25 虎牢関の戦い4 チートを使ってみよう(于示林)
遠行はしんがりを務めた勲張、橋塚、凍紀の最期を見届け、肩を落とす。
「あいつらの兵士、少なくして本っ当に正解だった……あれ? 諭渉、オマエなんでまだ生きてんの?」
「ひどいや遠行くん。ボク知性はないけど感性は壊れてないからね?」
「そうかあ? でもまあ、次に追いつかれたらお前の番な。その感性とやらで、少しは時間を稼いでくれ」
「しかたないなあ。親友の君にそこまですがりつかれちゃ~」
併走している日美子は諭渉が使い捨てられる前提がネタかどうか迷う。
于示林が馬上で手を組む。
「園本どのに献策」
「全権委任!」
園本初紹は即座に笑顔で握り拳を突き出す。
参謀役の豊田と組授の顔には『せめて内容を聞いてから』と書いてあったが、口には出さない。
「ではブンシュウどの、ガンリョウどのと鳥番どのを借り受けます。合図ごとに計略をお願いします。そして横蓋どの、遠行軍よりもふたりを捻出していただきたい。華夫どのを除きます」
まばたきしないギョロ目が淡々と言い切り、横蓋はうなる。
園本軍は四人を出すと、残りは君主のほかに文官三人に護衛がひとり。
ぎりぎりの人数をしぼりだしているが、遠行軍もいきなり三人が脱落して、余裕はない。
「おい豊田。これ、だいじょうぶなのか?」
「えーとまあ……いける!」
冷淡男子の愛想笑いは珍しい。
「怪しいじゃねえか。しかしすまん組茂、諭渉と一緒に行ってもらえるか?」
小柄で人のよさそうなオッサン顔男子が照れたように横蓋と于示林と諭渉へ頭を下げる。
「よろしくお願いします。でもどうやって……」
于示林は組茂を凝視しながらつぶやく。
「公開・範囲・遠行軍」
于示林文則
体力60・武力70・知力60・徳力60
『優秀の70』があり、ほかも『平均以上の60』で、有名NPCではない人間のプレイヤーとしては恵まれている。
しかし驚くほどでもなく、遠行や横蓋は拍子抜けする。
「そちらのおふたりで強いほうはどちらで?」
「組茂のほうがなにかと使えるが、武力だけなら諭渉が上だったか?」
「ボクは全部50という平々凡々だったけど……」
組茂が苦笑し、遠行はそむけた顔を暗くする。
「あ。上がっている。というか、ボクのは公開しちゃっていいよね?」
組茂大栄
体力60・武力60・知力60・徳力60
遠行は誰にも聞こえないように舌打ちする。
「でも諭渉くんも成長しているなら……」
組茂に聞かれ、諭渉は笑顔でうなずく。
諭渉公礼
体力60・武力60・知力20・徳力30
「なにひとつ変わらないんだ。ののしってくれていいよ」
一同は反応に窮するが、遠行だけは真顔でうなずく。
「お前にはぴったりお似合いの評価だから気にすんな」
「そう? じゃあ鳥番センパイもいることだし、前向きに生きてみようかな」
日美子はふたりの暴言を止めるべきか迷う。
横蓋なみに大柄マッチョの鳥番はニッカリ笑っていたが、突然に両拳を打ち合わせて吠える。
「俺と張り合おうなんて、とっぽいじゃねえかああ?! だが俺の成長は止まらねえぜええ?!」
鳥番風水
体力70・武力70・知力10・徳力20
「…………あ、体力が上がっているのですね! 戦闘の前に幸先がよいです!」
日美子の優しさに尊敬の眼差しが集まる。
「ふう、セーフ……」
諭渉は安堵のため息をつくが、遠行すら無視する。
「NPCと違ってプレイヤーは囲まれないように動くから、かなり上の武力と人数がないと短期決着は難しいよね?」
「時間に猶予がないため、移動しながらの説明で失礼」
于示林は組茂ではなく、遠行や横蓋たちへ手を組んで礼を示す。
「心配も無理からぬ状況。しかし集団戦において、誠実と忠義は時に武力や知性をうわまわるもの。私はこの選抜隊を弱いとは思わない」
それだけ言うと会話を内緒にきりかえ、にわかに馬を反転させて遠ざかる。
「なりきりプレイのヘビーゲーマーか歴史マニアか?」
横蓋は呆気にとられ、豊田と内緒で計略配置を確認しながら、声に出して聞く。
