第1章2項「宣戦布告そして、絶望」
地球人八嶋憲明はシル○ニアファミリーの模型のお家のお部屋の一角みたいなところのベッドで目覚めた。隅々まで掃除が行き届いている。というか、どこだここは。そう思い、辺りを見回すと一人の緑色の肌をした女性が入ってきた。宇宙人だろうか、整った顔立ちをしているが絶世の美女という訳でもない。髪の毛がないかわりに肌でその代わりになっている。
「あんた誰?」
そう話かけるとわけのわからない言葉を喋っている。まぁ、宇宙人だからね。仕方ないね。これどうしよう。そう考えた瞬間何者かが八嶋の脳内に喋りかけてきた。
このシリーズそういう話じゃないのに。
ベッドから降りて一歩踏み出すと声が大きくなった。さっきの女性が心配そうな目でこっちを見ている。是非とも、大丈夫だ、問題ない。とフラグまがいの台詞を言い残していきたいが言葉が通じない。なので指で自分を指し、大きく丸を表現し、ここにいてのしぐさをして歩き出した。部屋から出て廊下に出ると、女性が不思議そうな目で見ているが、気にせず声のする方向向かう。伝わっているか知らんが、まぁ気持ちがあればいいはず。八嶋は、玄関らしい所を出た。玄関を出ると、見たことのない花が咲いていること以外は地球の景色とあんまし変わんない。宙自辞めてここに住もうかなぁ。そう思って八嶋は歩みを進めた。体内時間で2時間位歩いただろうか、何か凄い遺跡についた。さっきより声がより一層大きくなった。こっちだ。こっちだ。とひたすらに言っている。
このシリーズ路線ずれないかなぁ・・・。
なにやら書かれているが薄暗く遠くからでは見えない。近づくと、なんだろうか大分前それも八嶋が中学生の時に見た数学の問題だ。何で地球でもないところに地球の学問が記されているのか、それだけでノーベル賞が取れそう。幸い数学は少し位ならできるのでさくっと解いたら扉が開いた。正解らしい。何かこう隠された古代兵器でもあるのかとかよくある話を浮かべながら奥に進むと、そこにあったのは冷蔵庫によく似た白い箱だ。というか冷蔵庫じゃんこれ。八嶋は冷蔵庫を開ける、すると中にあったのは、ジャパニーズこんにゃくだ。なんだこれ。その隣には置き書きがある。
「これを食べれば言語の壁が無くなる。名付けて ほん○くこん○にゃく」
おいぃ!これはあかん絶対あかん。青いタヌキに葬り去られるから!マジで!だが、言語の壁がなくなると言うのなら食べない訳にはいかない。ちょうど腹も減ったのでそのまま口に突っ込む。うん、旨い。八嶋はなんとも言えない気持ちで遺跡を出た。これでさっきの女性お礼が言えるだろうか、そんな事を考え、片道2時間の道のりを歩いて戻った。
屋敷に戻るとさっきの女性が外で立っていた。八嶋の姿に気付くと
「あっ、ようやく戻ってきた。体は大丈夫ですか?
」
女性は緑の髪の毛?を揺らして八嶋に近づいてきた。
「私は八嶋憲明。地球防衛軍下日本宇宙自衛隊2等宙佐だ。この度は危ない所をありがとう。感謝します。」
恩義が出来たらしっかり礼を言う。これが八嶋のポリシーであり、日本人の有るべき姿であると勝手に思いこんでいる。
「え・・・・地球?あなたは悪の化身の地球人なの?」
女性は顔を強ばらせ身構える。彼女の地球人に対するイメージはなんて酷いものか。
「悪の化身とは失礼だな。我々はそんな民族ではないぞ。一体どこでその評判を聞いたんだ。」
「数ヶ月前突然地球の爆撃機が飛んできて町を攻撃した後ここら辺にも来て、男の人を無理やり連れ去り、女の人には陵辱の限りを尽くしたの。綺麗な女の人を無理やり連れ去っていったわ。」
たまらず八嶋は反論しようとしたが女性は更に続ける。
「しかも地球って最近アスミーム王国に攻撃したらしいじゃあないの。私は許せないわ。」
ここまでの話で八嶋と彼女には一つの矛盾があった。それは地球がミスユームを攻撃した話だ。八嶋や他の自衛官はミスユームから攻撃を受けた。と教えられていた。
「おい、少し待て、我々は君の言うアスミームから攻撃を受けたのだが。」
「はぁ?何よそれ」
「どういうこった・・・・・。」
「あなた地球の軍人なのに本当に知らないの?」
