時計台の街≪シンテイム≫
登場人物紹介
フィオラ
11歳 身長138.5cm
生まれてから一度も髪の毛を切ったことがないためとても長い茶 髪を持っている。瞳は紅。
長い間奴隷だったせいか優しくされることに弱い。
好物:次回で食べることになるのでまだ書きません。
嫌いな物:なし
アッシュ・ガンフォード
17歳 身長181.0cm
短く切られた黒髪。瞳は茶。
豪快な性格だが、なかなか面倒見が良かったりする。
好物:肉
嫌いな物:野菜(主に緑黄色野菜)
ミラ・キャンベル
17歳 身長162.3cm
癖なく生えたやや長めの金髪。青い瞳。
可愛い生き物を見ると我を失い、獣と化す。
好物:スープ類
嫌いな物:苦いもの全般
ロキ・アイスマン
17歳 178.5cm
男性にしては長く青い髪の毛。薄橙色の鋭い瞳。
クールな性格だが決して冷たいわけではない。
好物:冷たい食べ物
嫌いな物:辛いもの全般
こんな感じです
以上突然のキャラ紹介でした
「......それで今晩の事なんだが」
私の名前が決定し、四人で喜んだりニヤニヤしたり泣きかけたり色々して落ち着いた後、アッシュさんが真顔でそんなことを言い出した。
急に真顔になるものだからどういう反応をしていいかわからない。
そんな私にアッシュさんは真顔で話を進める。
「さすがに俺やロキとか、男の家に女の子を泊めるわけにもいかねぇからな......」
この街には女が男の家に寝泊まりしてはいけない掟でもあるのだろうか。私は一向にかまわないのだけど。いや、助けててもらった挙句に泊めてもらうなんて図々しいにもほどがあるか。私もまだまだ未熟だな。
「じゃあ私の家だね」
「!?」
ミラさんが発したその言葉に、思わず体がはねた。
本当にどこまで優しいんだろうこの人は。
いやいやそんな悠長にものを考えている場合ではない。
「あの、でも」
「フィオラちゃんは遠慮しすぎ!!」
「んんっ....」
私が口を開いた直後に、ミラさんの人差指が私の口を無理やり封じた。これでは言葉を口にできない。
....遠慮しすぎ、か。
遠慮しているっていうか、私はただ、申し訳ない気持ちでいっぱいなだけなんだ。なのに、どうしたら伝わるんだろう、この気持ちをどう伝えればいいんだろうか。......だめだ、今の私ではいくら考えても答えなどでない。出るはずもないんだ。
「私の家はこのアッシュの家とあんまり遠くないから歩けばすぐ着くよ。でも街には結構人がいるし、その服でここを出るのは流石に....」
落ち込んでいると、ミラさんは私の服を見て苦笑いしながらそんなことを言った。
今の私の服装は、長い間着ていて破けてたりほつれてたりしてボロボロになってしまった奴隷の服のみ。こんな格好で街になんて出たら、確実に周囲の注目を集めたあと、惨めな思いをするだろう。そんなことぐらい私にも理解できた。
「まっててね、私のフィオラちゃんくらいの時の服探してくる!!」
「え、あの、ミラさ......」
待て、といったものの時すでに遅し。ミラさんは勢いよく部屋を出て行ってしまった。
伸ばした手もそのままに、私は固まっていた。
「言い出したら止まんないんだよ、あいつ」
ロキさんはため息交じりにそうつぶやく。たしかに、今の勢いなら誰にも止められないだろう。
ロキさんのつぶやきの後、謎の沈黙が私たちを包んだ。
ものすごく気まずくなった空気の中、私はふと、これはチャンスだと思った。
なんとなく、もう一度お礼が言いたい。一回や二回じゃ足りない、いくらありがとうの言葉を口にしてもきっと足りないだろう。でも、だからこそ。
「アッシュさん、ロキさん。本当にありがとうございます」
ちゃんと、いえた.....。
唐突に言われたその言葉に二人は軽く驚いていたが、それでもちゃんと私の言葉に返事をくれた。
「....さっきから言っているが、あまり気にするな」
「そうだぞフィオラ。困ったときはお互い様、ってな」
私は何も言えなくなった。こんなに優しくて素敵な人たちを見ていると、もう申し訳なさなんかどうでもよくなってきたような気がしてきた。
二人は微笑んでいた。こんな私に、優しく微笑みかけてくれていた。
「......はい」
自分の気持ちなんてどうでもよくなった私の顔は、自然とゆるんで笑顔になった。
私の笑顔と同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。
「あったよ!! サイズ合うかわかんな..い...けど...?」