「いや、天然であの感じらしくて……もうしわけない。実は俺にも謎だらけで、ゲームや歴史もそれほど詳しくなさそう」
「で、能力値もあの程度……そんなに特別な適性があるのか?」
横蓋が驚き、豊田が苦笑する。
「うちの切り札」
ブンシュウとガンリョウは突出している華夫を避け、両翼へ兵士を展開する。
于示林「ひとつ。われわれ四人で華夫どのに接近し、短期決着させる」
鳥番「おうよおお!」
諭渉「おまかせあれ!」
組茂「え、あの、それが難しいという話だったよね?」
于示林「ふたつ。指示する配置を徹底していただきたい。要請・計略!」
背後の文官たちから光線が放出され、四人を一斉に加速させる。
華夫は後続の四人を二手に分けてブンシュウとガンリョウにあたらせ、ニヤついた。
「兵士・展開・護衛!」
配下兵士がウジャウジャと噴き出し、あたりを埋めていく。
連合武将の四人も兵士を広げながら、兵士の波をかきわけて突っ切る。
互いに互いの兵士まみれになって動きがにぶくなり、自動的な防御や反撃の動作でさらに身動きしづらくなる。
華夫は鳥番と諭渉が強引に左右を抜け、背後へ向かう様子を観察していた。
「武力70……いや、60のザコも混じっているかな? まあ、それくらいでも囲まれたらめんどうだよなあ?」
不意に前進してふたりを引き離し、左手前方に近づいていた組茂へ迫る。
「囲むことができたら、だけどなあ?!」
組茂は逃げに徹して、加速計略の支援に加え、連続した突撃選択で手数を増やす。
「そもぅそもぅそもぅそもぅ!」
それでようやく追いつかれないギリギリだった。
「なにその突撃ボイス?! 腹筋を直接攻撃しないでくれる?! じゃあ一人目……突撃! かゆかゆかゆかゆかゆかゆぅ!」
大刀の乱打をはじめた腕が、横から斬りつけられた。
ばさばさ長髪のギョロ目が無表情に真横にいた。
「あー、前にどこかで会ったね?」
華夫の新たな標的になった于示林も、計略支援を受けながら距離を開ける。
先に深入りした「ゆっしゃゆっしゃあ!」「は~ん! はは~ん!」の声も近づいている。
「ま、格闘ゲームみたいな操作テクはない仕様だし、そうやって時間かせぎしていれば、いつか俺の兵士が先につきるけどさ……」
華夫は急反転して、諭渉へ突撃する。
「かゆかゆかゆかゆ! ……ん?!」
背に浅いダメージ演出の光と震動。
「またオマエかよ」
華夫がふり返ると、いつの間にか接近していた于示林が後退をはじめていた。
もうひとりの小柄オッサンも遅れて接近していたため、そちらへ標的を変えて突撃する。
「そっちの彼、ずいぶんきわどく飛びこんでくるね~。武力90のチート級プレイヤーを削れるなら、ザコは犬死にしたって自慢になるかあ?」
華夫は依然として余裕のある表情で周囲を確認する。
両翼に離れた四人はブンシュウとガンリョウを抑えていた。
(兵士が減ったら合流すればいい。援軍も呼んでいる。城にこもられるほうがめんどうだ。野戦で時間をかけて、有名NPC二体を削れるほうがおいしいっての)
「って、いいかげん、うぜえよお前!」
ふたたび脇腹にせまっていた于示林の剣ははじかれ、届かない。
代わりに鳥番の長斧が背をかすっていた。
見ればすでに「はんはん」言いながら後退をはじめており、もうひとり近づいていた「ゆしゃゆしゃ」の棍棒が空振りしていたので、そちらを追う。
しかし華夫は突撃を選択する直前、背後を振り向く。
于示林がふたたび近くに立っていたが、剣は振らないまま後退をはじめていた。
(ありきたりな一撃離脱の袋だたきだが、このキモいやつ……ほかの三人と違って、俺が背を向けてすぐに飛びこんでいたよな? 顔面どおり昆虫みてえな無謀さだ。捨て身ウゼー。それなら……)
「だるまさんがころんだあ!」
ふたたび諭渉を追うふりをして、すぐにふりむく。
于示林は動いてなかった。
背後からまた「はんはん」が近づいているため、まずは于示林を追って、四人に囲まれることだけは避ける。
(って、ちょっと待て。いくらなんでも味方から離れすぎか?)
