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悪役人生第二幕

作者: 北見深

したたかな女の子を書きたくて。

さらっと短編です。

 あと少しで王族に連なるというお父様の夢をかなえられたのに・・・。


賢すぎる令嬢と忌々しい王太子に策を暴かれた。

早く帰ってこの事をお父様に知らせなければ。


豪奢な第二王子のプライベートスペースにて、ティータイムの予定だった場所が場違いな断罪の場に早変わり。お茶のセットなどなく早々と行われたそれはわたくしを打ちのめす。


罪を犯したとされるのは、侯爵令嬢エリュテイア(お父様含む)。

罪を暴いたのは、主に王太子クリスティアン・オーレリウス。

「君の化けの皮は剥がれたよ。」

王子の兄である王太子が静かにそう言った。

今この場に居るのは、もちろん王太子。隣にわたくしの婚約者アンティウス様。二人ともキラリと光る美形様です。護衛も数名いますがそれは頭数には入れませんの。

入れたくない筆頭。婚約者の隣にいる伯爵令嬢が気に入りません。でも、今はこの根も葉もない(笑)罪を否定しなければ。

涙目で、ふるふると首を横に振って儚げに後ずさる。


弟は金髪碧眼の優しい王子様であるのに対し、王太子ときたら反対に凛々しい顔。その顔で薄く笑っている。気に入らない。王子より薄く曇った緑の瞳がこちらを蔑む。

弟王子に助けを求めるように見れば、可憐な容貌の癖に意志の強い少女がいて何事か二人で話し込んでいる。


ナニくっついているのかしら?わたくしが婚約者でしてよ。


「我が弟を懐柔し、私と取って変わらせようとした。やり過ぎたね。」

「違いますわ。誤解です。」

涙を溜めて目で訴えたが王太子は肩をすくめるのみ。


だってあなた、お父様と馬が合わないんですもの。


「往生際が悪いね。君も。」

ダークブロンドの髪を掻き上げて面白そうにしている。美形だからって恰好をつけても全くときめけませんわ。

「君の父上。侯爵も捕縛の準備をしている。君はここでゆっくり待つといい。」

わたくしは、切々と訴えることにした。曰く、父が何をしたというのですか?忠臣ですのに!長きに渡り王家に仕えております。

その父が何をしたというのっ!


「父親と共謀。侯爵という地位を利用し、王家に内乱を起こそうとしていたろう?」


あら、そこまで考えてたのかしらお父様。ちゃんと事前連絡請う、ですわね。


「調べはついているんだ。」



あなた優秀ですものね、クリスティアン王太子殿下。



わたくしはそんなことは考えてもおりません。何かの間違いです。

わたくしは殿下を心から思っております。どうか、どうか信じて下さいまし。

アンティ様!


「エリー・・・。」


悲しげな顔のアンティウス王子。やっとこちらを向いて下さった。優しい王子様。わたくしの恋する婚約者。なんてね・・ふふ。

ぐっとその袖口を思わずと言ったように掴むのは伯爵令嬢であり、王の信頼を得ているアストラ家の娘レオーネ。

彼女はずっとアンティに憧れていた。ずっと見ていた。


だから、わたくしの嘘にも気付いたのだろう。


「アンティウス殿下。」

切なげにつぶやいてみる。

眼を逸らされた。

よよと傷ついたようによろける。

その肩をがっしりと掴んだのは、

「フィリップ様・・・。」

アンティの騎士フィリップ・ノア。


いたの?気配消してらしたわね。


彼は若くしてアンティウスの近衛騎士となり、順当な出世と未来を約束された男。今は、アンティ専属な上、忙しさの中遅れた学業を再開し、五つも年下の方々と勉学を励んでいる。という努力家でもある。

「・・・エリュテイア・ルーベンハイト。」

眉間の皺が怖い。苦しそうにそういうのは彼もわたくしを少しは好ましいと思っていた証拠?彼もそこそこ懐柔出来ていたと思う。これは、逃がし・・。

「観念するんだ。」

逃げられそうもない。腕が痛い。素直にそれを顔に出すと手が緩む。

逃げださない程度に・・・。チッ。


連行されたわたくしは、まだ侯爵令嬢で有る為、きちんとした部屋に監禁された。

ソファにうずくまるように嘆く。


悲しいと、誤解なのだと。

誰が見ているか解らないからしっかりと嘆いておく。

王太子は父を捕縛するため手順を踏んでいる所。監査官はまだ父の元には向かっていないらしい。いつかは反逆罪?げろ。


反逆?わたくしがそんな事をするとでも?

