14 江東の虎7 仕官してみよう(寥花)
寥花は賊兵でも数さえ増やしていれば勧誘があちこちから来るだろうと思っていた。
(顔もそれほど悪いほうではないし)
首都近くでは総合スポーツをはじめとした大学コンパ系サークル連合の重草軍が幅をきかせているらしく、立て札で『~に圧倒完全勝利!』とか『総配下兵士数、早くも十万突破! ぶっちぎりの独走トップ!』とか、誇らしげに報告をくり返している。
(イタイタしいな~)
まともな大会に出場するほうの体育会系サークル連合の璋軍も勢力としては大きいらしいが、ゲームの中でも上下関係に厳しいとの噂がある上、内部では露骨にコンパ系サークルを目の仇にしているらしい。
(楽しくなさそう。あっけなく踏みつぶされたらつまらないけど、そこそこ抵抗して遊べるなら、一番じゃなくてもいいんだよな~)
漫画研究会とアニメ研究会の合同軍が近くで中堅になりつつあるとも聞いたが、ゲーム開始前のリアルで、大学漫研らしき恐ろしい三人組を見てしまった。
(悪人かどうかはさておき、体育会系の暑苦しさに文系の理屈っぽさを足した面倒きわまりない感じがな~)
そういった分析から、だんだんと勢力がまとまるまで待っていたが、勧誘はどこからもこなかった。
(私って……好みによっては、それなりにかわいい顔だよね?)
そして兵士の数が増えなくなっていた。
賊兵は大量に増やしても大量に減ってしまい、まともな領地を持たない独り身では、二百人の維持すら安定しなかった。
おかしいと思い、立て札広場のプレイヤーに情報交換を頼むと、軍内に賊兵が多いと住民支持が下がり、まともな志願兵が減る上、収入も減るらしい。
(そりゃー誰も誘ってくれないわけだ)
賊兵を片っぱしから仲間に入れて兵士数を増やしていることを自慢げに言ってしまっていた。
行きづまった寥花はなるべく捕虜をとらない山賊狩りを続け、財貨を貯めながら配下を百人ほどにしぼり、別の都市を目指す。
近所で細々と『ほしあわび軍』勢力を伸ばしつつあった変人の于示林からも離れておきたかった。
そしてさらなる苦境に陥った。
次の都市ではあつかいがはるかに厳しく、いきなり討伐されそうになった。
「あああ。そうか。前の都市で重ねていた山賊狩りの功績がこっちには伝わってなくて、単なる『賊兵中心の私軍』略して『山賊』とみなされているわけね?」
食糧補給すらできず、配下の脱走が増えてくる。
「いやあああ。もう旅費ない……農民か旅人でも襲うしかない……」
(元いた街で、手下の賊兵をもっと減らしまくればよかったんだ。護衛が一時的に薄くなる危険はあったけど、じわじわまともな兵士の割合を増やして、ガチガチに風紀を統制して……更正するチャンスを逃した~)
「賊って自由で気楽なイメージがあったけど、それって街にまぎれこめる人数までだよね~。軍隊規模になっちゃ、泊まるどころか食事だけでも大変に決まってるじゃん。生産拠点も無しにそんな人数を仕切るなんて、お役所軍隊の中間管理職より厳しいに決まってるじゃ~ん」
しばらく頭を抱えた後、街から少し離れた人目のない橋へ向かった。
「ふ……ふふ……。山賊のノウハウは豊富なんだよね。略奪解禁で兵数を増やせば千人とかすぐかもね。討伐隊が組まれてゲームオーバーもすぐかもね~」
しょぼくれた苦笑いを浮かべながら、てきぱき川ぞいの山林へ配置を指示する。
「勝手に義賊を気どって自爆しただけなんだけど、背徳的な気分……ゾンビ作品だと、生存者の半分が死んだあたりで、主人公を裏切る臆病者みたいな? そんなイメージなら少しおいしい悪役かも?」
弱々しいガッツポーズで自分をはげましていると、日の暮れかけた橋に近づく一行が見えた。
プレイヤーらしき女性がひとりと、残りは名無し武将らしき三人。
いずれも平民姿に近い貧しい軽武装。
(二流武勇伝のエジキ発見……ん? なんでそこで止まる?)
