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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
最終章 その手で掴み取る
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立ち込める絶望と底辺の末路

「が........ぁ」


「く....そ.......]


二人の体から黒い刃物が全て抜けた時、二人は力なくその場に倒れた。地面には血が染み出していた。


「やっぱ強ぇよお前ら。だが俺の体の性質についてよく考えなかったのが悪かったな」


スライムは地面に散らばった自らの体液を刃物から液体に戻し、その体を再構築して呟いた。


「さて」


スライムが私に目を向けた。幼い子にいまにも襲い掛かりそうな悪人のような目つきで。


「悪いなフィオラちゃん。でも俺はこの時のために生まれてきたんだ」


スライムはゆっくりと、しかし確実に私との距離を狭めている。一方私は収まりかけていた恐怖が蘇ったとともに、その恐怖はしつこく私の脚力を奪ってきた。

奴を切れば、切った分だけ逃げ場がなくなる。


こんなのって......


「失敗するわけには.......ん?」


私と奴との間を遮るようにしてミラさんが無言で立ちふさがった。その背中は今までで一番頼もしく思えた。が、ミラさんは戦場に赴き治癒支援は行えても攻撃要員ではない。私はありがたく思いながらも、正直ミラさんの行動は絶対にしてほしくなかったうちの一つに当たる。


ミラさんが私をかばって命を投げ出すこと。そんなことは認めない、認めたくないのだ。


でもこの足では未来を変えることはできない。


「おいミラ、正気か?」


「こんなことしかできない自分が嫌になるわ。でもね、だからって最善を尽くさないわけにはいかないの」


「そうか」


「ダメです、ミラさん」


私の言葉にも、ミラさんは振り返ろうとはしなかった。


「なんと言われようと、フィオラちゃんを守りたい。いや守らせて」


ミラさんは一度間をおき、強調するかのように一言を放った、


「家族として!!」


「ミラさ....... 」


「じゃあ願い通りここで死ね」


奴が刃物と化した自らの右腕を振りかざすのが見えてしまった。いまにも叫んでしまいそうな時、その一瞬で何かが起きた。


「《ゲイルブレイク》」


「《鎌鼬》」


一瞬でスライムがみじん切りになった直後、それは突如巻き起こった強風によって壁に塗られた。


「なんとか間に合ったねー」


「間に合ってない。二人もやられてる」


そこに現れたのは、先ほど下の階で戦った少年少女だった。


しかし二人の様子は明らかに先程と違いすぎることに気が付いた。少年は片目が青眼から銀色の瞳に変化し、それは薄く光を帯びているように見えた。

驚くべきは少女の方だ。少女は人間には本来無いはずの角や尻尾、さらには羽までもが体から生えていた。いずれも赤黒い炎のようなものを絶えず放っていてとても恐ろしい。


二人に一体何が起きたのだ。


「驚いた?これが僕たちの本気だよ」


少年が自慢げに私へ問いかけてくる。驚いたというより、今は未来が変わって安心しているといったほうが正しい。


「キール、そんなことしてる余裕なんてない」


「そうだね、ごめん」


「最近の子供は無駄に強いが、こんなのが存在しているなんて聞いてないぞ」


スライムはすでに形を整えた後だった。しかしその顔は事態の深刻さを物語っているように険しいものだった。


「お兄さん勘が鋭いね」


「どうせレナたちの頭の中も読まれてる」


「当たり。お前が持ってるその魔導具のヤバさもな」


「知ったところであんたに勝ち目はない」


「行くよ」


少年少女は強く前へ出た。そして振りかぶった武器を思う存分振り回してゆく。スライムがその攻撃を避けきれなくなった時、少年少女の言う本気が形となって現れた。


「くッ」


「そんなの固くなんかない」


「!?」


硬化したスライムの手が少女の鎌によって切り捨てられる。少女のその行動に苦という文字は一切感じられなかった。


呆気にとられている私に、武器を振り回す少年は瞳で何かを訴えかけるように目を合わせてきた。直後その目が瀕死となって力なく倒れている二人の方に向いたことで、私は意味を汲み取ることができた。


