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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第二章 挑戦と上達の街≪レイネシオ≫
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地獄へ誘う悪魔、引き出された記憶

ファーマー家にお邪魔になった挙句、美味しくもあり満腹感もあるお菓子をご馳走になった私たちは、もうすぐ日が沈むという時間に差し掛かった頃カールさんに帰るということをつげた。そして玄関で別れの挨拶となった。


「色々とありがとうございました。お菓子美味しかったです」


「礼を言いたいのはこちらの方ですよ。今回は本当にありがとうございました」


ミラさんとカールさんはお互いに感謝の言葉を言い合った。言った方も言われた方も嬉しい気分になる。それはとても素敵なことだと私は感じる。



カールさんと別れ、私たちはレイネシオの街門へと向かっていた。この街から出ていくために。


昼過ぎと言うには若干遅く、夕方という言うにはまだ早い。街を駆け回る子供達はまだ各自の家に帰る様子もなく、武器屋や果物屋やなど、店が閉じられる様子もない。街の人々は、今日というこの日を精一杯生き抜くことに飽きていないようだった。


「もう心残りない?フィオラちゃん」


街門付近に到着したあたりでミラさんが口を開いた。その質問には困った。無いと言い切ってしまえば嘘になる、だがそれが頭の中で明確になっていないのだ。


迷ったが、明確になっていないのに「まだある」なんて言える立場ではないことに気がついた。


「ない...です」



「...まぁレイネシオに来るのはそんなに難しくないから、やり残したことがはっきりしたらまた来よう、ね?」


「そん時は俺が連れてってやるよ」


「...はい!」


アッシュさんの言葉がすごく頼もしく思えた。また今度、というのは私的には少し気に食わないのだが、今回は良しとしよう。


私たちはレイネシオを後にした。日が落ちる、その前に。



ーーーーーーーーー




「今どの辺だ?」


レイネシオを出発してから結構経つ。来た時の感覚からすればちょうど中間地点だろうか。まぁアッシュさんがそういう面で疎いことはすでに知っている。


「あー...多分半分過ぎたぐらいだろうな」


ロキさんが答えた。が、当人も定かではないようなニュアンスだった。それもそのはずだ。ここには現在地を知らせる看板など一切ない。その上目立つものもこれといってない。この状況で現在地がはっきりと断言できるのなら、それは超能力か単に記憶力に長けているのか、あるいはただの見栄っ張りか出しゃばりだ。


「そのくらいかぁ。まだまだありそうだなぁ」


なんだかんだアッシュさんも疲れているのか、珍しくもない弱音を吐いた。いつものロキさんならここで「アッシュ、お前は...」から軽い説教を始め、ミラさんはアッシュさんに呆れ、私は苦笑いを浮かべる。この一連の流れはすでに私の中では定番となっていた。だが今日のたった今は全く違う展開へと転がりだしたのだ。


「そうだな、今日はお前の弱音もわからなくはないな」


と、ロキさんが苦笑いを浮かべ、


「うん、正直私も疲れてる...かも」


と、ミラさんも軽くため息を吐きながらそんなことを言う。


私も内心歩くのが精一杯というところまで来ていた。精神的疲労はレイネシオを出発した時から感じていたが、長らく歩いていたために肉体的疲労まで感じていた。


私だけはいつも通り苦笑いを浮かべていた。が、そこにはいつもと違う意味が隠されていた。


「なんにせよ、これで歩くのは最後だから頑張ろうぜ」


「はい!」


「ん」


「ああ」


私が三人に拾われてからというもの、アッシュさんが仕切ろうとすればミラさんが反発し、その逆もしかりでなかなか全員が同じ気持ちになるということはなかった。それでもなんだかんだで仲がいいのだ。私は三人のこういうところを見た時が一番幸せだと感じるのかもしれない。きっと今の私は笑顔だ。


疲れが溜まっている中でも、三人と一緒にもう少し頑張ってみようと思った。



そんなときだった。



「よぅ。久しぶりだなガキィ。こんなところにいたのかよォ」


何の前触れもなく、いるはずのない5人目の声が、誰もいないはずの背後から聞こえた。それ自体に私は驚いたのだが、その不気味に笑っているかのような声に聞き覚えがある自分に驚いた上に、声の主に見当がついたと同時に背筋が凍る思いをしていた。


