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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
最終章 その手で掴み取る
23/39

過去の記憶と家族と組織

投稿が遅れました。申し訳ないです。

ん...?


ここは?


目が開かないな、麻酔のせいだろうか。もしくは長い間眠っていたせいか。


暖かいな。ベットで寝ているようだ。


確か三人に命を救われた時もこんな感じだったな。


...体が動きそうだ。


意地でも起き上がってやる。


「...ッ!!」


起き上がった。だったら瞼も開いてくれるはずだ。


私の目も仕事をするのは久しぶりだろうから、ゆっくり、光に慣らすように瞼を開けようか。



「...んぁあ」


ずいぶん長い間眠っていたのだな私は。おかげで過去最大級のあくびが出てきてしまった。誰もいないからよしとしよう。


ここは...部屋、か。少なくとも私の知らない場所なのは確かだな。やはりベットで寝ていたようだ。


何者かの足音が聞こえてきた。それは次第に近づいてきているように聞こえる。それが近づいてくるにつれて、私の心拍数も上昇していった。


そしてドアノブをひねる音が聞こえ、部屋と廊下を塞いでいた扉は放たれた。


同時に入ってきたのは、私に麻酔を打った張本人であるフィリルだった。


「フィオラ...?」


フィリルは相変わらずフードを深くかぶっていた。それでも、麻酔を打たれた時と様子が違うことがなんとなく感じじとれた。恐る恐るといった感じでフィリルは私の名前を呼んだ。


「...まずは謝らせて。ごめん。あんな強引な方法であなたを連れ戻しちゃって」


フィリルは深々と頭を下げた。かくいう私は、いまいち何が起きているのかわからないままでいた。私に注射器を何のためらいもなく突き刺した人物が、今度は本心で誤っている。何がどうなればこんな意味不明な展開になるのだろうか。もしくは寝起きの脳がついて行けてないのか。


「許してくれとは言わないわ。そしてもう一つあなたに言いたいことがあるの」


フィリルは自らのフードを外した。


「!?」


私はただ驚いた。なにせあまりにもフィリルが私に似ていたからだ。


同時に、曖昧になっていた夢での記憶が鮮明に蘇った。そして夢に出てきた自らを「神だった」と紹介した女がいったセリフも思い出した。


『目が覚めたらお姉さんに会えると思うよ』


「お...ねえ...さん...?」


「そう。私はフィリル・サンサウレ。あなたの姉よ」


この時すでに私は何も信じられなくなっていた。私が奴隷時代からずっと会いたかった家族が目の前にいる。だがその家族に私は強烈な麻酔を打たれ、私のようやく見つけた居場所から突き落とされたのだ。


単純に喜べばいいのか、それともそんなのはうそだと、自分の「優しい家族」という理想を願い続ければいいのか。


頭が真っ白になった私は、口も開けず、ただ目の前の現実とどう向き合っていいのかわからずにいた。


...とっさに私はあることを思いついた。


「...もし」


「?」


「もしあなたが私の本当の姉だというのなら、私をもとの居場所へ帰してください」


本当の姉なら、私のことを第一に考えてくれる姉ならば、私のせいで世界が終わるようなことでもない限りこの提案には首を縦に振ってくれるだろう。


「...」


フィリルは意表を突かれて戸惑っていた。おそらく彼女には、私がもっと精神年齢の小さな子供に見えたのだろう。たとえ姉だったとしても、十何年も会っていないし口もきいていないのだ。わかるはずがない。


「...あなたの言いたいことはよくわかるわ。でも答えを言う前に少しだけ私に時間をくれないかしら。話をさせてほしいの」


ここで首を横に振っても、私は現在地を知らない。シンテイムへの帰り道もわからない。結構私は無力なのだ。


「...わかりました」


「ありがとう。まず私があなたをこんなところに連れてきた理由から話しましょうか」


フィリルはこの部屋にある椅子に腰をおろして話し出した。


「あなたならもうわかると思うけど、さっきのあなたの提案に対して私が首を縦に振ったら、そもそもあなたに注射針まで刺して連れてきた意味があると思う?」


「...いえ」


「私はあなたの手を借りたいの。家族として、家族を止めるために」


「家族を...止める?」


私とフィリル以外の家族、それは父か母、あるいは別の兄弟か姉妹しかない。そのいずれかが悪事を働いているのだろうか。


「あなたには更に信じられないことをこれから言うわ。気をしっかり持ってね」


「...はい」


「あなたに散々酷いことをしてきたあの大男に私が言った言葉、覚えてる?その言葉の中に、皇帝っていったでしょ」


「はい...?」


「...それが私たちのお父さんなの」


「...」


もう私は現実なんて見ていなかった。私にとっての地獄を作ったのが私の父?そんなことがあるものか。じゃあ私の本当の居場所はあの地獄...?


