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27 虎牢関の戦い6 城攻めしてみよう(長任)


「では配置ですが……え?」

 永松ながまつが案内した手とは別の方向へ歌満うたみつたちが歩き出す。

「あ、だいじょうぶ。オレたち戦略については少し詳しいし」

「へ? でも、少しは打ち合わせておきませんと」

 永松はまだ一応、愛想を保つ。

 寥花りょうかも急いで笑顔でわりこむ。

「そうですよ先輩がた! ここはあきら軍の領地ですし、実質で領主な永松さんの指示は絶対っす!」

「あ、うん。そうだよね。でも梁黄りょうきさんがオレたちや寥花ちゃんをここに配置したのになあ……」

 未練がましい苦笑で同意を求められ、寥花は背筋がおぞ気だつ。


(その信仰、角黄すみき軍の外では通じませんから! てめえのイカれた常識を押しつけんな! ……重草しげくさ軍のクズチンピラとどちらがマシなのやら)


 寥花は逃げるように担当城壁へ向かう。

「あ、長任ながとうさんに正面経由で逆方面へ向かうように伝達お願いしまーす!」

 見送る永松の笑顔には同情するような気づかいが見えた。


(すんません永松さま。そいつら学業素行は良くても実社会では役立たずぽくて……そういえば、おかんのスーパーにヘルプで入った時、びっくりするほど使えないやつが一流大学だったな。なんでも他人のせいにして、自分をだまして甘やかすことだけうまかった)


(あの低知力集団も、自分のステータス評価はよほど都合よく曲解しているらしい。……う~む。ゾンビの群れの中にいた今まではネタとして観賞できたけど、まっとうな人様の中へ混じって迷惑をかけるのは、ちと心苦しい)



 城の正面側は五人の武将が攻めていた。

 兵士が次々と柵にとりつくが、乗り越え、あるいは破壊している間にも弓矢の雨が転倒者を着々と増やす。

 矢の限界ギリギリを往復する色黒で背の高い陸上部の勝馬かつまは、手元のリストから有名NPCホウトクの兵数を確認する。

「なんで俺らばっかり兵を減らしているんだよ……って、幹遂みきとげが行って、少しせっついて来てくんね? つうか俺が行く? むしろぶちのめす?」

 声をかけられた男子は似たような筋肉質のやせ型で、平均的な背にえらのはった顔。

「ああ、まあ、俺が行くよ。話すの好きだし。ぶちのめしたほうが良さそうなら呼ぶし」

 返事をするなり、馬を走らせていた。


 幹遂は落ちくぼんだ細い目でゆっくり見回し、後方の陣にいるアゴの埋まった体格の厚い男子へ笑って手をふる。

大楓おおかえでちゃんよう、きれそうな話とかしたいんだよ」

「はーいはい。少し落ち着きましょうねー。正面どんな感じ?」

 大楓は太い眉を下げ、まろやかな声で両手を広げる。

「璋軍の厳彦いわひこという表示のやつ、レア武力だし手際いい。こっちは人数で倍なのに出し惜しみしてどうするって話をしたい」


 大楓の背後には小太り長身の男子と、褐色肌の巨漢と、やせた中年の文官がいた。

「そういうのは全体指揮を任されたオレに言ってくれる? これちゃんと意味ある配置だから。理解できないなら説明してあげるし」

 小太り男子はたるんだほおで不機嫌そうにモゴモゴ言う。

 幹遂はくだけた笑顔でうなずく。

「意味がないからわざわざ文句を言いに来たのに、牛介ぎゅうすけちゃんは『説明してあげる』ときたもんだ。璋軍の領地へ角黄軍が逃げこんだ時点で、急がないとやばいって理解している?」