できることなら振り向きたくはない。だがもしも別人なら、という可能性に賭けた。賭けるしかなかった。



...案の定、というべきか。


私の背後に立ってきたのは、私が今よりもさらに幼い頃からずっと目に焼き付いていた、そして私はその人物を恐れていた。


名前も知らない。


ただ知っているのは、その人物がエールレイユという軍の人間だということだけだ。


そう、私を殴り、貶し続けてきたあの大男が立っていたのだ。


「俺のこと覚えてるよなァ」


「...ぁ...ぁぁ」


知らない、覚えてない、そうはっきり言ってやりたかった。


でも出来なかった。私の手は震え、足は竦み、目は目の前の事実を受け入れまいと焦点を定めようとしなかった。私はこの状況を怖いとしか思っていなかった。


「さァ、帰ろうぜェ?お前の帰るところは地下の牢屋しかねぇんだからよォ。ハ、ハハハッ、ヒャッハッハハッハッハッハ!!」


私のことを久しぶりに貶したことで快感を得たのか、大男は狂ったように笑い出した。私にとってその笑い声は地獄へと誘う悪魔そのものだった。よく見ると奥に軍の馬車が見えた。


怖い、嫌だ、もう二度と奴隷などするものか。


動け私の体!!今動けば奴隷に戻らなくて済む!もしかしたらコイツも殺すことができるかもしれないのだから!


そんな心の叫びも意味を持つことができず、体は震える一方だった。



今にも泣きだしそうだった私の視界は突如として奪われた。視界を奪ったものが人影だと気が付いた時、私の耳に飛び込んできたのはアッシュさんの声だった。


「うちのフィオラになんか用かよ、オッサン」


アッシュさんの声は低く冷たく、何かを見下しているかのようだった。


「ハッ?あァ?なんだよテメェ、そんなクズを庇ってんのかよんん?いいか?クズっていうのはただのクズのままだとかわいそうだろ?だから使ってやるんだよ。そしたら働くクズになんだろうが。ま、クズには変わりないけどな。ハァッ!!」


大男は再び不気味に笑い出した。先頬よりも大きく、随分楽しそうに。


私は耳を塞ぎたかった。それでも微かに、アッシュさんが強く歯を噛みしめている音が聞こえて来るのだ。アッシュさんは手も強く握りしめていた。まるで何かを我慢しているかのように。


その我慢はほんの一瞬で限界を迎えたようだった。


アッシュさんは強く前へ歩き出し、その勢いで大男を殴り飛ばした。


殴り飛ばされた大男は少しの間倒れたまま動こうとせず、起き上がる最中も笑っていた。私から見ればもはや人間とは思えない。


完全に大男が起き上がった頃、今度はロキさんの尖った声が消えてきた。


「随分と立派な馬車に乗ってきたみたいだが、その馬には足音というものがないのか?」


私が何故あんなにも驚いたかって、元々私の後ろから気配は愚か足音すら聞こえなかったからだ。あたかも私の後ろに飛んできたかのように。


ロキさんの問いかけに、大男はさぞかし愉快に笑い、ようやく言葉を発した。


「特別に答えてやるよ。うちの組織には元々とんでもねぇ魔術師さんがいてよォ、そのお方の転移魔術と装置を借りたってわけだ。ただ帰りは本人しか転移できなくあるから歩かなきゃいけねぇ。だからこうやってこうやって馬車まで転移してもらったってわけ。いやーすゲェよなァ」


そんな魔術私は聞いたことがなかった。物体を瞬間的に移動させることができる魔術など、少なくとも図書館の本の中には記されていなかったように記憶している。


「そんな魔術聞いたことねぇな。なんでもいいけど、フィオラに手ぇ出すんだったら投射しねぇぞ」


「怪我してもしらねぇぜェ?」


アッシュさんは剣を抜き構える。それにあわせて大男も持っていた斧を自身の肩に当て、姿勢を低くした。



投稿が遅れてしまい本当に申し訳ないです。

言い訳をすると、新年度が始まってなかなか忙しいのです。


なるべく早く投稿しようと、新年度も頑張りたいと思います!!

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