突然の侵入者
体のあちこちが、痛い。
痛いけど、働かなければ同じことの繰り返しなのだ。
私は痛む体を無理やり動かし、昨日のうちに息絶えた奴隷たちを土に埋めていく。
「おい休んでんじゃねーぞジジィ!!」
「ぐあぁ!?」
....明日土に埋めるのはあのおじさんなんだろうな。
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それは食事という名の「私たちたちは奴隷なんだ」ということを実感する時間だった。
食事と言っても食べ物という食べ物はない。かびたパンや泥水、酷いときは芋虫などを食事に出された。ある意味、この時間が一番の苦痛と言っても過言ではないだろう。
今日は例のごとく、かびたパンが出された。
食べたくない、けど、食べなければ飢えて動けなくなる。待っているのは昨日のような拷問。
ならば、食べる方がましだ。
奴隷たちの中には泣きながら食べる人もいる。気持ちは痛いほどわかる。私もついこの間までそうだったからだ。
でも、私は泣くことができない。正確には、涙が出なくなったというのが正しい。食事による精神的苦痛、拷問による肉体的苦痛。今までの私は、そのすべてをこなす度に泣いていたのだ。
泣けないことがこんなに辛いだなんて思わなかった。
泣けない私は、ただ無心にかびたパンをかじる事しかできなかった。
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希望。 そんなものはない。 と、思っていた。
――――――それは間違いだった。
突然、上のほう、つまり軍の城から大きな爆発音がした。
その音に、奴隷も軍も関係なしに皆驚き、慌てふためく。
「...な、なんだ?今のでかい音」
全員が地下室の入り口のほうを見つめる。
....なにかが、地下室に走ってきているような....
しばらくして、扉は勢いよく開かれ、その衝撃によって壊れた。
それと同時にぞろぞろと入ってきたのは、旅人らしき集団だった。
集団の先頭にいた重装備の男が叫んだ。
「この城は俺たちがほぼ制圧した!!軍の奴は大人しく武器を捨てろ!!」
その発言に、私たちだけではなく軍の人間までもが耳を疑った。
「何言ってんだてめぇ!! そんなわけ...」
「俺たちがここまで来た意味、わからないとは言わせないぜ」
そう、城の地下にあるここに来たということは、少なくとも城に侵入し兵士などと戦わなければならないはずだ。なので「城をほぼ制圧した」というのは嘘でない確率が高い。
「くっ..!! ふざけんじゃねぇ!!」
焦りからか、軍の兵士の何人かが旅人に切りかかっていった。
当然、そんな哀れな兵士たちは簡単に旅人たちに迎え撃たれた。
剣の交わる音が聞こえる。
私たち奴隷は、その光景にただただ怯えることしかできずにいた。
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あっという間に兵士は全滅、旅人たちの完全勝利に終わった。
こんな日が、本当に来るなんて。
「奴隷の諸君!!君たちはもう自由だ!!早くここから脱出するんだ!!」
旅人のその声を合図に、私たちはこの生き地獄からの脱出を開始した。
地下室をぬけ、多くのの兵士が倒れている城を出て、門をくぐり抜けるとそこは暗闇の草原が広がっていた。
夜、か。
これは夢なのか、現実なのか。
何もかも考えることなどできず、ただ走る。
外の世界を知らない私は、どこにたどり着くやもしれない道をただひたすらに走った。
ここは、どこ?
私は、どこに向かっているの?
なんで、走っているの?
何に逃げているの?