16 江東の虎9 首都に行ってみよう(寥花)
重草軍はボーナスプレイヤー『皇帝』こと犬南がいる首都を本気で獲りに侵攻したという。
そこへ有志の犬南ファンとアンチ重草が首都に集まって抵抗しているものの、兵力差は何倍もあって、陥落は時間の問題という。
重草軍の兵士数は少し前の自称で十万人。
武将の数は三十以上で、質も高め。
以上の情報があったのに、梁黄は重草軍の後方からまっすぐに突撃し、寥花は追いながら首をひねった。
(有志による首都防衛隊の協力があっても、いいとこ互角? これじゃ仮に勝てても、三番手以下が大きく浮上しちゃうんじゃ……もしかして弓帳三姉妹って学者タイプのバカ? 専門分野はすごいけど、日常生活では不器用な……なんか、ものすごい心当たりが出てきたぞ?)
好勝負の大乱戦の中、突出しまくる梁黄を追うのに疲れてきた時、重草軍の両脇から角黄軍の旗が一斉に上がり、角黄と宝黄を先頭に二万ずつの兵士がなだれこんで来た。
(いやいやいや、私はその学者バカに用兵だけで負けたんだった!)
角黄は右翼側をふさぎながら怪しい加速光線を発し、士気の落ちていた有志防衛軍を活気づける。
ボロボロの平民服から着替えた緑色の道士服は体のラインを強調するデザインで、女子の寥花から見てもまぶしい。
首都防衛隊は犬南のねぎらいを目当てに集まるような連中だったため、ほほえむ美女の支援はゲームシステムと無関係な効果も発揮した。
『やっぱ無理そうだし、全滅前に引き上げるかな』という疲労感、無力感が広がりはじめていた野郎どもに、玉砕の覚悟を決めさせた。
角黄が女神なら宝黄は魔神だった。
黄色い文官服に胴鎧を重ね着して、身長ほどもある長斧を振り回し、自らの配下一万を計略で加速させ続け、左翼側から重草軍の中を突っ切り、かきまわし続ける。
梁黄は鬼神のごとく直進だけを続けており、竜巻のように槍を振り回しながら、ひたすら重草軍の指揮隊へ迫る。
(待てアンタら。どれだけ体力……ストレス耐性あるんだ? その計略と突撃のペースもおかしくないか? やっぱ製作関係者は自重するべきでは? それでなくても美貌と頭脳のダブルチート持ちでしょうに)
指揮隊に近づき、重草とそのとりまき数人のあわてた声が聞こえはじめた。
「チートかよ!」
「製作者がなにやってんだよ!」
(でもそれをアンタらに言われるのはちょっとな~)
「戦争やるなら、相手を選んだほうがいいんじゃないかなあ? こんなつぶし合い、三番手が喜ぶだけだよ? 待つから休戦条件を考えなよ」
キツネ目の男が混戦の中でもネチネチした口調を披露し、寥花は少しだけ感心する。
(でもそんな風に言われたら、なにをやりたくなっちゃうか、わかります?)
「シュウタイさんとシュウソウさんに献策! 連続突撃! 目標敵大将!」
寥花はここまで自分の両脇を守ってくれていた命綱へ呼びかけ、勝負をそそのかす。
重草とそのとりまきは息を飲み、豪傑ふたりの返答を見守る。
「しゅあああああ!」「しゅおおおおお!」
ほほえむ槍鬼神こと梁黄に加え、シュウタイとシュウソウの尋常でない憤怒の形相まで一緒に迫り、敵の指揮本隊は一斉に下がりはじめる。
「バカ! 人数で当たってつぶせよ!」
重草が逃げながら叫び、とりまき六人は踏みとどまって横並びの壁を作り、三豪傑の突撃をふたりずつで押しとどめる。
寥花は風通しの良くなった自分の両脇の守備は考えず、壁の端の男へ向かって走った。
(倒れる前に一撃でも補助して、ひとりでも減らせばバランスが崩れる!)
