墨の異変
「到着っと...」
人里の入口に降りて、深く息を吐いた。
飛行には不慣れで、着地でも少し地面を滑ってしまう。
後ろの地面には足でつけた跡がある。
先に降りていた魔理沙と霊夢は辺りを見回して首を傾げていた。
「人がいないな」
「遅かったってことは...ないわよね」
「流石にそこまで暴れる様子じゃなかったぜ」
「だといいんだけど」
「隠れている理由でもあるんじゃないのか?」
2人の会話に割って入ると、魔理沙と霊夢が同時に振り向いた。
「そんなことないだろ?」
「...いや、コイツの言ってることは間違いじゃなさそうよ」
何かの気配を察知した霊夢の視線の先には、1匹の黒い虎が立っていた。
まだ敵かどうかを判断しているように見える。
「隆也、出番だぜ」
「...俺だけかよ」
「当然よ。あんたが戦うのを見るために来たんだから」
「はいはい...」
持ってきた木刀を構えると、敵と判断したらしい虎が
咆哮を上げた。
霊力を足に溜めて、爆発させるように地面を蹴る。
人間では考えられない速度で接敵し、膝蹴りを叩き込んだ。
怯んだ虎に体重を乗せた斬撃を見舞うと虎は液体化してしまった。
生き物ではない感触に不思議さを覚える前に、後ろから怒号が飛んできた。
「油断しない!」
咄嗟に飛び退くと、目の前を虎の爪が掠った。
回し蹴りのモーションで足から霊力を放ち、襲いかかってきた虎を迎撃する。
この遠心力のイメージが無いと、上手く弾幕を撃てないのだ。
更に通りの向こうに何匹かの虎が見え、息を止めて地面を駆ける。
「(2...4...8匹か。動き出す前に全滅させる!)」
辺りを見回していた虎達の中でも1番近くに居たものに飛び蹴りを食らわせる。
虎達が気づいた時には回転しながら大きく足を振って弾幕を撃ち、もう1匹を倒していた。
「三つ、四つ」
反応がよく飛びかかってきた虎を木刀で切り伏せ、更に高く飛ぶ。
「五つ」
先回りしていた2匹の虎を横一周して薙ぎ払い、反応できずに見上げている虎2匹に上からの弾幕を浴びせる。
「飛んで九つ」
最後の1匹に木刀を投げつけ、戦闘を終了させた。
「十」
突き刺さった木刀の柄に着地し、辺りの地面を眺める。
真っ黒い墨のような液体が散らばり、とても踏めるような状況ではない。
「やり過ぎた...か?いや、こんなもんか」
気を取り直し、跳躍する時に木刀を引き抜いて墨が届いていない地面に着地した。
「ま、私が教えたならこんなもんね」
「よく言うぜ」
魔理沙が霊夢に睨まれ、肩をすくめた。
「まだまだだよ。動かれる前に決めようと思ってたのに3匹くらいに動かれた」
「そんなもんよ。弾幕が常に上手くいくわけないじゃない」
「理想の話だよ」
「じゃあ、お話はそこまでだな。お出ましだぜ」
今度は魔理沙が、ぶちまけた墨の向こう側を見るように促した。
「よくもまあ...こんなに汚したわね」
「原因はお前だけどな?」
「勘違いしないで。皮肉よ」
この世ならざる存在である筈の幽霊が、ペラペラと皮肉を述べているのには心底驚いた。
「で、何がしたかったんだ?」
「絵の価値が分からない人間に、絵の価値を分からせただけよ。危害は加えちゃいない」
魔理沙の問いに、亡霊は平然と答えた。
「それでも人里での騒動はご法度。あんたも分かってるでしょうに」
「絵は素晴らしい物よ。決して小賢しい紙切れなんかじゃないわ」
「理由にはならないさ。特に他の人に迷惑をかける理由にはな」
「じゃあ、戦うしかないわね。例え博麗の巫女が相手だろうと」
「残念ながら相手は私じゃないわよ。命拾いしたわね」
霊夢が言うと、亡霊はきょとんとしてから笑った。
「なんだ、なら楽勝じゃない」
「だってよ、隆也」
「魔理沙も同じ括りだけどな」
「今回は私も相手しないから私は別枠だぜ。巫女と魔法使い以外なら余裕と言い直して貰おうか」
「変わらないわよ」
「ああ、よし。隆也、出番だぜ」
「...なんだこの不思議な感じ。とりあえず譲ってくれてありがとうと言っておかないと俺だけ舐められていることになるから、譲ってくれてありがとう」
「気にしなくていいぜ」
満面の笑みで返されると、仕方ないという気が湧いてくるから更に不思議だ。
一歩前に出て、木刀を構える。
「そういうわけで俺が相手だ」
「いいわ。絵は現実を映す鏡。つまり絵は現実を支配し、書き換える物。その真髄を見せてあげる」
どうも、作者の人です。
いい加減にちゃんとした戦闘をしないといけないって分かっててもなかなか進まずに火曜日をオーバーしました。
歯医者とかモンハンとか忙しかったんです...
でもちょっと虎との戦闘を入れたので許してください!お願いします!
来週は...年明けになっちゃいますけどボス戦です。
絵描きのオリジナル幽霊さんです。よろしくしてあげて下さい。
それではこのへんで。ここまで読んでいただいてありがとうございました。