってます?
ああ、違う違う。あの魔界から来る蛆虫にも劣るくそったれ共の事じゃないです。
あの、よく物語で出てくる"死後の魂と引き換えに願い事を三つ叶えてくれる"的な存在の事です。
あれってなかなかいいっすよねー。
何て言うの? 今すぐ三十万もらうか三十年後に一億貰うかどっちを選ぶかって奴ですかね。多少違うかもしれませんが。
大体普通の人間には魂の価値は解かってないんですよ。
悪魔よりも心が穢れているらしい私だからわかりますけどねー
魂を取られるってかなりえぐいです。
うん、かなり危ない。素人は手を出さないほうがいいっす。証魂取引は。
運が悪ければもういろんなものを失います。運がよくても魂を失います。
踏んだり蹴ったりですよね。はっはっは
救出とサプライズをプレゼントするために、"虚影骸世"で水の中を潜っていったら、「魂が真っ黒な存在」とか言う言葉が聞こえてきた。
俺は黒が決して悪い事だとは思わない。
高級なものって大体黒いし、夜がなければ地上の温度は限りなく上昇し続けるだろう。
何をいい言いたいかと言うと、闇が悪ってのは人間の独創的な偏見の混じった考え方であり、事実魔族にとっては闇こそが光に代わるものであって――
だけど真の悪はないだろ。
第十三話【労働者と雇い主な俺】
正義の使者にふさわしい演出溢れる華麗な登場を完璧に成功させた俺。
世界を侵食する"虚影骸世"を使えば沼の中でも快適に進める。
EndOfTheWorldと違って消滅の度合いを選べるのが地味に嬉しい闇魔術だ。
冷たさも水の気配も感じずに沼を進んだその先、俺の助けを待っていたのは二人の少女だった。見た目からして多分年下だろう。
片方がちょっとだけLVが高くてもう片方が、戦士のピラミッドの底辺に位置するようなめちゃくちゃな低レベル。どちらにしても、このエンカウント七割強の魔境をどうやってここまで歩いてこれたのか不思議なくらい弱かった。
二人のうちの一方が、未だ嘗て俺が言われたことのない珍しいタイプの悪口を言っていた娘だろう。もちろん、ジェントルメンな俺はそれくらいでは気にしない。男だったら解剖してたが女の子だしね。女子供に優しいのも俺に数ある魅力の一つなのだ。
品定めする。二人とも、可愛いと言われてみれば可愛いような気がしないでもないが、最近目が肥えてきたのか、あのエルフのLVが高すぎたのか、何かいまいちのように感じた。点数で言えば八十点前後だろうか。
尤も、その程度の事でここまできた目的を諦めはしない。
一人もいないだろうと思っていたのがなんと二人だ。多少ランクは落ちても二人とも逃すのは馬鹿のする事だろう。
それに二人とも何か装備が微妙にいいし、多分貴族だ。
人間の尺度とはいえ、高貴な身分というのは微妙に付加価値があり、見た目以上に魅力を倍増させる。
「そこの立っている奴、七十五点。うずくまってる奴、八十二点」
二人とも顔が強張っている。おそらく、襲撃を受けた時の恐怖がまだ抜け切れていないのだろう。
ほら、うずくまっている方なんて真っ青だ。
多少の哀れみを感じつつ、視線を前に向ける。
いい具合に首を飛ばされた死体が四つあった。
一人は生き残っているっぽいけど――
「あれは……」
眼を見開き、腰を抜かす少年を凝視する。
俺の観察眼に間違いはない。
金髪に碧眼。あの不思議な魅力に満ちた容姿。
じっと見つめる。穴が開くほど。
その少年もまた、俺の方を怯えるように見ていた。
確信。
スパコン並の精度を誇る脳が猛回転を始める。
計算し直さなくては……
二人手に入れる予定だったが、計画は変更だ。三人とも手に入れる。
隣で浮かんでいる何か不気味なトンボには特に感想はない。
スキルレイによるとたったLV520だし、相手にならん。
トンボの弱点なんて衆目の知るところだし、気にする事はないだろう。
となると、問題は唯一つだ。
どうスマートにこの三人をゲットするか。それに限る。