いつの間にか、同じ男を目標に、ほほえむ斧魔神こと宝黄も迫っていた。
いつの間にか、ほほえむ戦女神こと角黄の計略対象は有志防衛軍ではなく、中央混戦で突出した梁黄たちになっていた。
壁となった重草軍六武将の手数は多く、寥花が見る限り、その内の三人は自分より上の武力。
しかしこちらの三武将は移動速度が上がったことでこまめに位置を変え、合計手数では劣りながらもダメージはなかなか受けなかった。
「人数で当たってつぶせとの助言をいただきました」
宝黄はほほえんで敵大将の指示を引用し、壁を端からグシャグシャと長斧で切り崩しはじめる。
寥花も突撃をくり返し、息をきらせながらふたり目の壁武将を一緒になって刻み倒した。
バランスが崩壊する。
宝黄は重草を追いはじめたが、それでも壁役四人に突撃四人になり、角黄軍の三豪傑は速いペースでダメージを稼ぎはじめる。
(そして私の前に残されたのは、一番武力の低そうなキツネ目……さすが宝黄さん)
「うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
寥花は明るい笑顔で防戦一方の相手をたたきまくる。
(うひひひひ~……って、そろそろ息切れやばい……あれ? そういえば私、思ったより攻撃をくらってないかも?)
相手兵士は背後や横からも斬りつけてくるが、やけに間が空いている。
総大将の重草が逃げる動きで、相手兵士全体が動揺していた。
「前のやつらをもどせ! こっちを守らせろ!」
もうひとつの理由は、足元に転がるふたりの地味顔武将だった。
「うわあっ! 名無しくんたちゴメン!」
(私が薄く広げちゃった先頭武将たちの背を、君たちが守ってくれていたのか!)
「片方は乗馬サークル二年の輩元くんだよ」
まだ存命の地味顔武将三人目に小声で指摘された。
「重ね重ねごめんなさいっ!」
うろたえながら、頭を下げる代わりに心をこめてキツネ顔を斬り下げる。
「こんなザコ女子に……!」
キツネ男こと濡木存社会学部二年総合スポーツサークル会計は最後まで不快な言葉を発しながらゲームを終える。
寥花は顔を上げると、周囲に余裕があることに気がつく。
濡木は最後に計略をかけていたようで、壁役をしていたほかの敵将三人は動きが加速され、討ち取られる前に兵を盾に逃げ出していた。
敵兵全体が重草を追って左翼方向に流れている。
「なに逃げてんだよ! まだ戦って……クソ! いったん、下がるぞ!」
重草の周囲には強そうな武将が何人も補給されていたが、首都防衛隊と接していた前面部隊は崩れはじめていた。
「はあ! はあ! はあ! はあ!」
自分よりすごい息切れが聞こえると思ったら、朱色の槍姫こと梁黄が肩で息をしながら立ちつくしていた。
(そりゃそうでしょうよ。ていうかアンタ一応、人間だったんですね?)
寥花は無理に動かず、梁黄の背を守りにつく。
「シュウさんズ、もどしたほうが良くないですか? 慎重・護衛・本隊で……」
「採用します」
梁黄が息切れ効果音に重ねて返事をすると、壁役武将を追っていたシュウソウとシュウタイがもどってくる。
寥花は周囲をざっと見回し、手元でも編成リストを確認する。
(突出した先頭では被害が大きいけど、それでも梁黄軍全体での減りは一万くらいかな?)
敵軍内を縦横に潜っていた宝黄軍も兵力が半分近くになっていたが、今は角黄と合流して兵士数の補給を受けているようだった。
(勝った……というか、角黄さんと宝黄さんに勝たせてもらっちゃった?)
「すげえよ寥花ちゃん! こんなおいしい捨て駒なら輩元くんだって本望だよ! たぶん!」
地味顔武将三人目は寥花にもそれなりに尊敬の目を向けていた。
壊滅寸前だった首都防衛隊が歓声を上げ、角黄様コールを叫びだす。
「うわあ……ゲームでもいいなあ。こういうの、ドキドキする……」
寥花がほほえましくながめていると、補給を終えた宝黄軍およそ二万が駆け出す。
重草軍への追撃ではなく、首都へ向かって突撃し、防衛隊が驚愕の悲鳴を叫びだす。
「うわあああああっ。ゲームでも、いいなあ! こういうの! ドッキドキするう!」
寥花も悲鳴気味に笑い、力強くガッツポーズをとる。




