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底辺から這い上がる少女  作者: 雛月いお
第二章 挑戦と上達の街≪レイネシオ≫
19/39

依頼主と新種のお話

森を後にした私たちを待っていたのは、活気あふれるレイネシオだった。


帰ってきたのだ。


「ふぁぁ...」


街の門をくぐった私は、安全な場所へたどり着いたせいか、あくびにも似た安堵のため息を吐いた。


「いやぁ、なんか体より気運的に疲れた気がするな」


アッシュさんがふと呟いた。おそらくその言葉は、私が魔物に襲われてしまって酷く焦ったことと、結果としてその襲われていた私がとどめを刺した驚きとが重なってつい出てきてしまった言葉だろう。この結果に一番驚いているのは私だというのに。


とっさの判断であんなに大きかった魔物が二つに分断出来てしまったことには、驚きより自分に対しての恐れを抱くほどだ。まぁ三人をこの手で守れたことには大変満足しているのだが。


「ま、終わりよければすべて良しとかいうやつなんじゃないのか?」


「おぉ?珍しいなロキがそんなこと言うなんて」


「たまにはな。にしても意外と早く終わったな、これからどうする?」


私ももう少し時間がかかると思っていた。出発してから今に至るまで大体三時間半くらいだろうか。今からシンテイムに返ったとしてもまだ夕方前だろう。私としては正直どちらでもいいな。シンテイムに帰ったら夜まで時間ができるだろうし、またいつも通り図書館に引きこもろうか、調べたいこともできたし。もう少しレイネシオに残るのならばまた考え直す必要がある。


「...それはさておき、依頼主のカール・ファーマーさん?だったけ?に終わったことを報告しに行こうよ」


全員が悩んでいる中ミラさんの提案が上がった。それに反対する者はいなく、カールさんのところへ向かうことになった。


5000z...5000zかぁ


ふふふ...


――――――――――――




カールさんの家は大きく、裕福であることが一目でわかった。


「すみません!!依頼を受けたミラ・キャンベルというものなんですが!!」


ミラさんが玄関の扉を二回ノックした後にこう叫ぶ。叫んだ割にはとがった口調にも怒鳴っているようにも聞こえず、いつも通りの優しめなミラさんの声がそのまま大きくなってあたりに響いた。


少しの間があった後、扉は開かれ、中から女性が出てきた。


ん?カールさんって女の人...?


「この度はどうもありがとうございます。いま主人を読んできますね」


そういって女性は再び家の中に戻っていった。


「今、カールさんって女の人だったんだって思っちゃった」


「私もです」


「俺も」


「俺もだ」


少しもしないうちに、今度は男性が出てきた。男性の手には一つの果物と紙の束があった。


「自分がカール・ファーマーです。いやー、依頼を受けてくださってとても感謝していますよ」


その男性、カールさんは声が大きく、豪快な口調だった。こういう男性には初めて会った気がする。


「いえ、こちらこそ。依頼のほうは無事に済みました。これでもう大丈夫です」


ミラさんの言葉を聞いた後、カールさんは喜びを隠せない様子でこう言った。


「そうですか!!いやはやこれで安心して仕事ができますわ!!あっはっは」


ミラさんはカールさんにあわせて笑みを浮かべていた。ミラさんも嬉しそうだった。


人の喜んでいるところを見ると自分もうれしくなる。それはこの前ミラさんが言っていたことだ。今この瞬間、私にもわかったような気がした。


「おっと失礼、これが報酬の5000zです。あとこれ、そちらのお嬢ちゃんに渡してください」


そういってカールさんが差し出したのは、自身が手に持っているものすべてだった。金のほうは5000zという約束だったが、果物のほうは私にということだ。美味しそうだな、ここわ遠慮すべきか、否か。


「わかりました。ありがとうございます」


そんな私にはお構いなしと、何の遠慮もせずミラさんは差し出されたものすべてを受け取った。そうか、こういう時にミラさんが遠慮しても差出人が差し出したい人物は私なわけで、差出人からすれば「え、なんであなたが遠慮するの?」っていううことか、なるほど。


「礼を言いたいのは自分のほうですよ。どうでしょう、少しうちに上がっていきませんか?妻が果物を使った菓子を焼いてますので」


ここで思わぬ誘いの言葉が放たれた。今回も遠慮するか言葉に甘えるのかで迷うな。ここで遠慮してもすでにお菓子が焼かれているわけで、私たちが食べないことによってそのお菓子が無駄になってしまう。かといってすんなり「じゃあ遠慮なく」なんて軽々しく言えたものではない。


