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第二話 過去と男

12歳以下禁止表現が出てきます。お心当たりの方は、ご免ね、御退出。

また、表現は派手ではありませんが、何となく痛々しい感じもあります。絶対甘党の方も、ゴメンナサイです。

2  過去と男


 砂羽は戸惑いを隠せなかった。独りシングルベッドに丸くなりながら、佐伯との関係を考える。

 いつの間にか“軽い食事”会は回数を重ね、おしゃべりをするだけ関係のまま続いている。何しろ10時には彼の方から“帰ろうか”と声を掛けて来るのだから。

 それでもゆっくり彼に心が傾こうとしている自分に戸惑った。佐伯は穏やかに笑い、時々そう長くは無い髪をかきあげた。決して瞳を逸らす事無く見つめる瞳はビー玉を宝物にする子供の様にきらきらと光っていた。

 今まで互いをさらけ出せるような深い付き合いをした事が無い。セックスでイクことは覚えたけれど、本当はその前にあるはずの愛が解らない。なんだかいつも夢みたいな恋愛に憧れているだけ、そんな気がしてならなかった。

 不倫なんて考えた事は無い。でも、話している限り、彼がそう言う人間とは思えない。つまり、何となく、堅い。

 こんな時友人の菜々子に相談する事も考えたが、さすがに不倫は止めろと言われるに違いない。

 ため息ばかりが落ちていく。

 こんな魅力の無い女に彼は何を期待しているんだろう。

 その時携帯の呼び出しがなった。その聞き慣れた音に砂羽の体がぴくんと跳ねる。

「あ、はい。私。」

相手が誰だなんて分っている。

“俺。宮内。いまから行ってもいいか?”

「何よ、また彼女と別れたの?」

“仕方ネェじゃん。”

電話越しに子供じみた良い訳を吐く男がいた。

“仕事と私とどっちが大切なのって言われたらなぁ、そりゃ。嘘付こうと思ったけど、顔に出ちまったみたいでさぁ。”

彼の本気なのか冗談なのか分からない笑顔が砂羽の前で揺れた。少しためらった、その後、

「いいよ、おいで。」

とあっけなく、彼女は電話を切った。

 それから30分後、ほっそりした体躯の酔っぱらった男が独り、彼女の部屋に転がり込んだ。

 彼は何も言わない。ただ、彼女を抱きしめ、ため息をついた。

 ベッドが軋む。二人とも“好きだ”とか“愛している”なんて一言も言わない。ただ、することをするだけ。

 男は彼女の躯を心得ていて。

 彼女の燃え上がる場所をピンポイントに責める細く長い指先。絡み付く様な舌先と、これ見よがしにかき立てる生々しい水音。


 思い起こせばこんな関係ももう8年も続いているのだから感じてしまうのも仕方が無い事だろう。 

 砂羽は認めたくはないのだけれど彼の言う通り“躯の相性がいい”って言うのはこういう事だって思った。

 どんな男に抱かれていても今ひとつ感じない。相手の欲望ばかりが鼻についた。ただ宮内達みやうちすすむだけは別。彼の舌が自分の唇を犯すたびに、泣きたくなるほどの快感に襲われる。堪えようにも堪えられない悲鳴が躯の奥底から湧き上がり、女の本性が現れる。

 この男はフェロモンを撒き散らしているに違いない。

 切羽詰まっていたはずの男にさんざん焦らされて、女は涙声で懇願する。

「頂戴。」

 砂羽は彼の躯を強く抱きしめ、彼の体臭を鼻孔一杯に吸い込んだ。

 薄れていく記憶と、どこかで聞こえる女の悲鳴。

 明日になったら、また後悔し虚しさに泣く事を分っていて、彼女は彼の腕の中で微睡んだ。


 目を開けるとテーブルには一枚のメモが残っていた。

“ありがとう。いつも慰めてくれて。”

今度彼に会うのはいつになるのだろう。この次彼が失恋するのは6ヶ月先か、3ヶ月先か。最近そのペースが速くなっている、そんな気がするけれど、こんな関係は早く清算しないといけない、そう頭では解っていて実際には縁を切る事が出来ない自分が恨めしかった。


 初めて宮内に抱かれたのは20の時。手ひどい失恋の後だった。

“結婚しようか。”

ふざける当時の彼氏の囁きに舞い上がり、夢を見ているようだった。いつも笑い顔を絶やさない繁は彼女が憧れていた先輩だった。そのはずが、付き合って初めての彼の誕生日、彼の大学の研究室にやって来たのは

“繁が愛しているのはこの私なんだから!”

と泣きながら掴みかかってくる女。そして絵に描いた様な修羅場、と言いたい所だけど・・・・。

 彼女は取り乱すことなく、まるで他人の痴情を見ているかのようにさめている自分を自覚していた。

 ひらひらと着飾っているだけの、自分より頭の悪い女だってその時は感じた。女の武器を見せびらかして、子供の様にだだをこねて。だから彼はこんな女より自分を選ぶと思った。“誰よりも愛している”ってつい昨日も言われたばかりだし。

“繁の気持ちは、繁が決めることよ。”

自信に満ちた声で跳ね返したつもりだった。でも繁は

“ごめん。”

と言ったまま砂羽に背を向けた。

“仕方ないわね。”

悲しみで真っ白になった頭に浮かんだのはその言葉だけ。

 そして彼とは二度と連絡が取れなくなった。


 落ち込む彼女を躯で慰めてくれたのが宮内だった。酔っていた事も有りもう誰でも良かった。

「お前、初めてかよ。」

ラブホテルのベッドで彼は唸った。

「うるさいわね、回数が少ないだけよ。ま、抱くほどの価値のない女だったのよね、私。」

ぼんやりとした鮮血の滲むシーツの上で、痛みを堪えて彼の上に跨がった。

「あたしだって、やってらんないのよ。今晩くらい、慰めてよ。そうしたら私、一生宮内に恩をきるから。」

 あの日以来、砂羽は深酒をしなくなった。

 可愛いなどと見え透いた嘘をつく男と、流行の化粧にビトンのバックを持っている女も嫌いになった。

 それから彼との奇妙な関係が始まった。宮内は彼女と別れるたびに砂羽を求める様になった。それもたった一晩だけ、狂った様に何回も抱いた。その癖、サークル仲間で会うときはそんな素振りは一片も見せなかった。

「お前、まだ独り身かよ。早く男作れ。さびちまうぞ。」

「お前って本当、男運が無いってヤツ?今度俺の友達紹介しようか?」

そう言われ何人かの男とも大人のおつきあいをした。

 その度に脳裏に浮かぶのは宮内のあの瞬間の切なげな顔で、砂羽は自分が本当は誰に恋をしてしまっているか、悲しいくらい自覚していた。

 

 だからこそ、宮内を忘れさせてくれるかも知らない佐伯にときめいた。彼は今までのどんな男とも違う、そんな気がしたから。



砂羽ちゃんよどみ系。がんばって平凡に仕上げています。でも、平凡でも、その人その人の大切なヒストリーが誰にだってある訳で、そういう事、書いていけたら良いなって、思っちょります。

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