21 江東の虎14 飼ってみよう(寥花・主要人物全体)
寥花の外交旅行には有象無象の内からふたりが補助についた。
「社会学部三年の駿義です……寥花ちゃんが角黄軍に入った時にもいたんだけどな……」
「そ、そうでした! いえ、顔はおぼえていたのですが、角黄軍では大学のかたと次々と会うもので……」
「ボクは高等部三年……というか同じクラスの政厳です……」
「よろしく政厳くん! 頼りにしてるから!」
明るい笑顔でごまかすしかなかった。
一行は最初に長任の領地へ近づき、巡回の兵士に伝言を頼むと、プレイヤーらしき文官姿の小柄な少女が現れる。
「お手紙ですか? では璋さんに届けておきます。……でもこの、兵士三百の編入申請はなんです?」
(あれ? 長任さんから兵士を借りたことは聞いてないのかな?)
「えーと……お礼というか、そう、おわびです。うちの賊兵がしょっちゅう荒しに入っていたようですから」
「はあ……ではありがたく」
口を開けると長い前歯が見えたので、長任の言っていた永松と確認できた。
腑に落ちない様子だったが、それなりに礼儀正しく見送られる。
続いてマンガ研究会を中心としたシュウユ軍へ。
中央から南東へ遠出をするのかと思ったら、南で領地が接している遠行軍の城へ向かうように宝黄から指示を受ける。
「ここにシュウユ軍のかたがいると聞いて来たのですが?」
対応に出た背が低く目つきの悪い男子も驚いていた。
「弓帳さんだとわかっちゃうか……とりあえず、どうぞ。俺が領主の遠行です」
(このしょぼいヤツが? プレイヤーだけは多そうな国だったけど、うちのザコ賊兵を追って深入りするマヌケが多いの、なんか少し納得)
居城へ通されると、会議場の真ん中で偉そうに、シュウユ軍を表示しているマッチョ中年男が縛られて座っていた。
「いや、これは俺の趣味ではなくて。どちらかと言えば縛られる側がいいのは確かだが……」
(聞いてねえよ。開始前に重草を相手にすごんでいたひとりか……どういう勢力なんだここ?)
手紙は渡すなり開けられ、その場でマッチョ男と、遠行と、お猿さんカットの女子と、低身長に間違ったサイズの乳をつけた美少女が一緒に読み、遠行をのぞく三人が話し合っていた。
「ようやく戦後処理が落ち着いてきたところで、うまい話だが、やばそうだな~。さすが弓帳三姉妹。こりゃ、逞とも連絡とらねえと」
「では私はこれで。あとは園本軍にも届ける予定なんで」
「おう、ご苦労さん。それと俺らの代表は一応、遠行ってことにしているから、今後の連絡はコイツあてで頼む。コイツがした約束は俺も一緒に守る……違うぞ! 俺はロリコンだが、ショタには興味ない!」
(聞いてないってば! 聞きたくないってば!)
寥花は手紙の内容をまじめには読んでないが、おおよそでは以下の通りに記憶している。
『璋軍、シュウユ(遠行)軍、園本軍の皆様へ』
『重草軍への一斉攻撃のお誘い』
『戦争中は停戦し、角黄軍領土内を通過できるようにはからいます』
『角黄軍からは梁黄、シュウソウ、シュウタイほか武将十名以上、総兵士数は四万以上を出撃させます』
『それとは別に兵力六万を提供し、参戦していただけた軍のかたへ、均等に分配いたします』
(六万は角黄軍にもでかいけど、モラルが低い寄せ集めの一掃も兼ねている。それに呼びかけた三勢力は、参加しないと自分の取り分がほかを育ててしまうという……悩ましいわな。角黄軍は急落して二番手、下手すると三番手に近づきつつあるけど、やっぱり天才三姉妹はまだまだ警戒されているようだし)
北で接する園本軍の城も意外なほどあっさり通され、領主の縦ロール女子をはじめ、大勢の文官に出迎えられた。
(学祭ライブで見た顔が多いな)
「危険なので、もう少し奥で。野良テンイがうろついていますので」
(なんだその虎より物騒な猛獣?!)
長期の激戦の跡を残す修理中の城門などもそのまま見せられ、ここでも手紙はすぐに開けられ、しかも所属武将へ全公開される。
「このタイミングでくるとか、弓帳三姉妹らしいのか?」
「やはりというか条件はなかなか……悩ましいですねえ?」
大量の文官プレイヤーがゴチャゴチャと騒ぎ、その後ろでは『ジュンイク』『ジュンユウ』『カクカ』『テイイク』といった寥花でも聞き覚えのある名前表示の文官たちが城門修理作業へ加速ビームを交代に発射し続けていた。
(曹操軍で最高の頭脳陣をベルトコンベア扱いかよ?!)
