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29 虎牢関の戦い8 特殊スキルを使ってみよう(長任・縫)


「トラ……? なんで城内にそんなものがいるんです? というか、どうやって捕まえてきたんです?!」

 角黄すみき軍の有象無象が驚き、永松ながまつは苦笑しながら胸をはる。

「企業秘密です。まあ実は、街中まで入られた時のお楽しみ自爆装置くらいに考えていたのですが、敵さんも運がない。よりよって貯蔵庫へ直通の門から突破するとは……シシシシッ」



 山側の城内、厳重に隔離された貯蔵庫の区画で重草しげくさ軍のぬい隠巳かくみは兵士数を急減させていた。

「縫ちゃん、そっちまわって! 猛獣も兵士で囲めば倒せるから! すばやさが厄介だけど、有名NPCみたいな連打攻撃はないし……」

 叫ぶ隠巳は細かく動き続けているのに、矢が当たり続けていた。

 縫が一匹のトラを指定して包囲するように兵士へ命令しても、ほかにもあちこちからトラが飛びかかり、すぐに混乱してまともに動かない。

「いったん、城から出ましょう! ここだと猛将領主さんの連射をくらいます!」

 隠巳もうなずき、出口へ向かう。

「外で分散させて狩るよ!」

「い、急いで! なんか領主さんのほうから降りて来ています?!」

「なにそれ?! 一緒にトラに食われてまで、俺らを脱落させたいの?!」

 ふたりはせまる「せせせやせや」に出口をふさがれる前に、兵士を犠牲にした速度重視で門へ急ぐ。


「やはり一応は、私に保護する責任があると思うので……」

 乱射魔がもじもじとつぶやいていたが、やはり意味は理解できなかった。


 縫は駆けながら、隠巳へ内緒連絡をつなげる。

『あの人、変ですよ』

『頭おかしいに決まっているでしょ? ゲームの目的とかわかってないんじゃない?』

 長任ながとうはトラの群れがうろつく階下まで降りて来ていた。

『そっちの意味もですけど、あれだけ矢をばらまいているのに、トラには当たってないんです』

『……なにそれ?』


 背後から兵士の壁を突破してトラがせまり、隠巳は狙いをしぼりやすい城門直下に入ると、ふり返って剣を振るう。

 その腕が乱射の着弾で止められ、しかも矢はトラだけ避けて飛ぶ。

 想定外の連携攻撃で、隠巳はふたたび逃走に徹する。


『隠巳さんは先に行ってください。そろそろ体力がまずいはずです』

『あのトラ、なんでこっちばかり襲ってくるの?』

『それです。長任さんに対しても、攻撃動作は見せているのに……』


 縫は隠巳をかばい、混乱する兵士へ護衛をくりかえし命じながら、長任を観察する。

 長任は縫の動きを正確に追って連射したまま、背後も細かく気にして、視線を向けた一瞬でトラの動きに合わせて向きや位置を細かく変え、一度はトラの足元へ向けて射る。


『よくわかりませんが、特別なアイテムとかコマンドがあるわけではなさそうな……』


 さらに二匹のトラが長任のわきを抜けて縫へ跳びかかってくる。

 縫は剣と兵士で牙をしのぐが、反撃しようと振り上げた腕も射られて動作が止まる。

 間髪入れずに長任は真後ろへ矢を放つが、トラに跳びかかられ、肩から軽傷の光が飛び散る演出も入った。

「元気だなー。おいちゃんかな?」

 笑っていた。


『……トラをうまく牽制しているだけみたいです』

『あのプレイヤー、なんなの?』


 縫も渡橋を後退しながら、トラを細かく牽制してみる。

 武器を向けたり、視線を向けるだけでもトラが攻撃動作を引っこめる時がある。

 かまわず襲ってくることもあるが、牽制の後は跳躍が小さい。

『ネコと同じ? でも跳ばれると、かわすタイミングは厳しい』


 そして一匹や二匹ではない。

 城壁の上からも矢の雨が降り続け、トラに気をとられて防御しそこねると、派手な被弾負傷の演出が入ってしまう。

『無理。無理のはず。無理なのに……』

 長任は真横に乱射を続けたまま、トラの群れと一緒に追ってくる。

『連合軍の領主プレイヤーはバケモノか?!』



 城壁の上にいる厳彦いわひこも、長任を避けて連射しながら呆れていた。

「弓矢はやたらダメージが低い設定なのに、長任ちゃんはプレイヤーだろうが狙って殺しにかかっとるなあ? あれで本当に銃撃系の経験なし? 自分も動きながらでは、あそこまで当てられん。しかも前後の全体に目を配っとるし……何者?」

 背中合わせに城外の相手をしている寥花りょうかは首をひねる。

「バレーボールなんて関係なさそうですしねえ?」

「あ……それだ?! 多数いる敵味方の動きを把握しながら『一瞬で判断と照準』する能力……」


「でもサバゲーマニアの厳彦さんよりうまいってことはないのでは?」

「ちゃうの。このゲームの仕様で、撃つ動作は自動やん? そんで射撃の基本は『動作を安定させる』うまさなの。動きながら撃つなんて、牽制や突撃みたいに命中精度は期待しない時なの。だけんどバレーボールは撃つ時に自分も空中にいて、止まれない仕様やん? 『動きながら』に慣れとるぶん、長任ちゃんのほうが自分より高性能な殺戮兵器なの」