八嶋が女性の名前を聞こうとしたら、遥か遠くから聞き覚えのある轟音が聞こえてきた。あれはB-7艦上爆撃機だ。特徴的な2枚の主翼にはMk.R29 400ポンド爆弾を合計12個装備している。落とす気満々だ。青と黄色のペイントからあの機が米宇宙軍超軽航空母艦[マサチューセッツ]の空母爆撃団所属と分かった。
「この屋敷に地下室はないか!幸いあの爆弾は地中貫通型ではない!最低5mの深さが有れば爆弾の被害はない!」
「ええ、分かった。こっちよ!」
緑の髪?を揺らし、屋敷に入っていく。八嶋も後を追う。キッチンらしき場所の古びた木のドアを開けると地下室らしい冷気が流れてきた。外からはB-7の轟音と爆発音が聞こえる。爆弾投下が始まった・・・・・。
~B-7機内~
爆撃をしているB-7機内は数秒感覚でコールとともにMk.R29が落とされていく。
機長のベン·アコーガンはこの作戦に不満を持っていた。何故なら数日前に同じ爆撃作戦を敢行していて陸上部隊がここ付近の住民のほとんどが降伏させたのだ。残存勢力を見つけるなら陸上部隊に回せばいい。この状況での爆撃は爆弾の無駄だし、大昔に日本に対してやった無差別爆撃と変わらないのでベンは気に入らないのだ。そんなことを考えているとすべての爆弾を落とし終えた。ベンは回線を開き
「アイムデビル1、アイムデビル1、作戦終了。これより帰還する。」
「CVLS-6了解。合流地点EW-77-26合流パスワードL、H、D、S。」(CVLS-6とは空母[マサチューセッツ]の艦の識別番号)
ベンは進路を変え、規定のコースをとった。
~緑の女性の家~
轟音が収まった。一旦心が落ち着きを取り戻したので再び八嶋は彼女の名前を聞いた。
「君の名は。」
「私はミスマ」
「そうか」
ここで会話が途切れた。何か気まずいので八嶋は咄嗟に喋る。
「爆撃は終わったぽいから外を見てみよう。」
勢いでドアの外を覗く。地獄だった。木々は焼け、キレイに咲いていた花は消し炭と化している。家は火を上げ崩れ落ちる。四方八方から老若男女問わないうめき声、泣き声が聞こえる。戦争経験のない八嶋にはこれはきつかった。八嶋は崩れ嘔吐した。
「ちょっと、一体何があったの?」
ミスマが少しずつドアの外を覗く。するとミスマは口を手で押さえた。
「今まで一番ひどいわ。なんてことなの。」
八嶋は咄嗟が止まらない。カロリーメ○トが吐き出されるとそのあとは胃液だ。床がどんどん八嶋の嘔吐物で埋まっていく。ミスマは階段の上から八嶋の背中を撫でる。それは3分程だったろうか。八嶋の嘔吐が止まると車の音が聞こえた。ミスマは咄嗟に外を覗く。米陸軍の兵員輸送車だ。
「ほら、仲間が来たわよ。私も連れていくのでしょ。」
「ま、待て・・・頭の中で整理がついてない。とりあえず今は捕まるべきではない····」
「嘘よ!私の父もそうやって騙されて連れて行かれたわ。もう同じ手には乗らない!」
ミスマは初めて怒りを露にした。だが、八嶋も怒りを覚えていた。
「何・・・?米陸軍はそんな姑息な手を使ったのか・・・・」
「あなた本当に何も知らないのね。」
「決めた!俺は決めたぞ!俺は日本人としての誇りをもってここに宣言する!俺は地球防衛軍に宣戦を布告する!許せん!許せんぞ!」
「いや、うんわかった、わかったけど、外にその敵の地球軍居るし、何よりもあんたのゲロでくせぇし、声がうるせぇ。私ももらいゲロしs・・・・・うっ・・・・」
おrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr。なんてこったい。密閉された地下室内が汚物の臭いで包まれる。八嶋がゲロゲロ、ミスマがゲロゲロ二人で一緒にゲロロロロロロ。そんなこんなで室内は別の意味で地獄絵図。二人はたまらず飛び出した。そして案の定ミスマは捕まり、八嶋は元の部隊への帰属が決定した。だがそんなわけには行かない。八嶋は有言実行とまでは行かないものの有言実行のため努力する人間だ。夜、慰安施設に収容されたミスマの様子を見るため、7万円を携え慰安所へいった。受付でミスマを指名すると部屋へ案内された。仮設の建物なので監視カメラはなく、簡易的だ。そして908号室の木のドアを開けるとそこには白のワンピースを着たミスマが土下座をして待っていた。
「ミスマです。よろしくお願いします。」
「お前ノリノリじゃねぇか。」
「うっさいわね、最低男。あんただって何げに私を指名してるじゃないのよ。結局あんたも薄汚い地球人と同じよ。」