難しいな、こういうのは。


「あ、んー。そうですねぇ...ではお言葉に甘えさせていただきましょうか。この後暇ですし。ね?」


言葉の最後に、ミラさんは私たちに向かって短い確認をとるような一言を発した。ミラさんの判断にはもちろん異論などない。私はミラさんに向かって軽く笑みを浮かべた。


「ではどうぞ中へ」


招かれるまま、私たちはファーマー家へ上がることになった。




―――≪ファーマー家≫――――――


家の中は外見に反して案外普通だった。こんな言い方は正直良くないかもしれないが、これが率直な感想である。だが普通というのは置いてあるものにこそ当てはまるわけで、その部屋の広さは尋常ではなかった。


「どうぞ、こちらにお座りくださいな」


招かれたリビングと思わしき部屋にあるテーブルとセットの椅子に腰かけた。そして私は迷うことなく、これから出てくるであろうお菓子を待つ。


その時は思ったより早く訪れた。


「はいお待ち道様」


カールさんの奥さんが持ってきたのは、待ちに待っていた手作りのお菓子だった。そのお菓子は見た目からして世に言うパイというものだろう。実は私はまだ本でしか見たことがなかった。


こんなに美味しそうなものだったとは。


あ、でもこれ食べていいのかな。


食べたいなぁ...


食べたいよぅ...


ミラさぁん...


「そ、そんな目で見つめられたら私死んじゃう...」


「ふふ、遠慮しないでどんどん食べていいのよ?」


その言葉を待っていたんだ私は!1


「いただきます!!」


私は円形だったものがきれいに切り分けられたそれを、一つ手に取り、かじった。


「!!」


これは...っ!!


美味しい!!


この美味しさをミラさんに早く伝えたい。


「ーー!!~~っ!!」


「可愛すぎよフィオラちゃん...」


これは伝わったのか?微妙なところだな。伝わらなかったのならもうそれまでだ。そんなことより目の前のお菓子にありつきたい。

さくっとした食感で始まり、次第にもちっという食感に変わる。飲み込むまで一切飽きさせない、これだから食事というのは毎回楽しいものだ。


「フィオラ見てると食い物全部うまそうに見えてくるな」


「確かにな」


「見てるだけで幸せだわぁ...」


どうやら私は食べているだけで皆が幸せになるようだ。正直よくわからないが、よくわからなくても幸せなら何も言うことはない。何せ私が幸せなのだから。


私たちはしばしゆったりとした時間を過ごすこととなった。



―――――――――



私が食事に夢中になっている中で、ロキさんとミラさんがカールさんに話しを伺っていた。少し気になる内容だった。


「あの、カールさん。依頼書にはクロノベアルって書いてありましたけど、いくら依頼紹介所が予想で書いたとはいえ私たちが戦った魔物はクロノベアルではなかったです」


「自分が出くわした時もそれは思ったんだ。依頼書が発行された時に報告すべきかと思ったんだが、じゃああなたが発見した魔物は何だったんですか、なんて言われたら答えられないからやめておいたんだ。あんな魔物は見たことがないぞ」


「実は俺たちも見たことがないんです。クロノベアルにしてはやけに強く、クロノベアルであればあれほど器用に腕を使えないはず。あれは何だったんでしょうか」


「うーむ...。自分にも見当がつかない。大体クロノベアルだったら目は赤くないはずだろ?可能性があるとすれば...」


「新種、ですか」


「それが一番現実的だな。しかもあのハーヴェストに出現した、といったらつじつまが合いすぎている」


「そうですか...。」


ここでこの会話は一区切りがついたようだった。私は当然魔物については無知に近いために、あの時私がとどめを刺した化け物がクロノベアルだと完全に思い込んでいた。確かに、あんなに強い生き物が世に言う魔物で、それが各地にうじゃうじゃと居ると考えると、人間という生き物は軽く滅びてもおかしくないといえる。しかもあの生き物には私のことを甘く見ていたように、知性があるように考えられる。これらを踏まえると、あの魔物がどんなに特殊だったかということが私にも理解できた。


やはり、シンテイムに帰ったら図書館にこもり直す必要があるな。


私も誰かを守れるように


もっと強く。

投稿が遅れていまい申し訳ないです。

それと評価してくださった方、本当にありがとうございます。

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