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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第一章 時計台の街「シンテイム」
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現実と夢

 どれくらい歩いただろうか。


私は今、森の中をさまよっている。


今さらになって、体のあちこちが痛む。


お腹もすいてきた。


目がかすむ。


裸足のせいで足に石が刺さる。


痛い、怖い、苦しい。

外に出てまでもこんな思いをしなければいけないのか。


....結局、どこも変わらないんだな。


結局、私はこういう運命なんだな。


ふらふらと歩いていると、私は大きめの石に躓き転んだ。


地面に倒れる。


....もう、起き上がることもできない。


.....このまま、死ぬのかな。


せめてあの生き地獄から出られただけでいいんだ。


僅かでも、外の世界が見られただけでも私は満足なのだ。


心残りがあるとすれば、私をこの世に産んでくれたお母さんとお父さんに会えなかったこと。顔も名前もわからないけど、会いたかったな。


でももう、十分頑張ったよね。


ちょっとだけ休んでもいいよね。


ねぇ、お母さん。お父さん。



「おい!! 女の子が倒れてるぞ!! こっちだ!!」


誰?もういいよ、疲れたよ。


「酷い怪我だ。まってろ、今助けてやるからな!!」


助ける? なんでこんな私を助けるの?


「おい、しっかりしろ!! おい!!」


疲れたって、言ってるのに.....


なんで.......


「しっ....ろ!! ぉぃ...」


どう....し....て........



―――――――――――――――




....あれ


わたし、生き...てる?


ここ、どこ?


ふかふかしてる....


気持ちいいなぁ....


「お、目が覚めたか!!」


誰?


「おいお前ら、目が覚めたみたいだ!!」


誰なの?


「よかったぁ....」


「はやく飲み物と食べ物を持ってきてくれ!! あと熱もあるみたいだから氷嚢と濡らしたタオルも忘れんな!!」


たべもの?やだよ、かびたパンなんて食べたくない。泥水なんて持ってこないでよ。


逃げよう、生き地獄が始まる前に。


「っ...。 ううっ!!」


「駄目だ、まだ寝ていろ!!」


起き上がろうとすると全身に強烈な痛みが走る。とてもではないが動けない。


「いやだ....。いやだぁぁ.....」


「お、おい落ち着け。俺たちはお前に何もしない!!」


そんなの、嘘に決まってる。


また働かされるんだ、死ぬまで。


「食べ物と飲み物、持ってきたぞ!!」


「氷とタオルも!!」


「よし、タオルを額のあたりにのせて、その上に氷嚢を置くんだ」


「わかった!!」


額に冷たい物が乗せられる。


なんだろう、これ。とても気持ちいい....


「料理はこの机に置いといてくれ」


「了解した」


コトン、と何かが置かれる音がする。


なんだろう、このにおい。かびたパンじゃない。とっても美味しそうなにおいがする......


「...この子、俺らを怖がっているみたいなんだ。しばらく別の部屋に移動しよう」


「うん」


「わかった」


男たちが部屋を出ていく音が聞こえる。


なんだか、とてもねむい。


ちょっとだけ、寝ようかな。


寝たら、痛みも落ち着くかな。


ちょっとだけ....



―――――――――――――――――――




ん.....?


寝てたんだっけ。


なんだかいいにおいがする。


お腹すいたなぁ....


あれ、体がちょっとしか痛まない。


起き上がれるかな。


「っ....」


起き上がれた。すると額から氷嚢とタオルが落ちた。どうやらベットで寝ていたようだ。

そういえば、机に食べ物を置いておくって言ってたかな。

えっと、机って言うのは......?


「っ!?」


その机にはかびたパンや泥水などなく、きれいなパンとシチューと透き通った透明な水がお盆の上に置いてあった。


 私は目を疑った。

こんなきれいで実に美味しそうな食べ物がこの世にあるはずがない。

これは夢だ。

きっとそうだ、夢なんだ。

夢ならば、この食べ物たちに味などないはずだ。


私は恐る恐るパンをかじった。


「.....っ!?」


 そのパンには味があった。かびたパンなんてものとは比べ物にならないくらい美味しかった。

 ......かびてないパンが食べられるなんて。

そう思うと、私の目から枯れた筈の涙が零れ落ちてきた。


 なら、この白いシチューはどんな味がするのだろう。

お盆に置いてあったスプーンを手に持ち、シチューをすくって口に運んだ。


「....ぅぅう」


 言葉では表せないほどの美味しさに、泣かずにはいられなかった。

生まれて初めて食べたシチューの味。


.....そうか、これは夢じゃないんだ。


そう思えた時にはもう、私の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。



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