40 長安の暴風 7 ゲームを中断してみよう(主要人物全体)
「バタイさん、バチョウさん……!」
長任は知らない武将だったが、ともかくも笑顔を向ける。
しかしバタイ氏は顔を引き締めて叫んだ。
「このバタイ、死地といえど志を果たすまで臆することなし!」
「え。え? もう町のNPCさんたちは救えたし……」
長任が近づくと、バタイはドタドタ走り回って脱出路を探す。
「まだ味方とは思われていませんてば」
永松はひさしぶりに素でつっこみ、近くをうろつくバチョウとも慎重に距離をとる。
「そんな。同じ思いで協力してくれたんじゃ……?」
「戦況の不利や、バチョウさんの兵士に攻撃を当ててしまったことが大きいのでは? あとは貸し借りで配下にしたばかりとか……まあでも、町人NPCへの攻撃も影響が大きかったということでいいと思います。長任さんの心の中では」
「いや、それが決め手じゃないと困るというか……永松さん、今かなり私をバカだと思っている?!」
長任は背をぽんぽんたたいて薄笑いした永松の肩をがくがくゆする。
そんなふたりのコントを正法は怪訝な顔で聞いていた。
「なんで勝てたのか、だいたいはわかったが……さっぱりわからんような……あ、おいバチョウとバタイが通るから気をつけろよ」
階下の遠行軍と園本軍も到着し、その多くはバチョウとバタイへの『説得』コマンドを連打していたが、強引に囲んで閉じこめておく余力はなかった。
「おい正法、お前の所の城主だろ?」
「今度はいったい、どんな珍妙スキルを使ったんだよ?」
横蓋も豊田も、珍獣を観察するかのように長任の照れ顔を探る。
「愛とか正義とか、そんな感じのやつです」
寥花のにこやかな説明は軽やかに無視される。
「バチョウは捕まえそこなったか」横蓋。
「バタイだけ閉じこめてもやっぱ襲ってきたかな?」豊田。
「まあでも、あの人たちは史実でもあんな感じですし。それにしたって警戒されすぎかな……交戦したから? 独立後も矢を近くに撃ちこみまくったし」永松。
「私はバタイさんが味方になってから、一本も当ててないよ?」長任。
「だからNPCのオツムまでは天才三姉妹様の改造を受けていない、民間学生レベルですってば」永松。
状況確認の伝令が飛ばされ、領地と資産の配分が協議され、帰還の準備がはじまる。
「角黄軍によると、リョフ軍団は重草が消えるなりすぐ撤退したそうだ」正法。
「玄関も誰もいない。くっそー、せめて重草に一撃くらわせたかったが」横蓋。
「階段の下でつぶしたんは弟とか従兄弟なんよね?」
淳の発言は横蓋よりも不満そうな園本へ向けて、なだめるような苦笑。
「残党がいなくて安全なら、体力と兵士数の回復は少し早く切り上げて、帰還を急ぐか」豊田。
「この城は璋軍のものになるの?」長任。
「位置でも戦力でも、維持できそうなのは璋軍ですからね。その分の資金はけっこう払いますけど」永松。
「まあ、璋軍があまり育ちすぎたら、それこそまた連合を組んでぶつかるまでだ」横蓋。
「私が手を貸さないと生き残れないなら、手駒に利用してあげてもいいけど……」
園本はそう言いながら遠行松路を探すが、少し離れて自軍メンバーと話している姿を見つける。
「勝てちゃいましたね! なんだかいろいろあるにしても……早くみんなに報告したい~!」日美子。
「あの世で組茂さんと、その他あれこれもたぶん喜んでいるよ」遠行。
「不十分です。我が君が天下を統べる覇者となり、彼らを古の英雄のごとく讃え、ようやく献身に報いたと言えるのです」ロシュク。
「いやそれだと、こいつの配下なった時点でバッドエンド確定だから、ハードルもうちょい下げてやらないと……そろそろうちに吸収されていいんじゃね?」
わりこんだ告遠子はなれなれしく遠行と肩を組み、組授は無言でその腕を引っぱり、もうしわけなさそうに頭をさげる。
いっぽう、城内でただひとりの角黄軍である寥花は片隅でうなだれていた。
「ふふ……また自軍のリストに自分しかいない……みんな先に帰ったんだ……総大将のとどめに貢献したのにな~。はぐれザコあつかいのまま置き去りか~」
「ぷーくすくす。忠誠心だだ下がりなら、正法くんのくどきに落ちちゃいなよ」
子達皿は人の不幸に目ざとい。
永松はすかさずつっこむ。
「そんな言い方では、かえって移りづらいでしょうがっ」
寥花は長任が期待のまなざしを向けていることに気がつき、本格的に迷う。
「ん~、でも角黄軍には意味不明なほど待遇よくしてもらっていたから……」
「お嬢さん、国の敵対と協力が三国志なら、武将の離反と従属もまた三国志だ。楽しめばいい」ゆっくりうなずく横蓋。
「お。いいこと言いますね」永松。
「ロリコンおやじに狙われている?!」寥花。
「俺はロリコンだが、お前は趣味じゃない!」いいセリフが台無しの横蓋。
長任は小柄な永松をそっと背にかばう。
「それに俺は去年が成人式で……」
「ウソつけ!」寥花ほか多数。
「楽しそうなところ悪いけど、そろそろ出発で……え?」
遠行に届いた伝令は角黄軍の、それも君主の角黄からだった。
その場にいる十数人も次々と同様の反応を示す。
『すべてのプレイヤーさんに配信しています。角黄軍の君主ではなく、ゲーム研究会の犬並さんの代理としてお伝えします』
