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22 虎牢関の戦い1 部隊分けしてみよう(遠行・園本・寥花)


 城門が開け放たれ、大量の兵士が縄を手に飛び出す。

 その先にはふたりの武将が並んで迫っていた。

 朝当あさあたりと名を表示している男はモアイのような顔に二メートル近い冷蔵庫体型。

 たくまと名を表示している男は肩幅が広く、やたら貫禄がある。

 ふたりは駆け出し、両手を高く上げると、マラソンゴールのように笑顔で捕縛部隊へ飛びこむ。


「いらっしゃいませ! 君主やってる遠行とおゆきです!」

 目つきの悪い少年がふたりを城内へ連行しながらへりくだる。

 居城の会議場へ通され、小柄な美少女の日美子ひみこが元気の良い笑顔で礼の仕草を示し、短髪で素朴な顔の猿喚さるわみもはにかんでほほえむ。


 朝当はジョッキのようなアゴをパカンと開けて目をパチクリさせる。

「なんだよ遠行~、姫君ふたり、横蓋よこぶたから聞いていた以上にかわいいじゃねえか~。こりゃ、野郎どもはがんばるわな……ああ俺、経済学部三年、漫研会計の朝当義公あさあたりよしまさな」


 となりの逞は朝当のいきなりのなれなれしさに遠行たちがとまどう顔をちらとだけ見ると、かすかに渋い苦笑を見せる。

「社会学部三年、漫研会長の徳稲逞とくいなたくまだ。雇われ人質にお呼ばれしてきたぜ。遠行軍の紳士淑女諸君、よろしく頼む」

 柔らかく落ち着いた口調で、ゆっくり長く頭を下げる。

 会議場にいた高等部学生たちはそれだけで驚き、尊敬の目を向ける。

 遠行は自分とは縁遠いスキルの威力を目の当たりにして、かすかにうめく。

(あいさつだけでわしづかみに……これがリアル人徳か?!)



 すでに滞在していた漫画研究会副会長の大柄マッチョ横蓋公覆よこふたきみのりが縛られた両手を差し出し、来客二名の縛られた両手とゴツゴツぶつけ合わせ、ニヤリとする。

 三人が並ぶと壮観で、なんで表示名がカタカナでないのか不思議だった。

 その三人の谷間に挟まれた小柄で人の良さそうな組茂大栄くみしげだいえいが四天王と言われていたこともさらなる不思議だった。


「こちらこそ、よろしくお願いします。朝当さん、逞さん……あ。逞さんて……いえ……」

 遠行はふと、その名に関わる妙な情報を思い出し、あわててごまかす。

「ん? ……ああ、横蓋からなにか聞いちまったか?」

 逞はほほえむと優しげで、口ヒゲがなければ年齢なりに若く見えそうだった。

「言っておくが、俺はババア好きと言っても五十、六十の熟女までだ。その気もなくなった年代にちょっかいをだすような連中と一緒にされては困る」

 人なつこい印象は話の内容が吹き飛ばし、年経た屈折の不穏さばかりかもしだす。


「いや、そこまでは言ってなかったんだが……」

「別に俺はかまわんが、聞きたくもない特殊な趣味を聞かされる少年少女の身にもなれや」

 横蓋はささいなドジのように頭をかき、逞も責めはしない。

 しかし朝当は会議場に漂う空気に気がついてあわてる。

「お前もだよ逞! 今、巨大なひんしゅくを買ってるぞ俺ら?! 大学のお兄さんたちに対する幻想が崩れきったあの顔を見ろ?!」

 逞がはじめて余裕を失くし、恐縮した照れ笑いを見せる。

 横蓋はかばうように手で抑えた。

「い、言っておくが、俺らは漫画研究会でも少し特殊な層だからな?!」


 遠行は隠れて小さくツッコミの仕草。 

(『少し』じゃねえだろ)


「俺らは凝り性だからな。創作表現を追及するあまり、自己の潜在意識と深く向き合いすぎて、余計なものまで発掘しちまったクチで……な? 文芸やってるなら少しはわかるだろ遠行クン?」

 朝当が今ごろ『クン』づけになって遠行にすがる。

「はあ……」

(その論法だと、プロ作家は高確率で変態の素質を開花させてしまうような……あれ? 間違ってはいないか?)