「だから、この本陣も奇襲される可能性あるから備えているだけだよ? いつ重草さんから呼ばれるかもしれないし?」


 幹遂は苦笑して正面城壁へ顔をそらし、大楓へ内緒話を送る。

『重草と違って頭が悪いから話が通じんよな』

『そんなわけで、牛介ちゃんは予備の保険くらいのつもりで。重草さんのいとこだし。ほかはちゃんとやってるよ』

 伝令が走ってくるが、それは牛介と大楓の両方へ連絡を渡す。

『今回も四天王で勝手に話を進めとるの?』

『そ。牛介ちゃんへの伝令は、下手な口出しされないように浅い内容。ねらい目の城壁が決まったら、俺も強引に出るから、少しだけ待ってよ』

『そういう話は、もっと早く俺らにも……まあ、いそがしかっただろうし。じゃあ勝馬には俺から話しておく……』


 幹遂は内緒を切ってからふり向く。

「……なあ打ち上げさあ、ヤリサーヤリサー連呼されて女子が大量に逃げそうだし、一次会はアルコール抜きがよくね? 今回は高校生も多そうだし」

「それね。『なごやかわきあいあい』で集めて盛り上げて、二次会で自然に重草さんの店へ押しこむ感じで」

「そこまでは言っとらんよ。俺ら健全がたてまえのガチ体育系だし」

「つうか今からそんなこと言ってないで、お仕事してきてねー」

「うーい」


 談笑を終えて幹遂が持ち場へもどると、牛介は困ったようにニヤつく。

「急に話題を変えるとか、もしかしてオレ、論破しちゃった? なんかかわいそうだから、内緒とかでフォローしといてあげてよ」

「あ、ああまあ、彼はそういうあたりはだいじょうぶなんで。ほかの方面への指示は今のまま、穴を探す感じで?」

「ああ、うん。やっといて。でもみんな、なんでもっと効率よくできないかなー」


 牛介のとなりにいた褐色肌にパーマ髪の巨漢はくちびるをゆがめて笑う。

「やっぱ、牛介さんのフォローが必要なんすっかねー」

 そのとなりにいるやせた中年はすまし顔でかすかに笑う。

「好機を前に腰の重たい者をどう助けたらよいのでしょう」

「だよなー。幹遂もえらそうなことを言う前に結果だせっての」

 牛介は中年文官の肩をぽんぽんたたき、大楓は伝令へ内緒の伝言を長々と続ける。



 大楓の連絡は川に近い側面へ送られ、アゴと口の大きな女子に開封される。

『牛介ちゃんはダメね。カク先生の忠告も自分への皮肉だとわかってないよ』

「なんのことだよ?! とゆーかカク先生とか言われてもわかんねーし! こっちはオタクじゃねーから、ゲームなんて小学校で卒業してんだよ!」

 内緒モードを使っているため、はた目にはひとりで騒いでいるように見える。


『……とか言っても李鶴りつるちゃんにはわからないだろうから本題だけど、この本陣に居るのすっごいキツいし、出撃したくても牛介ちゃんが放してくれないから……』

「最初から言うなっての! あーもー、さっさとこっち来て、このどうしようもない配置を代われよ!」

『そろそろ、一番マシな侵入方向とか決まらない?』


 大楓の伝言が終わると、李鶴は伝令に自分の伝言をつけ足す。

「正面よりマシなのどっちか決めて。こっちは最悪! マジ正面より最悪! ジョコウとかいうの、たいして役に立ってないんだけど、持ち腐れているの誰のせい?!」


 聞こえよがしな大声で伝令が送り出され、李鶴より前で城壁を攻めていた男子ふたりは小声で話す。

「有名NPC持ちは豪華に優遇とか、しつこく勧誘されたから入ったのに、兵士を持たされた以外は肩身せまいよね?」

「兵士を持たされてもハズレの前線に押しこまれるとか、俺たちプレイヤーは死んだほうが喜ばれそうな感じ?」


 ふたりの背後に険悪な笑顔の李鶴がせまる。

「演劇部も安全第一でいいからねー! 死なれたら互いに気まずいし! でも隠巳かくみとかはこういう時に自分だけ手を抜いてグチるような腰ヌケじゃないから?! こっちも恥ずかしくない程度に合わせたいよねー?!」

