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9 江東の虎2 任命してみよう(長任)

 長任ながとうたちは奥の広間へ案内されると、ほかにも何人かの武将が待っていた。

「長任さんはおもしろいかたね」

 あきらはニュースキャスターのように落ち着いた微笑を見せる。

 永松ながまつ正法まさのりのすぐ後を歩きながら、広い背にパシンとつっこむ。

(璋さんも相当におもしろいかたのようで!)

 正法はむっすりとした表情を崩さない。


「さっきのはその……犬南いぬなみさんとは学祭などで顔を合わせていて、せっかくだからゲーム内でも合流できたらと思っていたので……そう、一部で悪い噂のある大学サークルも参加していたから。ゲームではあるけど、自分の近くで守りたかったの」

 おとなびた苦笑を見せる璋に、長任は素直に感心した表情を見せる。


「でもまー、弓帳ゆみとばりさんのところなら今のところ最大勢力だし、もう心配ないっすよね? 不具合修理の相談もできて助かるようですし」

 子達皿こたつざらは両手を広げてヘラヘラ笑う。

「そう…………ね」

 璋はほほえんだまま中央の席に座るが、目だけは少しうとましそうに子達皿を見ていた。


「そうでもねえぞ? そろそろ二位の総スポと逆転するんじゃねえか?」

 正法が何気なく子達皿に返して一同の視線を集める。

「賊軍は数こそ一気に増えるが士気は落ちやすいし、脱落兵士も回復しにくい。財政も略奪が頼りだから、各地でプレイヤーがまとまってくると、長期戦での弱さが出てくる」


「そうなると、領地を確保しながら拡大している総スポが有利?」

 璋はうっかり明るい声を出してしまう。

「あ、いえ。私が領土拡大を続けたことは無駄じゃなかったわけね?」


「いや、賊軍との交戦地域まで広がって無駄に消耗していた」

 正法の無遠慮で無愛想な回答に気まずい空気が流れる。


「それなら、今からでも縮小集約して……」璋。

「各地で賊軍が下火になると、今度は領土争いが激化する。今さら手放しても競争相手のエサになるだけだ」正法。

 永松がたまりかねて激しいツッコミをいれる。

「ハイそこで! 知力80が自慢の正法先生はなにを言いたいわけかな?!」


 正法は永松のすねたような顔をジロと見下ろしたあと、ニヤリと笑う。

「俺は知っている範囲の情報を分析しただけだ。勝つための戦略は話した通り。今ある領土をなるべく保ち、ジリ貧になる前に同盟を探ることじゃねえか?」


「なるほど……すると問題は守備の配置ね。ほかの方面はともかく、北だけ無理が出ている。中央に近いから捨てがたいけど……」

 璋がうつむいてつぶやく。



 いっぽう長任は、正法の抱える卵だけ真剣に見つめていた。

「時間経過からするとヒヨコになってもおかしくないのにね?」

 子達皿が小声で話しかけ、長任は驚いたあと、嬉しそうに何度も小さくうなずく。


「難しい話は好きな人たちに任せて、町へ見物に行こうか?」

 子達皿の提案に長任の顔がぱっと明るくなり、永松が振り向きざまにツッコミをいれる。

「ハイそこで! 武力80を誇る長任先生が主役となるわけです!」

 たたきつけた平手は紹介も兼ねていた。


「え……え?」

 長任はとまどいと気落ちを露骨に顔へ重ねる。

 助けを求めて子達皿を見たが、クスクスと腹を抱えているだけだった。

 そして周囲が長任を見る目も変わっていた。

「賊相手の指揮戦闘なら慣れていて、特に弓がうまいので守備向きです」

 永松は我が子を自慢するように長任の肩をポンポンたたく。


「武力以外は? 持久戦もだいじょうぶそうなステータス?」

 璋に聞かれ、長任はあわてて手元を操作する。

「そういうのはちょっとわからないんで……」

「ちょと待っ……!」

 永松の阻止は間に合わず、長任の頭上にステータスが公開される。


長任奉弓ながとうほゆみ

 体力80・武力80・知力60・徳力80


 集まった武将が一斉にうめき、口々に声をあげた。

「うちのプレイヤーでは間違いなく最強だな」

「有名武将と比べても上位に入る合計値じゃないか?」

「なに? バグ? 特別な成長手段とかあるの?」

 長任はおびえ顔であとずさり、正法は呆れ顔で同情する。


「長任さん、手伝ってもらえると助かるのだけど……兵士数は千五百? もう三千ほど預かってみる気はない?」

 璋の顔がほころんでいた。

「あの、私は農地開発しかしてなかったので……」

「ですから補佐役が必要ですね。私がつきます。様子見と慣れのために北の前線がいいと思います」

 永松は割りこんで言い切ったあと、長任の助けを求めるような目から顔をそらす。

 そのあとでゆっくり目だけ向け、残念そうにうつむく。

(ちょっと強引すぎたか。連れて行って様子を見たかったけど……)

 長任に苦笑を返し、永松が発言しかけた時、会場の視線が入口に集まる。



 文官姿でペッタリした長い前髪の男がすり足で入ってきていた。

 細いたれ目で長任を横目に見ると、薄いくちびるからシヒヒヒッと声がもれる。


魚日長ぎょひなが、こんなところでなにやってんだ?」

 困り顔だった長任が、にわかにくだけた声をだす。


(そう、なんでこの不気味男子はよく城をうろついているんだ?)

「……って、長任さん、お知り合い?」永松。

「私、バレーボール女子の部長だから」長任。

(それは知っている。でも関係がわからない)


「クックッ。なんでって、同盟を組んだからだよ。ボクの拠点は中央に近くて激戦地になりそうだし。気が合いそうなのもやっぱり、体育会系のみなさんかと思ってねえ」

「なるほど」長任。

(なにが『やっぱり』?! なにが『なるほど』?!)