「おい、女二人。そこのトンボを殺してやる。その代わりお前らの全存在をよこせ。つま先から頭の先、髪の毛一本から血の一滴、そしてその魂から心に至るまで、俺のものになることを誓え――」
まず、第一の難関はこの二人をいかにゲットするか。
ただ手に入れるだけなら薬漬けにしてしまうのが一番楽だが、正常な少女がほしい俺にはその手は使えない。
こういう場合は取り敢えず言質を取るのが一番。そして、この言葉が失敗する事はない。
人間ってそういうものだ。
死か生か。人はその二択を突きつけられた時、その答えは決まっている。
もちろん中には、奴隷にされるんじゃないかとか下衆なかんぐりをする奴がいて、貴族のプライドを取り自殺を試みる奴がいるかもしれないが、それは宣告者が俺であるに限ってありえない。だって俺ってどう見ても人を奴隷にするような奴に見えないから。
「た――魂!?」
唖然と問いかけてくる女。
「魂だけではない。全てだ。何もかも捧げろ」
"虚影骸世"を解く。
虚影骸世の効果は自らを中心とした闇の世界の精製。
コントロールの精度さえ高くなれば、重力だけを"消滅"させ宙を浮いたり、"水の特性"を消滅させ、濡れずして闇のような水の中を泳ぐことも可能となる。
俺ほどの天才なら、の話だが。
何もないという事象から放たれ、身体に掛かった重力に従い地に降り立つ俺。
天から舞い降りるシーン。まるで天使のようじゃないか。
何を恐れることがあろうか。
時間さえあれば、こいつらは落ちる。
俺はじっと待つつもりだったが、あろう事か少女が答える前に、トンボが動きやがった。糞悪魔の分際で……この俺に逆らうとは憎たらしい。
羽を震わせ、静止から攻勢に神速で転じるトンボ。
思ったより速いそのスピードに舌打ちする。
眼では見える。だが、何の付加もない人間の肉体でそれを向かい討とうとしたら、迎撃の衝撃でどこかいかれるだろう。
だが、よけるわけにはいかない。よけたら俺のものになるはずの二人の少女が真っ二つになってしまう。
そして、倒すわけにもいかない。倒してしまったら契約する必要がなくなってしまうではないか。言質が取れるまで何もできん。
苦渋の選択。
これが少女ではなく、あそこでうずくまってる少年の方だったら俺は迷わずよけていたのに。
避けるも反撃するも不可能
選択肢は唯一つ。
痛いから嫌なんだけどな〜。
大体答えるのがとろいんだよ!!
文句を言っても始まらない。そして始まる前に終わらせてしまうわけにはいかない。
「ッ……効くなぁ」
やむを得ず俺は、縦に立てた腕を盾にして、羽の刃を受け止めた。
……面白い?
命を掛けたギャグだ。面白かったらちょっとだけ嬉しい。
羽の刃は、腕を半分まで切り裂き、かろうじて俺のダイヤモンド並に強固な骨に阻まれ止まっていた。
骨でかろうじて受け止めたトンボの羽。高速で振動していたらしい羽は、肉で挟まれ振動を止められた時点でもうその切れ味はなくなっている。
腕を盾にするとか洒落になってねえ。
文字通りそのまんま刃で貫かれたような痛みが手首を中心に広がる。
トンボの一万もの眼、複眼が俺を観察するかのように動く。
あー、つぶしてえ。言質とったらシーチキンにしてやんよ。
久しぶりにまともに受けた傷は、正直かなり痛かったが腕が落ちなかったのは不幸中の幸いだろう。
魔王の肉体ならともかく今の俺の身体は人間の肉体なのだ。いくらLV高くたって、LV500オーバーの悪魔からまともに攻撃喰らったらダメージ受けるって。LV300前後の真っ赤なピラニア程度だったら噛み付かれてもダメージないんだけどな。
「早く言え。全てを捧げると」
そういや、昔読んだ本にベルゼビュートって名前読んだ事があるような気がする。
……あれ、蝿じゃなかったっけ? こいつトンボだけど――
トンボの顎がゆっくりと開く。正直うんざりだ。てめえこれ以上なんかやるっていうのか。
心が繊細らしい貴族のお嬢様方は眼を見開いたまま固まっている。フリーズしたら電源切るのが一番なんだが困ったことにお嬢様方には電源がなさそうだ。
あー、とっとと宣言してくれないと俺が困るんですけど。