「違うわ、助けに来たんだよ。幸いここには監視カメラはないから割と簡単に逃げられるっぽい。」
「本当に?私がトイレ行くだけで監視員が目の色変えるわよ。」
「大丈夫、俺に考えがある。」
ここから、決死の脱出作戦が始まった。
ミスマは外にいる米兵にトイレにいきたいと言いトイレにはいった。そして二分後、外に出るとそこに誰もいない。チャンスである。素早い身のこなしで右にある窓を覗くと見張りは居ず下に黄色い近代的な箱があった。ミスマは素早く窓を開けると外に誰もいないことを確認し、箱に飛び込む。念のため窓を閉めると、今度は箱の蓋だ。外のボタンを押すと、シュイイン、と言う音と共に蓋が閉まり、手が引っ掛かったのですぐに引っ込めた。後は八嶋以外に見つからないことを祈るだけだ。
一方八嶋は、航空機を盗み、逃げるため米兵に扮さないといけない。四角い建物に立っていた2人の米兵に
「おーい、そこにいるどっちか1人、ちょっとこっち来てくれ。キツネみたいな奴に財布を持っていかれたんだ。取り返すのを手伝ってくれ。」
「ダメだ。持ち場を離れるわけにはいけない」
「二人も居るしどっちか1人手伝ってくれよぉ。」
すると米兵の1人がしょうがないなぁという顔でこっちに来た。米軍のベースキャンプから少し離れた所へ案内した。
「向こうの方に逃げたんだ。望遠鏡で探してくれ。」
「わかった。少し待ってくれ。」
米兵が腰にかけてあった望遠鏡を取りだし、ぐるーっと覗いている。そこへ八嶋が羽交い締めをかけた!数秒後に米兵は意識を失った。後はこいつの身ぐるみを剥がすだけだ。そう考えた瞬間、コォォォォォォンというエンジン音が聞こえた。上空を特徴的な十字型の航空機が飛んでいった。RU-7偵察機だ。まずい、バレた。八嶋は草影に隠れて着替えた。数十分後にモードレッド兵員輸送車が走ってきた。中から五人ほどの米兵が出てきた。見つかるのは時間の問題だ。早いところ戻らなければミスマがバレて捕まってしまう。というか殺される。この計画自体おじゃんだ。どうする、どうする、頭が混乱すると同時に米兵の足音が迫る。幸運なことに手榴弾がある。一か八か、天に賭けよう。5m先にいる米兵にバレないよう草影の反対側に移る。米兵がいないことを確認して、草影から出て手榴弾を放り投げる。素早く草影に戻る。数秒後爆発し、米兵五人がそっちに向かう。そのタイミングで八嶋は心臓をバクバクさせながらベースキャンプに戻った。
八嶋がベースキャンプに戻るとあちこちから黒煙が上がっていた。この星の軍隊かなにかが抵抗運動でも起こしたのだろう。そんなことを気にしている場合ではない。八嶋は慰安所へ急いだ。
ミスマは少し蒸し暑い箱の中でひたすらヤシマの帰りを待っていた。まるで捨てられた子犬のように。ただ無音の箱の中で大きく高鳴る心臓と共に時が過ぎていく。頭の中にはヤシマの顔が浮かんで消える。カプセルに乗って空から落ちてきた宇宙人、目が覚めたかと思ったらそのまま外に出ていって、帰ってきたら会話ができた。しかも地球人で突然自分の母国に宣戦布告した。ミスマはあの男のことが理解出来ない。地球人はあんな人達ばかりなのだろうか。この危機を脱したらどうしよう、そう考えた瞬間、近くで爆発音が聞こえた。外で何か起こったのだろう。八嶋は無事か、巻き込まれていないか、これを起こしたのはヤシマではないか、ミスマの心を不安が包んだ。外で米兵の声がした。
「おい、908号室の女がいないぞ!あの女を探せ!」
既にミスマが部屋を出てから30分以上経っている。米兵が気付かれてもしょうがない。遂にこの辺にも銃の音や兵士の叫び声が聞こえた。ミスマの嫌いな人の死ぬ声、うめき声、ミスマは状況が違えど前に同じ経験をした。遠い遠い昔の記憶。だがしかし、それはミスマにとっては思い出したくない記憶。どんどんミスマの呼吸が荒くなる。トラウマの波に飲み込まれ、理性を失いそうになる。今すぐこの箱から出たい。だが、それではバレてしまう。この計画がおじゃんだ。自分だけならいいがヤシマに被害が出かねない。それは何としても避けたい。あの男に対する特別な感情はないが、いつしかそう思っていた。様々な感情が交差している。突然のことだった、扉が開いた。