「うっかりシステムと相性が合った射撃スキル持ちですか。ただでさえ武力が異常なくせに」



 ボロボロの隠巳が橋を渡りきると、待ちかまえていた李鶴りつるはかくまって後方へ送る。

「トラ使いの特殊スキル? そんなシステムないでしょ?」

「いや、そういう感じの曲芸やっちゃうヘビーゲーマーみたいだから、気をつけて」

 追いかけて李鶴軍へ飛びこんできたトラも、畑をうめつくす兵士に囲まれると動きがにぶり、隠巳に逃げる余裕ができる。


 長任も橋を渡りきる前に踏みとどまり、そのおかげで縫も逃げきれた。

「さすがに、あれより進んで袋だたきにされることは避けるのか」

 しかし乱射はしつこくトラ周囲の兵士を薙ぎ倒し続ける。

「いや、武将を狙おうよ」


 李鶴が縫とのすれちがいに内緒をつなげてくる。

『やばい。反対側に相手の七万が援軍に来た。動けなくなる前に、すぐ撤退。コイツ任せるから先に行って』

 縫の後をやせ顔の中年文官が追ってくる。

「今すぐ兵士をまとめて引き返すことのみが、命を救う手だてとなりましょう」

『カク先生、生きていましたか』

『あとなんか、余計なのも生きている』


「うっひゃーあ?! ガチ死ぬっす?! もうダメっす?!」

 トラのいなくなった渡橋で長任の兵士に包まれ、パーマ髪の大男が暴れもだえていた。

「指示・計略・湖車寺こしゃでら

 縫は走りながら、気乗りしない表情でNPCカクへ命じる。

「あのバカ、武力だけはレアだからしかたないか」

 李鶴もしぶしぶとつぶやく。


湖車寺赤児こしゃでらせきじ

 体力60(最大80)・武力80・知力30・徳力10・兵士数4313


「ムダに体力あまってんじゃねえか」

 李鶴は湖車寺の合流を待たずに兵を少しずつ後退させるが、城壁の上にいる厳彦の大きな移動を見て、指示を全速力に変える。

「相手も援軍に気がついたか……っておい湖車寺! アタシより先に逃げてんじゃねえ!」

 計略で光り輝くパーマ男は軽快に馬を飛ばして李鶴軍を突っ切る。

「隠巳といた五白羽ごしらはねも名前が消えたし。トラに食われたか。まあ、アタシが粘って兵士回収したって、どうせたいした効果はないし……」


犬佳李鶴いぬよしりつる

 体力60(最大70)・武力60・知力50・徳力20・兵士数6798

隠巳淳多かくみじゅんた

 体力40(最大70)・武力80・知力40・徳力30・兵士数6421

長済縫ながすみぬい

 体力40(最大60)・武力70・知力50・徳力60・兵士数7101

カク

 体力38(最大56)・武力55・知力96・徳力73・兵士数4309


 全員の兵士数はゆっくり増えているが、徳力に比例した速度差がある。

「縫は脱落武将の兵を引き継いでいるわりに減りすぎ……追撃で回収の時間が足りなかったか? てゆうか、体力半減の寸前だらけかよ」


大楓刹おおかえでせつ

 体力50(最大60)・武力60・知力40・徳力40・兵士数6080

玉方応報たまがたおうほう

 体力40(最大50)・武力50・知力30・徳力40・兵士数4956


「川側がやべえ。フルに一万ずつ入ったばかりなのに、もう半分近くやられてる……ん? 勝馬かつまたち正面側の情報が……出ない? 裏手側の陽奉あきよしたち演劇部も……か?」

 湖車寺を追いかけて駆ける李鶴へ、隠巳の伝令が逆走してくる。


『勝馬たちが逃げたかも』


「マジか。最悪だなアイツ。サボりの牛介が城内略奪だけ独走したからブチキレか? ……陽奉もか? すねたからってアタシたちまで巻き添えに裏切るとか、マジでクズだなアイツら」



 永松は単独で城壁上をパタパタと駆け、川と幾重もの用水路が見える方面へ出る。

 門の近くでは重草軍の旗があきら軍の旗に囲まれ、引き返そうと突撃をくり返していた。

 城壁の上では鎧を着こんだ悪人顔の文官が重々しい笑顔で計略を連発している。


「ども、登芝のぼりしばさん! ジョコウ持ちの陽奉さんたちですが、李鶴という人が抜けた途端、グダグダ感がすごくて、こちらの援軍が来るなり撤退しちゃいました」

 登芝はうなずき、永松に分担させる支援計略の部隊を指す。

「はじめから、そのような方針であったようにも感じられます」

「離反したいなら、言ってくれたら協力するのに……重草軍だと、そうも行かないのですかねえ?」


 正面側の城壁からもプレイヤーが駆けて来ていた。

「厳彦さん、連絡ありがとうございました」

 永松は計略の準備モーションを続けたまま、頭だけさげる。

「裏側の敵さんもみんな、正面側経由でこっちへ向かってきとるよー。たぶん武将は五人で、兵士はまだ二万前後はいるかもしれんねー」


「正面側も攻撃はゆるいのですか? 厳彦さんは担当以外の方面を応援しっぱなしですが……」

「今は寥花ちゃんが見張っとる。その前も一応は名無しを残したけんど、さっぱり兵士が減らんの。敵さんの本陣がようやく動いたと思ったら、ホウトク持ちの勝馬さんたちがぱったり攻撃やめて、今はもう退却しとった」


「ほっほう。相手の不和に助けられましたかね?」

「いんやー。それでもトラのほうが。トラちゃんが。長任ちゃん、変った子だねえ?」

「はい。すみません」

「トラのことはわからんから、一応で反対側に残ってもらったけんど。まさかトラと一緒に単独突撃するとはねー」

「…………そんな曲芸ができるなんて初耳です。やけに熱心に巡回していたと思ったら……」




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