『ゲーム時間で次の日の出から丸一日は、全プレイヤーさんは戦闘を休止して、城の立て札の確認をお願いします』
すでに空はかなり明るく、夜明けは近い。
「そういえば、そろそろ最初の休憩でしたっけ?」日美子。
「事前予告があるはずだったけど、バグ対応で忘れていたかな?」遠行。
連合軍の全員でぞろぞろと城門近くの立て札を確認しに行くと、どよめきが起きた。
『皇帝・犬南協留 志半ばに没す』
犬南の所属は角黄軍になっていたため、視線も寥花へ集まったが、寥花が最も驚いていた。
「な……なにが起きた? 侵攻されたの? 処刑したの?」
うっかり不穏なことも口走り、正法と横蓋と豊田ら参謀陣まで困惑させる。
立て札に表記された時刻よりも少し前、犬南は首都の居城で重草軍消滅の速報を受けていた。
「おお~。三国志ですね~。MVPは長任さん? お~。あの遅刻したビギナープレイヤーさんが活躍ですか。これはビギナーさん向け仕様をがんばった甲斐がありました~。でもトップ勢力が順位転落ではなく、いきなり消滅ですか~。ま、これはこれで。こういうバランスも~」
そこまでは笑顔だったが、頭を抱えてのたうちはじめる。
「でもバグは洒落になってない~。原因も応急手段もわからない~」
「あまり思いつめると体力が減ってしまいます」
角黄も隣にいて、味のしない茶をいれて渡す。
「そうでした。体力10のネタステータスでした。なるべくストレスを貯めないように……角黄さんに頼ってしまうならば、どのような原因がありそうですかね~?」
角黄は茶をコトコトのどへ流しこんだあと、自軍の情報を表示させる。
「わかりかねます。しかしこれを見ていただけますか」
「はあ。角黄軍のステータス一覧……おお、弓帳さんたちはさすがの90……え? …………え?」
犬南は二度、名前と数値の表記を確認したが、まだ納得できない表情で固まっていた。
「能力測定にもバグ……?」
「いえ、その数値は正確だと感じます」
「えええ? でもそんな。ゼロなんて……え? でも、そうなると、弓帳さんたちは……というかこれ……え。この通りってことは…………ええええ……?」
犬南はがく然とした表情で声をしぼめ、冷や汗の流れる演出の多さに、あわてて自分の体力値を確認する。
元が10で下一桁が省略されているため、ささいなことでゼロ表示になりかねない。
というかゼロだった。すでに残り体力は一桁。
なんとか気を落ち着けようとするが、考えをまとめるほど、かえって汗がふきでる。
「すると……まさか……ああああの…………?!」
犬南の体は光る演出に包まれて消滅し、所持品が残される。
皇帝・犬南の訃報に並んで、角黄の立て札が続く。
『病没した犬南さんは書き置きを残していますので、以降の立て札も確認をお願いします。次の日の出の後もゲームが中断されない場合の指示です』
「あ。そういえば犬南さんが『休憩時間が来ても抜けられなかった場合にそなえて』とか言って立て札を貯めこんでいた」
寥花からようやく角黄軍の身内らしい情報が出る。
そしてすでに、休憩の予定時刻だった日の出になっていた。
犬南の顔がついた立て札には『重要・全プレイヤーさん必読』のタイトル。
『この立て札が出るということは、予定の時間になっても不具合の対処が間に合わず、休憩に入れない状態のはずです。もうしわけありません』
『そしてこの二枚目の立て札が出るということは、なんらかの事故で私まで不在になっています。重ねてもうしわけありません』
あちこちのプレイヤーから、ぼやきや応援の立て札が寄せられていた。
『選択肢はいくつかあるのですが、全プレイヤーさんの意見をおうかがいして決定したいと思います。以下は私の知る状況です』
その後は各プレイヤーの立て札が乱立して論戦になっており、長安城でも連合軍全体が騒ぎになった。
正法「璋軍の方針は……苦しいだろこれ」
遠行「こんなの、議論だけで何時間もかかるんじゃ……」
園本「私が終らせる。じゃ、次は戦場で」
横蓋「待てお嬢ちゃん。ゲーム自体を続けるかどうか話し合っているのに……」
豊田「無駄だって。あの女王は議論にとどめを刺す。じゃ、次は戦場で」
園本が立て札を投げこむと、すぐに多くの反論が寄せられる。
しかし園本軍は読みもしないで帰還に出発してしまう。
「寥花さん、弓帳さんたちにもよろしく。長任さん……次は負けません」
園本が笑顔で手をふってきたので、長任もうれしそうにうなずいて手をふり返す。
隣の永松はそっとつっこむ。
「ですから、ゲームの継続そのものを協議中ですってば」
しかし間もなく、正法がうめく。
「まあ結局、女王の方針になるよな」
「……みたいだな」
横蓋も顔をしかめて同意する。
聞いていた長任は隠れてガッツポーズをとるが、その顔があまりに明るく、永松もツッコミを入れる気にはなれなかった。
あとがき
『ヴァーチャル三国志で迷走してみよう!』第一部終了です。
ここまでの読破ありがとうございました。
次回『41 帝都の炎上 開発者に問い合わせてみよう(主要人物全体)』は現在、執筆中です。
このあと数回は『番外 人物紹介 (ネタバレをふくむ)』が続く予定です。




