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東方玉霊絆  作者:
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初陣

亡霊が懐に手を入れたのと同時に、足に溜めていた霊力を爆発させて宙を舞う。

霊が取り出したのは一本の筆。

即座に攻撃できるものではないと判断し、急降下した。

亡霊が筆を横一線に振り抜くと、黒い飛沫しぶきが飛んできた。

猛烈な悪い予感が脳内に警報を掻き鳴らし、避けろと叫ぶ。

「ぐ…あぁっ!」

体の前方から霊力を放出して、後ろへ回転しながら飛沫を回避した。

バシャリ、と地面に撒かれていた黒い液体が着地の時についていた足や腕に付着した。

一瞬の判断ミスで勝負が決まりかけたが、それで分かったこともある。

それは、あの亡霊が近接戦闘に向いた戦闘スタイルではないということだ。


近づこうとしたときに懐に入らせず、牽制したということは、接近戦を嫌がったということ。

まあ、ダメージを受けずに相手のタイプが見切れただけでも御の字といったところか。


木刀を正面に構え、ジリジリと間合いを伺う。

数瞬止まったところで相手の意識が途切れたのを感じ取り、今度は跳ぶのではなく一気に駆け寄った。

無意識の、一瞬の肉薄。


流石に予想外の速さだったらしく、亡霊の対応が半歩遅れた。

それまで撃ち落したことによる優越の表情が、驚愕の色に染まる。

木刀を下から上へ斬り上げる攻撃を、亡霊は半歩下がりながら顔を逸らして避けた。

続く回転込みの横薙ぎは大きく飛び退いて回避される。


三度、睨み合い。

亡霊は警戒心を強め、すぐに描けるように筆を構えている。

今度は距離を測ることなく、木刀を構え直した。


動かれる前に動く。

せっかく握りかけているペースを崩されるわけにはいかない。

もちろん、焦りは禁物だが相手の実力はおそらく俺より上だろう。

ペースすら握れなかったら一方的にやられてしまう。

まだ相手が警戒してくれている今のうちが勝機だ。


そう決めたのならなんら迷う必要はない。

ただでさえ少ない勝ち筋が消える前に行動を起こす。


前に蹴り上げるようにして弾幕を放った。

相手の反応を伺っている暇もなく、弾の陰に隠れるようにして突っ込む。

弾幕の対応に追われているうちに距離を詰め、一気に接近戦に持ち込んだ。


弾はさらりとグレイズされてしまったが、囮に使っただけなので問題ない。

今度は逃がすまいと、思い切り接近した。

本当に触れてしまうほどの距離。

相手は筆という、俺より短い武器だが、接近戦に向いている技はないとたかをくくって挑む。

ある程度の脅威はないもの…リスクとして扱わなければ、何もできなくなってしまう。


明らかに焦りの色が見える亡霊を一手一手、丁寧に追い詰めていく。

詰め将棋のように、着実に一発を当てるように攻撃を重ねる。


亡霊が後ろに体制を崩した瞬間、予め木刀に溜めていた霊力を爆発させ、推進力にして斬撃を繰り出した。

今までの攻撃とは比較にならない速度に、亡霊はついに筆を盾代わりにして防いだ。

これで勝負がつくとは思っていないが、筆が破損して戦闘が有利になればありがたいのだが。


「…スペルカード」


そんな望みが叶うことはなく、亡霊は筆を構えてスペルカードを宣言した。

こちらも身構え、攻撃に備える。


絵符えふ鳥獣戯画ちょうじゅうぎが』」

亡霊が空中に筆を走らせると、飛び散るだけだった黒い液体が線を描き出し、瞬時に一匹の獣を産みだした。

描かれたのは虎で、ドスン、と質感のある音を立てて着地した。

大きく咆哮し、明らかな敵意を示す。


飛びかかってきた虎の前足をサイドステップで回避し、木刀の柄で横っ面を叩いた。

切り返して刀身で逆の頬を殴り、浮いたところに軽く跳んでからの回転蹴りで追撃する。

先刻の虎と同じく、目の前の虎も黒い液体となって消えた。