「...フィオラ」


「...!」


気が付けば私は泣いていて、フィリルに抱きしめられていた。


この時感じた暖かさを私は知っていた。頭ではなく体が覚えているのだと思う。まだ奴隷になる前、私は一回姉に抱かれたことがあるのだろう。


その暖かさはミラさんとは違う、どこか懐かしい匂いを感じた。それはまるで姉との思い出を連想させるようだった。


人間は物心がついていないころの記憶も思い出せることが希にあるらしい。私はそれをまさに今体験しているのかもしれない。


「..おねぇ、さん?」


「...うん、そうだよ。大きくなったね」


「うん...うん!!」


私は生まれたばかりの赤子のようにただ泣いた。こんなことも昔にあったような気がする。私はこの時初めて、家族という存在に気付けたのかもしれない。



――――――――――




「落ち着いた?」


「...はい、だいぶ。すみませんでした」


「いいのいいの。久しぶりに妹を抱けて私も幸せだったから」


泣き止んだ私は、しゃくりあげるのが収まるまで姉に抱きついたままだった。私の中には、懐かしさとまだフィリルを信じきれていない本心もあった。が、フィリルが時々見せる笑みはどこかミラさんのものに似たところがあるのに気づけてからは、体が自然と産んだ警戒心もだんだんと解かれていくのが感じ取れた。それでも信じきるのにはまだ早いと私の何かが強く叫んでいるようだった。


「じゃあ話を続けようかな」


フィリルも私の怯え具合がだいぶ収まったことに安心しているようだった。部屋に入ってきた直後と比べ、口調や話し方が随分柔らかくなった気がする。フィリルはベットに腰を下ろして話し始めた。


「要するに私は私のお父さんを止めたいの。エールレイユなんか組織をなかったことにしたいの」


「...」


奴隷だった私から言うに、あの組織をなかったことにするのは完全に不可能だ。人々からすれば「奴隷なんて存在を作る最悪な組織」だ。また奴隷からしても「皆殺しにしてやりたいほど憎たらしい組織」だ。そんな目で見られている組織が「なかったこと」ですむはずがない。私は正直反応に困っていた。


「...わかってる。あんな存在がなかったことにできるわけない。でもせめて、これ以上の罪をあの人に背負わせたくないから」


「...お父さんは、なんでこんなことをし出したんですか?」


なぜ私のような奴隷を何人も過労で殺し、そして新しい人間を捕まえてはそれの繰り返しをしているのだろうか。そしてフィリルはなぜ今更それを一人で止めようと考えたのか。私が言えたことではないが、家族ならこうなる前に阻止できなかったものかと思ってしまう。ひどく残酷な悪事を働いている父親を、なかったことにするなんてあまりにも無責任すぎるのではないのか。


「詳しくはわからないの。でも...」


フィリルは何かを言いかけた。だがそれを言うまいかためらった末、結局いい出せずに露骨にもごまかし出した。


「わからないの。ごめんね」


「...いえ。それで私に協力してほしい、と?」


「そう。でもその前に聞きたいことがあるの」


「?」


「あなたはあの組織に、自分の父親に復讐したいと思ってる?」


「...」


私はまた悩んだ。奴隷時代の私であれば迷わず当たり前だというだろうが、解放されてからあまりにも平凡な生活を送っていたためか、あの場所で感じた屈辱が薄れてしまっていたようだ。私は首を縦に降ることができなかった。


「いまは、そうでもないです」


「そう」


フィリルは軽く息を吐いた。それは多分、私にはっきりとした復讐心がないために、私を軽く連れてくることができなくなったからだろう。父親を止めに行くということは、つまり組織そのものと戦いに行くということだろう。私だって死にたくない。せっかく三人に助けてもらった命なのだ、大事に使いたい。


「...いま私がシンテイムに帰りたいって言ったら、返してくれますか?」


私は三人のことがとても気になっていた。別れ際に、元は大男だった魔物と戦おうとしていた記憶がある。三人のことだから無事に決まっているが、心配というか、三人が無事だということをこの目で確認しないと安心できなそうだった。


「うーん...。それでフィオラの人生が良い方向に向かってくれるのならいいんだけどね...。」


姉として、妹と離れたくないのはわかる。私だってやっと会えた姉ともっと色々な話をしたいものだ。だがそれよりも大切なことが私にはあるのだ。私の命の恩人の安否を確認しなければ気が済まない。


「まぁ、フィオラがそうしたいのなら、...しょうがないか」


夢で教えてもらった通り、私の姉は妹には優しいようだ。これでやっと三人に会えそうだ。


「自分の決断に後悔しないでよ?私はあなたに後悔をして欲しくないから。こんなこと言ったけど、私も戦う気のない妹を無理やり戦わせたくないからね」


「ありがとうございます!」


「こっちの方で組織を極力フィオラと関わらせないように頑張ってみるけど、組織の人間を見たらすぐ逃げてね。わかった?」


「わかりました」


「じゃあ靴履いて」


「はい」


「...また、会えるかな」


フィリルは随分寂しそうだった。私だって辛い、もしかしたら会うのはこれが最初で最後なのかもしれない。そんなことを考えるとどうしてもフィリルの目を見ることができない。でも、それでも私にはどうしてもやりたいこと、もはややらなければいけないことがあるのだ。こんなところで立ち止まってなどいられない。


「会えますよ。絶対に」


「そう、だよね」


「あ、ちなみに私が眠ってから何時間経ちました?」


「えっと、3日、かな」


「ありがとうございます」


「じゃあ、行くよ」


そして私は二度目の転移魔術を体感しようとしていた。早く三人に会いたい。私はもはやそれしか考えていなかった。同時刻に、シンテイムや三人がどうなっているのかも知らずに。

繰り返し、投稿が遅れてしまい申し訳ないです。


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