「おい、貴様!ここで何している!」
何を行ってるかわからない。きっとヤシマと違う言語の種族だろう。見つかった。ここまでか。米兵が銃を構える。死を覚悟した・・・その時、一発のズギョーンと言う音と共に米兵が崩れ落ちた。
「おぉ、無事だったか。ギリセーフ。」
「おっそいわよぉ!後一歩であんたと喋れない身体であんたと対面するとこだったわよ!」
「いやぁ、悪い悪い。こっちも少しいざこざがあってな。飛行場は近い。この混乱に乗じて逃げるぞ!」
「早くして、この星の兵士に気を付けて。」
八嶋は軽くうなずくと箱の蓋を閉めた。八嶋は箱の重力装置を起動し仮設飛行場に向け走り出した。絶え間なく聞こえる銃の音、人の叫び声、呻き声、各地から火の手が上がっている。だが八嶋にそれは見えていない。ただひたすら飛行場に向け箱を押し走り続けている。数分間走り続けていると、炎を上げる飛行場にたどり着いた。C-49ライトエア輸送機が七機。BF-5ストライクフェニックス戦闘爆撃機が三機MC-49マルチエア汎用機が一機。この中から選ぶとしたら、MC-49だろう。シールドがついているし速度もそこそこなので、急速脱出には持ってこいの機体だ。旧世代的な見た目だが、以外に軍の中での評判は良いらしい。八嶋は決心しマルチエアに走った。機内に乗り込むと操縦席にふたりの米兵が離陸準備をしていた。構わず二人を撃ち殺した。仲間を殺すことに大きな罪悪感を感じたが、この怒りはマサチューセッツ軽打撃艦隊の司令官、ゆくゆくは地球共和国大統領ロック・U・カフメントに言いに行こう。優しそうな顔の彼に怒りをぶつけるのはさらに心に来るが、彼も大統領と言う職に就いている以上そう言うことは覚悟出来ているだろう。八嶋は箱の重力装置を切って蓋を開き操縦席についた。すると中からミスマが出てきた。
「はぁ・・はぁ・・苦しかった。モザックになるかと思ったわ。」
「なんだよモザックって。」(モザックとはこの星の蒸しパンみたいな物)
「美味しいわよ。こんど作ってあげる。」
二人は外で戦いが起こっているのに日常会話を楽しんでいる。八嶋が舌打ちをする。
「車輪に拘束ボルトが掛かっている。ちょっと外出て外してきてくれ。」
「嫌よ、危ないじゃない。あんたがいきなさいよ。」
「お前離陸準備できるのか、事は一刻を争う、少しぐらい我慢して行け!」
ミスマは「えぇ~」と不満をこぼしながら外へ行った。ミスマは外へ出ると激しいエンジンの風に吹かれながら車輪の元へ向かった。3つの車輪に拘束ボルトが掛かっている。ミスマは車輪に駆け寄り、上げ下げ式のボタンを下に下げる。すると赤く光っていたランプが緑に光った。拘束解除されたようだ。ミスマが二つ目の取りかかろうとしたとき、ビキューンと言う音と共にミスマの視界が揺らぐ、脳天を鋭い痛みが突き抜けた。辺りを見渡すと1人の米兵が死にかけの身体でミスマに向け発砲してきたのだ。もう米兵は力尽きている。だがミスマも急所を突かれた。身動きが取れない。ほふく前進で二つ目まで進み、スイッチを切る。だがもうミスマに力はない。必死に何か方法を探す。目の前に石があった、ミスマはそれを取る。建物の方から米兵の声が聞こえる。それも複数人。時間がない。ミスマはなけなしの力を振り絞り、石を投げる。石は届かなかった。ミスマの身体の力が一気に抜ける。自分の無力さをひしひしと感じつつ意識が遠のいていく。ミスマは静かに目を閉じる。
「おせぇ・・・・・なにやっていやがる。」
八嶋は独り言をいい離陸の最終準備をする。あまりにミスマが遅いので様子を見に外へ行くと車輪の下でミスマがぐったりしている。驚いて八嶋はミスマの元へ駆け寄る。
「おいどうした!大丈夫か!何があった!」
ミスマは小さい呼吸でうっすらと目を開けて蚊のなく声で喋り始めた。
「後・・・・・・・・・一個だから・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・駄目だった・・・・・。」
ミスマが涙を溢しながら言う。
「わかった!わかった!分かったから!もう話すな!」