もう液体が体にかかることは気にしなくなり、亡霊が次に生み出したものと対峙する。


虎の次は空を覆うような鳥の群れ。

あのほんの少しの時間でここまで沢山描けるものかと感心すると同時に、「うへぇ…」と声が漏れた。

鳥たちは意を決したように一斉に突撃してくる。

途中で停止するような勢いではなく、完全に自爆してダメージを与えてくる気配が伝わっていた。


限界まで引きつけてから後ろに飛んで回避する。

さっきまで立っていた場所に数羽の鳥が激突しているのを見て、少しだけ背筋が冷たくなった。

鳥と同速か、それ以上で飛行しながらフレアのように弾幕を撒いて鳥を撃ち落していく。

霊力弾を撒きすぎると、本来あるべきスタミナまで使い切ってしまうので気をつけなければならない。

さもなければ、使い切った途端に地面に落下、行動不能になって敗北が決まってしまうだろう。


半分ほど減らしたところで高度を下げ、民家や店の屋根を走って逃げる。

勿論、極力鳥を落としつつ、だ。


三分から五分ほど逃げ回り、全ての鳥を倒すことに成功した。

ふう、と息を吐きながら亡霊の前に着地すると、もう亡霊は何も描いてはいなかった。

「もう、虎や鳥はいいのか?」

「そうね。これ以上数で押しても無駄そうだし」

「…そうだな」


正直、長期戦になれば敗北必至なのだが。

霊力を操るという性質上、人間のスタミナの限界値を遙かに超えていても、弾幕の燃費が悪いので間に合わない。


深呼吸をして、相手を見据える。

二枚目のスペルカード。一枚目が数に偏ったカードなら、二枚目はおそらく…


獣符じゅうふ唐獅子とうじし』」

亡霊がさっと横に筆を振ると、さっきとは段違いの大きさの獣が現れた。

人里の大通りにぎりぎり収まるサイズの…ライオン…だろうか?

ライオンは出てくるが早いか、巨大な前足で踏み潰そうとしてくる。


腹の方へ滑り込むように避け、そのまま腹を狙って木刀を叩きつけた。

…が、ギィン!という生物のような外見からは考えられない音と手応えで弾き返された。

「なっ…!?」

ボディプレスをしようと、腹部が若干上がったので急いで退避する。


尻尾の方へ抜け、巨大な獅子を見て舌打ちを漏らす。

亡霊は獅子の背から見下ろしているが、その瞳には一切の油断がない。

おそらく、獅子への指示もあの亡霊が出しているのだろう。


しかし生物の形をとっている以上、絶対にどこかに弱点があるはずだ。

そもそもあのライオンは、よく見ると細部が描かれていない。

それこそ、どこかで見たものを写したような…

「まてよ…?幻想郷にライオンはいなかったはず…」

ライオンが写したものと仮定するならば、亡霊はどこから『ライオン』という情報を得たのか?

ここに外の世界のきれいな写真がある可能性は低い。

カメラがあっても被写体がいないし、ライオンが写った写真が流れてきていたとしてもほとんど破損しているはずだ。


あと…考えられる可能性…それは。

「本…か?」

昔の、写真が無い頃の図鑑か、外の世界の情報を纏めている本があるとするならば。

ライオンの生態そのものが図鑑に酷似しているかもしれない。


もし、外の世界の「ライオン」という欠けた情報を持っているなら、本来弱点であるはずの腹部が「弱点ではない」という設定がされているのかも…

図鑑通りの弱点を辿らなければ、あの獅子は倒せないのだろう。


思考を巡らせ、答えを導き出す。

全動物に共通している弱点だが、「鼻を殴る」という方法がある。

ライオンは百獣の王。弱点はない。

などと言われればそこまでだが、一縷の望みに賭けるしかない。


近づいてくるのを待っていた獅子に走って近づき、一気に頭まで走り抜ける。

切り返して思い切り跳び、顔面に近づいた。


体が大きい故に、普通より反応が鈍いのが救いだった。

「っ…らぁぁ!!」

腕から木刀までチャージした一撃を、獅子の鼻っ面にお見舞いする。

gagyaaaaaa!!