襲撃配置のわずかに外で、一行は野営をはじめてしまう。
(おいおい、そんな中途半端な道端で……地形とか少しも考えない戦略ビギナーさんか?)
寥花は配下に待機を指示し、三十人ほど……見かけ三人だけ連れて大きく迂回する。
(後ろからつっついて包囲へ入れなきゃならんとか、ビギナー相手もかえって手間だな。夜になって兵士の位置や規模がわかりにくいのは好都合だけど。休憩中の動作になったら突撃で追いやって……財布だけで見逃すか。ビギナーさんをいきなり首ちょんぱは気まずいし)
野営の背後となる川沿いの道へ出て、ギリギリ様子を探れるあたりまで近づく。
「こんばんは。山賊さんですか?」
ギョッとしてふり向くと、ボロボロの着物をまとったプレイヤー女性が間近にほほえんでいた。
その背後の山林からぞろぞろ農民兵がわき出て、あっという間に包囲された。
背後は川。相手は見かけ三十人ほど。
(こっちが予定通りに包囲していたら、装備の差でなんとかなりそうな人数だったけど……)
「裏をつかれちゃったかな? お見事……もしやそれも、山賊プレイヤー狩りの偽装?」
話しながら、相手が見れば見るほど尋常でない美人であることに気がつく。
(というかアンタ、本当にプレイヤー? 有名ヒロインキャラとかの設定じゃなくて?)
ストレートのかっちりした長髪におとなびた長い目。
寥花の凡庸なそれとは比較にならないプロポーション。
「装備は配下のかたに配ってしまったので」
「そちらさんも流浪で苦労ですかあ。私は自称義賊の経営に行きづまって、ちょうど道を踏み外そうとしたところでした~」
寥花が照れ隠しで頭をかくが、美人は涼やかにほほえんで手元を操作していた。
(捕縛で済ましてくれないかな……役所で首がつながるかは運だよりだけど)
食料と財貨がごっそり増えていた。
「え。なにこれ?」
「もっと必要でしょうか?」
「いやいやいやいや! これだけあれば元の根城にもどれる……じゃなくて! え? やっぱりゲームとかはビギナーのかた?」
「一応はゲーム研究会に所属し、このゲームの開発も最終日だけお手伝いしています。しかしいわゆる戦略ゲームで遊ぶのは今回がはじめてですね。申し遅れましたが、高等部三年の『弓帳角黄』という者です」
青白く『角黄』の名前表示が出て、寥花は美人三つ子姉妹の話を思い出す。
理科の教師が興奮気味に『あの内のひとりの容姿か研究成果でもあれば、大変な人生になるよ? まあ君たちはそんな有様だから幸せなのかもしれないけど』とか失礼なことをほざいていた。
(今はあの時のむかつきを玉砕覚悟の八つ当たりで晴らすべき?)
着物の上からでもわかる長い脚、くびれた腰を見つめているとそんな考えも浮かんだが、そのナイスボディ様は軽く頭を下げると背を向けてしまう。
「では私はこれで失礼いたします」
いつの間にか農民兵は納められ、武将四人だけにもどっていた。
「ちょおっと待ってえ?!」
寥花は思わず引き止めたが、素直にふり向かれても言葉が浮かばず、まずは自分の名前を表示する。
「剣元寥花、高等部三年! ……って同い年かよ?! 今さらだけど!」
「たまに老け顔と言われてしまいます」
角黄はほほえんで小さくうなずく。
「いやそれ、三百パーセントひがみだから! あとねたみそねみ……じゃなくって、えーと……一緒に行っても、いいですか?」
「よろしくお願いします」
寥花は困り顔で必死の弁解をはじめる。
「あ、いや、もう死んだような身だから、なにかしようってわけじゃなくて、お礼に護衛でもと…………え?! いいの? あ、でも私、賊兵が多くて軍のモラルが低いから、所属は分けないと……」
百人の兵士の編成申請が三通届いた。食料と財貨も追加された。
「装備や鍛錬度合いが落ちてしまうので、編成数は調整をお願いします」
呆然としながら百、二百と入れてみると、軍のモラルが急改善してゆく。
「これくらいなら……装備はともかく、鍛錬のほうはそんなに落ちてないし……」
(もうこれ、元の街なら歓迎される戦力だ……つうか怖えよ。勧誘販売の釣りエサ景品をつかんじゃった感じ? ゲームとはいえ、だいじょうぶかこの人? こうなったらもう……)
配下申請を選択した。
「所属をご希望ですか? では寥花さん、よろしくお願いします」
(どうなっちゃうのか、確かめてみよ~)
「よろしく! 君たちも!」
武将というには庶民的すぎる顔格好の男たちの肩をたたくと、てれ笑いを返された。
「ども。理工学部二年の波財です」
「社会学部三年の駿義です」
「うおわ?! 大学の先輩でしたかすみません! ではこちらのかたも?」
(この人は背も高いし、よく見れば顔もまずまず……来年、大学で会えるのかな?)
