訪れる運気
「私は相手の考えた作戦を体で感じるのが好きでしてねぇ」
若干の笑みを浮かべながらシエルは呟く。私の目には何かを懐かしんでいるようにも見えた。恐らく今回のように相手に作戦を立てさせ、それを踏みにじって経験を積んできたのだろう。いい方法とは到底思えないが、事実奴は強い。だが、私の作戦で二人が奴の剣のサビになるとは思わない。
「行くぞロキ」
「あぁ」
作戦が始まった。二人がシエルに斬りかかるが、その動きは先ほどに比べて固くなったように見える。シエルの次の一手に警戒しすぎているのかもしれない。あの二人が恐れをなすほどの威力だったってことだ。相当ヤバい一撃だったのだろう。
でも私の推測が正しければ、次の一撃は威力が弱まるはずだ。
「おやおや、これでは先ほどと変わらないどころか劣っているではありませんかな?」
「《フリージングシェイド》!」
「!」
余裕ぶっていたシエルは突如足元から突き出してきた巨大な氷の柱に不意を突かれるもなんとか回避した。さすがというべきか。だが本命はそちらではない。
「《ライトニング》!!」
突然の回避行動に体勢を崩すシエルに追い討ちをかける。この魔術は屈指の速度を持っているにも関わらず、シエルはその崩れた体勢で私の魔術を剣で受け止めた。
「ぐぉぉ...!《黒炎斬》!!」
基本的に高威力の魔術は魔力を持たない人間には相殺することは愚か受け止めることすらできない。あくまで魔力を持たないシエルは例の魔術を使って相殺する決断に至ったようだ。
...が、相殺されるかと思った私の魔術は完全に相殺されることはなく、シエルの魔術に方向を変えられ空間の壁に直撃して爆発した。
同時に、奴の剣の色が再び薄くなるのも確認した。
私の推理は正しかったようだ。
「なるほどな」
「え? は? 何が!?」
どうやらロキさんは全てを理解したようだ。が、アッシュさんはやはりというか、いまいちピンときていないようだ。調子が戻ってきたようなので良しとしたい。
流れが変わった。
「見破られてしまいましたか」
シエルが苦笑いを浮かべながら呟く。だがやはりこの戦闘を楽しんでいるように見える。
「この手品を見破ったのはこれで三組目。お見事」
「随分と楽しそうじゃねぇの」
「わかりますか。今度はこちらから行きますぞ」
「ッ!!」
シエルがついに仕掛けてきた。魔剣抜きでも奴は強すぎる。ここからが本当の勝負どころだ。
二対一という圧倒的不利な状況にもかかわらず、シエルは「いい勝負」どころか有利とまで言わせるほどの立ち回りを見せていた。そしてやつの顔には笑みが浮かんでいた。
「はっはぁ!!楽しいですなあ!!」
「狂いやがったぞこいつ!!」
「いや!多分これがやつの素だろ!!」
奴の猛攻をなんとか防ぎつつ、二人は率直な感想を叫びあっていた。剣のぶつかり合う音が一切の間を開けずに空間に響く。どうすればこの状況から二人を助けることができるだろうか。今私が考えるべきことはそれだけだ。
無難に魔術を打ち続けるのでもいいのだが、そうすると二人を巻き込んでしまう恐れが非常に高い。それでは元も子もない。
いや、多分私は二人を甘くみすぎている。私がすべきは「助ける」ことではなく「援護する」ことに違いない。二人に攻撃出来るチャンスを与え、尚且つシエルに反撃の隙を与えないような戦法を考えなければならない。
細かい魔術が必要になるな。
「《イルブリザード》...」
二人の周りに氷に刃を空中且無数に生成する。かなりの集中力が必要になるがこれを奴に打ち込めば隙が生まれるかもしれない。
シエルに警戒されているが当然想定済みだ。
シエルがアッシュさんとの鍔迫り合いいになった頃、私は刃を動かし出す。
シエルの右右側から一本刃を打ち込む。それはあっさり薙ぎ払われてしまう。
「ふ、この程度.........!?」
シエルの動きが一瞬止まった......?
私の魔術に気を引いたシエルに、目の前で自由となったアッシュさんが隙をついて腹部を突き刺した。アッシュさんが剣を抜くとシエルはその場で膝をつき、剣を床に突き刺して腹部を抑えた。
所詮は人間というか、どうやら痛みは感じるようで。
「ふ...フフ...。これだから戦いはやめられない...」
「残念だが、それもここで終わりだ」
「そのようですな...私の人生、悪くはなかったですぞ」
「.......そりゃよかったな」
その一言を最後に、シエルは俯いて動かなくなった。
魔力を宿した金属、確か名前は魔鉄ガイムといったか。ガイムを使って作られた武器は、使用者の肉体を蝕み生命力を奪うと聞いた。動きが止まったのは恐らく末期症状だろう。そうまでしてシエルが組織に従っていた理由がわからない。何か特別な思いがあったのだろうか。
「中々強かったな。......アッシュ?」
「.........悪い、なんでもねぇ」
アッシュさんも何か思うところがあったようで、しばらくシエルの亡骸を見ていた。しかし一度目を閉じた後、気持ちを切り替えたのかすぐにいつもの顔に戻っていた。
「またフィオラに助けられたな」
「いえ、多分今回は運が味方したんだと思います」
「謙遜しなくていいんだよフィオラちゃん。運も実力のうち、ってね」
「...ふふっ、そうかもですね」
私たちは再び階段を登り始めた。
投稿がかなり遅れていまいました。すみませんでした。