まー、身体張って女の子守るってのも主人公としてはおいしい展開かもしれないけどさ。
俺だって痛いんだよ!! 戦闘中に痛覚消したら危ないし。とっとと終わらせて神聖魔術で傷を癒したい。
顎の隙間から何か白いものが見える。何あれ? かなり遠慮したいんですが……
俺の遠慮もしらず、グロテスクな顎をゆっくり開くトンボ。
あー、まずい。もうこいつあの変なの出す気満々だわ。
もう受けるしかないか。家帰ったら即効で温泉でも入りに行こう。
俺がそんな悲壮な覚悟をした丁度その時、
「わ、わかった!! 魂でも何でもあげるから早くッ!!」
少女が堕ちた。
いや、落ちた。
その誓いが耳に入ると同時に、俺はトンボの腹を蹴飛ばした。
衝撃で顎が上を向いた瞬間、上空に何か白い液体が吐き出されるのが見える。危ない危ない。
「契約成立だ。以後我に身も心も奉じるが良い」
なんとなく神様か何かになった気分。
トンボは水を切り数十メートルまで飛んだが、さすが無駄にLVが高いだけあって一撃では葬れなかったようだ。まぁただのキックだったし。
「と、ところで、あ、あんた、一体何者?」
「まぁシーン様とでも呼んでいただこうか。ふぁッふぁッふぁ」
水に膝を衝く少女の問い。というか、そんなこんな地面が水浸しの所で跪いて冷たくないのか?
いくら偉大な俺のものになったといっても、そんな無駄な事してくれる必要はないのだが……
そこそこ深い傷がついてしまった手首に手早く神聖魔術のヒール<治癒>を掛ける。ファンタジーでも良く出てくる王道の魔術だ。
傷が残らないか心配だったが、幸いな事にトンボ程度では傷は残らないようだ。
ベルゼビュートとか、蝿の王様でもなんでもないのに大層な名前を持つ悪魔が体勢を立て直すのが見える。
おそらくあの悪魔の速度は音速を遥かに超えたソレ。どういう理屈か、音速を超えた事により発生するはずの衝撃波が発生しないのが幸いか。
「あの有名な――ルートクレイシアの神童!?」
うるさいわ。戦闘中に声掛けるなよ。
空気を読まないこの少女に文句を言いたかったが、会ったばかりなので取り敢えず許す。俺って寛大だ。
さて、あの糞トンボ野郎をどうしてくれようか。
魔術を使えば楽勝だけど魂が黒だとか抜かした少女らの眼の前で闇魔術を使うのは何か違うな。
空気を読まない少女に対して俺はめちゃくちゃ気の利く性質だ。
取り敢えず自分の株を上げる為、この間手に入れたばかりの"武器"を試して見る事にした。
かつては常に持ち歩かなくてはならなかった冒険のための道具類。
今では、ある場所に保存してある道具を自由に呼び寄せることができる魔導具が存在しているため、持ち運ぶ必要はない。いちいち持って歩かなければならなかったら、この武器、かさばってしょうがないし。
人差し指につけていた指輪が光り、一瞬でそれは俺の手の元に呼び寄せられた。
「ッ!?」
少女が音にならない感激の悲鳴を上げる。
そうだろう、そうだろう。いくら貴族でもこれほど素晴らしい一品を見た事はあるまい。
俺自身たまに見惚れてしまう位だからな。
右手でしっかり握ったそれを軽く振る。
スクリューの回転時のような奇妙な音を立て空を裂くは、
KillingFieldの大鎌
「な、し、死神ッ!?」
「死神の鎌な」
うずくまっていた少女の間違えている認識を正す。
確かに、ステータスに"死神"と書いてあったKillingFieldが持っていたのだからこれは間違いなく、よく絵に描かれる死神が持っている鎌だろう。
だが俺は決して死神ではない。どちらかと言うと慈愛に満ちた神である。
全く俺のどこを見たら死神と間違えるんだか……
些かあきれながらも、俺は相対する敵へと最期の手向けを向けた。
「トンボ、シーチキンにしてやんよ」
トンボは死んだ。
はっきり言って、気づかないうちに死んだ。
俺自身殺した事に気づかないうちに死んだ。
俺が気づかなかったのだから、トンボ自身も気づかなかっただろう。