侯爵令嬢ですのに、あんなにもアンティウス殿下を思っていましたのに。


チラ。


見張りは無表情。


チラ。


あの。申し訳ありませんが・・・。

とても言いにくいのですが・・。

その、

お手を洗いに行きたいのですが、・・・恥ずかしいっ。


◇◇◇


侍女が付いて来た。

ふふ。

舐めんなよ。


人気がなくなる。

貴族の子女のご不浄は人目につきにくい場所にあった。部屋でしろとはまだ言わないと思ったのだ。

王太子は軍にかまけている筈。アンティはレオーネに慰められているだろう。

ふ。


チャラ、とコルセットの紐を抜き取る。音が現す通り仕込みがある。

「ねぇ。あなた、」

侍女も武の覚えがあるかも知れない警戒はしなければ。

「ドレスがじゃまですの。申し訳ないのですがお手伝い頂けません?」

逡巡が見て取れる。

でも、遠く離れようとじゃなく、来いというので警戒は薄くなったようだ。油断したのか近寄ってくる。


チャラリ。


「恥ずかしいのですけれど、裾を持っていただける?」


頭が下がり彼女の視界から自分の上半身は消えただろう。


ビュッと空を切る音。

侍女が首に巻きつく紐を取ろうともがこうとするのすら許さず、落とす。

ごとりと頭が床につく。

手を添え、一応息があるのを確認。

人殺しとか冗談じゃない。


「行くか。」


凛々しく自分に宣言し、上を向き、深呼吸。

二重に着込んだ衣装を剥いで片手にもったエリュテイアは、洗濯物を抱えた侍女にしか見えなかった。白い布が頭を覆い美しい面差しを隠したから、暫くは誤魔化せる。


換気窓から抜け出すと間抜けにもそこには騎士がいなかった。自分が感じる範囲内では人の気配はない。悠々と歩いていくうちに少しづつ化粧も剥いでいく。自然な美少女に見せる厚化粧は落とせば素の顔が現れ幼く素朴な顔

高い偽ヒールもおってペタンコ靴にすれば背の低い自分が現れる

リネン室の近くで衣装は捨て、ハサミを取って髪は町民の様に肩ほどに切ってさっきの金属を仕込んだ紐で括る。

慌ただしい侍女らに紛れ、髪は根菜のくずと一緒に捨てる。

嗤える。

侯爵令嬢エリュテイア。

あはは。

心で大爆笑。

この太陽の位置ならまだ城の外にでるのは容易。

あらかじめ作っておいた侯爵家使用人の札で、使用人検問口を通る。

ここならまだ、騒ぎは届いてい無いだろう、どうせ子供たちの独断だ。今はまだ。故に件の侯爵令嬢の侍女でも簡単に通れる。自信なんてない。ただ、やるしかないだけだ。

死にたくなければ。


「マリア・ベル。侯爵様の侍女か~。」

いいな、ご令嬢は美人だもんな。とかなんとか衛兵が言うので笑顔でうんうんうなずいておく。

「いいのか?お嬢様置いてって?」

そりゃそうだろう。

そんなこと言われても私も困るわって肩をすくめて見せる。

正規の札で長々引き留めるとかヤメロやおっさん。とは言わないわ。おほほ。

「ま、色々あるのか。」

頷く。

じゃあなと言う彼に手を振る。

侯爵家の侍女という名札に簡単に通行を許すとか馬鹿よね。

城門が十分遠ざかってから、走る。

息が苦しくても走る。

長いっ、令嬢生活で~、鈍ったっ!

