表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
小さな光
2/39

突然の侵入者

 体のあちこちが、痛い。

痛いけど、働かなければ同じことの繰り返しなのだ。


 私は痛む体を無理やり動かし、昨日のうちに息絶えた奴隷たちを土に埋めていく。


「おい休んでんじゃねーぞジジィ!!」


「ぐあぁ!?」


 ....明日土に埋めるのはあのおじさんなんだろうな。



――――――――――――――――




 それは食事という名の「私たちたちは奴隷なんだ」ということを実感する時間だった。

 食事と言っても食べ物という食べ物はない。かびたパンや泥水、酷いときは芋虫などを食事に出された。ある意味、この時間が一番の苦痛と言っても過言ではないだろう。


 今日は例のごとく、かびたパンが出された。


 食べたくない、けど、食べなければ飢えて動けなくなる。待っているのは昨日のような拷問。

 ならば、食べる方がましだ。

奴隷たちの中には泣きながら食べる人もいる。気持ちは痛いほどわかる。私もついこの間までそうだったからだ。

 でも、私は泣くことができない。正確には、涙が出なくなったというのが正しい。食事による精神的苦痛、拷問による肉体的苦痛。今までの私は、そのすべてをこなす度に泣いていたのだ。


 泣けないことがこんなに辛いだなんて思わなかった。


泣けない私は、ただ無心にかびたパンをかじる事しかできなかった。



――――――――――――――――




希望。 そんなものはない。 と、思っていた。


――――――それは間違いだった。


 突然、上のほう、つまり軍の城から大きな爆発音がした。

その音に、奴隷も軍も関係なしに皆驚き、慌てふためく。


「...な、なんだ?今のでかい音」


全員が地下室ここの入り口のほうを見つめる。

....なにかが、地下室ここに走ってきているような....


 しばらくして、扉は勢いよく開かれ、その衝撃によって壊れた。


それと同時にぞろぞろと入ってきたのは、旅人らしき集団だった。

集団の先頭にいた重装備の男が叫んだ。


「この城は俺たちがほぼ制圧した!!軍の奴は大人しく武器を捨てろ!!」


その発言に、私たちだけではなく軍の人間までもが耳を疑った。


「何言ってんだてめぇ!! そんなわけ...」


「俺たちがここまで来た意味、わからないとは言わせないぜ」


 そう、城の地下にあるここに来たということは、少なくとも城に侵入し兵士などと戦わなければならないはずだ。なので「城をほぼ制圧した」というのは嘘でない確率が高い。


「くっ..!! ふざけんじゃねぇ!!」


焦りからか、軍の兵士の何人かが旅人に切りかかっていった。

当然、そんな哀れな兵士たちは簡単に旅人たちに迎え撃たれた。


剣の交わる音が聞こえる。


私たち奴隷は、その光景にただただ怯えることしかできずにいた。



――――――――――――――――――ー



あっという間に兵士は全滅、旅人たちの完全勝利に終わった。

こんな日が、本当に来るなんて。


「奴隷の諸君!!君たちはもう自由だ!!早くここから脱出するんだ!!」


旅人のその声を合図に、私たちはこの生き地獄からの脱出を開始した。


地下室をぬけ、多くのの兵士が倒れている城を出て、門をくぐり抜けるとそこは暗闇の草原が広がっていた。


夜、か。


これは夢なのか、現実なのか。

何もかも考えることなどできず、ただ走る。


外の世界を知らない私は、どこにたどり着くやもしれない道をただひたすらに走った。


ここは、どこ?


私は、どこに向かっているの?


なんで、走っているの?


何に逃げているの?





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