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24 虎牢関の戦い3 作戦を練ってみよう(全体・練宮)


 連合四軍の出撃部隊は夜道を行軍しながら、その中央に代表者たちが集まって話していた。

 季節設定として木々は枯れていて、息が白くなる演出が入っている。

長任ながとうの城に集まった反重草しげくさ連合は二十万。その内の五万は守備と輸送……相手は三十万くらいか?」

 無愛想な正法まさのりがつぶやく。

「俺らの出撃させた数を考えると、重草軍も首都攻略失敗から内政に専念して、それくらいに増えていてもおかしくないな」

 淡白に豊田とよたが答える。

 いかつい中年にしか見えない横蓋よこぶたもうなずく。

「武将数なら少し前に四十人超えと言っていたから、こちらと同じ五十くらいか? しかし能力値がなあ?」

 梁黄はほほえんでうなずくだけ。


「有名NPC持ちやレア能力を集めていたし……なんだよ女王」

 豊田は話し途中で園本そのもとに頬をつつかれて迷惑そうに顔をしかめる。

「私にわかるように話して」

「コマも指し手も盤面も数十倍の将棋みたいなもんだ」

 豊田が手で追い払い、園本はすまし顔のまま離れる。

「ん。戦力が半分でもやりかた次第ね」



 行軍の配置が決まり、各軍内部で調整がはじまる。

「なんで俺らが先頭なんですか?」

 遠行とおゆきは横蓋を疑いの目で見た。

「ぶっちゃけ俺らは人材が貧しい。突撃する主力はほかに頼んで、守りや逃げのおとり担当にしてもらった……いや別に、園本嬢の機嫌とりは考えてない」

「たしかに長期戦だと、日美子ひみこちゃんがいろいろ心配だ。相手が相手だし」

「だ、だいじょうぶですよ? ほら、ほら、体力値も減ってないし」

「小まめに確認しているのが不安なんだけど……それはともかく、戦争の勝敗は物量で決まるもので、攻める側は三倍以上で圧倒するのが基本では?」

 横蓋は遠行の肩をひっぱたく。

「その次が『集中』だろうが。全体の数では負けていても、ひとつの戦場では袋だたきにできる戦力差があればいい」

「相手が五万ずつ突っこみ、俺らは十五万で囲んで消していく……というほど相手もマヌケじゃないですよね? にわか連合の連携のほうが不安だし」

「そうかあ? あっちも連合みたいなもんだし、首都戦の様子を聞く限り、大部分は連携が崩れやすくて、立て直しにくそうだ。俺は刺し違えでも総スポの勝ち目さえ消せりゃいいと思っていたが、こっちには正法とか豊田とか、話の通じるやつが意外とそろった」

「すると運次第?」

 横蓋は遠行の頭をひっぱたく。

「ばかやろう。ケンカなんざいつでも出たとこ勝負なんだから、運まかせとか言って気を抜かねえやつが勝ちを拾えるんだ」



 練宮ねりみやも重草軍の会議場で考えていた。

(連合軍は最悪でも、トップ三位を横並びにできる見こみの戦力で集まったはず。加えて私や内応者の工作で被害を大きくすれば、重草への反感を決定的にできる!)


(全滅になってしまうと、内部関係を再構築する時間まで失うが……連合もそこまでの数は集められないだろう。ゲーム慣れしてないプレイヤーも多いから、情報もれも防ぎにくい……む? そうなると、連携すらにわかな連合軍は、集まるなり速攻の一手か?)


(重草軍をなるべく城の外へ出して防御力を下げるべきかと思ったが、数で劣る連合軍と下手に鉢合わせたり、すれ違って補給をつぶしたら……まずいな。籠城させたまま、派手な内部分裂をねらうほうがいい。みつるさんへ、なにかダメ押しの一手を……)


 思索に没頭しすぎて、周囲のどよめきに気がつくのが遅れた。

 重草と言い合っていた誰かが、急に絶叫しはじめた。

「いいかげんにしろよテメエ! ヤリサーのくせにでかいツラしやがって!」

 見れば充が小さな目をひんむき、重草につかみかかっていた。


「へ? あれ? 陽奉あきよしさん、あれ一体、なにがあったんです?」

 練宮は近くにいた男に聞くと、内緒話が返ってきた。

『重草さんが打ち上げ準備とか言って住所やメールアドレスを集めはじめたから、充さんが止めて……』


(それはひどい。脅しに使える情報を握って逆らえないように……しかし私は、充さんを追いつめすぎてしまったか?)


