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31 虎牢関の戦い10 騎馬戦をしてみよう(于示林)


「いやあ、どうもすみません」

「お~う。アメイング」

 おとりになった組茂くみしげはすでに体力が削られていたこともあり、余栄よえいに追いつかれるなり打ち倒される。


古輸ふるゆっつぁ~ん、俺ぁここでさがっておくぜい?」

「なんですって?」

あきら軍と角黄すみき軍が組んでいるだけならともかく、置き去りになった弱小勢力までこうも粘ってるんじゃ、じょえじょえよ~う」

「だからって……」

「勝手にまかせるぜ~」

 余栄はさっさと引き返しながら伝令メッセージを作りはじめる。



 于示林うじばやしは足止めを命じられながら、手を出しあぐねていた。

 ブンシュウとガンリョウを細かく位置がえして、先行する計略部隊の支援を受けながら、敵と接触できないでいた。

 敵の騎馬集団は素の移動速度が高く、于示林が配置を変えるなり、じわりゆらりと全体がうごめいて形を変える。

 武将十騎の中では、NPC猛将チョウリョウとリョフの威容が目立っていた。


『ともかくも一打』

 于示林がブンシュウとガンリョウだけわずかに遅らせると、相手も急加速して伸びてくる。

 二重に用意していた連続計略で元の配置まで引きもどせたが、まさに触れただけの一打になった。


 先行部隊の豊田とよたは驚く。

『そこまで慎重にやらないとまずそうか?』

『もし削っていれば、相手はさらに伸びて、よくてふたりが脱落。三人を犠牲にする前提でも、誰ひとり討てなかったと思われる』

 豊田がさらに驚いて返答が遅れると、園本そのもとがわりこんでくる。

『あのリョフとチョウリョウって、そんなに強いの?』

『どちらも史実じゃバケモノだけど、このゲームのバランスからすると、ブンちゃんガンちゃんとそれほど差はないはず。袋だたきの人数がひとり多ければいけるはずで……やばいのはプレイヤーだ』


『ひとつの生物と化した見事な部隊です。少なくとも半数は普段から共に集団戦をしている様子』

『ラグビー部だっけ? ゲーム初期からけっこう伸びた勢力で、そのまま重草しげくさ軍に吸収されたらしいけど……』

 豊田との会話中にも于示林は相手のすきを見つけたのか、不意に三騎一体となって後退し、ようやく一撃を与えあって引き返す。


『このゲームの戦闘システムはほとんどが自動で簡略化しすぎだと思っていたけど、向きがあるせいで、妙にリアルな時があるな?』

『将棋で駒の向きを変えられて、統率されているほどそれが速くなるような有利不利?』

 園本は将棋の駒を打つしぐさを見せ、打ったあとで方向を変えて見せる。

『そういうこと。軍隊の儀式や訓練で「行軍」が重視されるのは、その精密さがそのまま性能に直結するからだ。実際の大規模な集団戦だと、側面や背後をつかれた兵士の動揺は致命的に大きくなりやすい』

『たくさんいる将棋の「指し手」をまとめているだけではなく、少ない指示で各自に動けると……于示林くんでもすきを見つけられないわけか』


『私としては馬も気になりますが』

 組授くみさずきがひとことだけはさむと、豊田もうなずく。

『それな。馬の影響も地味に生々しい』


『所持割合が多いほど、部隊の速度がほんの少し上がるだけ……でも、今の于示林くんのようなギリギリの駆け引きだと、それは一撃が入るかどうかの差になる?』

 園本は于示林へ念を送るように拳を握る。

『実際の馬はもっとややこしい。突撃できるように鍛えられた馬は、プロレスラーよりよほど殺戮性能の高い大型猛獣、兵器車両でもある。ただし世話は大変で、大量のエサが必要な上、意外と疲れやすい』

『それをばっさり「ほんの少しの速度」でまとめたシステムは、犬南いぬなみさんのビギナー配慮?』

『そのへんをマニアックにしたところで、ゲーム全体のおもしろさを上げる効率は悪いだろうからな。馬術の技量も差がないだけに、猛将ウジバヤシはあと少し武力と馬の数があれば、システム上は存在しない特殊スキルと合わせて天下無双だったんだが』

「かわいくないから却下だ!」

 告遠子ことこが実声で笑う。

「でも馬は買い足そうなー! 白馬で私を迎えて戦場で敵さんおちょくりランデブー!」

 敵集団のけげんそうな顔を見て、組授はそっと頭を下げる。

「人として残念な子がいるだけですから、お気になさらず追撃をどうぞ」


「そんなこと言われたら、余計にやりにくい感じっすけどねー」

 わし鼻につり目の追手が首をふり、その背後にいる無精ひげと前髪が長い男子は笑っている。

「ゲーム婚するプレイヤーとはイメージがかけ離れているけど……まあ、おしあわせに」


 園本はふたりをじっと見つめて『園本』の名前表示を出す。

 すぐに『于示林』と『ブンシュウ』『ガンリョウ』の表示が続く。


 相手は少し遅れて無精ひげが笑顔で『蔵覇くらは』の表示を出し、なにかを話し合ったあとで、わし鼻が『鬼続おにつぐ』の表示を出す。


 園本が指をくるりとまわすと、豊田たちも全員が表示を出し、相手も『栄憲はえのり』『候成そろなり』『赤萌あかもえ』『遭星あいぼし』『成兼なるかね』『順高すぐたか』『リョフ』『チョウリョウ』と続く。


