過去から未来へ
轟隆也の人生は実に下らないものだった。
父はふらりと出て行ったまま帰ってくることはなく、母は病に倒れて起きることはない。
せめて守ろうと誓った母の命でさえ、幼い彼に守る術など無い。
結果として両親を失った彼に残されたのは、罪滅ぼしに誰かを守らなくてはいけないという義務感と、父が残し母が在り処を示した1本の木刀だけだった。
程なくして彼は親戚に預けられる。
裕福ではなく、むしろ貧乏といったその家庭は彼に優しいことなどない。
家事やその他の雑多なこと全てを幼い彼に押し付け、こう言ったのだ。
『居候なのだから当然だろう』と。
なんとも思わなかった。
それならば楽でいいとさえ思った。
奴らの満足する食事を作ったり、男の作ったギャンブルの負け分の取り立てを追い返したり、女の欲求を満たす為に自慢のアクセサリーにもなった。
そうしていくうちに、殆ど全てのことが自分で出来るようになった。
だから感謝こそすれど、恨むことなど無い。
同情なんて要らない。自分が尽くしてさえいれば、誰も傷つかず、平和であれるんだから。
それならばそれでいい。そう思っていたはずなのに。
でも、許せないことがあるとすれば。
父が、母の葬式にさえ顔を出さなかったことだ。
母は、最期まで父を想っていた。ずっとずっと、『彼にはやるべきことがある』と言っていた。
不思議で仕方がなかった。
自分を放っておいている相手のはずなのに、なんでそんな風に想うことが出来るのだろう。と。
『愛』
母はそう言った。『愛せる相手ならばそう簡単に怒りなんか沸かないの。むしろ応援したくなってしまうくらい。だから貴方も、本気で好きになれる相手を探しなさい』と。
実感はなかったが、母が言うのだからそうなのだろう。ならば父はどうなの。母を愛してはいなかったのだろうか。
そう考えると、無性に腹が立った。だから自分で父を探そうと思ったのだ。
一発ぶん殴ってやらないと気がすまない。
今の俺ならば、一人で何でも出来るんだから。
「隆也!!」
でも。
「隆也、あのね? あの木刀のことなんだけど……」
彼女が。
その瞳を小さく揺らし、目の下にくまを作った彼女が。
「勝手に持ちだしてごめんね。でも、直るかもしれないんだって。もしかしたら、なんだけど。でも……」
間違っていた。気付かせてくれたんだ。残された木刀が砕かれ、守らなくてはいけないという信念も同時に失った。もう何も残っていないと思っていた俺に。
「私は、隆也を助けたいと思って……」
うつむきがちに言う彼女を見て、心の底から思ったんだ。
俺はこの人を守りたい。母さんを守れなかった罪滅ぼしじゃない。
自分の意志で、守りたい。この人の為に生きてみたい。
「だから、その、元気出して?」
そう、思ったんだ。
「…………ありがとう」
長らく使っていなかった口から出てきたのはそんな些末な言葉だったけど。
でも、本心だったのだから仕方ない。
それ以外に思いつかなかったのだ。
「……っ、うん!」
彼女のその笑顔を見て、とても、とても満たされた気がした。
どうも、作者の人です。
今回は重めの話となりました。今までの話を思い返すと「こうだったのか~」と思っていただければ幸いです。
え?全然説得力がない?
…実力不足です。申し訳ありません。
さて次回ですが…
なるようになりますかね、多分。
深夜1時で一気に書き上げたので頭が回っていません。
二度目ですが申し訳ありません。
さて、そろそろこの辺で。
また来週お会いしましょう。では。




