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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第一章 時計台の街「シンテイム」
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街めぐり

 ミラさんの家に住み始めて三日。まだ慣れたとは言えないものの、キャンベル家の雰囲気は大体掴むことができた。私なりに迷惑をかけないようにしているつもりだ。


 そして今日は、たまたま暇だったロキさんと一緒に街を見て回ることになっている。




―――――――――――――――――――――






「じゃあロキ、よろしく頼むね」


「ああ。じゃあフィオラ、行くぞ」


「はい。よろしくお願いします」


朝9時頃にロキさんはキャンベル家を訪ねてきた。私はこの日、何を持っていこうか必死で考えたのだが、ミラさんに「遠足じゃないんだし何も持っていかなくてもいいんじゃない?」といわれ、結局何も持ってきていない。


 私はミラさんに買ってもらった革靴を履き、ロキさんの隣に並んで歩く。空を見上げると、今日も立派に仕事をこなす時計台が高くそびえていた。


「さてフィオラ、まずどこに行きたい?」


 時計台を見たまま動かない私に呆れてか、ロキさんがそんなことを言い出した。どこもなにも、この街をよく知らない私にそんなことを聞かれても困る。


「えーっと........」


 しばらく沈黙が続く。街というものをそもそも知らない私にとって、「どこに行きたい?」という質問は超がつくくらい難問だ。


「.....あー、とりあえず歩いてみて、気になったところに行くっていうことでいいか?」


 流石ロキさんというか、私の反応を見ていろいろ察してくれたのだろう。とても助かった。


「はい」


 そういった私にロキさんはやさしく微笑みかけてきた。なんだか温かい気持ちになるのは、私が人というものを理解してきたということなのだろうか。


 私たち二人は、石煉瓦で敷き詰められた街路地をゆっくりと歩き出した。




――――――――――――――――――――






「ロキさん、あれは?」


 私が最初に気になるものを発見したのは、ミラさんの家からそう遠くない場所にある建物だった。

 その建物は周りの家とは違い、建物の入り口には大きな看板があった。おそらく何かの店だろう。


「あそこは武器屋だ。剣とか弓とか、あと銃なんかも売ってる。そういうのは主に、魔物を狩る仕事をしている人間が買うんだ。俺とかアッシュとか、あとミラもな」


「へぇ....」


 ロキさんとかアッシュさんは体も丈夫そうで、いかにもという感じだが、あのミラさんが魔物を倒している姿がどうしても想像できない。いや、それはあくまで剣の場合であって、弓や銃を使えば女性でも倒せないわけではないか。....やはり想像できないな。


「ああ、ミラは直接魔物と戦うわけじゃなくて、俺たちの傷を治す魔法を使うんだ。つまりサポート役だな」


「な、なるほど......」


 確かにそれなら想像ができる。アッシュさんがむやみに魔物の群れへ突っ込んで、戦闘終了後にぶーぶー言いながらアッシュさんの傷を治しているミラさんの姿が目に浮かぶ。二人ともさすがというか、なんというか。


「どうする?中に入るか?」


「....いえ、今度にしておきます」


「.....そうか」


 私が中に入ってもそんなに学ぶことはなさそうだ。それよりも、ミラさんについて知ることができて私は満足だ。今夜家に帰ったらいろいろ聞いてみよう。


「よし、じゃあ次行くか」


「はい!」



――――――――――――――――――――





 しばらく街を歩いていると、どこからかとても美味しそうな匂いが漂ってきた。それに合わせて私のお腹が鳴ってしまった。


「腹減ったか?」


「.....うぅ」


 こんな人通りの良いところでお腹が鳴ってしまったら周りに聞こえてしまうではないか。あぁ恥ずかしい。


「じゃ、あそこ寄るか」


 耳まで赤くなった私を見て苦笑いしながら、ロキさんはそんなことを言い出す。ロキさんの目線を追ってみると、そこには一軒の建物があった。看板には『ヴェーレ・カフェ』の文字が大きく書かれている。


「ヴぇーれ....?」


「いけばわかる」


 私がぽかんとしていると、ロキさんはさっさと店に向けて歩みを進めていた。ただでさえ歩幅の違いがありすぎるのに、こんなに離れてしまうと走らないと追いつかない。我に返った私は小走りでロキさんに追いつき、店の中へと入った。




――――――――――≪ヴェーレ・カフェ≫――――――――――――――――





 店の中は明るすぎない照明の光に包まれていた。混んでいる、とまではいかないがところどころに客の姿が見える。店内には大人っぽい雰囲気が漂っている、というアバウトな表現が限界なのは、私がまだ幼いからだろう。店内には丸椅子のカウンター席と、四人用くらいで座るテーブル席があり、ロキさんは迷わずカウンター席のほうへ歩き出していた。私はロキさんに早歩きでついていく。


