26 虎牢関の戦い5 籠城してみよう(長任・寥花)
于示林たち連合軍の四人は、華夫の連れていた四人に前後ふたりずつで挟まれ、混雑する歩兵の波で移動が鈍っている。
その背後には武将十人の騎馬軍団が猛然と距離を詰めつつある。
先頭は鳥番と諭渉を次々に討ち取った猛将チョウリョウがにらみ、そのすぐ背後には三国志世界で最強の猛将リョフがそびえていた。
横蓋は首をのばして背後の距離を確認する。
『待て于示林くん。いくらなんでも早まりすぎだろう? 武力90プレイヤーをしとめたなら、加速計略とブンシュウ・ガンリョウで強行突破くらい……』
『ガンリョウどのの兵士減少からすれば、この四人には武力80以上が含まれる。そして華夫どのを失った直後でありながら、退却の遅れたふたりをすぐに足止めし、我々にまで先回りを届かせる手際。帰還者を出せるか予測しがたい』
「グッドラック!」
園本が笑顔で拳を振り上げると、于示林もかすかな笑顔ですっと拳を上げる。
「いいのか? なんか知らんが、動きを読むのがやたらうまい、チートじみたプレイヤーだろう?」
横蓋は馬を寄せるが、園本は邪魔そうに槍で押しやる。
「合流しないとは言ってないし、于示林くんの反則性能は心意気のほうだから」
園本はすまして笑い、その肩を隣の告遠子がぐっとつかむ。
「さすがにわかってるじゃねえの」
自分もわかっていたことを強調してうなずくが、園本には見向きもされない。
「しかしクセを読めたところで位置調整しかできないから、このゲームの仕様だと、多数に囲まれたら役に立たないよなあ……計略が届く内になんとかして~ん、ダ~リ~ン!」
悪辣メガネ女子のブリッコポーズが輝きながら射出され、ほかの文官もそれぞれ自分の担当へ計略光線を発する。
「火計は存在しない仕様だしなあ~」
横蓋が残念そうに頭をかき、遠行は驚いてふりむく。
「三国志なのに?」
「攻城兵器や防衛装置もプレイヤーで差がないから、工作の技量も加速ビームの『効率化』に集約しているんだろ? いろいろ火をつけてみたが、こげ落ちるだけで延焼は起きない」
「赤壁とかの大逆転はなしか」
園本の背を守る淳は苦笑いでつぶやく。
「私にはうれしい仕様やね。夕飯を派手なボヤにしたのがプチトラウマなんで、このリアルさで火に囲まれるのはちょっと怖い」
少し前、長任の領地の境界では、夜道で寥花たちが補給部隊の引き返しを急がせていた。
「なんかウジャウジャ来てる~う?! 自信たっぷりに話し合いへ行った駿義さんは?」
ちょうどそこへ、長身の名無し武将が駆けてくる。
「伝令によると、駿義どのが討たれてしまったようです!」
「うわ~。社会学科教養も心理学知識もサイクリング同好会経験も役に立たね~。じゃあ後から様子を見に行った絶叫マシーン研究会のふたりは……」
タイミングよく、せまる大軍から叫びが上がる。
「敵将・登茂、このジョコウが討ち取ったり~!」
「敵将・遠志、このホウトクが討ち取ったり!」
「うわ~。ご親切に報告どうも~」
寥花は悲しげな笑顔で全軍撤退を指示する。
「無理に進んでも荷物を奪われるだけだし、これでいいんだよね?」
寥花が馬へ鞭を入れながらつぶやくと、長身の名無しは笑顔で手を組み礼を示す。
「敵は十万を超える大軍。迅速な判断が被害を減らしたものと思われます!」
「私の部隊は武将十二人と言ってもザコばっかりだし、兵力は合計で二万だからね~。しょっぱくても逃げまくるしかね~。まだ死にたくね~」
名無しが爽やかにうなずく。
「志を同じくする者です。共にがんばりましょう!」
武将が九人に減った寥花たちが城に近づき、やたらに大きい放牧柵の間を駆けていると、永松から内緒連絡が入る。
城壁の上で、小柄な文官女子がひらひらとそでをふっていた。
『おつかれさまです。十万以上が攻めてきたという伝令は聞きました。開けておいた道ぞいにまわっていただけますか? あちこちふさいでいますので』
直進できる通路には板が打ちつけられていた。
寥花たちの部隊が通過すると、永松配下の兵士たちが用水路の渡し板をはずしていく。
月もなく、防衛装置を兼ねた深さの水面は真っ黒い。
『荷物を半分くらい奪われたと思います。ごめんなさ~い』
『第一陣の分だけで二割もないので、お気になさらず。むしろ半分も守っていただき、そのために犠牲が三名も出てしまったようですが?』
『いえ、あいつらは見通しの甘さで自爆しただけ……あ、いえ、敵さん強いみたいです。ジョコウとホウトクがいました』
『あれま。どちらもトップクラス武力ですね。ではそのまま裏手側へ』
永松は内緒通信をきると、頭を抱える。
「出撃部隊はすれ違ったようですね。伝令は飛ばしましたが、引き返さないで相手の城を攻めるかも……ま、どちらにせよ籠城で時間かせぎ一択ですけど」
城壁の上からも夜闇にせまる敵の大軍が見え、中から武将が両脇へ数人ずつ、兵士の群れを広げながら分かれた。
それでもなお正面には十人ほどいて、畑を埋めつくす雄叫びの波が防柵へ迫っている。
