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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第一章 時計台の街「シンテイム」
9/39

才能

「あの、私はどうすれば......」


 ここは図書館の奥にある、本を読むためにあるテーブルだ。私は今ここで、ヒスイさんと向き合っている状態にある。なんでも今ここで私の魔力を測定してくれるらしいが、いったいどんな方法なのだろうか。私には見当もつかない。痛いのじゃなきゃいいけど....。


「うーんとね、まず右手を出して?」


「こう、ですか?」


 言われるがまま、右手をヒスイさんに向かって伸ばしてみる。先日ミラさんに作ってもらったリストバンドのおかげで、紋章を隠していることに違和感がなくなっている。作ってもらう際、「何色がいい?」と聞かれたが、私はこの世に何色存在しているかがわからないため「任せる」と答えた。そして出来上がったものがこの「オレンジ」と呼ばれる色のリストバンドだ。私がそれを身に着けてみると、ミラさんたちからワンピースを着た時のような反応が帰ってきた。実際私もすごく気に入っている。


「じゃあ、ちょーっとじっとしててね?」


「は、はい」


ヒスイさんは私の手をそっと握り、微笑んだ。その後ヒスイさんはゆっくりと目を閉じ、私の手に集中し始めた。どこも痛くないし、違和感もない。これで本当に魔力がわかるのだろうか。


「.....ほぉ~」


少しの間の後、ヒスイさんは感心するような声を上げた。今の間でわかったというのか、すごいなヒスイさん。


「どう、でした?」


緊張のせいか、心臓の鼓動が早くなる。当然だ、これで私の人生が決まってしまうのだから。


「うん、ガチガチの魔力派だね。たぶん魔術タイプの」


 魔術タイプ、ということは魔物を狩る仕事になるのか。正直戦闘には自信がない。魔物もまだ見たことがないし、魔術も一つも覚えていない。これでは将来に不安という文字しか見えないではないか。


困ったなぁ.......。


「そんな泣きそうな顔しないの。たぶん将来が不安なんだろうけど、今の感じだと全然大丈夫だね」


「どういうことですか.....?」


いくら頭でヒスイさんの言葉を繰り返しても理解できない。これから必死で勉強しろとでもいうのだろうか。


「フィオラちゃん、とんでもない魔力だったよ。これなら感覚である程度の魔術は今すぐにでも使えるはず」


「今.....すぐ!?」


魔術の本も読んでいない、そもそも魔術というものも正直よくわかっていない。こんな私が今すぐに魔術を使いこなせるというのか?そんな馬鹿な。


「じゃあ手始めに、自分の手を光らせるイメージをしてみて?」


ヒスイさんの言葉が本当なのか、証明するためになんとなく頭の中で自分の手を光らせてみた。


「.....? っ!?」


「ほらできた!!」


気づけば私の手は白い光に包まれていた。私はイメージしただけなのに。手が勝手に光ったようだ。目の前の奇妙な出来事に、私の頭はいよいよ運転停止寸前だった。


「本当は手の上で光の玉を浮かせるのが完成形で、手自体を光らせるのはどこでもできる、魔力診断の一つだね」


「へぇ....」


魔力診断の一つということは、ほかの診断方法ありそうだな。それもきっとこの図書館の本にありそうだ。明日探して全部やってみよう。とても楽しみた。


「じゃあ試しに光の玉作ってみたら?」


「やってみます」


先程の手を光らせた時と同じ方法なら、自分の手の上に光の玉があるイメージをすればきっと.....


「できたぁ!!」


「す、すごいねフィオラちゃん.....」


私の手の上にはしっかりと光る玉が一定の高さを保ちながら浮いていて、その光はやたら眩しかった。


「この魔術は≪フラッシュ≫って言って、洞窟とかとにかく暗い所で明かりとして使うんだ。基本中の基本だけど、死ぬまで使える魔術だね」


「フラッシュ.....覚えました」


確かに夜道を歩くときとかにも使える魔術だし、覚えておいて損はないだろう。


それにしても、魔術すごいな。イメージひとつで何でもできてしまいそうだ。


「あー、もうこんな時間かぁ。私は仕事の無い日にはここにいるから、何か困ったらいつでも頼ってね」


ヒスイさんは外から聞こえた鐘の音に苦笑いしながらそんなことを私に言った。どうやらこの鐘の音がヒスイさんの家の門限らしいな。


「ありがとうございました、ヒスイさん」


「どういたしまして、じゃあねー」


「はい」


ヒスイさんは私に手をひりながら、今いるテーブルの空間から本棚の迷路に消えていった。それにしてもこの街には良い人しかいないのだろうか。会う人みんなが私に優しくしてくれる。ずっとこの街にいたい、そう思えるほどに、居心地が良かった。


読書も疲れたし、そろそろロキさんのところへ戻るとしようか。



.....そういえば、ここは図書館のどのあたりなのだろうか。



――――――――――――――――――




本棚の迷路にしばらくさまよい、いつになっても出口が見当たらず泣きかけたところでようやくロキさんに出会えた。しかし出会えた場所は図書館の出入り口付近ではなく、迷路の途中だった。


「ずいぶん遅いから心配したぞ」


「ごめんなさい.....」


あの迷路のいじめにあった後にそんなことを言われては正直本気で泣きそうになってしまうのだが。次回ここに来るときは来た道をしっかりと覚えておこう。


「もう鐘も鳴ったし、そろそろ帰るか」


「はい.....」


この街の鐘は夕方になると誰かが鳴らす決まりになっている。鳴らしているのは誰だかわからないが、この鐘で街の子供たちはそれぞれの家に帰る決まりがある。私もその例外ではなく、ミラさんから「どんなに遅くても鐘の音で帰ってきてね?」と何度も言われている。


ロキさんの後についていくと、あっという間に図書館の出口についてしまった。ロキさんの知り合いはもうそこにはおらず、図書館にも人気はなかった。図書館を出ようとすると、受付のお姉さんが素晴らしい笑顔で「ありがとうございましたー」なんていってきた。こういう時どういう反応をしたらいいのか全くわからないが、とりあえず頭を下げてみた。するとお姉さんの笑顔が明るさを増したのでどうやら正解だったらしい。にしてもよくあんな素晴らしい笑顔を客一人一人にむけられるなと感心する。たとえ作り笑いだとしても私には到底できないことだ。


図書館を出ると、そこには夕焼けに染まる街があった。ここ三日間全く同じ風景を眺めているが、いつみても飽きないのがこの風景の素晴らしいところ。私はこの街が本当に好きなようだ。


ロキさんは何も言わずに歩き出した。私も早歩きでそれに続く。


これからいろいろな魔術を覚えて、いつか私も魔物を狩れるようになりたい。いやなってやる、絶対に。





投稿が遅れてしまいすみませんでした。、

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