と、獅子が絶叫して崩れ去った。

黒い液体が、大通りを染め上げた。


「…ハッ…ハッ…」

霊力が切れかかっている。

息が切れ、足下もおぼつかなくなってきた。


「ふふふふふ…はははははははははは!」

それとは裏腹に、亡霊は大笑いしていた。

こちらは限界ぎりぎりだというのに、向こうはまだ元気いっぱいのようだ。


「準備は整った!今、ここに『地獄』を顕現してみせよう!」

高らかな笑いをやめた亡霊の顔は、狂喜で歪んでいた。


恐符おそれふ『地獄絵図』《じごくえず》!!」


地面に撒き散らされていた黒い液体から、骨のような腕が伸びてきた。

「くっ…」

避けようにも、液体は足や腕にも付いている。

しっかりと掴まれ、まるで絵画のようなポーズを取らされた。


「これで、終わりだ」

「そう簡単に…行くかよ!」


前進から霊力を放出し、腕を振り払った。

最初で、最後のチャンス。


このスペルを打ち破ることができれば、勝てる。


「スペルカード…!」


霊力でできた球体が、俺の周囲に浮き始める。

その数、計八個。


たまが周囲を回転し始め、線となった。

それを遮るように木刀を振るい、球を全て砕く。

霊力でできた球が、霊力を纏う木刀で砕かれた。


散った球は消えるのではなく、木刀へ吸収している。

自ら霊力を流して溜めずにわざわざ球にするのは、蓄積したときにコントロールに専念するためだ。


木刀が青い輝きを帯びる。


「一撃…」


そのまま天に掲げ、霊力を解き放つ。

解放された霊力は直線的に迸り、その姿は一振りの刃にも見えた。


「『轟砕餓狼ごうさいがろう』ッ!!!」


光が視界を覆い、周りが見えなくなった。


俺は振り下ろしたまま地面に倒れる。

全てが収まって、視界が開けてきた。


体は一切言うことを聞かず、動こうとしない。

これで亡霊がまだ動いていたら、完全に勝ち目は無い。


「うひゃ~…これはまた派手にやったなぁ」

「こんな隠し玉、私も知らなかったんだけど」


見えないが、上から降ってきたのは霊夢と魔理沙の声だ。


「…奥の手だからな」

「そんな格好じゃ決まらないわよ」

「それより、あいつは?」


霊夢たちに、亡霊のことを聞いてみた。

やり過ぎていないといいが。


「あの幽霊なら、向こうで寝てるわよ」

「生きてるか?」

「死んではいるが、生きてるな」

「なら、よかった」


ほっと、息をつく。


「変なやつだぜ」

「ていうか、いつまで寝てるのよ。起きなさい」

「動けないんだよ…」

「あ、そう。ならそのまま寝てなさい」


霊夢が飛んでいく気配がした。

魔理沙は笑っている。


「あいつ、驚いてたぜ。『あんなの知らない!』って。今のは隠されてて怒ってたみたいだけどな。ご愁傷様だ」

「…魔理沙、運んでくれるよな?」

「嫌だぜ」


魔理沙も、飛んでいってしまった。


「だと思ったよ!畜生!」


うつぶせのまま、叫ぶ。


「あやややや。お困りのようですね」


続いて降ってきたのは、知らない声だった。

どうも、作者の人です。

今回からスマートフォンではなく、PCからの投稿になります。

そして戦闘回です…長いですね。


今回は徹夜しました。投稿時間までぶっ続けで書いています。

遅れて本当にごめんなさい。


来週は、火曜に上げられればいいなぁ…

それでは、また来週!

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