ミスマをそっと寝かせ最後の拘束ボルトのスイッチを切る。ミスマを抱き抱え機内に戻る。幸運なことにこの機体は多用途輸送機、空挺部隊が座るための椅子があるが、ミスマが落ちかねない。ロッカーから担架を出し、傷口をタオルで覆ってミスマのスタイルグンバツの身体をしっかり固定して、担架を固定する。改めて見るとボン、キュッ、ボン、だと思った。八嶋は操縦席につく。ボタンを押し、レバーを奥へ押すと高度が上がり車輪がしまわれ、垂直に上昇する。そしてここから脱するため、負傷したミスマを治療するため、遥か上空へ飛び立った。
マルチエアが雲を突き抜け、青い空から青黒い色に変わる。そして、宇宙へと出た。すると、レーダーに二隻の戦闘艦の姿を捉えた。目視で確認すると米マサチューセッツ艦隊駆逐艦[アーレイ・バーグ]と見慣れない軍艦が砲撃戦を繰り広げている。一刻も早くここを脱したい。八嶋はワープ航路を必死に探す。そこにはなんとミスユーム星の名前がある。今はここに向かうしかない。ここにならしっかりした医療設備があるはず。八嶋はここに航路を設定し、ワープ航行に移る。青黒い世界から禍々しい赤黒い世界に入った。ワープ航行を開始して二分、自動操縦に切り替え、一段落した。八嶋はすぐにミスマの元へ向かう。ミスマは意識を失っている。救命ポッドの準備をする。担架の拘束を外しミスマをすべすべの手触りのマットのカプセルへ寝かせる。細長い緑色に光るボタンを押すとカプセルの蓋が閉まり、処置を始めた。椅子へ座ると力が抜けて、眠りについた。
目が覚めると、見知らない異星人の顔が覗いてきた。たぶん・・・・男のはず。異星人は喋りだした。
「あのぉ、大丈夫?。何処の星の人?」
「私は八嶋憲明。ちきゅ・・・・・じゃなかった。アカラミネ星出身。助けてくれ!私の仲間が・・・。」
「わかっている、あの女性はすぐに治療室へ運んだ。只今治療中だ。我々は星間友愛団体「アルカバトラ」私は代表のラッセル・ボブロイター・エド。ラッセルと呼んでくれ。」
「そいつはどこだ。」
ラッセルは「こっちだ。」と言い案内してくれた。ミスマの治療室へ向かう間ここのことについて色々ラッセルから聞いた。どうやら大型船舶2隻、小型船舶五隻で船団を形成し宇宙の至る所を飛び回っていると言う。そしてこの艦の名前は[ヲードサザン]ラッセルの母星の名前らしい。ふと、ラッセルに尋ねられた。
「アカラミネってどんな所?どこら辺にあるの?」
勿論アカラミネなんて星はない。八嶋が勝手に作り出した。戦争している国に行くのだ。簡単に地球人と明かせばぬっ殺される。何とか答えを探す。
「うんとねぇ、ここ数十年帰ってないから覚えてない。」
「そうなのか。宇宙にはいろんな奴が居るんだな。」
何とか誤魔化せたようだ。そう言っている間にミスマの部屋に着いた。ラッセルの話によるとミスマは昏睡状態が続いている。ここの最新機器をもってしてもこの状態を保つのが精一杯らしい。
「恋人か?」
「まさか。」
この会話でラッセルは部屋を出ていった。八嶋は改めてミスマの顔を見る。よーく見ると本当に美しい。緑色の髪を撫で、頬に触れる。まだ微かに体温がある。死に対して必死に抵抗しているように八嶋は思えた。考えすぎだろうか。安らかな表情で眠っている。ふッ、と八嶋の口が緩んだ。次の瞬間、鼓膜を叩きつけるような轟音が響いた。 驚いて八嶋が部屋から飛び出るとウーッ、ウーッとと緊急サイレンが鳴っている。八嶋はラッセルを探した。
~中国人民解放軍第四遊撃艦隊旗艦[袁世凱]艦橋内~
「砲撃用意、目標国籍不明船舶、第一第二主砲攻撃始め!」
長い砲身の26cm二連装砲二基が火を吹く。ズビャン!ズビャン!と言う特殊な轟音と共に間髪なく国籍不明艦に叩き込まれていく。五日前の日本の巡洋艦[白雪]撃沈から地球軍内での不明国籍に対し「疑わしきは罰せよ」の風潮が高まり各地で関係のない船舶に対しての被害が相次いでいる。重巡洋艦[袁世凱]の艦長 奉 洪岷大佐はこれに対し賛成派である。人道に配慮して検査を行って自分が死ぬよりはましだ、と考えている。これが戦時中で無ければ少しは意識が変わったのかもしれないが、今は戦時中、少しの油断が自らの死を招く。それに人民解放軍の名に泥を塗りかねない。
「国籍不明艦、艦首を百八十度回転。逃走を試みています。」
「航行不能になるまで打ち続けろ。その後船内に侵入する。」
観測員からの報告に奉は変わらぬ口調で喋る。すると副長の仁 櫂冉大尉が尋ねる。
「艦長、宜しいのですか?これバレたら軍法裁判になりますよ。」
