33 虎牢関の戦い12 会議をしてみよう(主要人物全体)
「なにか張遼に恨みでもあるのか」
「まあたしかに、張遼は……張遼だけど……史実がフィクションを超えるチート様だけど……」
理論派の横蓋と豊田も、どこか遠い目で梁黄を見ていた。
厚い黒雲から雪がちらつきはじめている。
「暗くてわかりにくいが、もう昼すぎになっているのか?」
「期限までに帰るなら、明日の夕方までに決着させたいけど……厳しくなってきたか?」
双方の全軍が引き返し、長任の城では様々な憶測が飛び交う。
話題の中心である角黄軍は代表の梁黄が出撃組の配下五人をすべて失ったが、ほほえんでいた。
その隣の腹心こと寥花も、任された十二人から八人も犠牲を出し、ぐったりと笑っていた。
各軍で統率による兵力回復と再編成を急ぐ中、璋軍の代表である玉季璋は特に疑念を深めていた。
「たしかにチョウリョウを消せたし、リョフ軍の兵力をボロボロにできたみたいだけど、なんでわざわざ角黄軍のひとり損になるような深追いを?」
正法は無愛想にうなずく。
「意味不明だ。しんがりを頼んだ遠行軍と園本軍もかなりの人材を消耗したから、貸しを返す形にはなる。だがそれにしたって、追い払うだけでよさそうだ」
長任は会議場の端で、こっそり永松へ耳打ちする。
「実はゲームのやりかたをよくわかってないとか?」
「アンタじゃあるまいし。む~、結果としては璋軍だけ人材消耗がなくて、気まずい感じはしますね」
「そんな。私の五匹は……」
「『人』材ですってば」
編成の指示を終えた各軍の代表、横蓋と豊田と梁黄が会議場へ入ってくる。
「私どもは城の修復を確認しておきますか」
永松は長任と一緒に退室するが、扉を閉める前に会議は紛糾しはじめていた。
「今すぐ追撃する以外、勝ち目はないだろうが?!」
「これだけ互いに消耗して城をとれないようじゃ、尻切れトンボもいいとこだな」
マッチョ中年に見える横蓋が呆れたような声をあげ、豊田もなんとなく同調する。
梁黄はほほえんで座っていた。
「そこまでしないでも……二十万対三十万から互いに半減して、相手のほうが被害は大きいのでしょう? あまり長引くと参戦してない勢力がのびすぎるし、もう解散してもいいんじゃない?」
璋は言いよどみ、視線で助けを求められた正法は無愛想にうなずく。
「元から数の少ない遠行軍と園本軍は自分たちが巻き添えになろうが、数の多い上位三軍をつぶし合わせる方が都合いいよな。だが今は璋軍がひとり勝ちと言える消耗の少なさだ。ここで終らせるほうが戦力で最も優位になる」
みもふたもない解説で、横蓋と豊田も反論はしにくい。
璋も安心しかけたが、正法は表情を変えずに続ける。
「だがそれでも速攻の総力戦に賛成だ。理由はみっつ。まず、アンチ重草軍は潜在的にも少なくない。璋軍は兵力で損をしても、人気が集まる。休戦は逆に、ぬるい印象を与えかねない」
璋は不満そうな顔になるが、黙って聞いておく。
「次に、ここで解散すると、重草は璋軍だけ集中的に報復する可能性も高い。それなら、連合の協力がある内に削りきるほうが得だ」
璋が眉をしかめて考えはじめる。
「そして最後に最重要だが……そんなに長く、重草たちの顔を見ながらゲームしたいかあ?」
永松は会議場を出てすぐの廊下で足を止め、ブツブツつぶやいていた。
「正法くんだと……速攻したいだろうな……でも璋さんはちゃっかり天下統一や犬南ちゃま奪取にこだわっているから…………長任さん?」
「は、はい?」
「重草軍の城を攻めてみたくありませんか?」
長い前歯が活き活きときらめく。
「それはまあ、こんなボロボロにされてしまい、八つ当たりに行きたいとは思うけど」
「決定。レッツエンジョイ仕返し。では口裏合わせを」
璋が返答を渋って正法もじれてくるが、場外の永松から内緒連絡が入ってくる。
『出撃を裏で決定事項にしちゃってください』
『ん? わからんが、わかった』
