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第十話 聖夜

 うるさく鳴らされるドアホーン。それから叩き付ける拳の音。砂羽の頭の中で警戒音が鳴り響く。黙らせなければいけないけれど、出てはいけない。

 隣の部屋の壁がどんどんと叩かれ、壁に寄りかかっていた砂羽の背中越し、ダイレクトにその衝撃が伝わった。

 こうなると出ない訳にいかないから、よろめく体を支えながら彼女はようやっと鍵を外した。

 冷たい外気が流れ込む。それから華やかな薔薇の芳香が砂羽を包んだ。そのくせ肝心の花束が彼女に渡る事は無く、男は有無を言わさず彼女を抱きしめた。

 唇を合わせ抱きしめ合いながら、お互いのアルコールの交じる吐息を甘いと感じていた。

 砂羽には今自分がしている事が分からなくなっていた。ただ、目の前の男を愛しいと思う。

「痩せたね。」

コートの中に回した両手は彼の背中をしっかりと掴んでいた。

「恋煩いさ。」

宮内は彼女の頭をしっかりと支え再び唇を交えた。絡まる柔らかい舌に我を忘れ、呼吸する事さえ忘れそうだ。吸い込む香りは、懐かしい砂羽の香り。抱きしめ合う腕に力がこもり、二人の間の隙間が完全に姿を消した。その時になって初めて凍えていたはずの男の全身に血が回り始めた。

「あったけぇ。」

それから彼女の顔を両手で挟んでこう言った。

「砂羽。愛してる。」

そう口にする事で男の心の中の重しがとれ、ふと軽くなったようだった。その緩んだ微笑みに彼が何を言ったかを考えられるよりも先に、

「私も宮内が好き。」

と彼女は返していた。

「違う。」

宮内は苦笑しながら砂羽を抱きかかえると狭いベッドまで運んだ。

「俺は愛しているって言ったんだぜ。」

嘘でしょう?そんな問いが彼女の顔に湧き上がるから、それを押しやる様に呟いた。

「愛しているよ、砂羽。」

きょとん顔の彼女を尻目に、男は素早くコートを剥ぎ、ジャケットを脱ぎ、シャツを捨て、

「お前だけ。お前だけだ。」

みっともないほど歪んだ顔で見下ろしながら、彼女の柔らかなパジャマの裾をたくし上げた。

「お願いだからさ、何も言うな。お前とこうして会ってるのが夢だったって事になってしまいそうで怖いんだよ。」

砂羽の頭の上で男が鼻をすすった。

「やっぱだめだわ。お前の事、誰にも譲れない。躯もつながってたいけど、心もつながってたい。」

そんな芝居がかった限りなく本気の台詞を

「馬鹿ね。」

彼女は彼の首に両腕を絡めて受け止めた。


 砂羽のシーツはいつもブルー。その波の間を二人で泳いだ。


 肌が摺り合う毎に二人の体温が上がる。

 宮内の両手は失いかけていた彼女の輪郭を何度も愛でる様に上下し、時々拗ねた様に爪を立てた。

 砂羽はひたすら彼にしがみついた。これからやって来るはずの大きな波を予感し、彼と一緒に呑み込まれる事を願いながら、はぐれない様に。

 お互いを結びつけ、小刻みに揺れては返し、時に強く打ち震わせる。

 溶け合いながら、見下ろしながら宮内はほんの少し微笑んでいた。セックスなんて食欲と同じだと思っていた。生きる為の基本要求で、とりあえず食べておけば死なない。勿論好き嫌いや当たり外れもあって、いつも同じものを食べていたら飽きてしまう。

「砂羽が好きだ。」

今になって思う。まったくの別物だ。

「お前、宮内になる気はないか?」

あっけにとられた顔をしている砂羽に、

「お前、宮内砂羽になれ。」

困った様な、今にも泣き出しそうな顔の彼女。その蕩ける様な躯を強く抱きしめ、耳元ではっきりと、

「俺の女房になれ。俺、やっぱお前じゃなきゃ駄目なんだよ。砂羽といる時だけ俺は安らげるんだ。だから、」

彼の瞳はまるで雨に濡れた仔犬。

「俺を見捨てるな。」

そう言いながらその動きを速め、彼女を遠くへと導いた。


 砂羽の躯の中に、沢山の流星が流れ込んで来るようだった。


              ラプソディ・オン・ブルー  つづく


気がついたらそう言う場面に突入しておりました・・・・。

でもってそろそろ三角関係に付きもののアノ場面です♪

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