 鬼続から『交渉希望?』と内緒連絡が届くが、園本は「ただのあいさつです。遠慮なく続きを」と実声で返す。



『みんな似たような感じで区別つかないけど、どれがやばそう?』

 豊田は于示林へ内緒連絡を送り、鬼続たちも口の動きを見せながら忙しく内緒連絡をとりあっている様子を見る。

 リョフとチョウリョウをのぞいたプレイヤー八人も体格がよく、いかつく、血気盛んに見えた。


『鬼続どのが中心になっているが、赤萌どのと成兼どのも自由に動き、残りの者が補助に慣れている。ひとり異質な蔵覇どのは読みにくさになりつつ、浮いてはいない』

 豊田もわし鼻の鬼続が中心らしいことはわかったが、指揮らしい指揮がない、奇妙な連携も感じた。

 鬼続はまさに位置だけの中心としてNPCの背後にいるだけで、両翼はバランスをとりつつ自由に動く。

 蔵覇は後方にいるため、不意に大きく左右へ動くが邪魔にならず、前方の補助を意識した牽制になっていた。

『あのバラバラな四人を補助する四人もすごいのか?』

 于示林が名前を挙げた四人にひとりずつ、名前を上げていない四人が副官のように動きを合わせていた。

『まさに。中でも、あの十人に攻めにくさを感じさせる最大の要因は……どうやら順高どのとなる』

 豊田は意表をつかれた顔で、後方の蔵覇にゆっくりつきまとう眉毛のないこわもてを観察しなおす。

 蔵覇は派手に動くが、順高はゆっくり追い、時にはまったく追わないで待つ。


 豊田は園本の不機嫌そうな顔でしぶしぶと解説を試みる。

『あっちの順高さん、読み合いで于示林を脅せるやり手らしい。俺には正直、よくわらない世界だけど』

『武道家のにらみ合いみたいなもの?』

『それ。たぶん于示林にとっては地味に嫌な布石を抑えて、すきをつぶしている』


 于示林がふたたび動き、同時に相手の両翼も伸びて来る。

 片翼のふたりが計略で加速してさらに伸び、ガンリョウにくっつく。

『ブンシュウどのと自分のみに計略を集中』

 豊田は于示林がいきなりガンリョウを見捨てたことに驚くが、状況は見ていたのでうなずく。

『なるほど、下手に動けない理由か。ブンちゃんガンちゃんの武力なら、ふたりまでは強引に突破できそうだが……』

 救援に向かえば、もう片翼のふたりもからむ距離に入っている。

 鬼続はチョウリョウも前進させ、それと並んでいつの間にか、順高までが飛び出ていた。

 両方を三人ずつで足止めしてつぶせる配置ができていた。

『後列で厚みを見せているだけかと思ったら、肝心なところでは痛いダメ押しをしてくる……しかも前にいたチョウリョウと並べるほど、反応が早い』

 蔵覇が副官のように順高を追い、後列のふたりがいきなり前列まで飛び出たにも関わらず、隊列は安定している。



 ガンリョウは追いついたチョウリョウに削られ、リョフにとどめを刺される。

 足止めのプレイヤー武将は交互に牽制していただけで、特に順高と蔵覇は背後でほとんど手出しをしていなかった。

「わるいガンちゃん、おつかれさま」

 豊田はふたたびにらみ合う于示林と順高をこわごわと見守る。

 順高は八人の中ではもっとも表情が少なく、ひたすら凝視する陰気な目は何を考えているのか察しがたい。


「るおおおおおっしゃああああ!」

 ベージュ色の光に包まれた遠行軍の数騎が林道から飛び出てくる。

「あ。道連れが増えた」

 豊田が苦笑し、横蓋よこぶたも眉をしかめて笑う。

「どうした? 思ったより遅いな?」

「女王のわがままでガンリョウが成仏したて。このままだとブンシュウも危うい」

「しょうがねえなあ。じゃあ俺もしんがりに入るから、なにかあったら日美子ひみこちゃんだけは城へ届けてやってくれ」

 横蓋は豊田と内緒をつなぐ。

『女王様も勝負相手に借りを作りたくないとか意地はるクチか?』

『そう言葉に出してくれたら、まだかわいげあるんだけどな』

 豊田は園本を内緒連絡へ入れないまま笑い、園本はなにくわぬ顔で豊田の腹をコツコツ槍で刺す。




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