 うなずきたくはなかった。


「それでは朝当さんもなにか特殊な趣味があるのですね?」

 遠行軍のカリスマアイドルこと日美子は明るい笑顔だったが、朝当は口を全開にして青ざめる。

「き、聞きたい、なら、言っても、いいけど……?」

「やめろ朝当! ここで人生を終わらせる気か?!」

 横蓋が自決を止めるように朝当の巨体へすがりつき、逞は朝当を銃口から守るように日美子の前へ立ちはだかる。

「嬢ちゃん、勘弁してやってくれ! 人には触れちゃいけない部分ってのがある!」

「え……え? 横蓋さんすら止めるってどんな……い、いえっ、すみません! 決して聞きたかったわけではなく!」

 日美子まで朝当と一緒に汗だくで震えはじめた。

 遠行はそっと引き離して保護する。

(もうやだこのオッサンたち)


 いかつい大男三人が残念な状態になると、その下でパタパタうごめく組茂オッチャンの困ったような笑顔だけが場をなごませていた。

「朝当くんたちは創作に熱心すぎて、日常から全力で自分をさらしちゃうんだよね」

 そう言って場にいるメンバーの顔と表示名を見渡し、なぜか何度も頭を下げる。

「ボクはぬるオタだから、好みと言っても……ここで言うと、蕾水つぼみずさんとしか……」

 男子勢の驚愕、そして畏敬の眼差しが四天王の一角へ注がれる。

(デブ専?! デブ専なのか?!)


「え~? やだなに~? ギャル系マニアっているの~? 超ウケるんですけど~? なに~? 私って別にそんな~? ねえ?」

 蕾水は困ったふりをしながら、日美子を含むほか数人の女子をさしおいて名指しされたことをしつこくアピールする。


(あの勘違いのドヤ顔にドッグフードを投げつけたい……と、いつもなら心の中で絶叫していたけど、今はそれほどでもない……組茂さんて、偉大かも)



「さて、大学のお兄さんたちも、ぐっと身近な存在になったことだし……」

 横蓋は前向きすぎる解釈を押しつける。

「組み分けを確認しよう。遠征は俺、組茂、遠行、日美子ちゃん、ロシュク先生、それと……諭渉さとわたり勲張いさはる橋塚はしづか凍紀とうきの九名だ」

 後半は名前表示を見ながら呼んでいた。

「留守は霊紀れいきと猿喚さんを中心に、逞と朝当が補助する……本当にやばいのは戦後かもしれねえ。俺らが帰るまで踏んばってくれ」


 横蓋は地図を広げて示す。

 南東の大きな領地、ヨウ州の半分はシュウユ軍が占め、ほかは小さな軍が散在して『吸収確定』『友好的』『交渉中・吸収希望』などと書かれている。

 それらより中央に近い遠行軍の領地は周囲を大勢力に囲まれていた。


「反重草連合で手分けして、周辺に停戦は申し込んである。戦争中に仕掛けてきた軍へは連合の全軍で報復すると脅したが、期限は二年だけ。以後はどう攻めてもかまわないというエサと引き換えだ。……シュウユ軍のほうはなんとか防げる戦力だが、遠行軍は位置的にも不安材料が多い」



 そのころ、園本そのもと軍も地図を囲んで話し合っていた。

 豊田とよたはなにくわぬ顔で自領を囲む周辺勢力を指す。

「戦後がやばい。角黄すみき軍はもちろんだが、背後の総子ふさこ軍・融子ゆうこ軍もジワジワ育っている。ソウソウ残党のソウジン軍はおとなしくなってきたが……テンイは結局、独立したのか?」

 組授くみさずきは同情顔でうなずく。

「しかしソウジン軍にも増して私たちへの敵意が強いので、山賊と言うより暗殺集団のような?」

 告遠子ことこはニヤニヤとメガネを整える。

「コンピューター武将も離反するのか。三回も主君が変わって、組織の結束はボロボロになっていたようだけど……うちのブンちゃんガンちゃんはだいじょうぶか? 幸せそうか?」

