その少女、憎悪に屈せず
投稿が遅れてしまい本当に申し訳ないです
地面に描かれた魔法陣は急激に強い光を発し、地面から足が離れる感覚が伝わった。転移が始まった。
...これでいいのだ。姉とはまたいつかきっと会える。
今すべきなのは、自分自身で見つけた居場所に帰ること。家族よりも信頼できる三人の元へ帰ること。
足が地についた感覚がして、両目を開く準備をする。きっと目を開けば見慣れたシンテイムの街門が私を待っているはずだ。そしてシンテイムの活気が、私を「おかえり」と言ってくれるだろう。
私は目を開いた。
「...ぁ...れ?」
「なに...これ」
目を疑った。私の目の前にあったのは瓦礫の山だった。私はフィリルに「一体どこに連れきているのだ。さっさとシンテイムに返せ」と言ってやろうと思い、視線を瓦礫から離した。
直後、私は目を疑うことになった。
瓦礫より少し手前のところに石でできた看板を見つけた。それには見覚えがあった。もはやそれ以前の問題だった。
その看板も何者かによって壊されていたが、看板に書かれていた「シンテイム」の文字はなんとなく読み取ることができた。
「ちょ、フィオラ!?」
私はここがシンテイムだと分かった途端居ても立ってもいられなくなり、ミラさんの家へと今までにないスピードで走り出した。
――――――――――――
「っはぁ...はぁ...」
瓦礫のの山と化したシンテイムは、もはやこの世の終わりのような暗く嫌な空気が立ち込めていた。走っている中、私はすでに泣き出しそうだった。それでも私の中にある僅かな希望、ミラさんの家がまだ原型を留めているかもしれないことを思うと、涙など流している場合ではないと自分を強く持つことができた。
だが、それも長くはもたなかった。
「うそ、だ..ぁ...ッ」
ミラさんの家があった場所には、周りと同じく瓦礫がつみあがっていた。その瓦礫の隙間からは、見覚えのあるティーカップや椅子、テーブルなどが粉々になって埋もれているのが確認できた。
これだけでも十分ミラさんの家だったことが確認できたが、決定的な人物がそこに、力なく座り込んでいた。
「...フィオラ、ちゃん?」
「リオさん!!」
リオさんは確か私たちがレイネシオに向かうと同時に実家へ帰っていたはずだ。無事ってことは、私と同じく街が崩壊した後にここへ帰ってきたのだろう。
リオさんの言葉には力がなく、彼女の目はまるで魂が抜けたかのような、もはや人形みたいだった。特に涙の跡がはっきりと顔に残っていた。
「なにが、あったんですか?」
「わかんない...」
「ミラさんは?」
「...わかんないよぉ!!」
リオさんは泣き出した。それはここに来たばかりの私を見ているようにも見えた。何もできず、ただ泣くことしかできなかった頃の私に。だがたった今の私も同じ状況にある。
私の心には、次第に憎しみが積もっていった。
「...フィオラちゃん、お姉ちゃんを、探してきてくれる?」
「...そのつもりです」
「お願いね...私はここにいるから」
ここより安全な場所へ、と思ったが、今リオさんに歩けるほどの気力などないうえ、私には肩を貸すこともできない。結局ここにいてもらうしかないのだ。
私は悔しさと憎しみを抱きつつも、荒廃した街で人探しとすることにした。
誰でもいい、ヒスイさんでも、ゼリオさんでも。
―――――――――――――
街は地獄のようだった。瓦礫に埋まってしまった人、重傷を負ってしまった人、絶望に正気を吸われてしまった人。それぞれの憎悪が街そのものの空気を悪くしているようだった。
私は大勢の人が集まっている場所見つけた。集まっている人は皆、ひどく泣き叫んでいた。
そこには、待のシンボルであった時計台が、見るも無残な瓦礫という姿になって重なっていた。
それを目の当たりにした私はすでに放心状態に近かった。泣くこともできず、悔やむことも出来ず。私は歩く屍の如くその場を後にした。
――――――――――――
どのくらい歩いただろうか。私は当てもなく、また力なく歩いていた。
見覚えのある後姿の男性が、両手まで地面について座り込んでいた。
「...ゼリオさん」
「フィオラちゃんか!?」
ゼリオさんは目を丸くして私のほうを勢いよく振り向いた。思わず全身で驚いてしまった。
「エールレイユに捕まっちまったんじゃなかったのか!?」
「え...?」
「ロキたちが言ってたぞ、フィオラちゃんを助けに行くって」
「三人は無事なんですね!?」
「あ、ああ。だがあいつら、シンテイムがこうなっちまった理由を聞いたら鬼みてぇな顔して出て行っちまったよ。エールレイユを潰しに行くって」
私の憎しみは爆発した。
「シンテイムにこんなひどいことをしたのはエールレイユなんですね?」
「ああそうさ。おかげで時計台も俺の店も何もかもぶっ壊れちまった。店と一緒に死のうと思ってたのに、俺だけが生き残っちまったぜ。ったく」
「三人が出ていったのはいつごろですか?」
「半日前ぐらいだ。...おいまさか」
「はい、三人を追いかけます。私はもう我慢できません」
「......そうかよ。俺の分も頼んだぜ」
「百倍にして返してきます」
「はは、頼もしいな。ならこれをもってけ、飲むと全細胞が活性化して効果が切れるまでの間永遠に走り続けることができるぜ」
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」
「いってこい」
私はようやく奴隷時代の何もかもを思い出せたような気がする。出来事からその時の気持ちまで、すべてが手に取るように思い出せる。それに便乗するかのように街の人々の憎しみが私の心を締め付けた。
何もかもがもう限界なのだ。自分を抑えることも、エールレイユから逃げることも。
私は街の外へ向かって走り出した。
―――――――――
「フィオラ!!」
街の外へ出ていった瞬間、フィリルに呼び止められた。
「もうどこ行っちゃったのかと思ったよ、おかげで探しちゃったじゃないの」
「...エールレイユを潰しに行きます」
「え..?あ、じゃあ...」
「転移はいりませんから。走っていきます。でないと三人にえませんから」
私は自分の姉ですら力を借りる筋合いはなかった。エールレイユの人間というのもあるが、今は本当に信頼している人の力だけしか借りたくなかった。
「三人って!?あ、ちょっとフィオラってば!!」
遠くなるフィリルの声などもはや知ったことではない。今は一刻も早く三人に会う必要があった。会って私の無事を知らせ、共に憎きエールレイユを終わらせに行くのだ。