部屋に入ってきた人物は、息を切らしながらもそう言いながら私の笑顔を見て固まった。
「おうミラ。ってなんで固まってんだよ」
「フィオラちゃんが......フィオラちゃんが.......!!」
ミラさんはわなわなしながらそう言うと、いきなり大声を上げた。
「笑ったああああ!!」
その言葉とほぼ同じタイミングで、ミラさんは私に抱き付いてきた。
「ちょ、ミラさん苦し.....」
「お、おいミラ、そいつ怪我して.....」
「も~可愛すぎだよフィオラちゃん!! 宝石?ダイヤモンド?いやむしろ天使よ!!私の妹にするぅぅぅぅ!!」
「落ち着けミラ!!途中から何言ってるかわかんねぇぞ!?」
「い、痛いですミラさんっ!!」
ミラさんはまるで子供みたいなテンションで私に抱き付きながら意味不明なことを言い続けている。正直怖いし何より痛い。いろんな痣が押されてものすごく痛い。
アッシュさんに助けを求めようと目を合わせると、困った顔をされて目をそらされた。ひ、酷い.....。
最後の希望、ロキさんを見てみると「俺は無関係だ」なんて言い出しそうな顔で口笛吹きながら眼鏡を拭いている。ひ、酷すぎる。せめて温かい目で見守ってくれるとかでいいじゃないか。
.....あれ、いい人たちだと思ったんだけど
――――――――――――――――――――――――ー
我に返ったミラさんから素早く抜け出した私は、三人の裏の顔に怯えて部屋の隅で小さくなっていた。
そして今、正座をしたミラさんにアッシュさんが説教をしている最中だ。
「大体お前はすぐ周りが見えなくなるうえに毎回何やらかすかわかんないんだから少しは自分をだな.......」
「......はい、すみませんでした。反省してます」
こうしてみていると、だんだんミラさんが可愛そうに思えてくるのはなぜなんだろうか。正座辛そう。かれこれ15分間くらいだろうか。
ふとロキさんのほうを見てみてみると「そろそろ」と言いたそうな目をこちらに向けていた。私は軽くうなずき、アッシュさんの傍へ恐る恐る近づいていく。
「あの、アッシュさん。そろそろ.......」
私がそういうと、アッシュさんはこっちを振り向いた。が、その顔は説教中の鬼みたいな顔のままだった。先程のミラさんよりもはるかに怖い。
「あ?あぁそうか。おいミラ、もう一回フィオラに謝れ」
アッシュさんは話しかけたのが私だということを理解すると、眉間のしわは緩み、とがった目つきも元の優しいものへともどった。
「....はい。ごめんねフィオラちゃん」
対するミラさんはどうやら本気で反省しているらしく、瞳には涙がたまっている。....まぁ、あんな説教を受ければ泣きたくもなるだろう。
「えと、あの。私もすみません、急に逃げたりして.....」
「いや、お前が謝る必要はないんだが......」
「うわぁぁぁあん!!フィオラちゃぁぁぁぁん!!」
「うわぁっ!?......と?」
ミラさんは泣きながらまたも私に抱き付いてきた。頭によぎるのは先程の悪夢。あ、私今度こそ死んじゃうかも。
しかし、私に襲い掛かったミラさんの手には先程のような強い力はなく、私を優しく包み込んでくれた。
「怖かったよぉぉぉお!!」
ミラさんは私を優しく抱きしめたまま、子供のように泣きつづけた。そんなミラさんの背中に私も手を回し、私もミラさんを抱きしめた。
ミラさんは暖かく、とてもいい匂いがした。
....落ち着く。
これが、ぬくもりっていうのかな.....。
とても、落ち着く。
落ち着く、けど。
....そろそろ離れてくれないかなミラさん。
―――――――――――――――――
「まじ天使....っ!!」
「ほう...」
「すっげぇ、似合いすぎだろ」
「あの、これ、恥ずかしい....です」
私は今、ミラさんが持ってきてくれた真っ白なワンピースを半強制的に着せられている。ものすごい恥ずかしい。
生まれて初めてワンピースというものを着たが、世の中の女性はよくこんなものを着て平然と街中を歩けるなと思う。太腿のあたりに違和感を感じて落ち着けない。
無意識に、スカートの裾を掴んでしまう。顔が燃えるように熱い。
「これは違う意味で目立つかもな」
「そ、そんなぁ」
「可愛いんだからいいの」
「うぅ~......」
悪戯っぽく笑うロキさんを睨んでいると、ミラさんに頭を撫でられてしまった。もしかして私、小動物みたいに思われてる?......奴隷よりましか。
「あ、そうそう。その紋章も隠さなきゃね」
