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35 長安の暴風 2 撹乱させてみよう(主要人物全体)


「ちぇすと~お!」

 日美子ひみこは突然、ロシュクから計略光線を受けて飛び出す。

 城門を開けていた陽奉あきよしは驚いた顔で、閉める動きを見せる。

『協力者さんですよね?! ありがとうございます! そのままゆっくり閉めるふりを! 私も剣は当てませんので!』

 日美子は走りながら内緒連絡を送り、加速効果が鈍ってくると二段ロケットのように自分の計略も重ねて高速を維持し、城門へ飛びこむ。


 横蓋よこぶたは驚いて追いかけていた。

豊田とよた、頼む!」

「一番乗りと突撃玉砕の名誉は譲る」

 園本そのもと軍の文官たちも、日美子がいきなり駆け出した時点で計略の準備はしていた。

 横蓋、ロシュク、ついでに遠行とおゆきも加速されて城門へ突入する。


 中では日美子が剣を両手に跳ね回り、陽奉たちを避けて兵士や柱を斬りまわっていた。

「日美子ちゃん、すぐ横蓋さんと交代! いきなり独りで無茶だよ?!」

 遠行たちも兵士を広げると、ようやく陽奉も自然に距離をとりやすくなる。

 横蓋が先頭になって侵入路を守り、兵士を蹴散らしはじめる。

「たしかに一秒でも早く確保すべきではあったが、うちの姫様は思い切りがよすぎるぜ」

 大通りの先から、異変に気がついた重草軍の武将たちがすでに駆けて来ていた。


「もう少しここで見物しとくか?」

 告遠子ことこは城門直下で馬を止めるが、豊田の馬に押し出される。

「いや、肉壁がある内に大将首と宝物庫を探しに行こう」

 横蓋がふり返り、わざと敵兵士の半分を通す。

「くらあっ、聞こえてんぞ! お前らもさっさと手を貸しやが……」

 どやしつけるが、園本が真正面で笑顔になると口をつぐむ。

「四軍の誰が城主の首をとるか、競争ですね」

 すかさず遠行がわりこむ。

「しねーよバーカ。MVPはもう、侵入路を確保した日美子ちゃんに確定してんだ」

松路まつみちが直接にとどめを刺せたら、その時点で文芸部の勝ちでいいけど?」


 後から入ってきたあきら軍の正法まさのり永松ながまつは興味なさそうに手をふって城壁の階段へ向かう。

「財宝はともかく首は好きに任せる。俺らは城壁で陽動だ」

「こちらは頭脳派男子一名と、あとは可憐な女子ばかりで荒事には向きませんので~」

 その後へついていく寥花りょうかは発言すら遠慮するように薄笑いをそむけた。

 さらに後の長任ながとう子達皿こたつざらはまったく緊張感がない。

「園本さんも農業特化なのかな?」

「家畜らしきものを集めて飼う趣味はありそうだよね」

 雑談をしながら矢の雨だけは撃ち続けて城壁の上を一掃していく。


「どこが可憐だ……まあ、あの武力で敵をひきつけてくれるならありがたい」

 豊田は于示林うじばやしに城壁ぞいの道を示して先頭をきらせる。

 しんがりで最後尾にいるじゅんが兵士を広げて道をふさぎ、その流れは路地へも差し込まれて複雑にぶつかり合い、元の居場所を撹乱させる。


「しょうがねえなあ。こっちはこのまま、中央よりに向かうか」

 横蓋は侵入路から真っすぐの大通りで、迎撃部隊を押し返す。

 まだ見えている相手プレイヤーはひとりで、日美子とロシュクは自分自身へ計略をかけ、側面にまわりこんで包囲する。


「くがあああ! 敵将・玉方たまがた、この横蓋が討ち取ったあああ!」

 一応は包囲に参加していた遠行が急いで日美子を抑える。

「あ、はい。休ませていただきます。ちょっと計略と突撃を連続しすぎですね」

 明るい笑顔でうなずかれると、遠行も少し落ち着く。

「ちゃんと計算はしていたんだ。でも日美子ちゃんにロシュクを預けておくと、思い切りがよすぎて気が気じゃないな。すごく助けられているけど」

 横蓋も困ったようにうなずく。

「使いこなしは文句なしだが、嬢ちゃん自身がなんでもできるから、体力の使いどころが多すぎる……ん?」

 中途半端な位置で、中途半端に兵士だけ小競り合いさせている重草しげくさ軍がいた。

「あのー、ここの軍の代表者さんでしょうか? 遠行軍は一番それらしくない人が君主と聞いていますが……」

 内応して開門した演劇部の陽奉あきよしである。

 顔や体が少し太めの男子大学生で、目や眉は小さく、自信のなさそうな顔をしている。



 横蓋は陽奉がすぐに敵へ潜りなおすでもなく、遠行軍へ加勢するでもなく、路地に潜んで傍観し、今また重草軍のほかのプレイヤーがどこから駆けつけるかもわからない中、内緒モードも使わないで連絡してきた判断力に不安を持つが、今は指示などより、包囲されないように移動を急ぎたかった。

