魔力と魔法と魔術と少女と
「わぁ.....」
建物の中に入った私の目に飛び込んできたのは、たくさんの本棚にぎっしりと詰められた色々な本たちだった。
「これが、図書館......」
自分の想像を超えるほどの本の数を目の当たりにした私は、口を開けて立っていることしかできなかった。
こんな数の本、今までに見たことがない。
当然か。私はついこの間まで靴の履き方も知らなかったのだ、図書館なんて知っているはずもない。
「フィオラ、俺はここにいるから自由に行っていいぞ」
動かない私に、知り合いを見つけたらしいロキさんが置いてあったソファーに座りながらそんなことを言う。先程のゼリオさんといい、意外にもロキさんは顔が広いらしいな。それはやはりロキさんがいい人だからだろう。
「満足したら俺に声かけるんだぞ」
「はい!」
自由がもらえた私は、抑えきれない好奇心に操られるように図書館の奥ヘと足を動かしていった。
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「おっ?」
しばらく本棚の迷路をさまよっていると、気になる題名の本を発見した。幸いにも私の手の届く位置にあったからか、ものすごくその本を読みたくなった。私はその本を手に取り、近くの椅子に座って読み始める。
≪魔力と人類の持つ技術≫
『魔力とは
人々は自らの体内に「魔力」と呼ばれるエネルギーを持っている。その優劣は各個体によって異なる。魔力は年齢や性別で強くなったり弱くなることは無く、その個体の生まれつきの素質で魔力の大小が決まる。魔力は主に魔物との戦闘や怪我の治癒などに活用されるが、このような用途で魔力を活用できるのは優れた魔力を体内に持っている人間に限り、それに当てはまらない人間はそれらの行為ができない。逆に優れた魔力を持たない人間は、魔物との戦闘で刀や銃など、武器を使った物理的戦闘を得意とする。しかし治癒は魔力でしか行えないため、優れた魔力を持つ人間を頼るしかない。治癒に使われる魔力の技術のことを一般的に「魔法」といい、戦闘に使われる魔力の技術のことを「魔術」という。優れた魔力を持つ人間の中でも、魔法を得意とする人種と魔術を得意とする人種の二つに分かれる。』
「....ずいぶん難しい本読んでるね」
私にとっては難しい文章を必死になって読んでいると、聞き覚えのない声が私にかかった。一旦本から目を離して声の方に目をやると、そこにはほんわかした雰囲気の女性が笑顔で立っていた。
「あの.....えと.....」
「あぁごめんね、私はヒスイ。よろしく」
相変わらず顔見知りな私に、ヒスイと名乗った女性は優しく微笑んだ。その笑みが私の中のミラさんと重なった。一瞬でわかる、この人もいい人だ。
「私、フィオラっていいます。よろしくです」
「フィオラちゃん、ね。いい名前だね」
「ありがとうございます。それで、何の用ですか?」
いい名前だね、といわれると、なぜか照れてしまう。この名前はミラさんがつけてくれたものだ。私が照れてどうするんだ。
照れ隠しのつもりで話題を変えてみる。
「んー?何か用がないと話しかけちゃだめなのかな?」
「いや、あの、そういうわけでは....」
思い返してみれば私は「話したいから」という理由でミラさんに何度も話しかけている。確かにそういわれると何も言えなくなってしまう。
「あっはは!! フィオラちゃんっておもしろいねー!!」
黙り込んだ私を見て、ヒスイさんは腹を抱えて笑い出した。そんな反応をされると少し不愉快だというか、なんというか。
反射的に頬を膨らませた私を見たヒスイさんは、「ごめんごめん」なんて言いながら私の頭を撫でてきた。もはや私の反抗手段がなくなってしまった。
「隣、座っていい?」
「.....どうぞ」
ヒスイさんの言葉に、やや機嫌悪めに返事をすると、ヒスイさんは苦笑いを浮かべながら私の隣の椅子を引いた。
それから私たちは、それぞれ持っていた本を読み始めた。
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「......ふぅぅ」
「あ”~~っ、読み終わったぁ」
≪魔力と人類の持つ技術≫を何とか読みきり、頑張った体からため息が漏れたころ、ヒスイさんも読んでいた本を読み終えたようで、両手を上げて体を伸ばしていた。
「そいえば、ヒスイさんはどんな本を読んでいたんですか?」
ふと気になった。「あ”~~っ」という感じから察するに、私と同じく難しい本を読んでいたのだと思う。......私のより難しい本だろうけど。
「あーこれこれ」
ヒスイさんが私に見せてくれたその本の題名のところには≪魔物討伐専用魔集≫と書かれていた。どうやらヒスイさんもロキさんたちと同じく、魔物を狩ってお金を稼いでいるらしい。見たところミラさんよりもかなり年下みたいだが、さっき読んだ本にも魔力は年齢には影響しないと書いてあったから、ヒスイさんのような人でも、むしろ私と同じ年齢の子でも魔物を狩れるのだろう。
「私は世に言う、優れた魔力をもつ人種に当てはまるけど、武器も使うんだ」
「えっ?優れた魔力を持つ人は魔術だけをを使う戦闘をするんじゃないんですか?」
少なくとも先程読んだ本にはそう書いてあった。あの本は古い本なのだろうか。
「うんまぁ、一般的にはの話ではそうだね。でも私は魔術だけで戦えるほど強い魔力を持ってないから、魔術は足止め程度で、とどめに短剣て切るって感じかな。こんな戦い方する人はそんなにいないけど、私みたいな中途半端に魔力の優れた人間はそうやって戦うんだ」
「なるほどぉ」
要するに、偏った魔力を持った人間だけが存在しているわけではなく、中途半端に優れた魔力を持って生まれてくる人間もいるということだろうか。何をするにも、まず自分のことをよく知ることが大事なようだ。
「そういえば、フィオラちゃんはどっち側の人種なの?」
そんなことを言われても、魔力と呼ばれるものがあるということをたった今知った人間に聞かれてもわからないだろう普通。
「....わかんない、です」
「ええっ?そうなの?」
「はい......」
おそらく両親がすぐそばにいれば教えてもらえるのだろうけど、あいにく私は両親の顔も名前も知らないのだ、知る手段が何一つとしてない。
「よし、じゃあ私がフィオラちゃんの魔力を調べてあげようか!!」
「できるんですか?いまここで?」
「もちのろん!!」
私の今後の行動にも関わってくるだろうし、ここはお願いしてみることにしよう。
「お願い、します」
「よしきた!」
自信満々なヒスイさんを見ていると、なんだか不安になってくるのはなぜだろうか。
ヒスイの紹介
ヒスイ・ウィンド
14歳 146.3cm
肩まで伸びた水色の髪。濃い青眼。
毎日のほほんとしているが、やる時はやるムードメーカー。
好物:甘いもの(ケーキとか主にお菓子)
嫌いなもの:あんまりない
※最近といいますか、とにかく誤字が目立ってきました。その対策として、誤字などの指摘を受け付けるツイッターのアカウントを作成しました。@io10hinatukiです。よければご指摘ください。