エールレイユの紋章を見ながらそう言ったミラさんの手には、包帯が握られていた。今私が身に着けているワンピースと同じ、汚れひとつない真っ白な包帯だ。
ミラさんが私の右手首に素早く包帯を巻くと、綺麗に紋章が包帯によって見えなくなった。
「包帯なんかでごめんね。今度、リストバンドみたいなの作ってあげるから」
「りすと、ばんど....?」
私の耳に入ったのは「りすとばんど」という、それが物なのかもわからない言葉だった。必死になって頭の辞書を開くものの、やはりというか、当然のように私の辞書には載っていなかった。
「あぁえっと、これのことだ」
ぽかんとしている私に、アッシュさんは自らの左手首に巻かれている黒い布に指をさした。なるほど、あれがリストバンドか。確かにあれなら包帯よりずっと自然に見えるし、私の紋章も隠れそうだ。
初めてみるリストバンドに興味津々だといわんばかりに目を輝かせていると、窓から差し込む夕日の光を眺めていたミラさんが口を開いた。
「じゃあフィオラちゃん、そろそろ私の家で夕食とかの準備しなくちゃだから。帰ろっか」
「あ、はい」
ぎこちなく頷いた私を見て、ミラさんは優しく微笑んでくれた。アッシュさんはどこか残念そうな顔をしている。ロキさんは私のほうを見ていて、穏やかな声で「また明日な」なんて言ってくれた。私としてはもっと三人に色々教えてもらいたかったんだが。
「お前ら二人してなんでそんな残念そうな顔してるんだよ、また明日話せばいいだろ?」
「だ、だって」
「だってよぉ」
ロキさんんの少し呆れたようなつぶやきに、私とアッシュさんのセリフが重なった。驚いた、とばかりにアッシュさんのほうを見ると、アッシュさんも同じことを考えていたらしく目が合ってしまった。しばらくの間目が合ったまま二人で固まっていると、どこか間抜けたようなアッシュさんの顔がだんだん面白く思えてきてついには吹き出してしまった。どうやら先程からアッシュさんと考えていることが同じだったようで、気がつけばアッシュさんも何かをこらえながら笑っている。
笑うのって、こんなに簡単なことだったんだ。
――――――――――――――――――――――――
「じゃ、また明日ねー」
「....また明日、です」
「おう、また明日な!!」
「しっかり寝るんだぞフィオラ」
「...はい」
アッシュさんの家の玄関にはそれほど靴はなく、ずいぶんと広く感じた。その広い玄関でミラさんが持ってきてくれた革靴を、これまたミラさんに手伝ってもらいながら履き終わると、男性陣二人に軽く挨拶をする。二人は笑顔で「また明日」と言ってくれた。
ミラさんがゆっくりと玄関の扉を開く。
―――――――≪時計台の街「シンテイム」≫―――――――――――――
アッシュさんの家を出た瞬間、真っ赤な夕日の光が私の目を焼いた。あまりの眩しさに思わず強く瞼を閉じたものの、生まれて初めて見る「街」というものがどのようなものなのかという好奇心に煽られ、ゆっくりと瞼を再び開く。
私の目に映ったのは、夕日で真っ赤に染まった数多くの建物と、生き生きと働いている数多くの人々。楽しそうに話し込んでいる女性や元気に走り回っている子供。目に入るものすべてが初めてで、もはや新鮮という表現では足りない気持ちになった。
その中でも私の目線を釘付けにしたのが、町の中心付近に高くそびえる時計台だった。
こんなに多くの建物が建っていることにも驚いたが、あんなに高く大きな建物を本当に人間が建てたのかと思うと、感動というか信じられないというのが本音だ。
「あの時計台はこの街のシンボルなんだ。私も最初あの時計台見た時は、時計台の存在自体が信じられなかったんだよね」
時計台を見ながらミラさんはそんなことを呟いた。それは今まさに私が思っていることそのままだったので、なんだか心を読まれたような感覚だった。
しばらくこの街の夕方の風景を満喫していると、ミラさんが私の手を握ってきた。
「.....帰ろっか」
「.....はい」
私はミラさんの手を握り返した。ミラさんの手は握るだけで優しいと感じるほど暖かく、今の私では簡単に離れられないと思う。ずっとこの優しさを感じていたかった。
私たち二人はゆっくりと、赤く染まった街を歩いて行った。
シンテイムの時計台は、自分的にはビック・ベンをイメージしてます。
それ以外に時計台が思いつきませんでした(笑)
あと、自分のネーミングセンスの無さに落ち込みましたまぢで。
※誤字修正、表現を改めました。
※アッシュのファミリーネームを変更しました