「ミラさん今のうちです」


「そうだね」


私はミラさんと倒れている二人に向かって思いっきり駆け出した。恐怖が私の脚力を鈍らせようと、今だけはそんな弱音を吐いている暇はない。


恐怖に怯えるよりも、ミラさんを守り、二人を助けることだけ考えていればいい。


「《リバイヴヒール》」


ミラさんが二人に手をかざし詠唱を始める。二人は黄緑色の光に包まれ、体から傷が次第に失せていくのが確認できた。

しかし二人の傷は想像以上に深かったようで、ミラさんの表情に焦りが見えてきた。


「狙いはこれかよ、邪魔だガキども!!」


「そんな簡単に通すわけないじゃん」


「あの二人は気に入らないけど、姉さんの頼みだから」


「クソが!!」


「もう少し.....後少しだからね、アッシュ、ロキ!」


「させないよ」


「うっ!?」


ミラさんの苦しむ声に思わず振り返ると、そこにはミラさんを蹴り飛ばした組織の長がいた。


「ミラさん!!」


ミラさんは壁に叩きつけられ、頭を強く打ったせいか意識を失い地面に倒れた。


私の心にある憎しみという感情が一気に加速したような気がした。


「君の魔力量は人並みくらいだろうから用はないんだよ」


「この!!」


私はこの時の初めて「堪忍袋の尾が切れる」思いをした。こんなにも他人の口を塞ぎたいと思ったことは短い人生の中でも一度もない。


こいつは絶対に


「許さない!!」


「おっと」


「《ライトニング》!!」


「危ないなぁもう」


「《フレイムインパクト》!!」


「怒りに身を任せた攻撃なんて当たるわけないでしょうが」


「ぐっ!!」


魔術を避けられた上に回し蹴りまで体で受けてしまい、私は軽く吹っ飛んだ。しかし地に全身を付けてしまった私は蹴られた痛みに悶え苦しむことが精一杯で、逃げようにも体がなかなか言うことを聞かなかった。


「やっと捕まえたよフィオラ」


不気味な笑顔が近づいてくる。組織の長の手にはいつの間にかナイフが握られていた。


「君の母親はね、君を生んだその日その時に亡くなったんだよ。僕の世界で一番愛する人がね、君が生まれたから、君のせいで!!君のせいで死んだんだよ!!だから君の命であの人を一瞬でも蘇らせるのは当然だろ!?なぁ!!」


倒れている私に容赦ない蹴りが何度も何度も何度も何度も繰り出された。蹴られるたびに私は吐血を繰り返した。激しい痛みが全身を襲う。


最後と言わんばかりに繰り出された強い蹴りによって、私は壁か柱か、とにかく固いものに叩きつけられた。いっそこの時点で気を失っておけばこれ以上の憎しみも悲しい思いも痛い思いもしなずに

済むだろうが、世界はそう思い通りに回ってはいないのだ。


「知ってるかいフィオラ、人が死んでも、体内の魔力が空気中に放出されるまでには時間がかかるんだ。つまり君を利用すために殺しちゃってもいいってことなんだよ」


結局私は奴隷という枠組みから抜け出すことはできても、無力ということに変わりはなかったのだ。


私はただ、三人の仇をしたかった。

それがただの自己満足だったとしても成し遂げたかった。


なのに


一矢報いることもできず、無様に魔力を抜かれて死ぬのだろうか。


家族と言ってくれた人も守ることができないまま。


悔しいけど


絶対に認めたくないけど


もうこの体では動けないだろう。


「じゃあねフィオラ、生まれてきたことを後悔しながら死ぬといい」


悔しい


悔しい悔しい悔しい悔しい!!


私だって好きでこんなイかれた世界に生まれてきたわけじゃない!!

好きでこんな奴の子供として生まれてきたわけじゃない!!

好きで魔力を大量に持っているわけじゃない!!

好きでお母さんを殺したわけじゃない!!


もっと普通に生きていたかった


もっと........ッ!!


「あああああああ!!!」



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