霧雨
森の中をひたすら歩いた。
日はとうに暮れ、月明かりだけを頼りにしていた。
灯りなどあるはずもなく、リュックに入れていた携帯電話は壊れてしまった。
もし持っていてもさっきの襲撃を考えると灯りをつけて歩くことも出来ない。
「あっ...!」
木々の間から家の明かりがこぼれ、安堵から声が漏れた。
限界を迎えているはずの足は次第に加速し、最後には家の玄関まで走っていた。
「すいません!誰か居ませんか!?」
ドンドンドン、ドンドンドンドンと、何度も扉をノックする。
少し経つと、必死に叩いていた扉が開いた。
中から出てきたのは長い金髪の女の子。
自分と同じか、少し下くらいだろうか。
黒が主体の服に腰につけた白いエプロンがよく映える。
一瞬だけ襲ってきた女の子を思い出して身構えたが、目の前の少女の怪訝そうな顔を見て我に返った。
今の自分は泥だらけでズタボロのリュックを背負い、木刀を持ったかなり危ない人だからだ。
「や、夜分遅くにすみません。道に迷ってしまって...」
「なんだ、外の世界から来た人間か?珍しいな」
少女は何かを察したらしく、パッと笑顔を咲かせた。
「とりあえず入れよ。疲れてるんだろう?」
答える間もなく家の中に引っ張りこまれ、椅子に座らされる。
「今、茶をいれてくる」
「え、あ、おかまいなく!」
もっと他に言わなければならないこともあるはずだったのだが、反射的に出た言葉はそれだった。
家に入れてくれたのは嬉しいしほっとしたが、ここまですんなりだとかえって心配になる。
何か裏がありそうな感じもしなかったし、押しかけておいてなんだが迷惑だったんじゃなかろうか。
「あんまり心配そうな顔すんなって。私が入れたんだから迷惑とかじゃないぜ」
いつの間にか戻ってきていた少女が、マグカップを置きながら向かいに座った。
「たまにはアリスを見習わないとな」
「アリス?」
「いや、こっちの話だ。そういえば名乗ってなかったな。私は霧雨魔理沙。この霧雨魔法店の店長だ」
ここ店だったのか...
と思ってしまうほど、店という雰囲気もない。
それ以前に魔法店とは一体なんなのだろう?
「...そっちの番だぜ」
思考が移ってしまい、名乗り返すのを完全に忘れていた。
慌てて自己紹介する。
「轟隆也です。よろしくお願いします」
「こちらこそっと。これで私達は友達だな。だからそういうかしこまったのは要らないぜ」
自己紹介したら友達というのはあまり聞いたことがないのだが、そういうことになったらしい。
別に反論する必要も無いので、それでいいと思った。
「で、友達の私に外の世界について教えて欲しいんだが...」
出会い頭にも言っていたが、「外の世界」という単語に聞き覚えがない。
まるで自分達が別の場所に住んでいるかのような...
「すいません、外の世界って...どういうことですか?」
「だから敬語は要らないって。むずむずするぜ。えーと、説明が難しいんだが...とにかくお前が住んでいたのとは違う世界だと思ってて間違いない」
「違う...世界...」
現実を受け入れたくないというように、思考がショートした。
考えがまとまらなくなる。
坂から転がり落ちたのがきっかけで夢でも見ているのか?
それにしてはおかしい。長すぎるし、場面が飛ぶことも無い。
手元にはボロボロのリュックと命を救ってくれた木刀があるだけだ。
「言っとくが夢じゃないぜ。現実だ」
「ええと...」
「気楽に構えてればいいさ。戻るも戻らないも、全部お前が決めることだからな」
「帰らなくてもいい...のか?」
「勿論」
魔理沙は自分のマグカップに口をつけた。
さっきまで不安だった筈なのに、急に救われた気がする。
家に戻らなくてもいい。あの世界に戻らなくてもいい。
そう言ってくれたのだから。
「...ありがとう」
「ワケありみたいだな。どうしたとは言わないぜ」
「大丈夫。親もいないから、誰も心配しないさ」
「奇遇だな、私もだ」
魔理沙は急に立ち上がり、(おそらく)台所に向かった。
「腹減ってないか?残り物出すぜ」
「...本当にありがたい」
リュックに(外から見えてしまうが)木刀を入れ、テーブルの足に立てかける。
よく部屋の中を見ると、案外本が多い事に気がついた。
「...この本、全部霧雨のなのか?」
「魔理沙でいいって。そうだぜ、借り物だけど」
借り物なら自分の物ではないだろうに...
「覗いてもいいか?」
「いいぜー」
何かをドタバタと準備しているらしい魔理沙から雑な返事が返ってきた。
転がっていた手帳のような本を手に取り、広げる。
内容は植物をどうすると光を発したとか、どの組み合わせで爆発が起きたとか、大きな発見から小さな軌跡までしっかりと書かれているものだった。
使い方の考察や保存方法等、内容自体は魔法じみているが科学の教科書に近いと感じた。
この現象が実際にあるなら彼女は魔法使いだろう。
霧雨魔法店という名前に納得した。
「あ!それはだめだぜ!なんでこんなとこに!」
いくつかの皿を持った魔理沙が、手元の手帳をみて素っ頓狂な声をあげた。
「え、借り物じゃ...」
「それは私の日記だ!」
「わ、悪い!そんなつもりは!」
「...かなり恥ずかしいが、他言無用だぜ...」
「口が裂けても言わない。絶対」
「言ったら許さないからな」
「...分かった」
年齢が違わない筈なのに気迫が凄い。
漏らしたら本気で殺される。
「...食べてくれよ」
「い、いただきます」
こんばんわ。作者の人です。
一週間更新にしようと思ったのに30分遅刻だぜ。
テスト前だからしょうがないね...
さて、今回は魔理沙さんが登場しました。
余りある可愛さを表現できたかと問われれば力不足だったと答えざるを得ませんが、これでも精一杯です。ええ、ええ。
1話でなるべく落としつつ、良いところでは引っ張っていきたいですね。勿論伏線も張りながら。
ここまで読んでくださってる方がいらっしゃいましたら、ぜひとも評価していただけると嬉しいです。
読んでくださってる方がいるかどうか、見方がわからないので助かります。
それではまた来週。失礼致します。