「だから、守りをかためながら近づいていますよ。ずっと。ここでジョコウごと自爆しに行っていいんですか?」


 弁慶のような豪傑顔の武将がさらに前で斧をふるっていたが、相手は兵士ではなく、なかなか壊れない防柵だった。

 しかもその先には用水路が何重にもはりめぐらされ、渡橋をはずされて水濠と化している。

「急いでもエジキになるだけですよね? 地道に埋めるにも、ほかがマシならそちらのほうが……」

「いちいちガタガタうるさい! 男のくせに! 城門をこじ開けろなんて言ってないし、かっこつく程度にプレッシャーかけろって言ってるの!」


 城壁の上では悪人面の文官が不適な笑みで次々に指示と計略を発し、水漏れのごとく侵入する兵士へ弓矢隊を集中的に向かわせていた。

 さらには長髪長身の女子まで加勢に駆けつけ、猛然と矢の雨をばらまきはじめる。


 李鶴は長任の明るい笑顔を見上げ、眉間のしわを深める。

「うっわ、うっぜ……あれが例の城主? ああいう処女くさい天然ぶったやつとか、好きになれそうにねえわー。飲みつぶされてキモブサにお持ち帰りされりゃいいのに」



 次に伝令が向かった裏方面ではプレイヤーがひとり倒れ、光を噴出して消失していた。

「敵将・歌満、この隠巳が討ち取ったり!」「うわ、なにも言わないと勝手に叫ぶの?」

 同じ声が重なって、くちびると眉の薄い角顔の男子から発せられていた。

「恥ずかしいから勘弁してほしいよね。音声補助なし、声、いらない!」

 むっすりといらついた表情で空中のパネルを連打する。

 しかし開きはじめた城門を見て、鼻で笑う。

「あーあ。まだ俺の武力がわからないんだ? わざわざ出てきてくれて助かるけど、頭が悪すぎだよね」


 城門からは言い合う声が聞こえる。

「だから、今たたみかけるのが効率いいんだって!」

 大学生らしき男子が、高校生らしき背の低い女子をなだめるように笑い、出撃してくる。


「隠巳さん、李鶴さんから伝令が来てます」

 仲間に報告されても隠巳は振り向かないで、眉間へしわをよせる。

五白羽ごしらはねくんさあ、あれが見えない? せっかく突っこんでくるバカがいるのに見逃すとか、同じレベルで頭悪いことになるから。少しくらい待てない?」

「あ、すみません……」

 隠巳は返事を最後まで聞かずに、ため息を聞かせながら馬を進める。


 間もなく、もうひとりの単独出撃も討ち倒される。

 城壁の上で小柄な女子が「いーやー」と騒ぎ、残るふたりへ矢による牽制を指示していた。

 隠巳は距離をとり、五白羽に障害物の破壊を指揮させながら、伝令とやりとりする。


「裏手側は正面より楽。バカっぽいふたり消せたし。でも障害物が多くて、指揮官はそこそこまともっぽいから、これからめんどうかも。長済ながすみくんのとこがめんどうなら、こっちに来て。そっちのほうがマシなら、逆方向に配置ずらす感じで俺が行くから」



 ……という隠巳の伝令が届いた山側の側面も武将はふたりしかいない。

「こっちのほうがいけるかもしれない。隠巳くんが裏手側へ行って安心したのか、例の乱射魔は反対側へ行ったようだし、代わりに援軍が五人来たけど、みんなえらく弱い。下からの射撃でもけっこう兵士を減らせている」

