36 長安の暴風 3 法を説いてみよう(長任)
「よかったじゃないですか。街中を荒らすのではなく、直接に主犯だけたたけます」
「でもそれってプレイヤーさんだよね?」
「うちの虎御殿を襲った山賊みたいなもんですってば。さあタコシャチョウの仇をとりましょう」
「いや、あの、連合軍のプレイヤーにも脱落がたくさん出ているのは聞いているし、虎だけでなく、みんなが駆けつけてくれたから城を守れたのはわかっているからね?」
「そのわりに今ずいぶんあっさり帰ろうとしていたような」
永松が笑ってつっこみ、長任も照れ笑いで乱射速度を上げる。
正法は猛獣のあつかいは猛獣使いに任せ、先導の寥花に進軍を急がせる。
「このメンバーで大将首?」
「良くも悪くも、下では連合の各軍がそれぞれぶつかり合っている。俺らが加勢して各個撃破という選択もあるんだが、相手が混乱している今の内に本丸のわき腹をつついてみたい……いいか?」
正法の無愛想な顔に、少しだけ女子への気づかいがにじむ。
ゲームとはいえ、自分以外は高校生の女子ばかりで、相手はがらの悪い大学サークルである。
「ふへへ。はぐれザコが巻きこまれた先の散り場所としては楽しそうで、いいですねえ!」
気づかうだけ損だった気がする笑顔とガッツポーズが返り、正法の角黄軍へ対する苦手意識は強まるが、寥花の意外な性格に感心もする。
「そういや重草軍から皇帝を横どりした指揮官だったな。このメンバーではザコどころか頼みの綱か?」
寥花は目をぱちくりさせて首をひねる。
長任と一緒に城内へ乱射している子達皿が視線をむけてにやつく。
「お。正法くんがまた不器用にくどいている」
すかさず永松がつっこむ。
「ステータス数値ではない能力の話ですってば。たしかに主力ふたりがボケ担当では、後方補助でないツッコミ役は貴重です」
「え? 私? ツッコミキャラだっけ?」
「ああ、まあ、長任さんに比べたら、という話で」
寥花を乗せすぎないように、永松は軽くつっこんでおく。
「気負わなくていい。あんなのと刺し違えというのも気分のいい話じゃねえからな。城内へ突入できた時点で、重草軍を三位以下へ引きずり落とすダメージは確定したようなもんだ。今までのやり口からして、統一を狙える挽回は厳しい」
居城に近づくと兵士がわき出てくるが、長任と子達皿が乱射を向ければ問題なく一掃できる量だった。
「もちろんどうせならとどめも刺して、その後はこの四軍で優勝争いをできる状況になれたら完全勝利だけどな」
「あの、うちの天才三姉妹様は、そこまで考えて連合を組んだのでしょうか?」
とまどう寥花の顔に正法がとまどう。
「こっちが聞きたいんだが。園本軍と遠行軍はこの戦争中に限っては信用できそうだが、角黄軍は最初から今現在まで意図をつかみきれない」
「ゲーム開始前の挙動からして怪しいですよね~」
角黄軍の大幹部とされる寥花が笑ってうなずき、正法の混乱は深まる。
「まあとにかく、総スポがなにかゲームの範囲を超えた嫌がらせをしてくるようなら、無理はしなくていい」
「そういえば、ゲームの中でまで人に嫌われることをするなんて、どういう発想でしょうねえ?」
永松が首をひねると、寥花がすぐに笑顔でつっこむ。
「いやいや、ゲームの中だから好き放題に暴れまわるんでしょ? いくらでも強盗・殺人・だまし・裏切り…………あ、いえ、なんかすんません」
長任の悲しげな目がいたたまれなかった。
永松もそっと寥花につっこみ返してあげる。
「しかし言われてみると、違いはなんでしょうねえ? 私も対人戦のだまし・裏切り・ぶんどり合い系のゲームとかけっこう好きですし、それって撃ち合いより外道な気もしますが……なぜだかこのゲームの重草軍は、見ていてしんどいです」
居城の中もまばらに兵士が駆け回るだけで、武将の姿は見えなかった。
しかし牧場に使われる柵や貨物用の木箱や壷が大量に持ちこまれ、迷路のようになっている。
「ルールすれすれというか、ゲーム研が細部を詰めていない仕様につけこんでいるからかねー?」
子達皿はそっと長任と寥花の肩を押して先頭を押しつけ、自分は後方から来る兵士相手の射的を続ける。
「いえ、それなら各部活での待ち合わせとか、うちの牧場バリケードや猛獣トラップだってたいがいですよ? まあさすがに、リアルの威圧や金銭を使ってまで勝ちたいとは思いませんが」
永松は兵士に指示して迷路を先行させる。
「だが戦略ゲームだと買収・脅迫・嫌がらせの線引きは難しいな」
正法は伝令を作成し、多めに兵士を預けて走らせる。
「そういえば遠行軍のマッチョ大学生なんか、色気に買収されて顔面が脅迫で存在が嫌がらせですもんね……あ、いえ、でも悪いプレイヤーではなさそう、という話で」
ついに正法まで心苦しそうに小さくつっこみ、寥花はふたたび自分の軽口を後悔する。
「結局は品性の問題だな」
「へー。法学部でその結論なんだー」
子達皿がなにげなく返し、正法は片眉だけ動かす。
「でもマナーじゃどうしようもないからルールがあって、ルールだって暴力の前じゃどうしようもないような……いえ、ゾンビ映画の発想なんですが」
寥花がこりずに口を挟み、永松の阻止は間に合わない。
「逆だ逆。そういった暴力至上主義に合わせて暴力を単位に語るなら、品性は強力な洗脳兵器で、法律は優れた軍事マニュアルだ。大きな暴力をより効果的に運用する手段なのに、失えばどれだけ戦力的に不利だと思っていやがる」
正法はそこまでまくしたてて子達皿の含み笑いに気がつき、バツが悪そうに声のトーンを落とす。
「そもそも法律は、暴力や感情といったすべての現実もふまえた利益の最高効率を求めて作られる。その中で最重視されているのが人格だ。マナーやルールをやぶっていきがるやつが不様なのは、自分で未来を狭めている弱さを自覚していないからだ。暴力を扱う人間だろうが、強いやつほど規律は大事にするし、礼儀にもうるさくなる……ちっ、乗せられて熱くなりすぎた」
「ぷふー。それでも語りきらずにいられないのは性分だよねー」
ついに正法も子達皿を背後からそっと蹴る。
永松は計略光線をためて歩きながら、中空を見ていた。
「ふーむ。重草軍は璋さんなどの反感を買わない『マナーという技能』があれば、軍事的にもっと有利だったわけですからね……品性や協調性すら軍事力で換算なんて、えらくドライな発想ですけど」
「でもその発想で、結論は愛と正義の信仰なんだよ?」
子達皿が小馬鹿にした顔で笑いをこらえ、その背後でついに正法も剣の切っ先を向ける。
「俺がいつそんなことを言った。そんなに間違ってもいないが、俺の正義にはマナー知らずに容赦しない正義も含まれているからな」
無愛想にすごんでいるが、耳は赤くなっていた。
長任は黙々と迷路を先導しながら、話についていけない時の照れ笑いを浮かべていた。
「えーと、つまり、正法くんはマナーに厳しいけどいい人、ということ?」
長任の要約に子達皿がふきだし、正法は顔を真っ赤にしてうなだれる。
「すまん、俺が悪かった。この話題はもうやめよう」
璋軍の現地司令官は敵陣の城内で柱にすがりつく。