逃げに徹する于示林をあきらめ、併走するように追ってきた組茂へ標的を変える。
(このオッチャンは特に慎重だから、一気につぶすのは無理くさいが、とりあえず位置を大きく振って……)
背中に震動と効果音。
振り向かなくても、無表情な凝視を感じた。
「なにオマエ、だるまさんがころんだのプロ?」
「クセと呼吸を観察した。視線の配りかたから、ラグビーかアメフトの経験者と気がついたことが大きい」
于示林は逃げないで打ち合い、手数の差でほぼ一方的に体力を削られながら、なぜか種明かしをした。
華夫はその理由を疑うべきだったが、相手が素で不自然のかたまりだった。
これまで慎重だった組茂まで、反撃覚悟の肉薄で二刀流の乱れ斬りを放つ。
華夫は防ぎきったが、于示林はその隙に逃げるどころか、さらに斬りつけていた。
(ちょっ、おま、体力けっこう削ってやっただろうに無茶な……あれ? 俺も、もう何発くらった? 突撃も使いっぱなしで……とにかく、一匹減らして離す!)
華夫はふり向きざまに大刀をふるうが、すでに于示林は後退をはじめ、ギリギリの空振りになる。
「……なにそのチート?」
横合いから二刀流がふたたびモショモショ乱打され、「はんはん」「ゆしゃゆしゃ」も反撃覚悟で密接してくる。
「一気に決めにきたか……まあでも、逃げそこなった60のオッサンくらいは瞬殺して突破できる……かゆかゆかゆ! かゆう! かゆう! かゆう! ……ん?」
連続突撃しているはずなのに、急に手数が減る。
「ようやく自分のかけ声の恥ずかしさに気がついた?」
真顔で心配する背後の諭渉を無視して、華夫は自分の能力値を一瞬だけ確認する。
広維華夫
体力40(最大80)・武力60(最大90)・知力30(40)・徳力20(30)
(体力の減りすぎによる弱体化……?!)
顔をひきつらせた時にはすでに遅く、反撃を気にしない四人がかりの袋だたきがはじまっていた。
乱打される効果音の中、ボソボソとしたつぶやきが続く。
「ケガではない挫折、見栄えだけのテニスでかたよった心身と同様、華夫どのが持て余す人並みはずれの意欲は、ただ方向の誤りが惜しまれる」
「敵将・華夫センパイ、ボクちゃんが討ち取ったり~い!」「りいいい!」
諭渉に続いて鳥番が吠え、于示林は黙々と手元を操作する。
「すごいや友情パワー! 武力90プレイヤーもたいしたことないねえ?!」
「おうよ! 残りのザコも一掃しちまおうぜええ!」
諭渉と鳥番はそれぞれブンシュウとガンリョウの加勢へ向かう。
しかしブンシュウとガンリョウはすれ違いに駆け抜けた。
「あれ?」「ん?」
于示林も組茂も引き返していた。
「諭渉くんと鳥番さんが置き去りになっているよ?!」
「四人で作る四角形は互いに補助できる距離を保つように指示している。徹底できない者は守りようがない」
「そんな……わ。いつの間に?」
組茂たちの前方をふさぎ、ふたりの重草軍プレイヤーが兵士を広げる。
「助けに向かえば我々も無駄死にとなる」
于示林がつぶやいた直後、後方の遠くに武将十人以上の援軍が見えてきた。
「待って~え?!」「待ちやがれええ!」
諭渉は兵士をかきわけて引き返そうとするが、鳥番は誇らしげに突撃し続けた。
「最後尾のふたりを計略対象から除外」
于示林の無慈悲な献策を園本は無言で即座に採用し、遠行もうなずいて叫ぶ。
「自業自得だ! 少しは頭を使え!」
さいわいにもその罵倒が聞こえる前に、大学生の先輩である鳥番は消滅していた。
「できないことを指示されたって困るよ!」
それが諭渉の遺言になった。
「敵将・鳥番、このチョウリョウが討ち取ったり!」
敵将の名乗りが響き、組茂は苦笑いでふりむく。
「魏でも最強の名将さんかあ。もしかして、初期の所属だと……」
「敵将・諭渉、このチョウリョウが討ち取ったり!」
ふたたび叫んだ精悍な騎馬武者の背後に、金剛力士のような顔体の巨漢が続いていた。
「三国志世界で最強の猛将さんまでいるのかなあ?」
兵士の波にはばまれ速度がにぶる諭渉と于示林へ、横蓋から内緒が届く。
『喜べ。練宮によると、やっぱり呂布もいるらしい。どうするよ于示林どの、このまま任せっぱなしでも合流できそうか?』
于示林は返事をする前に、内緒へ園本と遠行を呼びこむ。
『華夫どのが連れていた四人にも難敵が潜んでいる様子。そちらは速度を落とさず、内緒通話が届かない距離になり次第、こちらへの支援計略は打ち切っていただきたい』