「志を同じくする者です。共にがんばりましょう!」
爽やかに答えた三人目の頭上に『名無し』と表示された。
(今日中に消滅する人だった!)
寥花は最後尾について夜道を歩きながら、ふと首をひねる。
「兵士を二百もいただいちゃいましたけど、もしやこれ、皆様の半分以上の兵力では?」
「うん。でも寥花ちゃんが百人も引き連れて入ってくれたから心強いよ」
やせたほうの男子大学生が答える。
(私が裏切るっていう発想はないのかなー? あんまり無防備に信じられると、つい、その気はなかったのに、がくぜんとした表情を見たくなる心理ってわかります?)
「あんまり無防備だから驚いているのかな? まあ、自分も弓帳さんたちの高度な戦略はまるで読めないのだけど、寥花ちゃんがそういうことをしそうにないっていうのはわかるかな。心理学専攻としての勘?」
やや低く、やや太めなほうの男子大学生。
(アテにならねえなあ心理学。反証を実例で見せてあげたい衝動がグネグネと……)
みすぼらしい平民服と木の棒だけという大学生たちの武装を見ると、衝動はやや収まった。
「しかしまた大胆なスタイルというか……なんかの縛りプレイですか? 製作サイドとして遠慮しているとか?」
「製作者自身でもそれほど有利になる方法ってないらしいよ? というかぼくたちは製作に関わってなくて、角黄さんの信者というか……奴隷?」
穏やかな顔でうなずき合う先輩男子ふたりに、若干の不安がよぎる。
(なにをさらっと言うかな? いくらモンスター級の美人とはいえ……)
数分の経過で空が明けはじめると、五人の兵士が駆け寄ってくる。
寥花は身構えたが、その兵士たちは一斉に角黄へ膝をついた。
「高い志のあるおかたとお見受けしました! どうか私どもを陣営へ加えていただけませんでしょうか!」
顔つきも賊兵よりまともだ。
「助かります」
角黄がうなずいて手元を操作し、寥花の兵士数が五十増える。
「え……? なんですこの編成? 五人増えただけで五十も……」
「増えたのは五十人です。装備を持っていたので、邪魔にはならないと思いまして」
寥花は朝日の中でほほえむ角黄の色白顔を前に笑顔がこわばる。
(志願兵って、そんなにいっぺんに増えるものだったのかよ?! 私なんか山賊を一体ずつ捕まえて拷問して、ときどきふたり分とか三人分が入っていると喜んでいたのに?! というか増えた人数を丸ごとよこすのかよ?!)
「高い志のあるおかたとお見受けしました!」
「うわ?! びっくりした!」
背後で三人の若者が寥花へひざをついていた。
「今は兵士数的に寥花ちゃんが角黄軍の最高幹部だから、人気が出てるんだよ」
先輩男性に薦められるまま採用すると、さらに三十増える。
(まともな兵士がクリックひとつで。なんもしてない。あっちから声かけてきた。タカイココロザシってなに? 私の集めた配下なんて『いひひ! また暴れられる!』とか『メシは喰えるんだろうな?!』とか、ひどいと『命をとられるよりはマシだぜ!』が志望理由なのに……なにこのチョロい業界?)
うれしさより腹立たしさのほうがやや勝ったが、行軍を再開するボロ着の先輩たちを見るとその気も失せる。
あの後ろ姿の列はそのまま崖から飛び立つか落ちるかしそうで、怖かった。
(うん。ついてきて正解?)