「てめえらもコソコソ内緒なんか送ってんじゃねえ腰ヌケ! いつまでヤリサーのクズに好き勝手やらせる気だ?!」

 充は顔を真っ赤にして豹変していたが、重草は退屈そうにニヤついていた。


「ヤリサーヤリサーってよお、なにそれ? そんなサークルどこにあるの? 大学にもなってコンパやらねえサークルあるかよ? そこでカップルになるのも禁止? そのほうが異常だろ? 女と口も聞けないキモ童貞の真似しろっての? うちがヤリサーなら、コンパやるサークルは全部ヤリサーだっての!」


「ウチはクスリや異常な度数のアルコール盛ったりしねえよ! 『記念写真』で口封じする準備までした犯罪集団のくせして……!」

 重草の合図で、とりまきによる袋だたきが公開される。


「証拠あんのかよ?! 証拠もなしにテキトーなこと言ってんじゃねえよ! 証言するやつ、誰かいんのか?! 言ってみろよ! おらぁ! 名前だせよ! 証拠もなしにわけわかんねえ言いがかりつけるテメーのほうが犯罪者だろうが! 訴えんぞクズ! おい、このクズをかばうクズ、いるかあ?! いるならとっとと出ろよ?! ……おらぁ! いねえだろうがクズ! 一人で勝手に騒いでろクズ! お前の言うことなんか誰も聞かねえよクズ! 目障りだから二度とツラ見せんな! 弱小サークル立て直してやったのに、恩知らずが! 妄想ぶちまけて空気ぶちこわしやがって、何様だよ?!」 


 重草が怒鳴り終わると、すでに充は所持品を残して消滅していた。

 怯える周囲の顔に、練宮はあせる。

(まずい。充さんが感情的すぎたから、みんなも擁護しづらくなってしまった。そんなところへ重草の病的な暴力性を見せられ、保身の心理ばかり強まっている)


 重草はわざとらしく落ちこんだ表情でため息をつく。

「はあ~、なんか、しらけちゃったよね? 俺はみんなのためだけ考えて傷ついているのにさあ。なんでこんなに追いつめられなきゃいけないわけ? 後になって自分の都合だけで文句つけられてもみんなが困るから、ほかにも抜けたくなった人いたら、抜けていいよ? 今の内に……」

 陸上部の勝馬かつまが動きかけ、ほかにも操作をはじめた気配を練宮は感じたが、すぐに重草の声がさえぎった。

「いないならいいんだけど!」


(まずい。遅れた。即座に私が『じゃ、各自でやりなおしてみますかあ!』と笑って見せれば、離脱やログアウトが続出していただろうに!)


「じゃあほら、実は大戦争の準備をしていたから、派手にやろうか! これ絶対、損しないから!」


(な……なにい?!)

 目をむく練宮の前で作戦地図が開かれ、重草のとりまきは編成を指示していく。

「ラグビー部とかは……ああ、とりあえず鬼続おにつぐくんが代表でいいよね?」


 ぞろぞろと出発がはじまり、練宮は出撃メンバーを頭にたたきこむ。


(総スポ副部長の牛介ぎゅうすけ李鶴りつる隠巳かくみ長済ながすみ大楓おおかえでの四天王で十万、さらに勝馬さんの陸上部に、陽奉さんの演劇部も足すと十四万くらいか?)


「本当は夜明けまで待ってからと思ったんだけど、空気が悪いからさあ! もうここで、勝ちを決めちゃおうか! 犬南ちゃんのために、もう少し盛り上げてからにしてあげようかと思ったけど、まあ、余った時間は二番手争いで賭けとかしてさあ?!」


 地図の重草軍は四つの領地と接している。

 北西は「涼州(勝馬)」と書いてあり、重草軍の同盟国。

 南西は「漢中(男子バレーボール)」とあり、璋軍の同盟国。

 その隣、南の璋軍へ、十四万の大軍団が向かっている。

 東の角黄軍に対しては、釘原くぎはらに代わって鬼続が率いる五万を向かわせていた。


(璋軍を十四万で一気に攻め、もし角黄軍が来ても五万で足止めか……ん? この六人の配置は?)


 今いる城とふたつの進軍先を結んだ三角形の中心に、すでに六万の兵が置かれていた。


「あの、重草さん! 私の配置は?!」

「え。二千ぽっちなら城でよくね?」

「そんなあ?! せっかくの大勝負に、計略を使いまくれないんですかあ~?!」

 練宮の演技はわざとらしいが、元から顔だちや口調が大げさなせいか怪しまれず、重草はただめんどうそうに見ていた。


「まあ、そんなに行きたいなら、華夫はなおのところは計略屋が足りないし……」

「了解です! では!」


 重草が指したのは半端な位置の六万だった。

 練宮は飛び出し、馬に鞭を入れる。



(華夫たちの姿が見えなかったのは巡回警備かと思ったが、すでに遊軍として出ていたとは……)


 練宮は連合軍の進行ルートを考える。


(もし角黄領の拠点から出発していれば、鬼続たち五万、遊軍の華夫たち六万、そして手薄になった城の五万と、手早く進めば大戦果もありうる。璋軍の拠点は犠牲になるが……あ。このルートは無い)


 練宮は璋軍からのルートを検討して、すぐに察する。


(璋軍の最前線はどういうわけか、偏執狂めいた生産特化の領主を配置しているのだった。作物の種類をやたら増やしてネタプレイを装っているが、場所からすれば大戦争のための備蓄としか考えられない)


(十四万と正面衝突して野戦で足止めされ、華夫の遊軍まで支援に加われば最悪だ。引き返して城と連携させるように連合軍を誘導しなければ!)