「バレーボール男子の部長みたいよ?」

 子達皿が永松の背後からささやく。

(またこの子はたちの悪い冗談を……え? 事実?! そのほうがたち悪そうだし?!)


「いや、えーと、魚日長くん? ここに今、なんの御用?」

 同盟者である璋までとまどっていた。

「長任くんが来ると聞きましてねえ。みんな、扱いに困っているんじゃないかなあと」

 細い目をさらに細め、床を見つめて含み笑うバレーボール少年。

 永松は思わず手近な長任を代用にツッコむ。

(アンタのあつかいも相当に難儀だよ!)


「あ、ああ。そうなんだ。助かる。こういうゲームはぜんぜんわからないのに、興味本位でここまで来てしまって。邪魔にならないよう、どこか奥のほうで過ごしたほうがよいと思うのだけど……」

 長任がなにか了解したように永松へ苦笑を返してうなずく。

(いやああ! そういう意味のつっこみじゃないっすぅ!)

 永松があわてて首を振り、長任は首をかしげる。


「ククーックックッ。ほら……ね?」

 魚日長は顔を床へ向けたまま肩をふるわせる。

 璋も眉をしかめつつ、そっと手先だけでツッコミの仕草をしていた。


「そうかあ。残念だなあ。対人戦こそ最大の楽しみだから、試してみればいいのになあ。北の前線はボクの領土の近くなんだけど、馬を育てていたよ。羊もいたねえ」

 永松は長任のピクリと反応した様子を見逃さない。

 璋やほかの武将は首をかしげていた。

「いろいろ飼いやすくて出荷しやすい位置にあるのに、激戦地だから荒らされやすいようでねえ。治安が悪いせいか、なぜか猛獣も多いんだよねえ。馬くん、無事かなあ」

 長任がうつむいたまま、そわそわしはじめた。


「璋さん、長任さんの統治管理は報告してある通り、とても安定しています。戦争に関する連絡は私が補助につきますので、すべて委任でもだいじょうぶでは?」

 永松が自信のある笑顔で視線を送り、璋もその不敵な表情に気がつく。

「そ、そうね。もし引き受けていただけるなら、好きなように管理していただいてかまいませんよ? 食料をどれだけ貯めこんでも困る位置ではないし」


 長任はまた困ったような表情になるが、どこかうれしそうだった。

 魚日長はニタニタと、視線だけで長任を探っていた。

「そうなると、ネズミ対策にネコがほしいかもねえ? いなければ、代わりに犬でも……道すがら拠点で少しずつ分けてもらえば、どれくらい集まるかなあ?」


 長任はうつむいたまま、なぜかうっとりとほほえんでいた。

(落ちた。……魚日長くん、恐るべし)



 会議が終わり、城門前。

「じゃ、自分は残るんでここらで」

 子達皿はひらひら両手をふるが、向かい合うのは馬上でむっすりとした正法だけだった。

 永松は馬に乗ったまま立て札を忙しく読みあさっていた。

「おっと、すみません。行きますか……あれ? 長任さんは?」

 長任は白馬を引いたままフラフラと花売りの行商を追って路地に消えかけていた。



 長い移動をして、周囲の山がいくらか低くなった緑の多い土地へ達する。

 広くなった川へ沿うように城壁が作られていた。


「関所と言うからもっと小さなものを想像していたけど、私のいた所よりずいぶん大がかりな城だな……荒地のほうが少ない。耕作し放題じゃないか……」

 長任は白馬にニワトリ入りのカゴを十六個くくりつけ、白い犬も一匹連れていた。

「主な任務は拠点防衛ですからね?」

 永松の馬にも大量の苗や種もみの袋が満載されていた。


「じゃあ、俺はもどるが……」

 先導していた正法が城門前で振り返ると、長任は遠くに見える牛の群れへ駆け出していた。


「動きに出る『やる気』だよな」

 正法がぼそりとつぶやき、永松が間を置いて手を打つ。

「そっか。三姉妹様がいくら天才でも、正法くんの言葉に出さない意欲までは測定しがたいわけか」


「それと、あくまで戦闘力につながる基準での性格判定なんだろ。言葉より行動、中でも攻撃的な要素を重視だ。長任は独りだったから、全部を自分でこなしていた。あと、作物の荒れをやたら気にしていたんだよな?」

 永松がふたたび手を打つ。

「そっか! 畑全部を守ろうとすれば、近づく前に殲滅しようとする。人だけ守るより、はるかに過剰な攻撃性と判定された?! 猛獣も見かけるなり追い回していたようだし……ん?」

 牛の群れへ迫る長任が馬上で弓を引きしぼっていた。


「待ってええ! 武力80の『ヤる気』抑えてええ!」

「せやっ! せやっ! せやっ!」

 矢は次々と牛を越えて川沿いの森へ吸い込まれる。

 肩に矢を受けたクマがうなり声と共に森から飛び出し、突撃してくる。


「せやせやせやせや!」

 長任は馬を疾走させたまま一射ごとに精度を上げて狙い撃ち、十射足らず、二十歩は開けた距離でとどめを刺す。

 そしてすばやく馬から飛び降りると、ニワトリかごの一つをはずして駆け出す。

「驚かせてすみません。おわびにこれを」

 牛追いの老農夫が怯えてへたりこんでいた。


「徳力80の『思いやり』……というか、人形住民に思い入れするほど独りぼっちプレイが長かっただけじゃねえか?」

「あくまでゲーム仕様の評価ですから……」

 ふたりは複雑な表情で目を合わせる。




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