39 長安の暴風 6 天誅を下してみよう(長任)
兵士のつまった迷路を横蓋と淳が堀り進めていた。
豊田とロシュクが計略で補助をして、消耗の大きい日美子は遠行や于示林と一緒に休憩していたが、ふと内緒連絡を飛ばしてみる。
『同じ部屋みたいですし、もしかして通じます?』
『伝令は通れなくても、直接会話ならつながる近さだったか!』
正法の驚いた声が返り、同時につなげていた横蓋と豊田も『なんちゅう見落としだ』『やられた』と讃える。
『さっそくだけど、これから一階は強引に突撃するから、璋軍は上を集中突破で』
『俺らだけつっこませる気じゃねえだろな』
豊田の指示に正法が渋る。
『本当はそうさせたいんだけど、うちの女王はむしろそっちへわりこむ勢いだ』
豊田の力ないつぶやきで横蓋が振り返ると、最後尾で園本が自軍の参謀を蹴っていた。
『おい、玄関のほうはだいじょうぶなのかよ?』
『うん、まあ、だいたい』
豊田の立ち位置からは残る文官の組授と告遠子まで来ている姿が見えた。
そしてすぐ外にいたはずの縫や湖車寺などの追手は見えないが、理由はわからないので笑ってごまかす。
内緒連絡をつなげたまま、実声のほうで「どういうことだよ」と小声で聞いても、園本は「いいから急いでー」と投げやりな表情で蹴り続けるだけだった。
『まあいい。やるだけやってみる』
正法は内緒連絡を切ってから「実は渡りに船なんだけどな」とつぶやく。
「お。あの頭、連合の誰か? ずいぶん下の攻撃がゆるくなってきたと思ったら」
階段の中ほどにいる子達皿は乱射のペースを落とし、体力を温存していた。
迷路の中央あたりに色黒のひたいが見え、兵を蹴散らしながらぐいぐい近づいて来る姿が正法にも見える。
「突っこんでくれるらしいから、俺らも一緒に上がっちまおう。タイミングは任せる」
「ではさっそく」
階上の先頭にいた寥花が永松の計略を受けて駆け上がり、障害物の裏へまわる。
入ってみると迷路というより区切りの多い小型城壁で、階段のように積まれた箱から射撃台へ上がれた。
あちこちから矢に撃たれながら、寥花は強引に場所をぶんどって後続を誘導する。
長任が高い狙撃位置をとれるようになると、敵兵を排除するペースは格段に上がった。
子達皿と正法が援護されながら別の壁際へ走ると、長任と互いの死角をカバーし、敵兵の弾幕も分散できた。
「あだだだっ?!」
仕様として痛覚は存在しないが、連続着弾の激しい演出に寥花が声をあげる。
すぐにふり向いたが、相手の姿は見えない。
「長任さんなみのマシンガン……NPCが矢を使うのって珍しい気がするけど、黄忠でも居やがるのか?」
「今、立て札でよく見る君主さんが見えた気がする」
長任は射撃で広間の奥を示す。
「げ。重草本人も異常武力かあ? しかもサバゲー慣れしてそうでやっかいだな~」
階段を囲む狙撃台から見ると、奥にはさらに高い狙撃台があり、その手前には障害物が二重に積まれていた。
永松が内緒連絡を全員につなげる。
『出てくる気がないらしいので、私たちは壁ぞいに近づいてみます』
まだ階下からも兵士が出てくるため、子達皿と正法は近くの狙撃台から階段と広間全体へ矢をばらまく。
狙撃台の裏側にある壁ぞいは柵と荷物で牢屋に改造されていて、学校の廊下ほどの一本道になっている。
牢の出入り口になる急斜面へ乗れば、多少は射撃から身を隠せそうだが、身動きも難しそうだった。
牢内にはNPCの村娘や町娘がたくさんうろついているが、近くで見ると表情や行動が町中と同じで、囚人という感じはしない。
長任の表情が少しだけゆるむ。
「着せかえ人形のコレクションみたいなものかな?」
「服も脱げない仕様ですってば」
永松も軽く苦笑するが、寥花は狙撃台の裏に置かれた卓の上を見て笑顔がこわばった。
ゲーム内で入手できる武器が並べられているが、槍、剣、棍棒、弓矢だけでなく、鎌や鋤などの農具や竹槍といった、実用性の低い品物まである。
長任たちも通路に入った時点で目にしているはずだが、寥花は『これの意味がわかってないなら、知らないほうがいいな』と思った。
「は、早く行こ」
「おっと、もうすぐ計略がたまりますので……へ?」
斜面に身を寄せていた永松は自軍のステータスを確認していたが、長任の体力が落ちる瞬間を見た。
打撃を受けたり、突撃や計略を使った様子もないが、先の通路を見て顔がこわばっている。
城の防衛に使う大型の弩弓が、牢内へ向けて設置されていた。
「あ……」
永松もその異様な仕掛けに気がついて絶句し、並べられた武器が収集用ではないことにも気がついてしまう。
寥花は通路の突き当たり、高い狙撃台にくどい顔の大男が姿を見せたことに気がつき、長任を斜面に押しこむ。
「あだだっ?!」
自分は少し避難が遅れた。
「ご、ごめん……」
長任が気をとりなおして撃ち返すと、重草はすぐに身を伏せて隠れてしまう。
