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15 江東の虎8 部隊編成をしてみよう(寥花)

*お知らせ 8話・江東の虎1~14話・江東の虎7を分割し、21話まで延びています。

 寥花りょうか角黄すみきたちの目的地を知らなかったが、いくつかの丘を越えると都市の城壁が見えてくる。

 おびただしい農民兵の死体も見えてくる。

 力士体型の巨漢を槍で突き刺している、華美な貴婦人服の長髪女性も見える。

「姉さん、そちらのかたは?」

 振り向いた笑顔は角黄とまったく同じだった。


「こちらはここまで護衛してくださった寥花さん」

「はじめまして寥花さん。弓帳梁黄ゆみとばりりょうきです」

 寥花は呆気にとられながら会釈を返す。

「待ち合わせていたんですか?」

「待ち合わせてはいませんが、同じ場所についてしまうことが多いです」

 大学生男子のふたりはすでに知り合いらしいが、真顔で弓帳姉妹を拝んでいるので、なにかを聞ける雰囲気ではない。


「梁黄さん、そちらのかたは?」

 角黄は串刺しにされた変死体の顔をうかがう。

「こちらはここで名無し武将をとり合ったキョチョさん」


曹操そうそう軍の最強武将じゃねえか?! 関羽、張飛、趙雲あたりとも互角という激レア人材のアイツ?! なにやってくれてんのアンタ?!)


「名無し武将をとり合って、有名武将にとどめを刺したのですね?」

「人の命は平等と言いますから、どちらを刺しても同じですよね?」

 同じ顔、同じほほえみ、同じ静かな口調のやりとりに寥花はとまどう。

 よく見れば梁黄の周囲にも、おそらくは大学生とおぼしき男性が四人、真顔で拝んでいた。


(キョチョは民間自警団をやっている時に曹操の親衛隊長テンイ氏に見込まれて雇われた……はずなのに、その前の段階で不可思議集団のエジキに……)


 手下四人の紹介をされると、高等部の生徒も混じっていた。

 名前は片っぱしから忘れた。

 最初のふたりと行動パターンが変わらない。

 そこそこ知的で、おとなしめで、弓帳姉妹になんの疑問もない様子で付き従う。


(なりきりプレイだとしたらナイスジョークだけど、たぶんリアルの私、嫌な汗をかいている。どうしよう、かなり楽しそ~)



「角黄姉さんに所属を申請します」 

「梁黄さんの所属を承諾しました」

 直後に大量の人影がとり囲むように現れる。

「高い志の」「高い志のあるおかたとお見受け」「お見受けしました!」「どうか私どもを陣営へ加えて」「高い志のあるおかたと」「陣営へ加えていただけませんでしょうか!」「どうかこれをお役立てください」「いただけませんでしょうか!」

 大量の志願兵が輪唱し、混じって商人のような中年も金品を置いていった。


(なにこの相乗効果)


「ありがとうございます。範囲、項目3ページまで、承諾」

「お見受け」「陣営へ」「高い志のあるおかたと」「それがしシュウタイと申す旅の」「お持ちになってください」「加えていただけませんでしょうか!」「どうか」

「ありがとうございます。範囲、項目2ページまで、承諾」


 ようやく落ち着き、寥花がそっと確認した配下の兵士数は二千を超えていた。

「あとの配分は城に入ってからにいたしましょう」

(まだ配ってない分があるの?!)

 その後も一分足らずで三隊の志願兵が突撃してきた。



 都市に入ると、元いた都市や通過した都市よりさらに地味な市街が見えたが、気にはならなかった。

 正門から賄賂なしに入れた嬉しさなども微塵もなかった。

 人通りはかなり多いが、そのすべてが物騒な悪人面をしていた。


(ここはなに? 私が殺したやつらと、私の配下だったやつらの同窓会の会場? 私、ここで吊るされてゲームオーバー?)


