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18 江東の虎11 人徳を使ってみよう(于示林・園本)


 楽文らくふみ季典ときのり園本そのもと軍の城内に入ると、ネタばらしのように南門の裏を紹介された。

 城門の裏に、大量の石ブロックが積まれて補強されている。

 周囲の石積みの家から住民が石ブロックを次々と取り出して運び、不自然な空き地がいくつもできていた。

 あい廓斗くるわとくばり梓呼あずよ梓庇あずひといった名前表示の文官服メンバーが作業の指揮にあたり、計略を交代で使っている。


季典「あんな大人数で……」

告遠子ことこ「有名猛将の数は三・三で互角だったけど、兵力差があったからね~。こっちは文官の多さで建築作業を加速しながら、そっちの食料切れを期待していたんだよね。いや~、七人も援軍が来て、ほかの門まで攻めはじめたから、あせったあせった~」


廓斗「てめえら早く交代しろよ! 俺らもう体力ねえし、この作業、地味すぎんだよ!」

 建築メンバーが恨めしげに手をふり、告遠子も笑顔で手をふり返す。

告遠子「あと数分で終わるからがんばれ~」



 中央の居城からふたりの文官が現れる。

 ひとりは眉が薄く口の大きいやせ型の同年代男子で、頭上には友荀ともたけの表示。


友荀「友荀若諶ともたけわかよりと言いますどうも。反乱は成功のようですな。こちらもようやく説得できましたよ」

 もうひとりは学者風の中年男で、切れ長目の落ち着いた顔をしていた。

 その頭上に『ジュンイク』と表示される。


楽文「げっ、曹操軍最高の重臣!」

告遠子「これは完全に運というか、包囲された城内で人材捜索していたらひっかかったんだよね。みんなで囲んで勧誘しかけまくっても逃げやがるんだけど、さいわいというかトン兄が休みなく攻め続けてくれたおかげで、くり返し都市内でとっつかまえて洗脳……じゃなくて交友を深めることができて」

季典「超天才の超人格者をそんな力技で……ゲームならではだね」


豊田とよた「一応、徳力も相手の機嫌を『回復』する速さにはなっているらしいが、やっぱ見つけるまでが肝心らしい。あとは追いまくれば、いずれ落とせる。まあ、このゲームでは作戦参謀というより加速装置なわけだが」


薄笑いの告遠子「あのまま戦っていれば、最後は兵力に計略で対抗した用兵加速で最終決戦だったか~。それはそれで熱かったかもな~」


小声の季典「あの人が敵じゃなくなってよかったね?」

小声の楽文「あの人が味方になってよかったのか?」



 北門へ向かうと、城壁の上から武官姿の短髪女性があわてた様子で手をふってくる。

淳「ども~。軽音で大学二年の仲間竿淳なかまざおじゅんっす。于示林くん、めっちゃがんばっとるけど、どうなっとるの~ん?」


楽文「え……?」

季典「君主を継いだカコウエンの側にいるから、抜けにくいのかな?」

組授くみさずき「状況と合流方法を説明したら、感謝はされたのですが、断られたようでして」

 気まずそうに告げられ、楽文と季典は顔を見合わせて首をひねる。


淳「なんかやばい~武力知力は70を超えん感じなのに、なんか相性が~?」

 楽文たちが城壁へ上がると、矢の応酬の中を駆けて城門へ突撃する細身の長身が見えた。

 不意にすばやい動きで引き返し、岩落としの攻撃はむなしく地面をたたく。


淳「ぐ~う、またはずした~。矢も妙に当たらんし。あのツラだと霊能研究会とか?」

 短く鋭い眉を大きく動かし、恨めしげに城壁下をのぞきこむ。


季典「美術部ですけど、観察力がすごいんで……表情でタイミングを読むのかな?」 

園本「なるほど。淳さん顔にでるから。じゃあ……みんな、予定通りの時間と配置の突撃準備で。でも楽文くんたちからも内緒話を送ってみてもらえる?」



 一分後、楽文と季典は暗い顔で首を横に振った。

楽文「なんか君主への義理がどうとか……」

組授「同じ返答ですね。本当にプレイヤーなのか、疑いたくなるキャラクターです」

季典「あまり常識の範囲で動いている人じゃなさそうなんですよね」

豊田「初見でそんな感じはする。もう言葉通りに受け取るしかないだろ?」


告遠子「義理とかにこだわっているなら、お友だちのふたりを吊るして『早くしないとカコウエンの矢が当たるぞ~』って……」

楽文・季典「え」


豊田「再反乱を誘うな。……さすが徳力10」

楽文・季典「え?!」

告遠子「残念ながら、なぜか20になってた。廓斗のやつまで30でレア脱出しやがったし」


なにくわぬ顔で手をたたく園本「その案で行きましょう」

豊田・告遠子「どの案だよ」


園本「私の案。ちょっとだけ配置変更」



 そのころ于示林は剛直そうな大柄の武将……新君主カコウエンにひざをついて手を組み、叫ぶように口を動かしていた。

 それを終えるとふたたび城門へ向かい、その上の人影に目をこらす。


(内緒話による献策はしておいたが、勝ち目は薄い……園本軍の言い分はもっともであり、楽文どのと季典どのには、この軍へ誘っていただいた恩もある。そちらへ立てるべき義理もあるが……今の主君は、二度も主君を失った身)


