あの笑顔を思い出して
「なんで、なんで私だけこんな目に!!」
私の悲痛な叫びも奴の表情を変えることはできなかった。
「知らないよそんなの」
奴はゆっくりとナイフを振り上げる。その腕は頂点へ差し掛かった。
その時
「.......諦めてんじゃねぇぞフィオラ」
「...........アッシュ、さん?」
力なく倒れていた私の耳に飛び込んだその声。それは必死に立ち上がろうとしているアッシュさんの声だった。ミラさんの治癒魔法が完全に終わらなかったのにもかかわらず、意識は十分すぎるほど覚めているようだった。
アッシュさんは苦しみながら、それでも力強く立ち上がって叫んだ。
「お前がシンテイムで過ごした日々は楽しくなかったのかよ!!また戻りたいとは思わないのかよ!!」
「それ、は......」
「そうだフィオラ」
「ロキさん.....」
「帰ったらまたゼリオの飯、食べようぜ。本物の、な」
「ミラはお前を家族だと言った。その意味をよく考えてみろよ」
「ミラさん.......」
気を失っているミラさんを見つめる。
私はふと、シンテイムでミラさんと過ごした日々を思い出す。
『フィオラちゃん』
ミラさんの笑顔がまた見たい。
暖かくて、眩しくて、
あの笑顔がまた見られるなら
私は!!
「《太陽の力を持つ神よ、あらゆる炎の根源たるその力、我に貸したまえ》!!」
「あーあーすっかり忘れていたよその力」
組織の長は反射的に後方へ大きく下がった。が、今の私には距離など問題ではなかった。
「マリナ!!」
「行くよフィオラ、自分の手で未来を掴むために」
見たことがないくらい真っ赤に燃える炎が私の体を包む。おそらくこの炎は私の心を表しているのだ。証拠に、フィリルと戦った時よりも激しく燃え盛っている。
『集え太陽の力』
「《プロミネンス》!!」
私は組織の長目掛けてありったけの魔力を放った。不思議なことに、これだけの魔力を消費したのに、逆に力が漲ってくるようだった。
燃え盛る炎が高速で地を這う。
「なんだこれは!?」
「させねぇ!!」
スライムが少年少女をすり抜け、こちらに割って入ってきた。
しかし私の魔術を見くびってもらっては困る。
「邪魔です!!」
私の魔術がスライムの急所までも燃やし尽くす様がよく見えた。
「うっわすごいねー」
「悔しいけど、やっぱり姉さんの妹」
「うわあああ!!」
組織の長には紙一重で避けられたが、私の目的はそれだけではなかった。奥にある機械、恐らくあれが魔力を吸収する装置だろう。
全体像が大きくて大変当てやすいではないか。
「狙いはそっちか!?」
「もう遅い!!」
「やめろおおおおおおおお!!」
長の叫びは少しの変化も生み出すことはできず、大きな機械は爆発したかのように弾け飛んだ。
しばらくして煙が治ると、機械が密接していた壁は愚か、城の屋根までも無残にえぐり取られていた。そこにあるのは機械が使用不能となった証拠だけだった。
久々に見上げる空は黄色く、とても眩しかった。
「........................そんな」
機械があった場所を見つめ、呆然としていた組織の長の弱すぎる言葉が響いた。空に消え入ってしまうほど小さな声だったが、それでもしばらく続いた沈黙の中でははっきりと響いた。
さて
何もかもを終わらせる時だ。
「待って」
組織の長に向かって歩き出した私の足を止めたのは、私の魔術によって大怪我を負ったフィリルだった。フィリルは壁にもたれかかることをやめ、今にも倒れそうな足取りでこちらに近づいてくる。
「姉さん」
「無理しないで」
少年少女がフィリルに肩を貸す。フィリルは二人にお礼を言い、そして私を見て口を開く。
「少しだけ時間を頂戴」
「でも........」
「大丈夫、その人にもう動く気力なんてないわ」
組織の長は固まってしまっていた。呼吸すらしていないかのようにただ固まっていた。
「わかりました」
フィリルは私に微笑みかけると、組織の長に向かって自らの思いを口にしていった。
「お父さん」
「........... 」
「私は確かに覚えているわ。フィオラが生まれた日のこと」
「やめてくれ、そんなこと思い出したくは......... 」
「フィオラは元気に生まれてきたわ。私は今日から姉になるんだ、って嬉しく思った」
フィリルは遥か空高くを見上げ、言葉を続けた。
「ねぇお父さん、あの時お母さんの最後を見た家族は、少なくとも私とお父さんだけだった。でもお父さんはお母さんの顔をしっかり見てないはずよ。悲しさのあまりね」
「.......!」
「でも私は見たわ、ちゃんと。今もこの目に焼き付いているもの」
「お母さんは最後まで、とても嬉しそうに」
「笑っていたわ」