「アメリカや日本もやってるんだ。今さらそんなことは無いだろう。」
「どうでしょうね、国際世論は我々に厳しいですからねぇ。」
そう中国は地球共和国内でも優先度が低いので与えられる装備は弱っちいものばかり、なので結局は自国開発になってしまう。しかも、技術力が無いので出来るものはまあまあな物ばかり、この艦は地球共和国から支給された物だが国産の物と比べると、やはり性能が良い。レーダーの故障が少ないし、対空火器の誤作動が無い。そんなことを考えていると再び観測員から報告が来た。
「目標エンジン停止、突撃が可能かと思われます。」
「突撃部隊、戦闘準備突撃する!」
「突撃部隊、揚陸挺に搭乗!上陸用意!」
~ヲードサザン船内~
ドガァァァンと大きな爆発音がする。エンジンが停止した。ラッセルの表情が更に強張った。
「まずい、これはエンジンが止まったな。」
「だとしたら。次にしてくることと言えば・・・・・・・・突撃か。まずい。これは危機的だ。皆殺されるな。そもそもなぜここが・・・・・・・そうか!そう言うことか!」
地球軍にバレたのは八嶋の乗って来たマルチエアの追跡装置を切ってなかった。なのでバレた。
「おい!俺の乗って来た船を捨てろ!いやドロイドを乗せろ!ワープ航行であの船に突っ込む!斜めに突っ込めば最低1隻葬れる!そしてワープ出来る船に通信回路を開け!」
「おいおいおいおい、少し待ってくれ!ワープってなんだ!スペースジャンプのことか!君の船のことは分かったが他の船にも連絡を取るってどういう事だ!何をするつもりだ!」
「なんでもいい!言う通りにしてくれ!コクピットへ案内してくれ!他の人員に指示を頼む!」
「ああ、分かった。」
ラッセルは手の甲のボタンを押し、指示をかけた。そしてコクピットに向け駆け出した。八嶋は後を追う。白い廊下を駆けエレベーターに乗り、コクピットへ着いた。コクピットに着くと、35名位が操作を行っている。緊急時なのか大声が飛び交っている。ラッセルが指示を出すと、モニタに四人の顔が写し出された。いずれも種族が違う。
「こちら[マキラ]艦長ロス・プス。」
「こちら[モズ・クァザネシオ]艦長ティン・ポウ。」
「こちら[ロスタジオ]艦長ミルザーネ。」
八嶋が[モズ・クァザネシオ]艦長に対し下ネタではと失礼なことを考えてしまったのは言うまでもない。八嶋は気を引きしめて言う。
「わたしが何者か聞きたいだろうが後だこの船を守るためスペースジャンプであの艦に突っ込んでくれ!君達に死ねとは言わない。12:30まで、だから後20分で自動操縦に設定し、脱出してくれ!頼む!」
やはりと言うべきか当然と言うべきか、一斉に反論が来た。さて、どう説得しようか。その時、鶴の一声で静かになった。
「今はそんなことを言ってる場合ではない!何のために訓練しているのだ!とっとかかれ!」
三人は静かになった後、独特の敬礼をしてモニタが消えた。八嶋は「どうも。」と声をかけると、「気にするな。」とと言い前を向き直った。すると報告が来た。
「敵航空機が発進!こちらに向かって来ます!」
「恐らく突撃挺だろう。時間がない!船を早く!」
「準備が出来たらしい!発進させる!」
「こちらも航空機が発進! スペースジャンプまで30秒、カウントダウン開始!」
「よおし、総員退避を命じてくれ、あいつ・・・・ミスマは俺が運ぶ。」
とその時、
「本艦より発進の航空機、砲撃を受けています!」
「シールドは持つか!ワー・・・・・スペースジャンプまでは持てばいい!」
「シールド、後6秒!スペースジャンプまで後9秒!この砲撃の間隔だと間に・・・」
不意に八嶋が言葉を遮る。
「間に合わないか・・・・。」
中国軍の[袁世凱]の砲撃速度は2秒間隔で行われている。マルチエア特攻は無理だ。八嶋は[モズ・クァザネシオ]艦長に回線を繋いだ。
「チン・・・・ゲフンゲフン、ティン・ポウさん脱出を急いでくれ!先制攻撃はたぶん失敗だ!俺の船に攻撃が加えられている時に不意打ちをかけるのだ!」
「今物凄く失礼な言葉を聞いたんだが、まぁいい、あと45秒は待ってくれ!」
「うーん、あんたのとこの船が脱出が一番進んでるし、バレる前に急いでくれ」
「分かった最善を尽くす!」
通信が切れたとたん、後ろから爆発音が聞こえた。マルチエアの音だろう。