豊田と横蓋へ内緒連絡を送る。
『先に全員、出ちまってくれ。必ず追う』
『うちの女王様ならもう出発した』
『遠行もそれを追っている。急げよ』
無愛想な顔がかすかに苦笑する。
『容赦ないな。俺の連絡があと少し遅れたら見捨てていたのか?』
永松が長任を連れて踏みこんでくる。
「大変お伝えしにくいのですが、我が軍の虎キチ城主様は、ペットのかたきをとれないなら璋軍を抜けて、重草軍を倒せる軍へついてしまうそうです」
長任にふりまわされ続けた永松のうろたえる演技はとても自然だった。
「お世話になっておきながら心苦しいのですが、やはり一緒にすごした彼らのことを考えると、このままではどうにも……」
長任は特に演技をしていない。
正法は璋へ内緒連絡を送る。
『ここで遅れると二度と主導権をもどせなくなる』
『そ、そうね。出撃が長任さんだけで済むなら……』
正法は璋のせこさにウンザリした顔になる。
『重草が拠点にしている長安は、この城を捨てても釣りが来る要所だ。ここで最大かつ圧倒的な兵力を投入できるかどうかが戦後情勢の分かれ目になる』
「じゃ、俺はもう行くわ。女王に追いつけなくなる」
「おう、行くか」
「行くのですね」
豊田、横蓋、梁黄が立ち上がり、璋があわてる。
「も、もう出ているの?! こっちもすぐ長任さん……たちを追わせますから!」
「はいはい」
豊田は冷淡に手をふり、横蓋は梁黄へ笑いかける。
「天才三姉妹様なら予備の軍勢くらい隠していたりするのか?」
梁黄はほほえんでうなずく。
「宝黄ねえさんが二万の兵で国境にいることは秘密です」
各軍の指揮官がぎょっとする。
正法もそっと頭をふった。
「どうも三姉妹とは相性が悪いというか、読みにくいな。それはともかく、俺も出撃に入るが、子達皿くらいは連れ出していいよな?」
「そ、そうね。ここで防衛した経験のある厳彦くんと登芝くんまではずすわけにはいかないし……」
最後まで聞かずに正法と永松は駆け出し、長任も追いかける。
すでに園本軍の姿は見えず、城門を出る遠行軍を横蓋と豊田が走って追いかける。
梁黄も単騎で追い、それに気がついた有象無象の生き残り配下四人も追う。
その様子を子達皿がきょとんとした顔で見送っていた。
「お前も出撃だ。武力あるんだし、そろそろ暴れたいだろ?」正法。
「だらだら遊べれば十分だけど、ひっかきまわせるなら、なお良いね」子達皿。
「子達皿さんも強いんだ?」長任。
「性格のわりに能力はバランスのよい優等生ですね」永松。
別方面の城壁から厳彦と登芝もやってくる。
「出撃? 自分はまた防衛組かー。相手さん、またここを攻める余力なんて、なさそうだけんどなー」
「璋軍の出撃は四人だけですか? では兵士だけでも遠慮なく持ち出しを。璋さんとの調整はお任せください」
登芝が全兵士の編成申請を出し、厳彦も続く。
「ありがたい。戦後も考えると、これくらいがぎりぎりかつちょうどか? じゃ、すぐ出発……ん?」
正法は城壁から遅れて来た寥花に気がつく。
「また出撃ですか?」
「というか角黄軍はみんな出発したぞ」
「うえっ?! 本当だ消えてる!? というか編成リストまで勝手に抜けていやがる?!」
「りょ、寥花ちゃんも私たちと一緒に行こうか? 私も出るから……」
長任がなだめ、永松も背をたたいてなぐさめる。
城壁を出ると、すでに先発隊の姿は見えなくなっていた。
「くっそ~、あいつら、城壁の修復もろくにできないから見張りへ立たせていたのに~。いくら三姉妹様がすごいからって、私を顔と体型と知性と人格だけで差別しやがって~」
永松が優しくツッコミの手をいれる。
「ずいぶん楽しい性格のようですね。うちのボケ城主様と話が合うのもわかるような気がしてきました」
「そりゃどうも……」
寥花はバツが悪そうに肩をすくめる。
しかし長任のうれしそうなうなずきも見ると、ふと『私は居場所をまちがえちゃったのかな?』という考えがよぎる。