 梓呼あずよは薄笑いで背後のNPC文官たちを指す。

「それならジュンイクさんたちのほうが心配です。近づくと愚痴っぽい説教をされます。反抗的ではありませんが、あきらめムードでしかたなく滞在している悲哀がそこはかとなく」

 廓斗くるわとは皮肉そうに笑う。

「史実で満足できた曹操が消えちまったからな」

 あいは口端だけでかすかにほほえむ。

「留守組はそのあたりの機嫌とりも研究ですかね。そうなりますと……」

 くばりは割りこんでボソリとつぶやく。

「城主は誰に?」

 園本は退屈そうな顔のままつぶやく。

「配と……逢と……廓斗でジャンケン」

 じゅんは楽しそうに笑う。

「そんなんでいいんかよ」


「城主の廓斗をみんなで支えるように……ただし副城主の拒否権は絶対です」

 園本はジャンケンに加えなかった梓呼と梓庇あずひを両手で指す。

「なんだよそれおかしいだろ?!」

 廓斗が口をとがらせると、園本は少しだけ楽しそうにつけ足す。

「あと防衛の主役は楽文らくふみくんと季典ときのりくんなので、私が帰った時にどっちかでも欠けていたら城主は責任をとって、以後は加速集団の指揮専門で」

「城主の座がもう罠じゃねえか?! てゆうかジャンケンに勝ったのが俺だからって後づけしてねえか?!」

「だいじょうぶでしょ廓斗くん。ふ。学業特待生、だもんね~?」

「鼻で笑いながら言うんじゃねえ! 中学の後輩にはマジでリスペクトされてんのに、お前がライブで変ないじりかたするもんだから……」

「廓斗くんの気さくで親しみやすい一面も見せてあげただけ」


 楽文と季典は壁際で笑顔だったが、口をはさもうとはしなかった。

 于示林うじばやしは無表情に発言者を追って見つめ続ける。


告遠子「しかしカコウエン戦でチョウコウちゃんが死んでいたのはイタいな~。なにがあったの?」

豊田「北門から本陣を一気に抑える前に、西門からチョウコウと友筍ともたけを少しだけ出して、陽動にしていたんだよ」

組授「ところが于示林さんの献策で、テンイが南から西へ急行していました。チョウコウさんはいきなり退路を塞がれ、こちらがカコウエンをつぶす前に討たれていたのです」

豊田「もし于示林が園本を討って、手薄だった城へテンイも突入していたら、かなりやばかったよな」

告遠子「やるな~于示林~。おかげで重草戦の組分けは難しくなったけど」


 于示林は無表情に発言者を見つめ続ける。

 告遠子がつい目をそらすと、園本に顔をのぞきこまれる。

「告遠子の乙女心って、ああいう角度?」

「さすが私だよな」

 ふたりはニヤニヤと互いの背をたたく。



 角黄軍でも城内の会議場で組分けが話し合われていたが、寥花りょうかは壁にもたれて傍観していた。

 寥花は首都陥落の直後、もてはやされていた。

 自分の能力値を確認したら、武力以外がすべて上がっていた。


剣元寥花けんもとりょうか

 体力70・武力60・知力50・徳力50


(もしやこれ、有名武将NPCじゃない人間プレイヤーの中ではけっこう優秀?)

 そう思っていたのも、投降した首都防衛隊の生き残りが登用されるまでだった。


高山白穂たかやましらほ

 体力70・武力70・知力70・徳力80


朱獲公偉あけとりきみひで

 体力60・武力70・知力60・徳力70


虎植幹子とらうえみきこ

 体力70・武力60・知力70・徳力70


(「レアの80」に届かない「優秀の70」くらいだったら、こんなにいるのか……こんなのと比べちゃうと、私はただの体力バカみたい……やっぱりサル山の大将だったか。そりゃそうだよね)


 大学の剣道部という三人は礼儀正しく、頭がよさそうで、しかも気さくですぐに場の中心になる。

 寥花はまぶしそうに部屋の隅へはりついた。


 バスケ部だった中学時代を思い出す。

 自分より強い部員が多すぎて、ずっと試合に出られなかった。

(必死でしがみついたけどね。でも「才能が半分なら三倍の努力をしろ」なんて、凡人が実行したら壊れちゃうんだよね)