 練宮は見えてきた六万の遊軍からわざと方向をずらし、気がつかないふりですれ違う。

 ひとりが馬で追ってきて、メッセージを送ってきた。


『援軍? 山今やまいま

『山今さんも援軍ですか? 練宮』

『いや、元からいるし。陣地そっちじゃないよ?』


(知っていますけどね。山今さんは華夫さんの副官ですし)


『そうですか。でもまあ、せっかくですから、少し巡回して……』

『待って! なんか来ている! 敵じゃねえのあれ?』

 闇夜にうごめく騎乗した集団が遠くに見えていた。


(まずい。連合軍は見つからないように遠回りしていたのか? すると連合拠点は手薄なまま、すれ違った十四万の直撃を受ける……陥落すれば、あの出撃部隊は補給も撤退もできない、さらなる最悪だ!)


『ええ? そうですかあ? ああ、たしかにそうですねえ!』

『おい、早く隠れろって……見つかった!』

『ああ?! すみません! 私がくいとめますので、先に華夫さんへ連絡を!』

『いや、たった二千じゃ意味ないだろ……?』


 練宮が剣を抜いて突撃をはじめたので、山今はひとりで逃げる。

 練宮は歩兵を広げながらわざと自分だけ突出し、相手の先頭へ内緒話を送る。


『この先に華夫たち六万! 璋軍拠点へ別ルートから十四万! 角黄領へ五万! 城に五万!』

『え? 連絡の宛先をまちがえて……』

『ない! すぐに連合の代表者たちとつなげていただきたい! このままでは撤退すらできなくなるので!』


(なんて察しの悪い者を先頭に立てているのか!)


『いや、俺も遠行軍の君主で……と、とにかくちょっと、つなげますんで……』

『遅い! とにかく私を殺さないように捕縛してください!』

『はい!』


練宮広台ねりみやこうだい

 体力60・武力50・知力80・徳力60

 重草軍・武将・兵士数2028


 無力であることを示すためのステータス通知だったが、なぜか相手の遠行はわずかに険悪な表情を見せた。



 捕縛した練宮に横蓋、豊田、法正、梁黄が次々に内緒をつなげる。


横蓋『全軍後退! ……いいか?!』

豊田『守備隊とすぐに連携できるほうを先に帰したほうがいい』

法正『ん。すまんが俺らと角黄軍は先に行かせてもらう』

梁黄『わかりました』


 内緒から法正と梁黄が抜けて駆け出し、代わりに園本が加わる。


豊田『別ルートから拠点が攻められていた。補給がなくて陣を作れないと、兵力の回復が遅くて城攻めは無理。先に帰した正法たちが守備の援軍に間に合えば、チャンスがなくもない』