 同行している大学生たちもさすがに驚いていたようだが、「へー」「ほー」程度で緊張感にとぼしい。

 密集した山賊雑踏の一部が急に分かれて道を開け、その中央をゆっくりと、黄色い文官服の長身女性が歩いてきた。

「姉さん、そちらのかたは?」



 次女の弓帳宝黄ゆみとばりほうきとも同じようなやりとりがくり返された。

 同じ顔と口調が三人になると、服装に違いはあっても混乱効果は相乗的に高まった。


梁黄「私は角黄姉さんに所属を申請しました。武将と兵士もお任せしています」

宝黄「私も角黄姉さんに所属を申請します。武将と兵士もお任せします」 

角黄「宝黄さんの所属を承諾しました。おふたりの配下のかたをお預かりしました。では兵士は全武将のかたに千人ずつ配置し、あとは私たち三人と寥花さんで四等分しておきましょう」


(なにその特別あつかい?! 心の足枷?!)


 寥花がそっと確認した配下の兵士数は三万を超えていた。

 部隊のモラルはガックリ落ちたが、機能不全を起こすほどではない。


(いやいや、こんなのどうせ、仮想世界だけの数字だよ。リアルには関係ない……総スポの人たち、十万超えで独占トップとか書いていたな? これが角黄軍の四分の一なら、トップ交代の可能性あり? やる気はないけど、兵士三万なら、どんなエサで買収してもらえるんだろ……いやいや、山賊集団がどれだけいたって、収入源がなきゃ維持も身動きも……)


宝黄「城主も角黄姉さんに移りましたね。寥花さんも城主を務めてみませんか?」

角黄「寥花さんの希望でしたら城主をお願いしましょう。寥花さんはどのようにお望みですか?」


(ここって宝黄さんの国だったのかよ?! というか城主って、私が門番に命じて流浪人をはじいたり、買物客から税金を巻き上げる側に?! ……いやいや、落ち着け……)


寥花さん「いえ、私なんかじゃ、こんな規模の経営はとても~。どこか前線で突撃に使ってもらったほうがいいですよ~」

梁黄「寥花さんは突撃をお望みなのですね。では突撃を務めてもらうほうがよいのでは?」

宝黄「では突撃の準備をしましょう」

角黄「では突撃のための装備と馬と……」


 その後も三人の催眠術のような会話に囲まれ、寥花は呆然としていた。



 寥花にも能力数値が表示され、管理アカウントに不具合が出たとかで、三人は立て札を相手にいろいろ話していた。

 しかし寥花は気がつくと高級装備に身を固め、高級馬にまたがり、十万の兵士の先頭で梁黄と馬を並べていた。


寥花さん「しっかりしろ私!?」

宝黄「すごい意気ごみですね寥花さん。準備の甲斐がありました」

梁黄「寥花さんは意気ごみがすごいのですね。私も準備に応え功績をあげましょう」

角黄「寥花さんお気をつけて。なにかありましたら遠慮なく梁黄に言ってください」


(崇拝対象の天才三姉妹様にどう口を挟めと?!)

 寥花は先頭を任され、ものすごい人相の荒武者に両脇をかためられていた。


 大きな巻きひげを生やし、直立したトドのような大男が『シュウソウ』の表示。

(知ってるよ。関羽様の側近で、架空の人物のくせして関羽と一緒に祭られている力持ちのおっちゃんだよ。元は山賊らしいけど、関羽様を見つける前にこんなとこにいちゃダメだよ)


 肩幅が広く、サメのような顔体の長身男が『シュウタイ』の表示。

(知ってるよ。孫権さんお気に入りのボディーガードだよ。元は海賊らしいけど、君も更正に失敗したいのか? というかこれで魏呉蜀の豪傑がこの一領地に集まった(キョチョ氏は故人)のか……もう少し史実をなぞる気はないかなみんな?)



 はじめて乗る馬の速さは快適だったが、引き返せない状況を強調されているようで、風の感触もないのに涼しさを感じる。

 梁黄は会った時に着ていたお姫様のような赤い着物に、胴鎧を重ねていた。


 城門から出て真っすぐに進むと、行く先に小さな城が見えてきた。

「梁黄さん、あれも襲撃するんですか?」

「寥花さんはどう思われますか?」

 背後の大人びたほほえみに真っすぐ見つめられ、寥花は息を飲む。

(試されている? なんかもう、早く敵の人に出てきてほしい……)


「え~と……これだけの人数がいるんで、補給と……あと私の練習にもなるんで、攻めるのもいいかなと」

「ではそうしましょう」

 変わらないほほえみと落ち着いた声。

 本当に人間が操作しているプレイヤーキャラなのか、本当に角黄と交代したのか、不安になる。


 小さな城の衛兵は意外に素早く反応し、城自体もかなり執拗に防備が固められている。

(これは見るからに罠のかたまりだな~。こんな田舎でここまでやるかあ?) 

