道具への礼儀
修行にも慣れてきて、俺が動き始めてから僅かな日数が経った。
鈴仙との稽古や美鈴につけてもらう修行、パチュリーの図書館に入り浸ったりして知識を貪ったりしているときに、ふと思い立ったことがある。
「あ、俺、大切なこと忘れてた」
「? どうしたのよ、突然」
「いやほら、鈴仙が頼んでくれた木刀の修理の件。俺はまだ、挨拶しに行ってないだろ?」
「ああ、その件ね。確かにそうかも」
休憩中に、忙しくて言えなかった用事を伝えてみる。鈴仙は少し考えるようにして、それから「行きましょっか」と言って立ち上がった。
「え?」
「え?行かないの?」
「いや行くけど……積極的だなって」
「隆也なら……すぐ行こうって言うかなって思って……」
宛が外れたと言いたげに、鈴仙は照れて俯いた。
相当に恥ずかしかったらしく、顔を上げようとしない鈴仙を見て吹き出してしまった。
「な、なんで笑うのよ」
「面白かったからだよ。わかった。じゃあ行こう」
鈴仙と向かうことになったのは、魔法の森だった。
普段、というか魔理沙の家に泊めさせてもらった時には、こんな場所に来なかったのだが。
いや、魔理沙の家が深くにあって、ここが入り口付近なのか。
辺りを微かに警戒しながら歩を進めていくと、一件の店が見えてきた。
「ここよ、ここ。このお店」
勝手知ったるという風に鈴仙はその扉を開き、中に入っていく。
俺はその扉の横にある掛札に目をやると、『春夏冬 中』と書いてあるのが見えた。
古典的ななぞなぞみたいなもので、『秋がない』から『商い中』という意味なのだ。
ここの主人はかなり前からこの店を経営しているのだろう。
「どうしたの?」
足を止めてしまっていたのか、鈴仙が扉からひょっこりと顔を出してきた。
なんでもない、と言って店内に入ると、そこは特異……と表現しても過言ではないであろう雰囲気だ。
幻想郷という珍しい空気に、外の世界の空気感を少しだけ混ぜたような、独特のものだ。
「いらっしゃい。……おや、見ない顔だね」
奥に座っている店主らしい人は、白髪で落ち着いた性格を伺わせる青年だった。
読んでいたらしい本をパタリと閉じて俺に目を合わせた。
「なるほど、君があの木刀の持ち主かい?」
「そう……ですけど」
鈴仙に目配せしてもう話したのか尋ねると、鈴仙は静かに首を振った。
「いや、ご依頼のお客様に聞いていたからね。そのお客様というのが……」
「あ、私か」
「そういうこと。だから彼女から聞いたのはこの前だよ」
「そうだったんですね……しばらく顔を出せなくて申し訳ございません」
しっかりと頭を下げて謝る。するとその店主はクスリと笑った。
「構わないよ。あくまでも僕の趣味の範囲だからね」
「それは聞いてはいましたが……」
「加えて、あまり固いのは無しでお願いするよ。かしこまってくれるのは嬉しいけれど、肩がこってしまうから」
「そ、そんなもんですか」
「まぁ、僕は慣れてしまったからね。君のその態度はとても貴重なものだと思うよ」
ここの店主さんはとても人柄が良いらしく、人を思いやっているのがとても伝わってくる。
「申し遅れた。僕は森近霖之助。ここ、香霖堂の店主をしている」
「あ、轟隆也です。流れ者です」
霖之助さんと軽く握手すると、霖之助さんはそっと木刀を取り出した。
柄と刀身がスパっと斬れてしまっているそれは、今見ても心に来るものがある。
「これの件なのだけど……」
「あ~、はい……」
「直らない、ということはない」
「!!!」
「君が望む以上に、この木刀が君に使われることを望んでいる。通常、道具というのは『使われる』ことが目的でも、そこの個人は関係ないんだ。つまり、『使ってさえくれれば誰でも良い』。それが道具ということだね。でも、この木刀は『君に使われることが前提』になっている」
「ええっと……」
「簡潔に言うと、君用の道具を直すためには君の協力が必要だ、ということだよ」
「そういうことだったら、いくらでも……」
「助かるよ。じゃあこれに君の『霊力』を流し込んでくれないか」
と言って、霖之助さんは木刀の柄と刀身を同時に渡してきた。
「これ……ですか」
「君のモノを直すためには君のモノに君の力が必要なんだ」
「…分かりました」
それを手に取り、同時に霊力を流した。
ほんのすこし前まで平然と行っていたはずの行為なのに、今はひどく懐かしく感じる。
感触も前とは違い、明らかに死んでいる気配だった。
「…………終わりました」
時間にすれば一瞬だったのだろうけれど、とても長く感じる一瞬。
折れた木刀を戻し、霖之助さんの顔を見た。
「いい表情だったよ。君の覚悟が感じられた」
「……どうも」
「あとは任せてくれ。元通りに直してみせるよ」
「よろしくお願いします」
今度は深々と頭を下げる。
「こういう風に思ってくれる人は、もう中々いないからね。全力で腕を振るわせてもらうよ」
もう一度お礼を言って店を去ると、今度は博麗神社へ向かった。
「神社?なんで?」
「忘れ物があるんだよ。俺がここに来た時の荷物そのままそっくり」
大したものではなかったが、あれだけ道具を大切にしている人に会った後だと、感化されざるをえない。
鈴仙も俺の荷物に興味があるとかで付いてきたので、二人で神社へ。
「あら、生きてたのね」
それが、久しぶりに会った霊夢が開口一番に言ったセリフだった。
どうも、作者の人です。
後書きに書くことがないですが…最近は忙しすぎて内容がスカスカなのに加えて、文もめちゃくちゃになっていますね…ああ、いつものことでした。
頑張ります…なんとか時間を作って…
それでは今回はこの辺で。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
また来週お会いしましょう。では。