 引退間近の試合でようやくチャンスが来た時、ひざの激痛で動けなくなった。


(ま、これはゲームだから。ヤケの八つ当たりをしまくって終われるのはいいところだ)


 寥花はゆがんだ苦笑を隠して会議場を見渡す。

 ほかにもプレイヤーらしき姿は十数人いるが、中でも駿義はやよしという大学生は有象無象の中でも発言が多く、主導しているらしい。

 大首領こと弓帳ゆみとばり三姉妹は奥の別室から時おり出てきては、会議の進行を確認して、ひとことなにかをつけ足していく。


 奥をのぞくと、主催者の犬南いぬなみがメモの板きれにまみれて頭を抱えていた。

「あ、どうぞ~」

 寥花に気がつくと、茶とせんべいをだす。

「邪魔していいの? 戦略マニア集団の会議は参加しにくくて……」

 試しにせんべいをかじると、やはり味はないが、バギンバギンとはじける感触と音があごへ伝わって楽しいので二枚目に手を出す。


「こちらもバグ原因はお手上げで~。天国の虞美ぐみさんと信号連絡しているのだけど、一般プレイヤー扱いから抜けられないし、ログアウトを選んでも実行されない上に能力値を公開されるだけらしくて~」

「全体を強制中断しないとまずそう?」

 茶を飲むと熱さや香りはなくて液体の感触も大雑把だったが、飲む下す音に合わせてコトコト減っていく演出だけでも意外におもしろい。


「せっかく盛り上がっているので、それだけは避けたいのですがね~。パパリンは機械とか苦手だし、様子を見ていても何が起こっているかは理解してなさそうだし~」

「そんなやつを見張り役に……あ、いや、でも超天才の弓帳ゆみとばり三姉妹様がいますよね?」


 角黄も宝黄ほうき梁黄りょうきも一緒に座って茶をドクドク流しこみ、せんべいをバギバギ鳴らしていた。

「ゲームクリアで解決する可能性は高いようですが」

「ゲームクリア以外の中断だとデータがもれる可能性も高いようですが」

「ゲームクリアによる解決で問題が起きる可能性は高いようですか?」

 服の色を緑・黄・赤で分けているのに、会話の区別はしにくい。


「クリアは早くても数時間はかかりますからね~。でも安全管理は最初に徹底したはずなのに~。というか、角黄さんたちは最後の細部調整しか関わっていなかったのに、どうやって症状を分析しているのです?」


「私は犬南さんの把握していない変更の範囲について宝黄さんと梁黄さんに再確認しています」

「私は犬南さんから聞いた方針にそった角黄ねえさんの補助だけで梁黄さんの作業内容は把握していません」

「私は犬南さんに言われたとおりに角黄ねえさんと宝黄ねえさんの真似をしていただけです」

「いえいえまさか~。弓帳さんたちの作業部分が関わるとは思えませんよ~。ともあれ、休憩時間が来ても抜けられなかった場合にそなえて、全体会議の予約通知も作成しなくちゃ~」

 犬南はせんべいをくわえたまま板きれに文章を書きはじめる。


「まあ、次の大戦争の時間は足りそうですし、心おきなくかちこんできてくださいね~」

 寥花の背後でむやみに元気なときの声が上がる。

 いつの間にか会議が終わり、みんなで部屋の前に待機していたらしい。

(いや、一声かけろよ)


「じゃあ、行こうか! 寥花ちゃん、今回も頼りにしているよ!」

「はあ……」

 まだ大幹部あつかいは続いていて、悪い気はしない。


「弓帳さんに率いられたぼくらは強い!」

「犬南さんに仕えるぼくらは勝つ!」

 しかし天才美人三姉妹の信者と理事長令嬢の信者は息が合いすぎで、インテリが多いはずなのにやたらとテンションを上げており、怪集団らしさが増している。


(楽しいといえば楽しいのだけど、これが祖国かと聞かれたら爆破スイッチを探したくなるような)




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