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第七話 引き金

 本人達は良いのだろうけれど、12月24日の結婚式なんてはた迷惑だった。年末にスーツのクリーニングを確認したり、確実に休みが取れる様に調整したり。ただでさえ忙しいのに追い打ちをかける。まあ、確かに天皇誕生日で休みだし、朝から酒を呑み始めれば夜もゆっくりだろうから親族達もいいのだろうけれど。  

 宮内は目の前に運ばれたヒラメのソテーを口に放り込み、ひな壇の友人を見た。

 それに今年に限って一緒に過ごす相手がいなかったのだし。

 彼は注ぎ足されたビールを飲み干すと祝辞の為に立ち上がり、エールを送る友人達に片手を上げて応えた。

「本日はお日柄もよく。」

退屈。

「新郎の川崎君は、」

昔っから馬鹿ばかりしていました。

「生徒会の実行委員で学祭を取り仕切りながらも、」

そう言ぇやこの頃、こいつの二股と俺の二股がバッティングしていたんだっけ?俺達義兄弟?

「いつまでも、お幸せに。」

まぁ、上手くやれよ。

 無難なスピーチに、お決まりの拍手。宮内は流されて席に戻る。


 二次会はイタリアンレストラン。色とりどりの花に囲まれて、まるで披露宴を二回するみたいだと宮内は思った。

 何しろ川崎はエリート銀行員で、しかも相手は大病院の娘だ。以前ならば羨ましいとさえ思えはずのこの派手な光景も、今の宮内には虚ろに思えた。

 恋愛結婚の様に取り繕っているこの結婚も結局は見せかけで、それ以外の思惑が見え隠れしていた。


 彼は自分が解らない。自分の望みが解らない。


 川崎は近い将来彼女の父親の病院の運営に加わるのだろうか。それがこいつの野心なのか。それじゃあ、俺の欲望はどこに向かっているんだろう。

 注がれるワインを軽く開ける。

 

 3次会では嫌な噂を聞いた。高校で同窓だった吉野篤志がその大親友だった常陸颯太の奥さんを寝取ったという。

「嘘だろう・・・・?」

それはどう考えてもあり得ない話しで、宮内の頭は混乱していた。

「いや、本当らしいぞ。颯太は会社止めて岐阜の田舎に親父さんと引っ越したってよ。この前、葉書来たぜ。」

 優等生を見るからに“演じていた”吉野は、ある意味非常に生意気で生徒であろうが教師であろうが気に入らない相手には徹底して辛辣だった。そして颯太はあらゆる拘束を破る事で有名な“やんちゃ坊主”そのくせ憎めない魅力の持ち主だった。水と油の様な二人だったが、その“やりたい様にやる”精神が二人を強く結びつけていたようだった。

 今更の様に当時を振り返ると、そんな偽る事の無い純粋に親友な二人が羨ましかった。

 自分の心のままに生きる人生が羨ましかった。

 だからこそそんな二人が選んだ結末に言い知れぬ怒りを感じた。

 ワイングラスが空になる。

 いつの間にか会は終わり、心配する友人達の声をよそに宮内はふらふらと通りに出た。

 今一番会いたいのは、砂羽。

 本当に欲しいのは、砂羽。

 ここに来てようやく気づいた事に宮内は愕然とした。

 休日の午後7時は宵の口。

 大きな引き出物を引きづりながら、彼は歩いた。

「もしもだぞ、もしも今日砂羽に会えたら、もう迷わないから。」

呟く彼に、すれ違うカップルが振り向き怪訝そうな表情をした。

「もしももう一度出会えたら、今度こそ俺、自分を捨てる。あいつの為にみっともない男になって、地に落ちてやるんだからな。」

    

               ラプソディ・オン・ブルー   つづく

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