「敵航空機衝突まで三分!距離50!」
「脱出完了まだか・・・・・ん・・?」
モニタにティン・ポウの顔が写し出された。
「脱出完了!自動操縦設定完了!いつでも行ける!」
「チン・コウさんナイス!タイミングは俺が教える!脱出してくれ!」
「チン・コウじゃねーよ!!何だよチン・コウって、汚物じゃねーかよ!お前一回言い間違えたけど直したから許してやったら言い気になりやがって!待ってろよ、てめぇ今すぐそっち行ってぶちのめしてやる!」
「おい、チ○コ!今は緊急時だぞ!無駄な私語はよせ!」
「代表ぉぉぉぉぉっ!?ちょっと?!あなた今までそんなこと言わなかったですよね?!今更、この男と一緒になってふざけないでくださいよ!?」
「とりま、ち○こさんとりあえずまた後でねー」
「ちょ、待っ・・」
プシュウンと回線が切れた。この二分後[マキラ]艦長ロス・プス、[ロスタジオ]艦長ミルザーネから脱出完了の知らせが入った。
「よし、後は突っ込ませるだけだ。ここのタイミングをミスったら一貫の終わりだ。」
慎重に慎重に素数を数えて、落ち着くんだ。あれ、素数ってなんだっけ。まぁいい。八嶋がレーダーを張り付いたように見ていると一閃。赤黒い光と共に[袁世凱]のシールド発生装置を一隻の艦艇が貫いた。八嶋は驚いて声を張り上げる。
「おい!まだGOは出してないぞ!どこの船だ!」
「攻撃の流れ弾を受けた瀕死の艦が突っ込んだらしい!どうする!」
他の中国艦艇が斜線上に入るには67秒はある。今ここでGOサインを出すとすべて仕留めきれず、集中放火を浴びる。だが、これでなにもしないと砲撃を食らう。どうする。そうだ、脱出方法、この船からの脱出方法はなんだ。確か格納庫のトランスポートで脱出ポッドではなかったはず。
「おい、ラッセル!スラスターエンジンは動くか!それと脱出ポッドは使わないか!」
「ああ、使わないぞ!エンジンは・・・・何とか行ける!どうするつもりだ!」
「操舵手!脱出ポッドの射出口を敵艦に向けろ!」
続いて通信機を取り、
「航空管制室!3秒後に脱出ポッドをカタパルト最大出力で射出しろ!遅れるな!」
そう告げると機器操作士に向け
「ゼロジー用意!2秒後急げ!」
そう声を張り上げた。脱出ポッド射出口は船体下部、敵艦に向ければ、コクピットが横向きになる。それを艦内ゼロジーにすれば、体が浮きながらも操作が可能。他の寝ている患者なども安全だろう。そんなことを考えていると艦内が赤く照らされ、全員が浮き上がり、ゆっくりと船体が横を向き始めた。その数秒後ポッドが勢いよく射出された。ポッドの射出完了の報告が入った。それと同時に敵突撃挺衝突まで30秒を切った報告も入った。船体がゆっくり戻り始めた。コクピットが敵艦に向いたので、ポッドの迎撃のため、副砲が火を吹いている。すると、
「敵艦挺斜線上まで残り5秒、カウントダウン開始。」
八嶋は慌てて通信機を取る。5・・・・・4・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・今!八嶋はこれ以上無い声で「いけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!」張り叫ぶ。その瞬間、綺麗にX字を描きその後縦に赤黒い線が走った。その後[袁世凱]が綺麗にバランスの悪い6等分されその斜線上にいた左右、後ろの艦艇が真っ二つになり、大爆破を起こした、物凄い轟音と共に。さあ、最後は脱出するだけだ。コクピットの全乗組員が緊急スライダーに滑り込んだ。八嶋もすかさずそれに乗じて滑り込んだ。スライダーを降り、真っ先にミスマの病室に向かった。ミスマの病室に入るとミスマをお姫様抱っこし、走り出す。するとミスマが目を覚ました。
「あれ・・・・・・・ヤシマ・・・・・・・どしたの・・・・」
「目が覚めたか、地味に今名前で呼んだな。ここから逃げるぞ!」
「・・・・・・」
ミスマは何故か黙り始めた。廊下を走っていると、艦内が大きく横に揺れた。その衝撃で八嶋は横に倒れ、壁の尖っている部分に脚をぶつけた。かなりきつい所に当たった。それでも八嶋は立ち上がり走り出す。こんなところで死ぬ訳にはいかない。それを見たミスマが悲しそうな声で口を開いた。