侯爵家は、王城から走って三十分

くそお、馬になりたい。


門が見えた。

やった、家だ。

がしゃんと門に取り付く。

あれ?

人の気配がない。

もう、連れて行かれた?そんな筈はない、王太子は決行は日が沈む直前といった。

まだだ、まだの筈だ!息が苦しい、門を揺すっても誰も出てこない

だから登って越えた。


大門に取り付く。自分でう~んと唸りつつ重い扉を引き開ける。

「開いた?」

カギかけろよ!

「お父様!」

恩人の名を呼ぶ。わたくしを汚れた街から救った、余分な欲塗れの男。侯爵様。お父様。

「おとうさま!王太子が!ばれた!逃げないと!」

家じゅう走り回る。誰も出てこない。

居ない。

居ない。誰も。

世話をしてくれた侍女も、口うるさい執事も、偉そうなお父様も・・・。


「・・・逃げ足。早い、な。」


ぽつん、と立ち尽くす。



「・・・・金目の物置いてけ~!」



叫んだ侯爵令嬢(偽)はまた駆けだした。

金目のも~ん!と叫びながら。


◇◇◇


引き出しを漁る。クローゼット、宝飾品のあった鏡台。自分の部屋だった場所。

「くそっ、無い」

使用人の部屋

「やった、着替えるぞ」

使用人部屋で使い古しの服を見つけた。自分を褒めてやりたい。

新たな服を着る。下男の少年が着ていた、ズボンにシャツにベスト!シーツを引き裂いてさらしを作りさほどない胸に巻く。髪はもっと切る。短髪上等!靴も平民が良く履く武骨な茶色い革靴を。丁度いいサイズを隠してあったんだ。

それは残ってた。化粧もモサく変える。太い眉を作って顔を汚すだけでも印象は変わる。

この湖みたいだとアンティが褒めてくれた青い瞳は本物だからどうしようもないけど、金髪は染髪だからその内(黒く)戻る。


ごめんねアンティ。うっとり撫でてくれた巻き毛も偽だし金髪も偽なんだよ。

ついでに、素性もね。


居ない相手に舌をだす。


さあ、金目の物をもちっと探して、本格的に逃げるぞ!

あのくそオヤジ、娘ほっぽって先に逃げやがって~!薄情者。



久しぶりに、少年に変装したエリュテイアはその時からその名も捨てた。


「エリック。でいいか。」


なんだか肩の荷が下りた。


さあ、逃げる、


エリュテイア!


馬のいななき。に令嬢の名を呼ぶ知った声。

え~!もう、捕縛?

エリュテイア嬢!

その声はひっ迫していた。逃げたのがバレた。しかも追手。早い。

急いで駆け付けたと言うように。もぬけの殻の屋敷にはいささか響きすぎるぐらいで。


逃げろ~。

エリックは背に荷袋を担いだ。軽い着替えと乾物。金も宝石も無かったから、エリュテイアの時に職人に頼んだ『自分で縫った刺繍のハンカチ』を数枚。換金出来そうな家紋の入ってない物を選んだ。

さあ、一階に降りるには窓かなぁ?


きぃ、小さな音を立て窓を開いていく、エリュテイアの部屋は庭の木が近い。

伝って降りよう。


長靴と金属の音が走ってこっちにくる。

「早いよ・・。」

うぅ~ん、木と窓枠。位置が遠いな。

短い足を延ばしている内に足音は近づく。焦って木の枝に足を置けずにつるつるする。


ああ!もう、イライラする!

バンッ!

僅かに開いていた扉が大きく開き。蝶番が外れて歪んだ。こっちの心臓もばくばく煩くなる。


「エリュ・・・。誰だ!」


エリックを見咎めた、先ほどの声の主。

フィリップが一瞬で鬼のような形相になりこちらに走ってきた。

「ひぃいい!」

逃げよう。と、あわあわして手が柵から滑り、重い頭から後ろへ倒れてゆく・・・。


わたくしもここで終わり、か。


「危ないっ!」

フィリップの逞しい腕がエリックを捕えた。間一髪、落下は免れた。が、捕縛?