ちなみに、この場合死んだというのは肉体がではなく、魂から殺されたという事である。
というか――
「KillingFieldの鎌物騒だな……」
真っ二つになり瞬時に霧と消えたトンボに、全く何の感情を持つわけもなく、ただただKillingFieldの鎌の恐ろしさがわかっただけ今回はラッキーだった。
まさか切った瞬間に何の抵抗もないとは思わなかったわ。
どんな名剣だって、物質を切る以上は多少の抵抗はあってしかるべきなのに、驚いた事にKillingFieldの鎌は、その悪魔に何の抵抗も見出すことなく、向かってきたその相手の速度だけで、高速振動する羽もろとも悪魔の身体を真っ二つにしたのだ
しかも、何か怨霊めいた音を発しながら悪魔の魂食ってたし。
闇色の歪曲した刃に、奇妙な血管みたいな模様がうごめいている。
「切れ味おかしくね?」
というか、明らかに呪われた武器だった。それ以外考えられん。
どこの世界に血管が浮き出した聖なる武器があるだろうか。少なくとも俺は認めたくない。
KillingFieldは帰ったら御仕置きだな。こんな物騒な武器で俺の命を狙っていたとは――
明らかにバランスブレイカーな武器をしげしげと眺め、俺はため息をついた。
世界は広い。まさかこんな物体があるとは。刃の部分を消し飛ばしてもたった一日で再生するような妙な自己修復機能がついてるし。
「あ、ありがと――」
口を閉ざしたまま、鎌の威力を見ていた少女がおずおずと感謝の言葉を口にする。
ちなみに、もう一人のうずくまっていた少女には意識はないようだ。
鎌を仕舞い、水に浸かっている少女の手を引っ張って立たせた。
LV323、この年にしてはそこそこのLVだ。
「名前は?」
「ク、クレシダ・クレイシア」
クレイシア家ってのは、ルートクレイシアの領地のすぐ下の土地を治めている比較的小さめな貴族の家柄。土地の広さ自体はルートクレイシアに並ぶほどの広さがあるのだが、その国土のほとんどはこのダンジョン、水蓮口に食われおり領地の価値はルートクレイシアと並ぶべくもない。貴族としては三流だ。
だけどそれがまたラッキー。クレイシア程度が相手なら、契約に関してたとえしらばっくれられても口利きでどうにでもなる。
まぁ、ただの口約束じゃなくて闇魔術による破棄不可能な契約ですから、その心配はいらないんですけどね。
自然と歪む口元。
一応、願いを叶える代わりに死後魂を奪うといわれる物語的悪魔よりはずっと良心的だ。
死後の話なぞ俺の知ったことではない。
死んだ後はご自由にどうぞ。でも生きている間はきちんと誠心誠意仕えて貰うよ。
そんな経営方針である。
「……俺優しいな。まあ今更言うまでもないけど」
「へっ? あ、え? な、何が?」
「なんでもない。取り敢えず、二夜を起こしてくれ。もう帰るだろ?」
「あ、え、ええ。わかったわ――」
何か眼を丸くしているクレシダに適当に指示を出し、俺は四体の死体の真ん中で腰を抜かしている優男に顔を向けた。
揺れる海のように真っ青な瞳。
輝くばかりの金髪は、存在の属性が金属性である証。
顔は、俺のものほど整ってはいないが、人間LVで言ったらそこそこいけてるほうだろう。
だが俺には関係ない。
男色の趣味はない。
俺のほしいのは中身である。
「会いたかったよ――」
「え? 僕、貴方とどこかで会いましたっけ?」
とぼけた台詞を吐く奴だ。そんなのお前が一番知っているじゃないか。
一歩近づく。
少年は腰を抜かしたまま一歩後ずさる。
馬鹿な奴だ。
そんな事をしている暇があったら――
「二人目だ――」
逃げればいいのに。はーっはっはっは!!
指輪が微かに輝き、手の中に現われるは白銀の首輪。
少年はその光景を見ても、まだ呆けた表情のまま俺の顔を見ている。
甘い甘い甘い。危害を加えない限り捕まらないと思っているなんて、焼きプリンより甘いわ!!
「ドッペルゲンガー見ーつけた!!!」
神速。
一瞬で締め上げる首輪。
俺はこうして、水蓮口で二人の美少女と新たな労働力を手に入れたのだった。