「ヤシマ・・・・・・私・・・・・もう黄昏時みたい・・・・・・・・私はいいや・・・・・・私はもう・・・・・」
「あっそ、もうすぐだ、もうすぐで格納庫に着く。後少しだ。もう少し待て。」
「本当にあんたは・・・・・」
アニメでよくあるパターンには絶対しない。八嶋はそう思っていた。その腕の中でミスマは幸せそうな笑みを浮かべていた。格納庫にが近くなると一機、また一機とエンジンの音が聞こえて来る。奥の廊下から兵士の影が見えた。中国軍の突撃隊だろう。その近くで爆発が起こり、喋り声から悲鳴に変わった。今度は八嶋の近くでも爆発が起こった。ミスマが喋り出す。
「もう・・・・・歩けるから・・・・・・降ろしなさいよ・・・・・あんたの腕の中・・・・・・汗臭いのよ・・・・・。」
「お前は・・・・分かったよ。」
八嶋はミスマを降ろし、肩を担ぐと、せーので歩き出す。妙にミスマと八嶋の気が合うので八嶋は少し違和感を覚えた。そう、大分前、幼少期のころ、幼なじみに対しても同じ感覚だった気がする。その違和感と共に二人はひた歩く。格納庫への道が見えてきた。後少し、その時・・・・・後ろから強烈な蹴りを食らい、八嶋は前に倒れる。思わずミスマを離してしまった。キィィィィンと鳴る音と共に鉄格子が閉まり、プロテクトウォールが閉まり始める。八嶋は目を見開いた。閉まり始めるプロテクトウォールの向こうには傷だらけで涙を流し笑うミスマが立っていた。
「おい!何やってんだ!早くこっちこい!」
「もう・・・あんたは・・・さっさと行きな・・・・・」
「バカ言ってんじゃねぇ!さっさとこっち来い!」
「まだわかんないのね・・・全く・・・私は良いから・・もう行って・・・私はもう黄昏時だから・・・・」
「おい!何故だ!なぜこんなことを!」
八嶋は30近くになっているが、泣きながら全力で鉄格子を殴る。泣いて、泣いて、泣いて、泣きじゃくって八嶋は広い格納庫内に感情を剥き出しにする。今の八嶋に平常心はない。駄々をこねる赤子のように、怒り狂う猛獣のように、荒れ狂う海のように、鉄格子に一発、また一発と拳をぶつける。拳から血が滲む。だが八嶋にその痛みは感じない。ただ叫ぶ。その時、その叫び声を聞いたラッセルがトランスポートから出てきた。すぐさま八嶋のもとへ駆け寄る。
「おい!そろそろ船が沈む!脱出するぞ!」
「うるせぇ!あいっ・・・あいつがぁ!ミスマがぁ!」
「行けと女の子が命かけているんだ!あんたその気持ち無下にすんのか!」
「うっさい!頼んでないわ!」
「そうか、どうしても行かないのだな。ならば・・」
ラッセルはポケットから銃らしい物を取りだし、八嶋の後頭部に撃ち込んだ!八嶋はその場に倒れ込む。ラッセルは落ち着き払った声でミスマに言う。
「問題ない。気絶しているだけだ。」
その話を聞くと、ミスマは天使のような笑みを浮かべ、大きく頷く。ラッセルは八嶋を引きずってトランスポートに乗る。その数分後、大きなエンジン音と共にトランスポートが発進する。十数分後、トランスポート内で八嶋は目を覚ます。そして絶望の叫びをあげる。そう、このためだった。このためだったのだ。このためにわざと途中で歩けない身体で歩くと言い出した。このために自分から『逃げる』『脱出』するとは言わなかった。八嶋の頭の中に様々な感情が交差する。八嶋はただ叫ぶ。知り合ったのはつい最近なのに、まるでかけがえの無い人を失った様な悲しみが絶えず湧き上がって来る。脱出用のトランスポートの中を所狭しと詰め込まれた人々の不安の声と八嶋の泣き叫び声が包んだ。
「これで・・・良かったのよね・・・『ケイゾウ』・・・」
女は微笑む。暗い暗い漆黒の宇宙を眺め、意識が朦朧とする中、その男に思いを馳せる。そう、女は思い出した。遠い遠い遥か昔。決して知ることの無いその男・・・・『ケイゾウ』。ただ女はその男のことで頭がいっぱいになる。
「きっと・・・・また・・・また会える。きっとね。」
女は静かに目を閉じ、この大きな宇宙と一体となり、溶け合う。ただ純粋に思いを口にして。
~続く・・・・・気力があるといいな~
一万文字以上書いて創作意欲の無い龍木ユウイチです。ここ最近バタバタし過ぎてサイトすら開けませんでした。
では今回も読んで頂きありがとうございました
平成三十年二月十九日 龍木ユウイチ