作業の護衛には『ブンシュウ』『ガンリョウ』のほか、武官姿のプレイヤーも三人ついている。
(人材は良い……これから一気に伸びそうな軍だな。璋軍が三番手なら、シュウユ軍と遠行軍は合わせると四番手? で、この園本軍は五番手……というのが三姉妹様の分析?)
「園本よ~お。このシュウユ軍のカッコの中、なんで遠行の名前があると思うよ~? めんどうそうじゃね~?」
メガネ女子のねちねちした口調と笑顔。
園本嬢はなにくわぬでふり向く。
「負けて吸収されたの? わざわざ書くほどの勢力?」
「マンガ研究会の人は遠行くんが代表と言ってましたよ? 文芸ぽくない人もたくさんいましたし……」
寥花の返答で、園本嬢のすまし顔がだんだんと鋭い八重歯を見せ、近寄りがたい笑顔になる。
「ふ~ん?」
(噂の女王様か~。たしかに綺麗だけど、たしかにめんどくさそうだ~)
「で、ではよろしく御検討を~」
逃げるように背を向けたところで、文官女子のひとりに引きとめられる。
「念のため、国境までの護衛に于示林さんをお連れください。誰か呼びに……うわっ」
建築現場の物陰から、バサバサ髪のやせた長身男が礼を示しながら凝視していた。
寥花もあわてて手を組んで礼を返す。
「無事でしたか……」
「え、なに? 于示林の知り合い?! まさか彼女?!」
かっちり髪のメガネ女子が身を乗り出す。
「違いますって。スタート位置が近くて何度か会っただけで」
園本嬢はすまし顔でうなずきながら、メガネ女子の肩をはげますようにたたく。
「どーする告遠子? ライバル出現みたいよ?」
「いや~ん。于示林くんは渡さな~いっ」
メガネ女子はわざとらしく口をとがらせ、ブリッ子の仕草ではしゃぐ。
(違うと言ってるだろうがボケナス。というかやっぱ、めんどくさいなオマエら)
うじゃうじゃいる文官軍団もバラバラに騒ぎ出していた。
(うるせえ……けど、于示林なんかの個性に好意的な連中らしい。……やつなりの居場所が見つかったようでなにより)
送られがてら、于示林が同学年という驚愕の、しかし知ってどうなるものでもない情報も入手する。
「ゲームの時間も人生の一部。真剣に向かい合うことで得られる価値に遜色はない」
「はあ……どうも?」
意味はよくわからなかったが、充実している気配は感じた。
(同じゲームなのに、陣営ごとの雰囲気はずいぶん違うもんだな。私は角黄軍なら退屈しないけど……)
寥花はなぜか、虎狩りの弓使い女子を思い出す。
日はもう暮れかけていた。
「今から偵察ですか?」
「見つかったとしても『借りた兵力の利子分を届けに来た』とごまかせますので」
愛想笑いで宝黄の許可をとり、ふたたび長任の領地へ潜入する。
(虎から逃げられる安全地帯もひとつ、わかっているし……)
夜の山道を同じルートからたどり、まずは長任と会った高台に着く。
そこから長任が虎を追いやった方向へ慎重に近づくと、低いうなり声がした。
逃げ道と残り兵士数を確認し、そのままじっと踏みとどまる。
(近づいてこない……)
何度も周囲を見回しながら、うなり声に近づく。
先にも別の柵が見え、その向うで大型猛獣の影が往復していた。
(長任さんは遠くでも正確に虎の近くへ撃っていたのに、近い時にも一本も当ててなかったんだよね……もしかして、わざと生かしている? 口止めされたってことは、天然の罠……かな? ……っていうか一匹じゃねえぞ?! 二……いや三匹か?!)
不意に、柵の向うから話し声が近づいてくる。
(あっち側にも柵が……つまりこれ、檻の代わり?)
昼間に会った永松という小さな女子と、弓使い長任の声。
「いや、だいじょうぶ。出てこないから……本当に!」
「なに考えてんですかアンタぁ?!」
「ネズミ対策になるかなと……」
「これはトラ! ネコじゃありません! リアルですら、生まれた時からでないとなつかないし、育てばプロでも事故多発です! ましてこのゲームでは、人間を襲う以外の仕様なんてありませんよ?!」
「いつも通学路でなでているのがトラ猫だから、どうしても撃てなくて……」
「莫大な農業投資のわりに、なぜか住民支持の上昇がにぶいと思ったら、ここで相殺していましたか~」
「では……やはり野生に返すのが、お互いに幸せな……」
「こんなのをいっぺんに放したら、住民支持がどん底をつきぬけて一斉離散しますよおお!?」
寥花は岩陰にはりついて息をひそめながら、両手で胸を抑えていた。
(三姉妹さんとはまた別方向のドッキドキさんだああああ)