園本『松路まつみちたちを盾に足止めするわけね?』

豊田『バカ。俺らもだよ。どうせ重草つぶすほうが優先だろ?』

園本『松路は勝手につぶれそうだしね』

横蓋『マツミチって……ああ、遠行のことか』


 遠行松路は内緒話をつなげたまま無視して、捕縛された練宮へ刃物をつきつけて走るだけだった。


練宮『ひとり、連絡へ向かったようです。梁黄さんを見られていますから、角黄領には余力がないと見て、さらに五万がこっちへ方向転換するかもしれません』

横蓋『というわけで、足止めするにも後退しながらだ』


 すでに豹のような顔をした巨体の率いる部隊が見えていた。

「うおっ、なにあの大軍?! なんで逃げるわけ?! 誰か、相手になってよ! ……ん? 日美子ちゃんも参加していたの?! もう、言ってよお!」

 頭上に『広維華夫ひろいはなお』の名前表示が出る。

「こっち来なよ! すぐ一万フルで預けるから! 城主、どこがいい?!」


 日美子はぎくしゃくとした動きで遠行の背から出る。

「わ、私は今、この軍のお世話になって忠義を立てていますので!」

「だいじょうぶだって! とにかくこっち来れば、あとは重草さんが話つけるから!」


 横蓋は遠行の頭をつかみ、ふたたび日美子の遮蔽物として配置する。

「あれを翻訳すると『話は聞かねえ黙って従え』だ。会話になってない脅迫なんぞ、聞くだけ耳が腐る」

「で、ですから、自分できっちり言い返して……」

 おびえながら無理に笑う日美子に、横蓋は力強い笑顔でうなずく。

「つぶしたいならなおさら、戦場は自分で操れ。責任のがれやゴリ押しをしやすいクズの土俵へ引っぱりこまれるな」

「今は遮断が最良ですか……」


「引率の先生っすかあ? クズとかなんとか、こちゃこちゃ聞こえてんですけどお? ゲームでそういう誹謗中傷とか、規約違反ですよねえ? ちゃんとした謝罪がないなら、通報していいっすかあ?」

 華夫がニヤニヤと威嚇し、横蓋も笑顔でふりかえり、声を大きくする。

「クズの詭弁に中身はない。ストレスで反論の気力を奪う意味しかない。合理性が無いから、相手を貶めることでしか主張できない。暴れも逃げもできる閉鎖的で偏った環境が不可欠だ。それに対して正論は、環境が広くまともになるほど強くなる……華夫くんよう、公開での話し合いなら、俺はいつでも歓迎だ」


 日美子を守って併走していた諭渉さとわたりが感嘆してうなずく。

「横蓋センパイ、なんだか立派なリベート厨みたいっすねえ!」

 日美子と一緒に硬直していた遠行はここぞと友人を殴りつける。

「オマエが効果的に茶化してどうする?!」


「いや、あのー。なにをいきなり、そんなムキになってんすかあー? おとなげないっすよセンパーイ。ゲームなんだから、脅しつけるようなせこい真似はやめて、もっと楽しくやりましょうよー」

 華夫たちは距離をじわじわと詰めていた。


「くそ、持ち馬の数がかなり多いみたいだな?」

 背後を気にする遠行へ、園本が馬を寄せてくる。

「早くあれ黙らせて来て」

「だからなんで俺に言うんだよ?! ゲームでもリアルでもお前に指図されるおぼえはねええ!」

「日美子ちゃんて、総スポとなにか関係あるの?」

 日美子はせまる園本と華夫を見比べ、踊るように混乱する。

「あうあの、そ……はう?! 減っている?! ちょ、失礼!」 

 遠行の元へ内緒通知が届く。


伊勢日美子いせひみこ

 体力10(最大20)・武力60(最大80)・知力60(最大80)・徳力60(最大80)


『そういえば犬南ちゃんが「減った割合に応じてほかの能力も一時的に下がる」とも言っていたのでした~。体力が五十パーセントをきると、他がすべて二十五パーセント減、ですかね?』

『日美子ちゃんはもう、ストレス回復するまで逃げに集中して! 初紹はつぎの精神攻撃も無視して!』


「初紹はひっこんでろ! この子は俺らが守っているから!」

「へー。松路が。へーえ。松路のくせに」「へーえ。松路のくせに」

 園本初紹が薄笑いで棒読みして、後半は隣の告遠子ことこも声を合わせた。


「仲間割れっすかー? 重草軍はどっちも歓迎だから、ギスギスしないでちょっと話し合いません? あ、軽音の姫じゃないっすか?! ライブ見たし! めっちゃ良かったよ~!」


 園本の薄笑いが消え、それまでなにくわぬ顔で背を守っていたじゅんも短い眉をしかめる。

 しかし豊田が指示を出す前に飛び出した集団がいた。


勲張いさはる「おい遠行、ひとりでかっこつけてんじゃねえぜ!」

橋塚はしづか「日美子ちゃんを守るナイトはここにもいるってことを忘れんなよっ」

凍紀とうき「テメーは君主なんだから、体を張るのは俺らに任せてひっこんでな!」

 たいして顔の良くない野郎三人がキザなポーズと笑顔で後方へ突撃する。


遠行「お前ら……なんてNPCじみたパターンセリフだ」


華夫「うわー。なんか装備がハンパだねー。それに武力90超えって、NPCとプレイヤーだとまるで意味が違うって、知らないのかなー?」


「うるせーチ○カス野郎! 口からチ○カス吐くヒマあったら、俺のバットをしゃぶりやがれ!」

 より下劣な挑発を得意げに吐きながら高等部三年・文芸部・勲張大将軍いさはるだいしょうぐん(本名フルネーム)が棍棒をふり上げる。

 何秒もしないで切り倒され、それを見ても橋塚や凍紀は迷わず続き、次々と足止めの犠牲になる。


 華夫は三人を続けざまに切り伏せながら、呆然としていた。

「いや、そんな単純に突撃されると、NPCの武力90でも同じ結果なんだけど……」


 遠行は怒りに震える。

「お前ら、少しは連携とか工夫しろおお?!」




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