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第十三話 選択

最終話になります。

 何かの気配で砂羽は目が覚めた。ぼんやりとした視界に入ってきたのは、ブラウンの光彩。

「んっ・・・」

有無を言わせず彼の唇が砂羽のそれに重なる。ついばむ様な、優しいキス。それから見つめ合い、彼は

「愛してる。」

と呟いた。

 夢から覚めても夢を見ている、そんな気分だった。

 昨日の夜の事は現実だったんだ。

 思わずシーツを掴む彼女に宮内はくすりと笑った。

「引くなよ。」

それから照れた様に笑うと、突然真顔になって彼女を見下ろした。

「なぁ、砂羽。目ぇ閉じろ。」

言葉とは裏腹な有無を言わせないその口調に、彼女はたじろぎながらも従った。

「お前さ、俺かあの男かどっちか選べ。言っとくけどな、俺だって後5年もしたらもっと良い男になるんだからな。」

驚きに目を見開くと、伏せ目がちな宮内が視線を返す。

「目ぇ閉じろって言ってんだろう?」

それから彼は砂羽に聞こえない様に小さなため息を漏らした。

「よく考えてみろよ。で、よく考えて、結論出せ。」

彼女はキツく目をつむると、反射的に宮内にしがみついた。

「考えられないんだけど・・・・・」

馬鹿なのは分かっている。それでも頭でなんか考えられなかった。本能とでも言うのだろうか。自分の根底の所で宮内を選んでしまう愚かな自分が情けなかった。

「どう考えたって、無理。」

宮内といると佐伯の穏やかな笑顔が霞んで消えて行ってしまうのだから。 

 はっきりとした返事を出さない砂羽の心を彼は反対に読み取った。

「俺じゃ、駄目か。」

仕方が無いなぁと、彼は彼女の背中を擦った。

「じゃあさ、俺の本気を証明してみせるから。とりあえず、幸せな花嫁のお約束でジューンブライドな。ダイヤの指輪は額面で3ヶ月分。今日にでも選びに行こう。でもって、明日にはお前の両親に会いに行くんだ。」

砂羽は言われた意味が分からず、ぽかんと口を開けて彼を見上げた。昨夜聞いたような気がするプロポーズは所詮都合のいい空耳だと思っていた。

「まだ足りないか?じゃあ、新婚旅行の行き先はお前が決めろ。有休入れて10日休んでやる。住む所はお前が妊娠している事にして家族用の借り上げ社宅用意させてやるから。都内の一等地のマンションだぞ。」

この男は何を言っている?頭がついて来れずに戸惑う彼女に、男は目を細めた。

「毎週一回は花を買ってかえる。え〜と、浮気はしない。飯作るのも手伝う。風呂も洗う。食器洗い機は、買おう。」

彼は短くなった砂羽の髪を弄びながら、うなじに唇を寄せた。

「それからえっちは週2回確約。」

「馬鹿っ!!」

思わず叫んだ砂羽に宮内は笑った。

「確約だから、もっとしてやるよ。足りなきゃ今から貯金してやろうか?」

剥がれた毛布で、日の光の下に彼女の裸体が晒された。

「きゃあっ!!」

「かまととぶるなって。」

さっきまでの真剣な表情はどこかへ飛んだ宮内の変わり様に砂羽はたじろいだ。素肌を擦り合わせて見下ろす彼の唇の端は薄笑いのようにつり上がっている。でも目は笑っていなかった。眉毛さえも、微妙な八の字のライン。

「ほら、な。返事しろよ。俺の事選ぶって言えよ。」

その声が微かに震えていて。

 そうか、と。砂羽は初めて気がついた。

 こいつはこいつで、不安なんだ。いつもは強気な俺様が、本当に本気だから、怖いんだ、と。

 そして自分は、こいつがいつも外に出さずに堪えている不安を感じていたから、惹かれていたんだ。

 こいつはこいつで、多分だけど、私にだけ、本心みせてくれていたんだ。

 なんだ、そうだったんだ。お互い様で、離れられないんだ。

 うふふ、そんな笑いが彼女の口から漏れた。

「何だよ。」

彼は眉をひそめた。

「秘密。」

砂羽はおかしくって笑った。こいつでも焦るんだ。すかしていて、文句つけようがなくって、傲慢な、こんな俺様ヤローでも焦る事があるのだ。しかも、こんな私みたいな女の事で。

「教えない。」

「なっ!!」

宮内が慌てる所をお目にかかれるなんて信じられなかった。ましてや、こんな事になろうとは。なんて、なんて!

「黙って。」

彼女は大きく深呼吸をした。ここで言うのはしゃくだけど、我慢していたいけど、言わずにはいられないから。

「宮内が好き。」

彼の目がきらりと光った。それに気づいたから、

「あ、でもね、今の私は宮内よりいい男がいるって事知っているんだからね。それでもあんたの事選んであげるんだから、あんたも頑張ってよね。それに・・・・」

言いよどみ、その両手で彼を突き放した。

「けじめだけは、つけないとね。」

その言葉に宮内はゆっくりと彼女から身を引くと、顎を引き締め頷いた。

「二人でけじめつけに行こう、な。」

それから改めて彼女を優しく抱きしめた。  

 



         ラプソディ・オン・ブルー  エピローグへ 


実質最終話になります。

これまでおつき合いいただきありがとうございました。

良かったら他のも書いていますので、遊びにいらしてくださいね♪


ところで、宮内、頑張ったでしょう?

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