 カコウエンが名無し三名を連れて追ってきて、隣に立つとギロリとにらみ、低く力強い声を出した。

「楽な状況ではない。なればこそ、人としての真価が問われよう」


(録音された言葉を発する人形である。電子計算機の二進数を並べただけの存在である。だから哀れんでいるのか? 否。今この世界で私自身と認識しているこの肉体もまた、算出の積み重ね。そして電子の縮尺となれば現実の肉体とて配列の集合体。つまり、生命を持たないからではない。散る花のように、生命構造の類似性から共感しているのだろう。ならばこの愛、誤解や錯乱ではない)


「この于示林文則、無様はさらしますまい」


(ゲーム文化とソフト製作者の犬南氏を親に持つこの者らは、ゲーム時間という短い人生の中で生物と同様の役割を果たそうとしている。この世界における目的を持たず、迷妄の自覚すらないまま人間を自称するプレイヤーより、この世界においては人間に近き存在である! 仕える価値は十分!)



 伝令がカコウエンに駆け寄り、東門から淳とチョウコウが出撃したことを伝える。

(予測した範囲の陽動。東の的中はテンイどのには幸か不幸か……)

 目前の北門が開き、騎馬兵の喧騒が迫る。


 園本はブンシュウ・ガンリョウに両脇を守らせ、その後には文官も総出で左右に広がって迫っていた。

 文官たちは相手の中心を避け、包むように両翼へ向かう。

 カコウエン軍兵士は接触前に逃げはじめていた。


(分断し、中央指揮隊を集中攻撃の様子。こちらは配下にあらかじめ粛清をくりかえし、統制をかけ続けた。しかし二度の主君交代と、戦果なく消耗する一方の長期戦。もはや限界であろう。相手君主の園本どのが自ら先陣に出ている姿は一見、無謀な下策だが……あの表情、驕った者にはない緊張がある)


「相手に不足なし!」

 于示林は剣を抜くと、ブンシュウとガンリョウにあえて両脇を抜かせ、園本と打ち合う。

(やはりカコウエンどのだけを目標とする指示! ならばあえて狙わせる!)


 殺人猿の咆哮と園本の鋭い声がぶつかり合う。

「キィッキッキッキキキィーイ!」

「エイエイッ! エイエイエイッ!」

 手数は数度に一度、于示林が勝り、女王に手傷を与える。

(主君をおとりに、園本どのを先に倒す!)


「ゲームの時間もまた人生の一部! ならばこのエンディングも我が生涯として受け入れよう!」

「そんな生涯は私が許しません」

 護衛する兵士の数と動きは園本が上回るが、于示林は正面以外の攻撃を無視して受け続ける。


「あなたは私に降り、好きな時に裏切りなさい!」

 その言葉が耳に届いた一瞬、于示林の意識上で時間は何十倍かに膨らみ、視界への集中力が高まる。

 城壁の上に楽文と季典……恩人、そしてかつての盟友が縛られもせずに立っていた。


(あのふたりが城門を閉ざせば……どうなるかは知っていて、あえて私にこの『絵』を見せているのか? いや、この炎を球にしたような瞳、ここで『説得する』などという発想はない!)

 園本は打撃を受けつつ与えつつ、自信に満ちた笑みを見せつける。


(自分の意志が伝わると確信している! ゲームという生涯を認め、勝敗とは無関係に、私の生存を求めている!)


「ならば……」

 于示林が背を向けると、味方の三人の名無し武将もすでに倒され、カコウエンはふたりの豪傑を相手に奮戦しながら、息が上がっていた。


 園本は剣をおさめ、于示林は主君にとどめの一撃を入れる。

「降る以上、自身の手で意志を示すこそ我が愛……私にはまだ、仕えるべき主君が残っていました。裏切り、生き延びますが、人としての無様だけはさらしますまい」



 カコウエン軍は総崩れになり、武器を捨てて投降する者が続出した。

 園本配下の文官プレイヤーたちは状況を理解できない表情で、捕虜の確保を兵士に任せ、園本の元へ馬を寄り集める。

 告遠子は真っ先に戦後作業を放棄して駆けつけた。

「おい園本、どういうことか説明しろ。少し彼氏にときめいてきた」

 メガネ女子は苦笑しながら、片手で胸を抑えていた。


「それなら私こそ告遠子に翻訳してほしいのだけど? 私は于示林くんがこのゲームをすごく好きそうだったから、もうちょっと一緒に遊んでほしかっただけ」


 于示林はふり向くとひざをついて腕を組み、このゲーム中ではじめての笑顔を見せる。




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