「死ぬ気か馬鹿者!」

部屋に引きずり入れられ、うずくまる。地味に痛い。加減の解らん男だ。

仁王立ちのフィリップからの鬼の視線。

「・・・エリュテイア、は」


ん?ちらと見上げる。この人はエリュテイアを呼び捨てにしたことなど一度もないのに、今日は、さっきから・・・。ねぇ。なんでそんなに焦った顔をしてんのさ。


「坊主、ここの使用人か?」

頷く。坊主、か、良し。しらばっくれる。

「何故、ここにいた。」

どう答えよう?

「いや、それより、この屋敷の令嬢はどうした。」

あんたたちが捕まえたよね。

だから、俺は首は横に振っておく。知らない、何も。

「・・まさか、」

え、バレた?貧血起こしそうだよ。

「コソ泥か?」


「・・・。」


違う違う違う。

必死に首を振って両手も振って否定。青ざめた俺を見下ろすフィリップの顔が目に入る。窺うように、そして、ため息。

「帰っていないのか・・・どこに、」

眉間をもむ姿は若さが感じられない。ちょっと残念な青年だ。

その隙に~と這って横切ろうとしたらベストを掴まれた。ぐえ、と首が苦しい。

「何処へ行く。」


鬼がいたよお父様。お父様の気まぐれな癇癪も憂鬱だった、こっちの鬼はただただ恐怖だよ。


◇◇◇


捕まったことで判明したのは、フィリップがエリュテイアを捕えに来たのではない事。恐る恐る出した声をフィリップはエリュテイアのモノとは思わなかったこと。


助かった。



助からなかった・・・。

軍馬でもあるフィリップの愛馬に担がれ乗せられた。

「何でもいい。エリュテイアの行きそうな所を教えてくれ。」

「・・し、らない。」

近い顔面。なんでこの男がそんなに必死にエリュテイアを探すのか。

「お、お嬢様。帰ってない。」

じろじろ見られて汗だくだくである。いや、自分の変そ、化粧の技術は神がかってると自負しているので、今の姿では見破られないと思いはするけど。

やはり、焦る。

馬は軽やかに侯爵家を外にでた。王太子が差し向けるだろう騎士達は来ていない。

だとしたら。彼は単騎で来たのだ。どうして?


そんなに、思われるほど交流は無かったわよね?いつも仏頂面だったじゃない?アンティと仲良くしてる時も無表情で、いえ、確かに懐柔しようとしたよ?

それでも日常会話が出来る位にしか親しくならなかったよね?

「彼女は城を出た。詳しくは言えないが今は危険なんだ。」

ぽくぽくお馬さんは歩く。二人も乗せたらゴツイ軍馬でも重いよね。ごめん。

「お前。館の者なら行先の見当がつかないか?」

「知ら、ない。皆。居なくなった。あんたの所為?」

じろりと睨めば、鬼が目を泳がせた。珍しい。動揺?

「・・・そうだ。・・だから、エリュテイア嬢の行先を確認したい。」

何故?


危なげない馬の歩みに気を許してつい、じっとフィリップを見る。


ふ、と気づいたように男の口が呟く。

「お前。彼女と同じ瞳なのだな。」


ガビーン。である。不味いよ。この朴念仁がそんな事を気付くなんて。誤魔化す為適当な話をでっち上げてしまう。

「そう!だから気に入ってくれて、お嬢さん家で雇って貰えた。孤児の俺でもなっ!」


孤児。瞳の色を気に入られて。雇い入れた。


まさしく、侯爵令嬢エリュテイアの生立ち。邸の中でも少人数しか知らない現実。


「身寄りがないのか?」

え、そこ喰いつく?そうだけど何か文句でも?