 寥花は警戒し、少し手前で馬の速度を落とし、城壁ぞいに回る。

 梁黄とシュウソウとシュウタイは曲がらず止まらず突撃していた。

「ほえ?」


 次々と兵士が弓矢、馬防柵、濠、投石のエジキとなり、しかし先頭の三武将は力技で乗り越え、比喩でなく多くの兵士を踏み台に、強引に城壁の登攀をはじめる。

「あれが天才や豪傑の発想か……功績争いはあきらめて、凡人はここで見張りでもしていますかね」

「オッケー寥花ちゃん!」

 やけにフランクに話しかけてくる名無し武将がいると思ったら、背後に残った四人の内、ふたりはプレイヤーのようだった。


「所属を見てよ。一武将につき兵士は一万人までじゃないと指揮の効率が大きく落ちるらしいから、俺たちは能力の高い寥花ちゃんに孫配属」

 山賊都市に入って間もなく能力値は表示されていて、寥花は三姉妹の催眠会話に呆然としながらも立て札は大体で目を通していた。


剣元寥花

 体力60・武力60・知力40・徳力40


 中規模山賊の頭目にふさわしい凡庸な数字に思えたので、すぐに興味を失っていた。 

(三姉妹様はやっぱりというか、90がどうこう言っていたし……私で高いほうじゃ、三姉妹信者の先輩がたは相当に頭がやられているな)


 梁黄はシュウソウに支えられて城壁を登りきると、あっという間に城壁上の兵士十数人を槍で薙ぎ払った。

 シュウタイらも続いて登りきり、すぐに城内のあちこちから悲鳴が連続する。


「ウヒャハーッ やってるヤってる! あんな三人に入りこまれたら、中から城門を開けるころには全滅だな~!」

 寥花はゾクゾクと身震いして笑い、ゆっくり城の周回を続ける。

 逃げ出す敵兵を捕らえるためだったが、その目はだんだんと周囲の景色にそれていった。


(馬で動いていたから気がつかなかったけど、なんか見覚えがあるような……あれ? 方向的には元の街に……)


 嫌な予感の正体がわかりかけた時、城内からしゃがれ声の叫びがひびいた。

「敵大将『ほしあわび』! このシュウタイが討ち取ったり~い!」


(うわ~、さすが元海賊……じゃねえ! やべえ! ここ、あの変人男子が巣食う箱庭だ!)


 寥花は周囲の地平を落ち着きなく見渡し、馬の巡回を速める。

「中の梁黄さんに伝えてください! こんな小さい所は早めに出発しましょうって!」

 大学生ふたりが素直に返事をして城へ向かう。

 寥花は遠くに怪しい騎馬武者の姿を見つけてしまう。

 城門が勢いよく開けられ、ふたりの豪傑まで敵の残党武将を視界に捉えてしまう。


「待って落ち着いてオジサマがた。あれはきっと食べてもおいしくないから……ね?」

 寥花は愛想笑いを浮かべてつぶやきながら、そっと独りで馬を進める。

 まっすぐ近づいてくるバサバサ長髪ガリガリ長身男を追い返すつもりだった。


(早く気がつけ于示林~。早く逃げろ~。私、別にアンタの城だから襲ったわけじゃないんですうううう~)

 ふたりの豪傑が咆哮を発して駆けはじめた。

「ごめんなさ~い!」



 寥花がなんとか于示林を逃がして引き返すと、城はもはや廃墟と化していた。

「残党がうろついていたんで、数十人だけどむしりとってやりました」


「すげえ! さすが寥花ちゃん!」

「やるなあ!」「うっひゃー!」

 人間だかなんだかわからない男性陣がほめたたえてくれた。

 梁黄も一緒にほほえんでいたが、なにか別の意味も感じてしまう。

「では、こんな小さい所は早めに出発しましょうか」


(うう~、どこまで勘づいているんだ? 別にあの変人とは特別な関係じゃありませんよ? 恩ありドキドキありの角黄軍を裏切る気なんてありませんよ?)


 次の突撃相手は重草軍本隊だった。




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