 遠行は『初対面でケンカ売ってんのかコラ』という言葉が表情に出ていて、思考は止まっていた。

 日美子は両手の短剣と両胸を豪快に振って陽奉へ進行方向を示す。

「では、ついてきてください!」

「でも俺たちが指示をもらったのは角黄すみき軍で、まだ合流の予定とか連絡が全然なくて……」

「角黄軍のかたでしたら、あの城壁の上にもひとりいますよ? 派遣軍代表の弓帳ゆみとばりさんはまだ外のようです」

「それと俺たちまだ重草軍の所属だから、一緒にいたらまずいんじゃ……」


 横蓋は『まだるこしい。状況を見て自分で動けねえのか』といういらつきが顔に出ていたが、あしらいは日美子へ任せ、大通りに増え続ける敵兵士をかきわけて進む。

 横蓋は頭が鈍い人間の説得は苦手で、理詰めで追いつめてしまいがちだった。


「もうどこでばれているかもわかりませんよ? それに、システム上でまだ所属が変わっていないなら、むしろ都合がいいのでは?」

 日美子は明るく応対しつつ、陽奉たちの棒立ちにはつき合わないで横蓋を追う。

 陽奉たちも引っぱられるように日美子を追うが、すぐに足を止める。

 横蓋の正面へ、眉が太くアゴの埋まった男子が駆けつけて来ていた。

「おーやー? 演劇部のそれってどういうこと?」

 まろやかな声で驚く大楓おおかえでは長任の城を包囲していた指揮官のひとり。


 さらに数人の重草軍プレイヤーが駆けて来る姿が見えた。

「やっべ、はずれ引いたか?」

 横蓋は大きな十字路の手前まで後退し、兵士の波を広げて道をふさぐ。

 璋軍からの加勢を期待して背後を見るが、遠い城壁の上でも直接衝突がはじまっていた。

「よし……ジョコウ先生、お願いします!」

 横蓋があせった顔で笑いかけると、陽奉はほかの演劇部プレイヤーとなにか相談をはじめていた。


「いーやー、それはまずいでしょー? もし演劇部が抜けたいならそれでもいいけど、重草くんへの連絡だけは先にしてきてよー」

 大楓がにこやかに手をふると、陽奉たちはじりじりさがりはじめてしまう。

 この場で演劇部まで敵にしたくないから牽制に屁理屈を言ってみただけだが、時間稼ぎどころか真に受けてくれる相手だった。

「おいおい、戦略ゲームで離反に予約とか、なんの冗談だ?」

 横蓋が頼りたかった日美子は、なぜか陽奉と一緒に固まって、さがりかけている。


「お? そのちっこくてでかいやつ、重草の女じゃね?」

 近づいて来る重草軍のひとりにアゴと口の大きな女子がいて、元の顔はともかく、目つきと嘲笑に病的な威圧がにじんでいた。

 総合スポーツサークルの女子では代表格の李鶴りつるである。


 横蓋は日美子がおびえていることに気がつき、陽奉が寝返りなおさない内に逃がそうと考える。

 遠行にはたいして期待していなかったが、それでもまさかロシュクに相談しているとは思わなかった。

「得がたいなにかを求めるなら、払える代償をつきつめることです」

「……俺じゃん」

 自覚はあるらしい。


 遠行は性格の悪そうな顔に不自然な営業スマイルを浮かべて手をもむ。

 演劇部の陽奉たちの方向ではなく、大楓の顔を見て、加勢を含めた重草軍の全員へ『遠行軍君主』からの勧誘通知を送りつける。

「だいじょうぶですよ、先輩も今すぐ一緒に来てください。言われたことは、ちゃんと前むきに考えていますから!」

 ハッタリである。

 相手は名前も知らない大学生で、話したこともない初対面。

 しかし、さも内応者であるかのように話しかけ、仲間内の動揺を誘っている。


 横蓋は三国志演義における孔明の常套手段が疑心暗鬼の誘発と知っているが、それを対人ゲームで実行してしまう遠行のろくでもない思い切りに驚く。

 しかし動揺は隠し、相手の反応を見ていた。

 大楓はなにくわぬ顔で首をひねるが、李鶴はその後頭部に険悪な目を向けた。

「おう、角黄軍から聞いていたやつか! 脱出するなら急げって!」

 ハッタリに加勢する。

 璋軍と園本軍も同時に侵入しているため、重草軍はあちこちで急変する状況を把握しきれず、あせっているはずだった。

 時間稼ぎのせこいウソだが、遠行が捨てた品性に便乗してみた。


 大楓は不穏な気配の察知が遅れ、ようやく背後を見る。

 李鶴の背後では、パーマ髪に大柄な褐色肌の湖車寺こしゃでらが「そういや大楓さん、ばっくれた幹遂みきとげさんとマブダチっすよねー? なんか話がついてんっすかねー?」と余計な進言をしていた。