 ロキさんが座った席の横にあった席に腰かけてみると、椅子は思ったより高く、足が浮いてしまった。


「ようロキ、今日は一人じゃねぇんだな」


「ああ。こいつは知り合いの子でな、フィオラっていうんだ」


 私が席に着いたのとほぼ同時に、ロキさんがテーブルの向こう側でグラスを拭いていた男性に話しかけられていた。


「フィオラちゃんか。俺はゼリオ・ヴェーレ、この店の店長だ。よろしくな」


 ゼリオと名乗った男性は、見たところアッシュさんとロキさんの間くらいの身長で、紺色の髪の毛をオールバック?みたいな感じにしていた。ロキさんより年上のようで、声はやたらと渋く低く、私の耳に重く響いた。


「えと、よろしく、です。ゼリオさん」


 ミラさん曰く私は顔見知りというやつらしく、初めて会う人とはうまく会話ができないタイプらしい。私は自分のぎこちない返事でそのことをようやく理解した。


「可愛い子だな、良かったらこれいるか?」


 そういって差し出されたゼリオさんの手のひらには、白いクッキーが二枚あった。そのクッキーを見た瞬間、私が今どういう理由でこの店に来たのかを思い出してしまった。またもお腹が鳴る。


「クッキーより昼飯のほうだったか」


「.......うぅぅ」


「ゼリオ、なんか適当に作ってくれ。金は俺がちゃんと払う」


「わかったわかった。じゃ適当に」



――――――――――――――――――――――





「ほら、お待ちどう様」


「わあぁ.......」


 しばらくしてゼリオさんが持ってきた料理は、ミートソース的な色をした何かの上にチーズが乗った料理と、トマトの香りがする赤いスープの二つだ。


 もう勝手に手が動いてしまいそうなほどお腹が減ってしまっているので、いただきますというとすぐさまスプーンを手に取り、チーズへ一刀。


 私の口に一口で入るか入らないかぐらいの量をスプーンですくい、口に運ぶ。


「っ!! ~~~っ!!」


「どうだ、うまいだろ」


「っ!っ!」


 口に入れた途端広がるチーズの風味が私の食欲をさらに誘った。うまいか?と聞かれればひたすら頷くぐらい美味しい。それに加え私の空腹の状態が無理やり美味しいと言わせたがっているのだ。空腹とは恐ろしいものである。


 さらにもう一口。


「~~~~っ!!」


 今度はチーズの風味に加えて鶏肉の触感がもうたまらなかった。よくよくその料理を見てみると、鶏肉やマカロニ、玉ねぎなどいろいろな食材が入っていた。これは一度の食事でたくさんの食材が楽しめる料理のようだ。なんと素晴らしい。あとで知ったがこの料理は「グラタン」というらしい。


「はは。おもしろい子だなフィオラちゃんは」


「.....あもしろくなんか、ないです」


 ゼリオさんの発言に、それは失礼だという意味を込めてジト目で見つめてみる。するとゼリオさんは「おーこわいこわい」なんて言いながら両手を挙げた。なんだかからかわれているようで気が晴れない。


 そんなことより私はトマトのスープが早く食べたかった。


 トマトのスープの中には崩れたトマトや大豆、じゃがいもや人参など、先程の料理を超える数の食材があった。これはとても楽しみだ。


 適当にトマトとスープをスプーンですくって口へ運んでみる。


「.......はーぁ」


 これは美味しいというか、体にしみこんでいくという例えがぴったりだ。体が温まっていくのがわかる。なぜかため息が漏れた。


「それだけでも十分うまいだろ。だがそこにもうひと手間」


 そういったゼリオさんの手には、粉チーズと書かれた小さめの筒が握られていた。ゼリオさんはトマトのスープにその粉チーズとやらをなかなかの量振りかけた。


「ま、食べてみ。少しかき混ぜてからのほうがいいぞ」


「あ、はい」


 ゼリオさんの言葉の通りにスープをまんべんなくかきまぜ、また一口口に運ぶ。


「.....あぁ~」


 粉チーズを入れたことによって、トマトの強い酸味が薄れてまろやかになった。私的にはこっちのほうが好みの味かもしれない。


「な?うまいだろ」


「....はい、とっても」


「俺の料理をこんなにうまそうに食うやつは久しぶりだ。あっははは」


「そう、ですか?」


「俺はお前が気に入った!!またいつでも来てくれ」


「はい。私もゼリオさんの料理が気に入りました」


「そうかそうか。やっぱいい子だ」


 ゼリオさんはよく笑う人らしく、話していてとても楽しく思える。アッシュさんに少し似ているところもあるが、アッシュさんより大人っぽいのがゼリオさんだと思う。

 

「おいフィオラ、食べ終わったんなら行くぞ」


 私たちの会話を黙って聞いていたロキさんが口を開いた。よく見るとロキさんの表情は緩んでいて、優しいものだった。


「あ、はい。ありがとうございましたロキさん。ゼリオさんも」


「おう、また来いよ」


「また来ます!」


―――――――――――――――




 ヴェーレ・カフェを出てから数分、私はやたら大きな建物を発見した。


「どうしたフィオラ」


「あそこはなんですか?」


 私が指をさした先にあったのは、看板に大きく「図書館」と書いてあった。


「図書館って、なんですか?」


「ざっくり言って、本がたくさんあるって感じだ」


 本ということは、私もいろいろ学べるかもしれない。


「行くか?」


「はい」

※誤字修正

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