「ほぼ収穫後とはいえ、いい気はしないな」
残念そうな長任に永松は残念そうにつっこむ。
「陥落したら貯蔵もぜんぶ奪われるんですってば」
「そ、そうだった。でも寥花ちゃんを合わせてもこっちは五万で、相手は十万以上?」
厳彦が弓をかまえて目をこらす。
「有名武将くさいのふたりいるけんど、川方面へ行った斧使いがジョコウかねー? 正面のはゴツいヒゲモジャ。白馬のやつ」
「あ、白馬将軍……ええ、たしかホウトクのニックネームです。では正面は厳彦さんにお願いします」
「おう、まかせー。がんがん稼がせてもらおうかー。がんがんがんがんがんがん!」
すでに弓矢の連射をはじめていた。
敵軍から大声が上がる。
「こっち三十万くらい集まるからー! ムダにがんばらないほうが待遇いいよー!」
永松は見向きもしないで、軽蔑するように鼻で笑う。
「側面、川のほうは登芝さんにお任せします。なるべく早く援軍を送りますんで」
ふたぶてしい悪人顔の男文官がニヤリと眼光をほとばしらせる。
「この城は立地に恵まれて守りやすく、互いの長所を活かせば何倍もの相手に対抗できます」
長任は緊張しながらも笑顔でうなずく。
「登芝先輩に言われると、なにやらとても力強いです」
「とはいえ、寥花さんたちは未知数ですし、時間かせぎ重視でお願いします。側面、山のほうは長任さんの担当です。一緒に行きましょうか。私は裏手側で寥花さんと合流します」
長任奉弓
体力80・武力90・知力60・徳力80・兵士数10000
百只厳彦
体力60・武力80・知力60・徳力70・兵士数10000
登芝米太
体力60・武力60・知力70・徳力80・兵士数5000
永松喬子
体力40・武力20・知力80・徳力40・兵士数5000
「私以外の三名様は兵士が復帰しやすく、実用レベルの計略も自前で使え、少数精鋭での防衛に向く優等生ぞろいです。これに名無しさんも各方面にひとりずつ」
「たてこもり戦闘なら近い経験があるけど、ぶつかる兵士の桁が増えると、同じような動きにはならないよね?」
「お、妙なところで良い着目です。意外と知力60らしさもあるのですね」
「失敬な」
と言いつつも長任は小声で、目もそらしている。
「どうしても長引きますので、より慎重に、負傷を避けてください。でもまあ、私と先輩がたでフォローしますので、とりあえずは食道楽とペット道楽で到達しちゃった『超人の90』武力を試すくらいのつもりで」
それぞれが持ち場に着き、長任は「せせやせや」と矢の雨を降らせはじめる。
「おおっ、わかってはいたけど、これは楽だ……少し遠いけど」
敵兵が城の正面側から流れこんでくるが、柵を越えてくる人数は少しずつで、弓矢を集中できた。
盾で防御しているが、少しずつ倒れている。
その先でも深い水濠にはばまれ、中央の門に集中する。
渡橋は引き上げられているため、地道に水濠を埋める作業が必要だった。
「私が最初にいた小さな城とちがって、すぐにはしごで登ってくる心配はないけど……」
敵武将の数は四人だが、それぞれが畑をうめつくす兵士を放出し続けていた。
「一武将の兵士は普通だと一万まで。見かけで千人……いつまで射ち続ければ終わるんだろ?」
永松はひとりで裏手方面に着くと、ちょうど寥花たちも入城し、閉門したばかりだった。
「ではさっそくですが、寥花さんは山側の守備をお願いできますか? そしてこの裏手側は私しかおりませんので、寥花さんの次に強いかたを含む四名様をお借りしたいのです」
「え。あ、はい。だいじょうぶです」
寥花のとまどいは三つあった。
(私が一方面の指揮なんてだいじょうぶかな? 籠城戦だってはじめてだし)
(私の次に強い? まずい。部下のみなさまの能力なんて知らない。名前もだけど。急いで確認……)
(でもリストを見なくたって、ザコぞろいとは知っている。貸して恥ずかしくない人材なんているかあ?)
歌満夜叉
体力50・武力60・知力20・徳力10
可義ふたり(べしよしふたり)
体力30・武力40・知力30・徳力10
横召郡
体力40・武力30・知力30・徳力20
留壁玉利
体力50・武力50・知力40・徳力40
万成超長
体力30・武力40・知力20・徳力40
波財ナミオ(はざいなみお)
体力50・武力50・知力40・徳力30
名無し(命名可能です)
体力46・武力57・知力38・徳力42
名無し(命名可能です)
体力41・武力31・知力17・徳力23
(だめだやっぱり区別がつかね~。名無しも含めて大差ね~。上から四人でいいか? とりあえず武力では一番マシな歌満さんもいるし)
「では歌満さんを含めて、可義さん、横召さん、留辛さんで」
(というか、みんな学校の成績は良さそうなのに、この知力の低さはなんなのだろう。別に悪い人たちでもないのに、徳力までひどい)
「任せて寥花ちゃん! これは弓帳さんたちの計画した戦争だから間違いないよ!」
(ああ、たしかに頼りたくない感じだ)