「ちっ、男どもはなんで、いざとなると腰ぬけばかりで……」

 李鶴はそれでも横蓋へ向かって突撃したが、道が兵士でごったがえす中、湖車寺が大楓の部隊へまともに飛びこんで蹴散らしても止めなかった。

「ちょっとお?! 落ち着こうねえ君たち?!」



 遠行もようやく陽奉の特徴を察して内緒連絡を送る。

『開門していただいた上、ここで功績を上げれば連合のMVP間違いなしですよ! もう、このテストプレイのMVPも同然です!』

 陽奉は悲しいほど露骨に、うれしそうだった。

 その内緒連絡は周りの遠行軍にもつなげられており、硬直していた日美子は我に返ったように両腕を振り上げ、奇声をあげて陽奉にしがみつく。

『うりゃた~あ! 横蓋さんの体力がそろそろ危ないので! 交代で前へ一緒に出ていただけませんか?!』

 みもふたもない色じかけである。

 内緒モードの妙なかけ声は聞こえていてもいなくても異様だったが、いずれにせよ開き直った気迫は伝わり、陽奉はわざわざうなずいて答えていた。


「よし! 頼む!」

 横蓋がわざとらしく後退すると、猛将ジョコウを先頭に演劇部メンバーが前に出る。

『あ、でも私も、もう体力が……』

 日美子は『一緒に』と言っておきながら動かない。

 自分の卑怯さに罪悪感を隠せない複雑な笑顔だった。

「だいじょうぶ、任せて!」

 いまさら王子様ぶる演劇部の薄っぺらいノリに、遠行は見覚えを感じる。

 しかしそっとロシュクごと後退して矢面を押しつけ、自軍の消耗を抑えた。


 ひと息つく時間のできた遠行軍は『統率』の選択で兵士数を回復させながら、誰ともなく自軍内だけの内緒連絡をはりなおす。

『まあ、なんというか、とりあえずグッジョブだ遠行』

 横蓋のささやかな笑顔はぎこちない。

『私も少し強くなれた気がします。人としてはどうかと思いますが』

 日美子のうなずいた笑顔もかすかで、目もそらしている。

 遠行の必死な姿に感化され、やや余計に品性を落とした気もしている。

『いや、あんなみっとない時間稼ぎは、緊急事態で、しかたなくだからね?』

 遠行は照れ笑いで流そうとしたが、横蓋と日美子のまじめな顔には『え、そうなの?』と書かれていた。



 いっぽう園本軍は城壁ぞいの大通りを北上し、北側城壁の中央部分を占める巨大な居城に近づいていたが、その手前で頑強な抵抗に遭う。

 先頭の于示林うじばやしが相手に気がつくなり後退したので十字路で囲まれることは避けられたが、相手プレイヤーの手数が多い。

 特に強い角顔の男子は練宮から聞いていた『隠巳かくみ』で、于示林からは衝突して間もなく『間違いなく80台の武力』と速報が入った。

 厚いくちびるをひん曲げた女子は、璋軍の籠城組から得た情報によると『ぬい』である。