「お前らまだ勝てると思ってんの?!」
立て札で何度か聞いた、耳ざわりな怒鳴り声がした。
「バチョウ! そいつら皆殺し!」
永松は名前を聞いただけで「げ」と言った。
奥から現れたボディビルダー体型の武将は面長で、への字口にV字の眉毛で気合が入りすぎている。
「張飛と互角にやり合ってマブダチになった最強クラス正義の猛将……みたいな?」
寥花はよくわかってなそうな長任へ簡潔に説明し、永松は幾多のツッコミどころをこらえて正法へ怪獣出現の報を送る。
『君主自身が武力90くさい時点でかなり厳しいのに~』
バチョウと長任が兵士を広げあい、バチョウは槍で、長任は乱射で兵士を蹴散らしあう。
寥花も加わるとほぼ互角になり、階段のほうから子達皿の兵士まで応援に来ると、少しだけ優勢になる。
永松は重草がふたたび狙撃台へ現れた瞬間に計略を放ち、加速した長任は相手の乱射をかわしながら乱射を返す。
「バタイ! 護衛!」
永松はふたたび「げ」と言った。
重草の前で長任の乱射をことごとくはじき返した武将は優しげな眉で、顔つきや体つきはバチョウよりややひかえめだが、やはりボディビルダー体型。
「バチョウさんの従兄弟で、比べたら地味だけどやっぱり猛将……つーか、どっちも馬に乗せて使えよ」
寥花はバチョウを近づけさせないように兵士を流し続ける。
長任は重草をどれだけ狙っても、すべてバタイとその兵士たちで防がれてしまうため、相手を敵の弓兵にしぼる。
重草は安全を確信したのか、前に出て一方的な乱射をはじめた。
「たかがゲームで、なにをそんな必死に寄せ集まってんの?! そこまでして勝ちたい?! 袋だたきで勝って楽しい?! しらけない?! しらけるよなあ?! なあ?!」
重草は嘲りながら威圧し、怒鳴り散らす。
その乱射は長任たちを狙ってバチョウの兵士を巻きこんでいるだけでなく、柵を越えて牢内のNPCにまで当たっていた。
いや、わざと当てていることが寥花と長任にはわかってしまった。
子供が自分の人形を誰かにとられる前に、自分でバラバラにしてしまう幼稚な残虐。
それは執拗にくり返された。
いや、長任たちの動揺を見て、むしろ見せつけはじめたのがわかった。
「丸太落としでまとめてつぶすのが一番笑えたな! 仕掛けるの大変だから、戦争に勝ったら記念にまとめつぶし記録をつくって、みんなにも楽しんでもらおうと思っていたのによお! なんでそうまでして人様のプレイを妨害したいの?! お前ら人間としてだいじょうぶ?!」
長任が不快さで集中力をきらせた瞬間、手数がガクリと減る。
「え……?」
体力はまだ半減には早すぎるはずだったが『ストレスによる体力減少』の噂を思い出す。
永松が『これはもうゲームじゃないや。長任さんを守らなきゃ』と思って寥花を見ると、同じような心配顔で、おそらくは撤退の指示を望む視線を向けていた。
しかしその表情がふと、意外そうにバチョウへ向けられる。
重草は相手の暗い表情と止まった動きを見て、どこまでも声を大きくする。
NPC女性ばかり狙って撃つようになる。
「それで結局は倒せないとか、どれだけだよ?! 結局は俺が勝つんだろ?! 頭のキレもメンタルの強さも違うから? ゲーム仕様を応用したお遊びまでする余裕があって、それでも勝てちゃうわけ! それが現実だっての! 俺を負かせるやつなんていねえから?!」
その背後から力強い叱咤が響く。
「このバタイは不義悪逆の輩を許さぬ!」
重草がギョロ目を向けると、さっきまでの護衛役が槍で斬りかかっていた。
気がつくと通路のバチョウとその兵士も、長任たちへの攻撃を止めていた。
「バタイさん、バチョウさん……?」
長任は呆然と見ていたが、だんだんと顔を上げる。
「……永松さん、計略お願い!」
永松は計略の貯めをつくりながら一応は長任の体力値を確認し、思わず噴きだす。
「バカみたいに回復していますね……ちょおお~う!」
長任が表情と全身を輝かせて駆け出す。
寥花がすでに先導していたが、防御姿勢で突っこんでもバタイとその兵士は手をだそうとしない。
「うわ~。忠誠心が底をついている感じ?」
「なんだよこのクソ仕様?! 意味わかんねーし?!」
重草は奥の壇上でバタイと乱戦になり、そこへ長任の正確な連続射撃も加勢する。
「うぜーよ! やめろって! 不具合だからこれ!」
重草は長任へ撃ち返すが、寥花とその兵士が盾になって防いでしまう。
「いえセンパイ。こういうゲームみたいですよ~?」
寥花がダメージを受けながら楽しそうに手を振ったので、長任も思わず笑顔で突撃を選択できた。
「せせせせやせや! せせせせせやせやせや! せせせせやせや! せせせせせやせやせや! せせせせやせや! せせせせせやせやせや! せせせせやせや! せせせせ……」
「敵将・重草、この長任が討ち取ったり!」




