記者の性
「…あんた、誰だ?」
「清く正しい幻想郷のブン屋、射命丸文と申します。あの博霊の巫女とのご関係がおありのようなので、取材をと思いまして」
「ブン屋…ああ、霊夢の言ってた新聞屋か」
幻想郷の、妖怪の山と呼ばれている場所には、外の世界の人間社会に似た社会性を持つ妖怪が住んでいると聞いたことがある。
その中でも、天狗という種族には新聞屋などをやっている者がいるのだとか。
「ほう…霊夢さんはなんと?」
「胡散臭い新聞書くから近づくなってさ。嘘だらけの記事とか」
「失礼な。ちょっと事実を曲解して書いているだけですよ」
「事実じゃなくなってんじゃねえか…」
「細かいことを言う人は嫌われますよ?」
倒れている体の、腹部から持ち上げられて担がれる。
「さて、行きましょうか。野次馬が出てくる頃ですし」
確かに担がれているはずなのだが、さっきまで話していた声の主は目の前にいる。
「その木刀、離さないようにして下さいね」
「…あーこれ、俺を担いでるのだれだ?」
「私の後輩ですので、お気になさらず。…あまり喋らない性格なんですよ」
くるりと踵を返し、文が飛んでいってしまった。
俺を担いでいる少女も飛び、文の後を追う。
動けない俺に拒否権などなかった。
担がれたまま飛ぶこと数十分。
視界にはついに山らしきものが見えてきて、ようやくやばそうな場所に運ばれている自覚が湧いてきた。
とは言っても体が動かないので、飛んでいる景色を覚えるしかないのだが。
飛ぶ方向が徐々に上へ向きはじめ、山を登っているのだと分かる。
滝を通り過ぎ、更に飛んで。
入り組んだ岩肌を低空飛行し、ついに里のような場所に到着してしまった。
里の中では、飛ばずに歩く。
「ここが天狗の里か?」
「そうですよ」
「…人間が入っていいのか?」
そう聞くと、前を歩いている文が振り向いて笑った。
「…どうでしょう?貴方一人で歩いていたら、襲われても不思議ではありませんね」
…暗に、逃げられないと言っているのか。
「…分かった。逃げないよ」
「それに見たところ、自衛くらいできそうですし」
「そいつはどうも」
そうは言ったものの、体が動かせない今は皮肉にしか聞こえない。
文にはそんなつもりはなさそうだ。
そのうちに文が一件の家に入って行き、担いでいる少女も続く。
文が部屋にバサリと敷布団だけを広げ、俺を担いでいた少女が俺を布団に放り投げた。
そこでようやくもう一人の少女の姿が見える。
黒髪ロングで、背中には黒い羽。
カラス天狗を思わせる風貌でこちらを見下ろしていた。
文はショートなので、真逆に見える。
なお、天狗は天狗でもカラス天狗はスカートが短くて見えそうになってしまう。
頑張って見ないようにしてはいるが。
「さて、それでは早速本題に…と言いたいところですが、その前に」
文が布団の近くに座り、ロングの天狗に隣へ座るように促した。
「翔、あいさつを」
「…はい」
不本意、といった感じで翔と呼ばれた天狗が向き直った。
「風葉祢翔と申します。写真を撮ることを生業にしています。以後、お見知りおきを」
ぺこり、と翔が頭を下げる。
表情は無いが、その礼には作法がしっかりと見て取れた。
「轟隆也だ」
「知っています」
「…よろしく」
どうも、敵対視されている気がする。
何というか、態度が全体的に冷たい。
「それでは、本題へ」
改めて、文が切り出した。
「霊夢さんの事を話す前に、貴方のことから」
手帳を取り出し、熱心な視線を向けてきた。
「俺のこと?」
「はい。私はこの幻想郷を日夜飛び回り、ネタを集めています。貴方は急に現れたので、外の世界の人間だと思っていました」
「実際、そうだが…」
「外の世界の人間で、何か特殊な能力が扱える人間は稀少なのです。この山に引っ越してきた巫女も、人間というより神様に近い」
「…なるほど」
「貴方が大事そうに持っているその木刀が、何か特別なものなのですか?」
「いや、違う。これはただの木刀だ。俺が生まれつき不思議な力を持っていて、たまたまここに辿り着いた。…この木刀はそうだな、お守りって感じだ」
「分かりました。それではどうやってこの幻想郷に?」
「…あー、坂から転がり落ちて、気がついたらここにいた」
ブフッ、と翔が吹き出した。
そしてすぐ、『笑ってません』とでも言いたげな表情に戻る。
「…翔、失礼ですよ」
「…はい」
「別に慣れてるから、怒らなくても…」
「記者として、取材対象には敬意を払うものです。見習いだとしても徹底しなければなりません」
「そういうことなら…」
「翔も、気をつけて下さいね」
「肝に銘じておきます」
翔が、少ししょんぼりした。
文に叱られると堪えるのかもしれない。
「話を戻しますが、貴方はただの人間ということでよろしいですか?」
「そういうことで」
「それでは正体も分かったところで、霊夢さんの話を…」
プライベートの話は一切明かさないよう気を払い、質問に答え始めた。
新聞記者の取材を甘く見ていた俺は、数時間後に激しく後悔するのだった。
どうも、作者の人です。
最近、妹が「夜に裏から足音が聞こえる」と言われ、夜な夜な文章を弄くり回している身としては、近くに木刀を置いておくくらいしか手段がありません。お守り代わりに。
さて今回、「またオリキャラかよ…」と思われるかもしれませんが、天狗の子達が登場しました。
みんなご存じ文ちゃんと、オリジナルの翔ちゃんです。
文ちゃんの戦闘シーンは見たことあるとおもうので、翔ちゃんの戦闘シーンを近々お見せ出来ればな…と思っています。
来週、また戦闘書きたいですね。翔ちゃんが動くかは分かりませんが。
ちなみにこの作品では、接近戦がかなり多くなると思います。
今更ですがご了承下さい。
今週は間に合いましたかね…
それではまた来週お会いしましょう。ありがとうございました。