 動きは補助中心で目立たないが、于示林は『80台に近い武力』と目測。

『兵士数では互角。しかし中心となるふたりが、強いだけでなく慎重。かつ要所での思い切りもいい』


 豊田も攻めにくさは感じる。

『この狭さだと、于示林がうまくクセをつかんでヒットアンドアウェイできても長引きそうだな』

 すでに于示林は文官組の連続計略を受け、不自然に速い往復をくり返して武力以上の奮戦をしている。

 じゅんが補助をしながら文官たちの前面を守り、後方は園本が守っていた。


 告遠子ことこは城壁の上にいた璋軍が追いついてくる姿に気がつく。

『はずれ引いたか? 相手も出発直前だったのか、城壁より街中に集中していやがる』

 璋軍の進軍は寥花ひとりの先導で間に合っており、長任と子達皿は追いながら城壁外へ向かって矢の雨を降らせていた。

 組授くみさずきも神妙な顔でうなずく。

『しかし兵士が武将からわき出す仕様のおかげで、狭い道に入れば粘りやすいのは助かりましたね』

『火計がないせいで城中を焼き打ちできないとはいえ、悪くもない状況か?』

 豊田は城壁上の正法を狙って伝令を走らせておく。


 やや間が合って正法からの伝令がやって来るが、城壁の上では豊田の伝令がついたばかりだった。

 ほとんど同じタイミングで相手も送付していたらしい。

『遠行軍も数人を相手に足が止まっている』

 豊田が城壁の上を見ると、長任と子達皿の仕草からして、おそらく城壁外にいた梁黄りょうきたちは侵入路を通り過ぎて正面側まで駆けて行った。

「ま、リョフ軍団に入ってこられても嫌だし、こうなれば下はみんな陽動かな」

 腕をぐるぐる回して見せると、正法もうなずき、進軍を早める。



「思ったより手持ち無沙汰だねー。長任ちゃんも仕返しエンジョイできない感じ?」

 城壁上の子達皿はへらへら笑いながら乱射を城内へ切り換える。

 武装してない民衆も多く逃げまどっていたが、兵士を優先して狙っていた。

 長任も続くが、武装してない人影を巻きこみそうになるといちいち照準をずらし、武力のわりに弾幕の差は少なくなる。

「うーん……攻めてみると、敵の城とはいえ、荒らしてしまうのはもうしわけない気がする」

 背後で永松は『城盗りゲームですってば』と言いたげに小さくつっこんでいるが、もはや声には出さない穏やかな笑顔。

 正法も自部隊主力の能天気ぶりを観察して不安そうに腕を組んでいた。


「うん。もう八つ当たりは十分だし、そろそろ私は……」

「敵大将に突撃だ」

「え」

「園本軍と遠行軍が敵に足止めされちまった。しかし引き寄せてくれてもいる。俺たちがやるしかない」




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