開き直って睨むと思案気なフィリップは「やはり彼女を良く知っているのだな」と言った。下男と話す令嬢なんていないから知らんふりしたのに、名前を出すたび反応していたようだ。

くそう、お嬢様のふりは上手くいったのに。


◇◇◇


「思いつけないか?」


とっぷり日も暮れ、ランプの明かりがオレンジ色でほのぼのした中。

しつこいフィリップは聞いてくる。

何故かエリックは彼の屋敷の応接間に居る。

職務中じゃないのかなぁ。いいのか此処に居て、やはり彼はエリュティアの事を『案じている』ようにしか見えず、解せない。

鬼から軟化した表情は、家族を心配する人間のようだ。嘘だよね。

眼を逸らし、口をつぐむ。

エリュテイアはもういない。むしろ死んだのだ。あの時に。

フィリップにいくら聞かれても知~らな~いって態度を貫く。


落胆した彼は肘をついて頭を抱えた。


エリックとなったのに、疑問は口からこぼれた。

「・・・どうして探したいのさ。」

フィリップは頭を抱えたまま「どうして、とは?」と問う。

「旦那様。逃げるような事したんだろ?お嬢様、探して、どうすんの。」

無言。

踏み込み過ぎたか。何処かのタイミングでさよならって離れなければ。

「・・・い。」

「ん?何?」

「・保護、したい。」


保護。絶滅危惧種ですかエリュテイア。


「本音を、・・彼女の口から聞きたい。」

顔を上げないフィリップはエリックに聞かせるでもない独白をする。

彼は、まだエリュテイアを信じているのだろうか。アンティでさえ疑いレオーネを信じ、目を逸らしたのに。アンティの傍に居たからこそ交友があった程度の令嬢。

靡かなかった、会話も業務連絡みたいだった。


本音?


お金。贅沢。自由。王妃の座、何もかも欲しい。お金で買える程度の愛で全てが手に入る筈だったわ?


もっと早くに聞いてくれたら良かったのに。エリュテイアの内に聞いてくれたら、フィリップ様にだけは本音を囁いてあげましたのに。

そしたら絶望して探したりしなかっただろうに。

可愛そうなフィリップ様。


薄ら笑いを浮かべたのを気配で感じでもしたのか、顔を上げる。目が合う前にエリックの仮面をかぶる。


困惑。不安。そして、楽観。


「ね、え、俺。もう行っていい?」


フィリップが瞳をじっと合わせてくる。

まるで、エリュテイアを探すように。怖いんですけど。


「此処に居ろ。」


「は?」


なんでだよ、意味不明だよ。


「孤児なんだろう?身寄りがないならここで・・・俺は使用人を住まわしていないから、お前。住めばいい。」

住めっていった。

フィリップは男爵位だが跡継ぎじゃない為、護衛騎士として士官している。

その騎士に下賜されているのがこの家で、こじんまりした赤茶色の屋根と白い壁が黒髪。灰色三白眼のフィリップには似合わないな~とさっき思った所だった。

庭もそこそこあるし、隣家との距離も、流石貴族邸の多い地区と言える距離感。

・・・ここに住むとかいい夢だな。


あ、いけない、現実逃避しそうだった。

「俺。そういう趣味はないから。」

エリックの言葉にフィリップは目を見開いて、青くなった。

「違う!住み込みの使用人にならないかという意味だっ!」

ああ、そういう意味。って頷く。知ってたけどね。慌てて否定する姿が珍しくて眺めてしまう。

「嬉しいけどさ。」

「そうか。部屋は一階で良いか。」

「え、違っ!」

「疲れたろう。まずは寝室に案内しよう。」

「だから、」

断ろうとしたのに話がまとまってゆく。

「こっちだ、今日は休め。」

立ち上がり案内しようとしてくる。

「あのさ、俺。」

「名前は?」

灰色の瞳が射るように見下ろしてくる。ため息をついた。

「エリック。」

「エリック・・・。解った。必要なモノは言ってくれ。それと。」

くるりと背を向けたフィリップは聞こえなくてもいいみたいに見えた。

「もし、彼女の行きそうな場所を思いついたら・・・言ってくれ。」


ああ。そういう事。監視。


解ったよ。暫らくはここにいよう。


かくして、元侯爵令嬢(偽)の偽りの人生第二幕が始まった。


誰かの目に留まればとても嬉しいと思います。

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[一言] えっ短編? めっちゃ面白いんですけど。続きが気になるんですけど~。 ワクワクさんですよ。続きワクワクしてますよ。
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