 厚いくちびるをひん曲げた男子が伝令へブツブツつぶやいていると、城壁の上から叫びが上がる。

 続いて、少し前で指揮をしている女子が厚いくちびるをひん曲げて閉じたまま叫ぶ。

「敵将・万成やすなり、このぬいが討ち取ったり!」


「矢だけでも、ひとり倒せたか?」

「狙うだけであとは自動だから、カメラ部には有利な仕様かもしれない。まあ、相手もろくに体力を気にしてなかったみたいだけど……伝令? 見ていい?」

 縫の前に伝令へのつぶやきが文章化されて表示される。

 差出人には『長済』の名が入っていた。

 文章から浮かび上がった顔は即座にクリックで消される。

「兄貴の顔はいらない……これ、もっと大げさにしたほうがよくない?」



 一周してきた伝令が本陣に届くと、大楓はすぐに立ちあがる。

「今なら集中すれば落とせるっていうから、今しかないですよ! 敵が三人も武将を使い捨てているのだって、援軍が近い上に、なにかあせっている動きらしいし!」

「え? けど……」

 牛介はまごつくが、大楓は武将ふたりを連れて出発する。

「守っているほうが危ないですってば! 城を奪ってたてこもれば援軍にも対処できるし、これだけ豊かな貯蔵庫を逃がす手はないですよお!」


 とり残された牛介はまだ迷っていたが、パーマに褐色肌の大男までじれていた。

「ここ、いろいろ店が充実してるんすよ?! 貯金もたっぷりじゃないっすかあ?! 重草さんへ送れば、リアルマネーたんまりっすよお?!」

「わかっているよ。でも罠の可能性も考えて慎重に……とりあえず、正面も勝馬たちにラストスパートかけさせてから……」



 そのころ裏手側の城壁では永松が計略を連発しながら目をまわしていた。

 しかし目の前の隠巳たちが移動をはじめ、きょとんとする。

「へ? ここが一番の穴ではないの? あ、でも代わりが来た。ジョコウ様も……」

 川側の側面から数人の敵武将が回ってきていた。

 それに合わせて城壁上にも長任が矢を乱射しながら駆けて来ていた。

登芝のぼりしばさんに指示をもらったのだけど、こっちは援軍いりそう?」

「めっちゃ助かります! なんかもう、やたら強いプレイヤーさんがいてボロボロで!」

 内緒連絡に切り換える。

『しかも角黄軍のみなさんが驚くほど使えなくて! 弱い上に自爆するんです! よーし冷静になろう私。正面や川方面はそんなに余裕あるのですか?』

 長任は永松のケロッと豪快な切り換えに意表をつかれながらもうなずく。

『ホウトクさんやジョコウさんがやる気ないらしくて』

『その人たちはNPCなので、なにか出し惜しみですかね? 内部分裂ならヒャッホーなのですが。しかしこっちもひどいもので、ふたりも脱落です。でも長任さんが来てくださったなら、もう角黄軍のおふたりは本来の飼い主に引き渡して……いや、寥花さんの方面もひとり失ったようですし、さっきの猛将・隠巳さんが駆けつけると……だいじょうぶかな?』

 永松がだんだん眉をしかめて首をひねると、山側から伝令が駆けて来ていた。


 長任と永松は内緒で報告させる。

『寥花様からの献策は「ごめんなさい。輸送部隊の実態は能力も人格も残念なはきだまりっす。こっち方面、どうにか武将の頭数だけは保っていましたが、兵士数が減りすぎでもうダメたちけて」とのことです!』


「長任ちゃまダーッシュ!」

 永松の絶叫で長任が駆け出す。

 前歯の長い計略光線がさらに加速させる。

「それと蔵はもう、あきらめてくださいねー!」

「え~?! わ……わかった~!」


 永松は見送りながらため息をつく。

「角黄軍のことがもう少し早くわかっていたら~」

 近くにいる輸送部隊だったふたりの男子はおろおろと暗い顔になっていた。

「あ、あのごめん。もしかして俺たち、連携がまずかったかな?」

「歌満くんたちも悪気はなかったと思うけど、独走しちゃったみたいで、もうしわけないです」


 小柄な永松はふたりをうらめしそうに見上げ、口をとがらせる。

「そうですよ~。あれほど出撃しないように引き止めたのに~」

 そして急に、礼の手を組んで笑顔になる。

「でも、楽しくやりましょうか! ゲームなんですから。本気でやらないのも野暮なら、楽しくやらないのも野暮ってもんです!」




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