強者の余裕
「筋肉の次は老体かよ」
「筋肉...ルーザス殿のことですかな?」
アッシュさんが呆れた様子で言葉を吐く。筋肉という例えに、シエルという名の老人はルーザスということを察したようだ。
「俺らそこ通りてぇんだ。早くどけ」
「フ。血の気が多くて結構」
ルーザス同様、ここの幹部たちは皆話が早くて助かる。私たちが剣を抜くと、シエルもそれに合わせて剣を抜く。シエルの剣は文字通り「黒」に包まれていた。柄の部分から剣先までくすみのない黒一色。見惚れてしまうほどだった。
「いくぞッ!!」
いつも通りアッシュさんが特攻する。ロキさんもそれに続く。暫く二対一の、一見するとシエルの不利な戦況が繰り広げられる。が、二人の猛攻をかわしているシエルの動きと表情を見る限り、ふりかかる二本の剣の動きが完全に読めているように見え、余裕そのものといった素振りだった。
このままではきりがないことを悟った二人は一旦距離を置く。
「ほっほっ。なかなかやりますな」
「...どの口がいいやがる。ったく」
アッシュさんが呆れ混じりに言葉を吐く。その声色には焦りも感じられた。それも仕方ない。決して二人の連携を避けきるのは容易ではないはずだ。だが奴はそれをやってのけた上に、あろうことか笑みを浮かべている。
反射神経が並外れか、動体視力が常人以上か、その両方か。
どちらにしろ、何か目視不可能な攻撃ができれば戦況は変わるだろう。
今の私には膨大な魔力と多彩な魔術、短剣が一本、そしてドーピングによって強化された身体能力だ。どうにかして出来ないこともなさそうだが、今一私の思考レベルが乏しい為にいい作戦が浮かんでこない。今回ばかりはルーザスの時のような力技は成功しないだろうしな。
「次は私から行きましょうかね」
と呟いたシエルは剣を振りかぶった。何か剣での行動を起こすには私たちまでの距離が通るぎる。剣一本で衝撃波という特殊すぎる飛び道具が生み出せるとは思えない。あるいは......まさか!
「アッシュさん危ない!!」
「何!?」
「《黒炎斬》!」
シエルの詠唱と共に振り払われた剣から、黒い火柱がとてつもない速さでアッシュさん目掛けて地を這うように迫り来る。
間に合え
間に合え!
間に合え!!
「《フォトンズレイ》!!」
シエルの生み出した漆黒の火柱がアッシュさんの目の前に到達した時、私の打った何本もの光線が火柱に衝突する。双方の技はアッシュさんの前で強烈な爆発を生み出し、跡形もなく消え去った。当のアッシュさんは何が起きたのか理解しきれていないようで、呆然と口を開けたまま立ち尽くしている。
「...爺さん、魔力持ちなのか」
事を終始見ていたロキさんが驚愕の声を上げる。
先ほどの黒い火柱は恐らく、いや確かに魔術だった。しかも常識を超えた威力を魅せられたこの状況で、あの老体にかつてない程の魔力量が宿っていると見て間違いない。私と互角か、それ以上。彼の魔術を止めた私の攻撃は、持てる力の九割を出したと言っても過言ではない。それでやっと打ち消せたということは、
シエルが全力の魔術を発動した時、私の魔術では、他人どころか自分の身さえ守れないということだ。
あくまで先程の魔術が彼の九割でなければ、の話だが。
「今のを打ち消してしまうとは...そちらのお嬢さんは相当な魔力の持ち主と見ましたぞ」
「あんたこそ」と思ったが、シエルが私に警戒し出したことに気づき、私の心は更に焦る一方だった。
「おやおや、先程までの威勢はどうされましたかな?」
「...あんなの魅せられてまだ無闇に戦える方がおかしいだろ」
状況を把握できたアッシュさんが口を開く。さすがのアッシュさんも苦しい状況の中では特攻する気になれないようだ。
攻撃担当の二人が攻撃することを躊躇っている。これでは状況を変えることはできない。
何か...何か、奴の弱点があるはずだ。例え完璧でも、その完璧を崩す何かが絶対にあるはずだ。
私は諦めない。
こんな忌まわしき場所で死んでたまるか。
あんな年寄りに屈してたまるか。
負けない。倒す!
ーーーふと、奴の剣に目がいく。なぜあの剣は黒いのか、とても引っかかる。暫く見つめていると、剣の異変に気づく。最初に見た剣の、あの漆黒に吸い込まれるような感覚。でも今はそんな感覚はない。今も尚黒いのだが、先程に比べてくすんでいるというか。なんとも形容しがたいのだが確かに何か違うのはわかる。私の第六感がそう言っている。
剣の色が薄なったきっかけといえばあの魔術を詠唱した時くらいか。それ以外で奴がやっていることは人間の動きそのものだ。
ということは、魔術を使うと剣の色が薄くなるということか。でもなぜ...
そういえば、魔力を封じ込めた金属がこの世にはあるとヒスイさんから聞いたことがあった。その金属を使って作られたのがあの剣なら全てか繋がる。
攻略の余地が見えた!
「アッシュさん、ロキさん。私に案があります」
私の言葉を聞いた二人は驚き、何かを考える素振りを見せた後、作戦の内容をまだ伝えていないのにも関わらず決意を表した様子でこういった。
「まさか、二度もフィオラに助けられるとは思いもしなかったぜ」
「フィオラが考えた作戦なら、実行しないわけにはいかないな」
その二人の言葉に、私の口元は思わず緩んでしまった。詳しく内容を説明するのはとても面倒なので、言葉を駆使して最大限短くした文章を二人に伝える。
「二人はとりあえず、今まで通り攻撃を続けてください」
「あ? それでいいのか?」
「はい。それに私が後方から戦闘に加わります。二人は私の魔術と敵の魔術に気をつけてください」
「分かった」
短い作戦会議は終了した。私たちは再びシエルに向き直った。奴はご丁寧に此方の作戦会議が終わるまで待っていてくれたようだ。その行動に不覚にも私は腹を立ててしまった。
「会議は終わりましたかな?」
そんな余裕綽々な彼に向かって、私はいろんな感情を乗せた言葉を放つ。
「親切に待ってくれたのはありがたいですけど、それが運の尽きでしたね」
投稿が遅れてしまいましてすみませんんでした。
気付けば1話を投稿してからはや一年が経っていました。一年で完結させるという目標は何処へやら。
それでも気長にまったり投稿していくので、よければあともう少しお付き合いしていただくと嬉しいです。




